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2008年1月14日 (月)

西田東「青春の病は」

 高校時代、湊(理系メガネ)は勉強ばかりしていて、クラスになじめなかった。しかしクラスの人気者の松本が物陰でだれかを思ってオナニーしているのを見てしまって以来、松本のことが気になるようになり、クラスにも関わるようになる。15年後、大学を卒業した湊は研究所員となり、商談にも関わるようになっていた。そこで営業をやっている松本と再会する。親しく接するようになるが、湊は高校の頃に松本に抱いていた思いを思い出す。そして湊がゲイであることが、松本に知られてしまう。「青春の病は」のシリーズと、「願い叶えたまえ」の番外編が収録された単行本。

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西田 東

芳文社  2007-12-27
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 「普通の人達の普通の感情を描きたい」と前書きに示されています。松本は結婚を前提として彼女とつき合っており、徹底的にノンケです。湊がゲイだと知っていったんは拒絶します。ですが彼女とのつきあいは上手くいっているとはいえず、仕事でも部下が大きなミスをしてしまいます。一方湊は松本への初恋にとらわれ続けており、再会することによって初恋は再燃します。松本はノンケなもので、湊が自分に対してどんな思いを抱いているか、全然分かりません。ですが心が揺らぐ出来事が続くことによって、湊の想いがどのようなものであるかに気付いていきます。湊は自分が初恋を引きずっていることに気がついており、そこから逃れようと松本を無理矢理抱こうとします。嫌われれば、気持ち悪いと思われれば、二人の関係はとりあえず切れるのですから。それには「今度飲もう」「今度おごるよ」という、<ホモセクシュアルを隠蔽する男どうしの関係性>に取り込まれたくないという意図も含まれています。ホモソーシャルな社会における男どうしの関係性は、実は好きという感情を、「飲み友達」「遊び友達」「同僚」に強制的に変換してしまいますから。結局湊の行動は未遂に終わり、二人の関係はぎすぎすしてしまいます。松本は実は湊に心を許しているのですが、自分がホモを認めようとしていることを認めたくありません。
 これ! これですよ! 自分がノンケであると自己規定する男は、自分がホモセクシュアル関係に含まれようとすることに、そして内心ではホモ関係を認めてしまっていることに、戸惑い、拒否感を抱いてしまうものです。「自分はホモなわけない」「ホモは非生産的なこと、いけないこと」という感覚と、「実は男に拒否感がない」ことの間で苦しむんです。世の中の大多数の男は男性ジェンダーとホモソーシャリティを無前提で受け入れていますから、こういう感覚はよく感じることでしょう。ですからこうした描写は、強いリアリティと共感を生むことになります。まさに「普通の人達の普通の感情」であるといえるでしょう。

 もう一ついいのは、湊の想いですね。大人になった湊は、男たちと体だけの関係を持っていますが、それはずっと松本のことを忘れられなかったからです。勉強に打ち込み、優等生を気取り、他人とのつきあいを作らなかった高校生の頃の湊。それは自分で作った牢獄に自分から入っていたようなものでした。松本は湊をそこから救い出します。それは湊にとって、強い強い光だったのではないでしょうか。その光にすがりたいという湊の気持ちは、いかばかりのものだったでしょうか。そしてその想いが再び始まることは、いかに大きなことだったでしょうか(このあたりは「ゲイ&腐男子のBL読書ブログ」さんにも書かれていますね)。それは恋でもあったのでしょうが、希望でもあったのです。
 こうした自我の境界の問題、他者とのコミュニケーションの問題は、現在の我々が多かれ少なかれ抱える問題です。「エヴァ」で明確に提示され、今に至ってもはっきりした答えの出ていない問題です。この作品は、そうした普遍的な問題にも切り込んでいきます。

 西田東はオトコの内面描写に定評がありますが、それは「大人のオトコならこう感じるだろう」ことを、リアルに、生々しく描くことができるからでしょう。それは当然、大人の男性に響きます。それに他者とのコミュニケーションという、普遍的な問題も描き出します。女性向けのボーイズラブという枠を越えて、広く一般にも訴える力を持った作品といえるでしょう。

芳文社
2008年1月11日発行
2007年12月27日購入

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BLを読む目的は何でしょうか。 何のために読んでいるのかわからないくらいに 日常に浸透してしまっているので…というかたも、 中にはいらっしゃるかもしれません。 ま、それはミーのことでもあるざんすが、 基本的には楽しい、面白いから、読むのだと思います。 居ませんよね?BLに対する偏見をなくそうと苦心中だとか、 罰ゲームで毎日読んで耐え忍んでるとか、そういうかた…… 居るとしたらキング(クイーン)・オブ・Mの名を差し上げます。 しかしこの本は、楽しいよりも恥ずかしかったーー! ... [続きを読む]

受信: 2008年1月20日 (日) 20時56分

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