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2008年1月13日 (日)

西田東「素晴らしい失恋」

 新任課長の内藤は、仕事については極めて有能だが、女性に対しては本気になることができず、関係は極めてだらしなかった。それは内藤の見つめる先に、上司の日野田部長がいたからだ。この人に抱かれたい、抱きしめられたいと願う内藤だが、以前別れた女が差し向けた男にレイプされてしまう。ショックを受けた内藤は、そのショックと、そして秘めた想いを日野田に告白してしまう。すがらせてくれ、抱きしめてくれと、内藤は瞳で日野田に訴える。「麗人」に掲載された作品を集めた短編集。

素晴らしい失恋 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
素晴らしい失恋 (バンブー・コミックス 麗人セレクション) 西田 東

竹書房  2007-12
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 今回は「男の失恋」が一つのテーマになっているようですね。上記の表題作「素晴らしい失恋」は、その名の通り失恋を扱ってます。また最後に収録された、社長と社長秘書との関係を描いた「いちばんの愛」も失恋ものです。傾いた会社のヘタレ社長と有能を描いた「オレの社長 僕の秘書」、東南アジアに派遣された堅物リーマンと自由奔放な現地ガイドを描いた「快楽の地」、妻を事故で失った男と妻の弟の関係を描いた「乞う者」も、どこか悲しい展開を含み込んでいます。
 男の恋はとかくままならないもの。男は恋愛の訓練を積んでいない人が多いですし、恋の相手が男ならなおさらです。加えて大人の男には立場と体面があります。西田東はそのあたりを実に丁寧に描くのですね。焦点をあてて描かれる男は全員リーマンで、社会的地位が高い人も多いです。そうなると男たちは、男としての体面と恋心の間で悩み、苦しむことになります。それはよい結果になることもありますが、悲しい結果に終わることもあります。「失恋」とは、「社会的立場」と「恋心」のせめぎ合いの結果現れるのです。西田東は以前からはっきりとその傾向を持っていましたが、この本でも<社会的存在としての男>を描き出すのです。しかも強いリアリティをもって。ですから作品全体が強い説得力を持つことになります。やっぱり西田東は、大人のオトコの心の機微を描かせたら天下一品ですなあ。この辺りは「BL Diary」さん、「オレのやおいさんに手を出すな!」さん、「年下攻め本舗」さん、「日々是徒然」さんにも記述がありますが、同感ですね。

 いちばん好きな作品は、やっぱりヘタレ社長と有能秘書を描いた「オレの社長 僕の秘書」でしょうか。社長は坊っちゃん育ちなもんですから、秘書に頼りまくりです。秘書は「しょうがないなあ」と社長を支えます。そんなとき会社が不渡りを出しそうになります。すると社長は自ら積極的に会社を救うため動き出します。スケベ金融業者に体を売ることも厭いません。最後には返済のためマグロ漁船にまで乗っちゃいます。スーツのままで! しかもオホーツク海に!
 いやいやこの社長が実は人物的に深みのある人物だった、というところがいいんですが、西田東はとんちんかんな意味でもきちんと落とします。だって「マグロ」「スーツ」「オホーツク」ですよ。マグロは暖流の魚ですからオホーツクにはおらんですよ。「素晴らしい失恋」でも、レイプする男と内藤の間には、なんだか微笑ましい関係が生まれます。「あっゲロが」「ナイスキャッチ」など(なんのこっちゃ)。シリアスな展開に潜むギャグは、違和感をもたれるかもしれない要素です。ですがとぼけた絵柄にはマッチしていますし、なにより男のかわいらしさを描き出します。このギャグも西田東作品の醍醐味なんだと思いますね。

 大人のオトコはいいところばかりではありません。心をかきむしられるような辛さを感じたりします。この作品は、大人の痛みを存分に描き出した作品だといえるでしょう。ただ、痛いだけが大人ではありません。痛みがあるからこそ、その向こうに幸せがあるのです。西田作品は痛みの向こうにある大人の幸せも描こうとしているのではないでしょうか。

 最後に一言。いっやー、西田東の描くリーマンキャラって、本当にレイプされるのが似合うよなー。

竹書房
2008年1月28日発行
2007年12月27日購入

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最高でした。大興奮です。 親父とスーツと眼鏡がお好きな方には声を大にしてお勧めしたい。 酸いも甘いも経験しきった親父たちがあふれんばかり魅力的に描かれています。 恋愛に夢を見なくなった親父たちが、 不器用に一生懸命、ままならい恋愛にもがいている様子は 初恋をした少女のように愛らしくて仕方がないのは私だけでしょうか。 特に表題作に惚れました。 渋すぎる親父への想いは文字通り「素晴らしい失恋」でした。 好きになってよかった、この言葉しかないほどかっこいい親父と 実のならなかった... [続きを読む]

受信: 2008年1月20日 (日) 21時18分

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