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2006年3月20日 (月)

杉浦由美子「オタク女子研究 腐女子思想体系」

sugiura_otakujosi  正直なところ、もっとも恐れていたことが起こった、という感じです。
 テレビなどで「乙女ロード」が取り上げられるようになってから、ずっと懸念していたことがありました。それは、メディアによっておたく女性が白日のもとにさらされ、間違った紹介をされ、好奇の視線にさらされ、結果として女性の表現に大きな障害が生まれるのではないかということです。私は女子じゃないので言える立場にないのかもしれませんが、女性向けコンテンツを大量に摂取し、楽しみ、分析している身。原告適格を認めていただきたいものです。

 で、この本ですが、
「裏をとってる情報が非常に少ない…印象や一般化できない例で語っている」
「2ちゃん情報を鵜呑みにしている」
「そもそも間違いが多すぎる」
「腐女子の多様性を無視し、単純なものとしてカテゴライズしようとしている」
 という、重大な問題を抱えています。AmazonBK1の書評で書いたので、ここでは繰り返しませんが。

 腹立たしい点は二つあります。ひとつは自分のことを「腐女子」と言っておきながら、実は腐女子を批判し、さげすんでいることです。よくもまあ「腐女子は受攻の二元論で世界を切り分ける暴力的な考えを持つ」なんて書けるものです。自分自身を否定したいのでしょうか? こういう視点は自分を腐女子というカテゴリの外に置かないと出てきません。ですが、「私も腐女子なので」と、内部から語る形を取ることで根拠づけようとしています。そもそも著者の立ち位置が非常にずるいものなのです。
 もうひとつは、この本によって間違った考えが世に広まり、その結果女性おたくたちの表現活動や妄想が制約される可能性がある、必死で守ろうとしているものが踏みにじられる可能性があるということです。本として出版される以上、この本の内容を信じる人は出るでしょう。実際「腐女子という人たちのことが分かった」という感想を残している人もいます。ですがこの本に書かれた情報は、腐女子と呼ばれる人々の中の、ごく一部を表しているに過ぎず、そうした存在が腐女子の本質を突いているかといえば、決してそうではありません。そしてそれ以外の腐女子は無視されており、その点で実際のあり方とは異なっています。この本は間違った面も多く持っているのです(すべてを否定するつもりはありませんが)。そして間違った情報に基づいて、女性おたくたちは扱われるかもしれません。またこれまで表に出ないように必死に隠していたものが、白日の下にさらされるかもしれません。この本のナマモノ同人についての言及は、ナマモノ同人の活動を封殺してしまう危険性をはっきりと持っています。「バラしてほしくない」ことを、それがどのような影響を及ぼすか配慮せずに、白日のもとにさらしているのですから。ジャンル特有の禁止事項を守れない人が大量に押し寄せることによって、ジャンルが崩壊するかもしれないのです。取り上げられる芸能人の肖像権侵害や、パロ対象の著作権侵害という問題はあるのですが、それがあるからといって、著者の行動が正当化されるわけではありません。それとこれとは別の問題です。
 この著者は面白おかしく女性おたくたちのことを書いたのかもしれませんが、それは実際に表現活動や個人の行動に悪影響を及ぼしかねません。著者と出版社の思慮の足りない行動は、本当に良識を疑います。興味半分で面白おかしく本を書くことで、被害を被る人がいるということに気づかなかったのでしょうか?

 トンデモ本と笑い飛ばせればよいのですが(実際内容的にはかなり重度のトンデモ本ですが)、具体的な悪影響があるので、笑っている場合ではありません。
 また、著者はこの本を「ライフスタイルの本だ」とカテゴライズしようとしているようです。実際女性向けライフスタイルの本では、記述に根拠がないものが多く、女性の感性に合致すればそれでよし、という本が見られます。ですがそうした本の形式を取ったからといって、間違った記述をしたり、ある特定の人々を「こうである」と決めつけたり、誰かの創作活動を妨害してよいということにはなりません。「ライフスタイルの本である」とカテゴライズすることは、絶対に免罪符にはならないのです。

 杉浦さんの本意をぜひ聞いてみたいところです。

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