国枝彩香「番人」
時は戦前。白い髪、赤い目、美しい顔、しかし心の成長は止まったままの少年・霞。その見た目のため、山奥の洋館に幽閉されている。そんな霞の世話をするのは、浅黒いというには黒すぎる肌と、不思議な瞳の色をした寡黙な成年・加納だった。霞の兄の胤彦は久しぶりに洋館を訪れる。洋館は人手に渡ることになり、霞もまた洋館と共に好事家に売られることになったためだ。そこで胤彦は加納に伽を命ずる。そして挑発的に語りかける。霞は加納と胤彦の母との不義の子と考えられてきたが、実は胤彦と母との子かもしれないと。それは加納のナマの感情のほとばしりを見たいためだった。「マガビー」他に掲載された作品を集めた短編集。
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シリアス作品では、表題作「番人」、「Show Me Heaven」、「空の裏側」が収録されています。どの作品も展開がヒジョーに巧みですね。「番人」では、死んでしまった胤彦の視点から物語が語られます。「空の裏側」では、10年前、好きな人がレイプされている場に居合わせた主人公が、ゆっくりその傷を自分の中に取り込んでいく物語です。どの作品も展開は一本道ではありません。登場人物たちの気持ちは素直には表現されず、回りくどかったり、時には相手を傷つけるような形で現れます。そのため登場人物たちの間には衝突が生まれます。ですが根本にあるのは愛です。愛しているから回り道をする、愛しているから傷つけるのです。ハッピーエンドにならない作品もありますが、それは愛のため。ラブという根っこは実にしっかりしています。そのためやきもき、ハラハラしながら、痛々しいラブを楽しむ構造になっています(だからこそBLっぽくないという意見もありますが)。いやー、やっぱり国枝先生はマンガが上手。ベテランのワザに翻弄される楽しさがあります。
そしてもう一つ、ヒリヒリするような男の欲望が描かれるのですね。「番人」では、胤彦は加納の本当の情動を見てみたいと渇望しています。「空の裏側」では、レイプに伴う残虐な欲望、認めたくないけれど確かに存在する加虐性が描かれます。これは男性にも理解できるものですね。確かに女性が想像して描いているなという印象はありますが、そこは名手・国枝。わざとらしさやインチキ臭さが伝わるような展開にはなりません。その強い心の動きは、物語の振幅を強めますが、男性への衝撃力も持っています。
とまあいろいろ書いてきましたが、この本にはものすごい問題作が収録されています。「めぐり逢い…COSMO」です。
宇宙世紀801x年。地球連邦と独立軍の戦いは激しさを増していた。地球連邦のエースはコールタール艦長。彼は自他共に認めるぶさいくだったが、心根のやさしさと優れた戦果で一目置かれていたのだ。ある日コールタールは独立軍の捕虜を捕らえる。それは美形の兄によく似た青年だった。
えーと、銀英伝とかそういうのを想像すると足下をすくわれることになります。なんたってB-Boy Phoenix「不細工特集」に収録された作品ですから!
特筆すべきは毛へのこだわりでしょう。髪の毛うねるうねる。ぶさいくなんで衝撃力ありまくりです。胸毛腹毛指毛腕毛描かれまくりです。そして一番のこだわりは鼻毛。全てのコールタール艦長の顔にはご丁寧に鼻毛が描かれています…一コマの例外もなく! 国枝先生が超ノリノリで描いていることがビリビリ伝わってきます。もともと国枝彩香はギャグっぽい表現も得意としてきましたが、いざ本気となるとえらい破壊力。漫画の上手さがギャグでも遺憾なく発揮されるのでした。
シリアス作品も面白いんですが、この作品だけでも間違いなく買う価値があります。一冊で二回楽しめる、お得な作品集といえましょう。
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リブレ出版
2007年10月10日発行
2007年10月10日購入
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