星野リリィ「おとめ妖怪ざくろ」1
人間とあやかしが共に住む世界。我々の世界の明治維新のように、世の中の仕組みが改まり、太陰暦から太陽暦に変わることになる。あやかしたちの中には、それに不満をもつものもいた。そこで人間の代表とあやかしの代表は話し合い、あやかしにまつわる事件を解決する組織、妖人省をつくる。あやかし側で選ばれたのは活発で勝ち気なざくろ、しとやかで暦にこだわる薄蛍(すすきぼたる)、縦ロールの雪洞(ぼんぼり)と鬼灯(ほおずき)。人間側で選ばれたのは超美形の総角(あげまき)、五分刈りで無口な利劔(りけん)、自分の利発さを鼻にかける年少の丸竜。ざくろは総角と組むことになって大喜び。ところが総角は実はオバケが大嫌いで、ざくろたちを見るのもガクブル状態だったのだ。ざくろと総角の凸凹コンビは、果たして事件を解決できるのか? 「コミックバーズ」に季刊ペース→隔月で連載された作品の第一巻。
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なんといってもビシッと事件を解決するざくろがかっこいいです。もともとざくろは喧嘩独楽が得意な活発な少女。暴れる妖怪に対しては剣を振るい、一刀両断にしていきます。そんな雄々しいざくろに対して、総角は超美形なのに超ヘタレ。この絶妙なバランスが、漫画としての楽しさを盛り上げます。もともと星野リリィの漫画には魅力的な少女が登場します。「都立魔法学園 」のメラミちゃんしかり、「スーパーダブル
」のラブしかり。ざくろはそうした少女キャラの延長線上にある、魅力的なキャラといえるでしょう。そしてざくろのアクションあり、薄蛍と利劔のラブロマンスあり、しんみりさせるお話あり。星野リリィの「漫画の上手さ」をしみじみと感じます。
で、この作品には、表面的なやおい要素は全然無いように見えます。そもそもみんなノーマルカプです。ざくろと総角は少しずつフラグが立って、惹かれあっていくようですし、利劔と薄蛍は最初から慎ましく惚れあっています。ところがよく読んでみると、ざくろと総角の関係はなかなかそそるものがあることが分かってきます。
よしながふみは、羽海野チカとの対談の中で、「男どうしの関係だけがやおいではない」「のだめと千秋の関係はやおいだ」と述べています(『よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり』太田出版、2007)。やおいとは、遠く離れていても、普段は反目していても、いざというときには助け合う、信頼しあっている姿だとしているのです。ざくろと総角の関係は、一見男女の恋愛という形で関係が接近していくように見えますが、実は接近していくのは信頼関係です。最初は総角に幻滅しまくるざくろですが、仕事に対する真摯な態度を知ったり、きちんと向かうべき敵に立ち向かう姿を見るなかで、総角を見直していきます。それは「総角を好きになっていく」と見ることもできますが、「総角を仕事上のパートナーとして認め、信頼していく」と見ることもできます。そしてざくろと総角はいい相棒になっていくんですね。そしてその相棒関係は、やおい萌え、BL萌えを構成する重要なポイントの一つです。素知らぬふりをしていても、心の底では相手を信頼し、強くつながりあっている…これは萌えるじゃないですか! 総角ヘタレ攻×ざくろ女王受ですよ!
この作品は、「男女カップルでは描けない/描きにくい」と思われてきたやおい的関係を、(マイナー/オタ向け)青年誌で、ノーマルカプで描こうとした試みなんじゃないか、と思います。少なくともざくろと総角が普通にくっついて終わり、にはならないでしょう。ロマンチックなラブの役は薄蛍と利劔に割り当てられていますし。よしながふみがBLの方法論を存分に生かして、現実に対する鋭い批判力をもった少女漫画「大奥」を描いているように、星野リリィは、「ふたりの関係を現在こうあるべきとされている男女関係に収斂させない」というBLの方法論を生かして、男性読者にも向けた作品を描いているのではないかと思います。見た目は普通のラブロマンスなので、単に「あー可愛いね」「ときめくね」で消費される可能性もあるでしょう。ですがよく読んでいくと、ありがちに描かれる男女関係とは違った関係を描き出しています。こうした表現を通じて、なにかが「引っかかる」人も増えてくるんじゃないでしょうか。
ただ苦言も呈したいですね。最近の星野リリィはあっちこっちで作品を描くようになってますが、そのため掲載が飛び飛びになり、なかなか単行本にまとまらないんですね。これは大きな問題だと思います。どこかに腰を定めて掲載誌を絞り、じっくりと作品を描いていって欲しいものだなぁ、と思います。
幻冬舎
2008年1月24日発行
2008年2月7日購入
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