ユキムラ「まるで初めての恋みたいに」
河野は金庫のセールスマンだが、極度の上がり症で、クビ寸前になっている。訪れた設計事務所で、所長の伊藤に異様に親切にされる。伊藤は河野に一目惚れしていたのだ。恋人兼事務係として伊藤の事務所に転職する河野。しかし河野はこのまま世話になりっぱなしではいけないと思い、再び転職を考える。そんなとき河野の前に現れたのが、伊藤のかつての同級生であり、重要なクライアントの藤堂だった。迷っているならうちに来るよう誘われ、河野は迷う。「CIEL」に掲載された作品を集めたもので、著者10冊目の作品集。
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うーん、全体的に惜しい! ここぞというところで終わっちゃうんですよね。あらすじで挙げた表題作は、藤堂が河野をこれから追い込む、というところで伊藤が現れて終わりになります。もっとネチネチやってほしかったんですがねえ。
仕事で一緒になった無口なカメラマンは、かつて妹の彼氏として現れた男だったという「吐息を消して、雨音で」も、すんごく惜しいんですよね。カメラマンの小山田が無口なのは、当然仕事相手の高野が昔から好きだったからです。妹の彼氏になったのも、もちろん高野に会いたいからです。まあここまではよくある話なんですが、ここで妹が重要な役割を果たします。実は妹もマジで兄のことが好きで、叶わない思いを抱えるものどうし、一緒にいることにしたというんですね。ななななにそのおいしい設定! そこをつっこんで描いたら、もんのすごい、誰をもうならせるような名作になる可能性があるのに! 妹と小山田が砂を噛むようなセックスとかしてたら、もう何杯でもおかわりできるのに! 残念ながら妹はちらっとしか出てこず、いまは結婚して子供もいるという設定です。妹の思いをスルーするとは、やっぱり惜しい! BL誌に掲載された作品なので、BLの枠を遵守しすぎてる感じと、全体的に尺が足りず、詰め込んだ印象があるんですね。これは雑誌と編集の責任のように思えます。確かにBLとしてはそこそこできあがってはいるのですが、雑誌側がBLであることにこだわるあまり、作家の伸び代が失われているように思えるのです。のびのびやらせるだけのゆとりがあればよかったんでしょうがねえ。
ただ、最後に載ってる「すべてをあなたに。」は素晴らしいですね。上司一人と部下一人だけのセクション。上司は口が悪く、いつも部下を叱っている。でも部下は、その叱責が実は自分を育てるための愛の鞭だと知っています。上司はずっと阻止してきたのですが、とうとう部下の転属が決まる、という作品です。この上司、べらんめえ口調なのは優しさと気遣いの裏返し、照れなんです。そして部下は叱ってもらわないともう満足できない体になっています。あーもう君ら結婚しちゃいなよ、という作品なんですが、秘めた思いを告げるまでの過程がもどかしくて盛り上がるんですね。それに上司はヒゲですし! 明らかにボーイという枠をはみ出しているために、この作品はインパクトを持っているのだと思います。
7年目、10冊目の単行本で、中堅からベテランの域に達している作家です。次は存分に萌えを吐き出した、ボリュームのある作品を期待したいところです。
角川書店
2008年2月1日発行
2008年2月5日購入
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