2009年9月 4日 (金)

日の出ハイム『春の雨に濡れてゆけ』

 早乙女は大手商社の入社5年目のサラリーマン。入社して、同じ中学出身の大越と再会する。大柄で、人なつっこい笑顔の大越は、中学の頃から野球部のキャプテンで、人気者だった。それはいまでも変わらない。早乙女はそんな大越を、中学の頃から好きで、いまでも目で追っている。そんなとき大越は実家の寺を継ぐため、退社することになる。送別会の時、思いを告げようとするがはたせず、早乙女はへこむ。もう顔を合わすこともないとあきらめていたが、大越と社員証を取り違えていたことがわかる。もう切れたと思われていた大越との関係は、再び結ばれていく。リーマン二人の恋を描いた作品。

春の雨に濡れてゆけ (HUG comics) 春の雨に濡れてゆけ (HUG comics)

廣済堂出版  2009-08-27
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 なんといっても、早乙女の秘めた恋の描写がいいですね。男を好きになってしまった早乙女のとまどい、後ろめたさがよく描かれているんですね。社会人になって、隠さなくてはならないという思いはいっそう強くなります。でも大越が好きという気持ちは止められません。この葛藤!
 一方、大越は早乙女の思いを見透かすような行動を取ります。「オレに気があるのか」とか。実は社員証も、こっそり大越がすり替えたのではないかと思わせます。実は大越も早乙女を思っていたのですね。ところが早乙女は、それを信じていいのかどうか迷います。向こうもこちらの思いに応えてくれそうだ、でも男同士だし、罠かもしれないし、もし失敗したら関係修復は絶対無理だし…ということで、早乙女は迷いまくります。この迷いがいいんですよ! これは世の男性も結構感じる、馴染みのある迷いなのではないでしょうか。ですから男性にとっても、かなりズキュンと来ます。男心を揺さぶります!
 そしてヒキが強いほど、思いが通じたときの感動は大きいもの。ガッツリやりまくる二人の姿は、浅ましいほどなんですが、それはそれだけ二人の迷いや葛藤が大きかったことを示します。祝福したくなるわけですよ。ちょっとうらやましさも感じますが。

 ムキムキガッチリの肉体描写も魅力。後半は少々絵が荒れているところもありますが、相変わらず男心をくすぐる作品になっていると思います。しっかり取材して、どんどん新しい題材にチャレンジしているのもいい感じです。今後の作品も期待大です。

廣済堂出版
2009年9月17日発売

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2007年12月23日 (日)

内田カヲル「飴と鞭」

 中学教師の上総は、教え子の長谷川に対して秘めた欲望を抱いていた。普段は普通の高校生だが、上総を見るときだけは冷たい目で見るのだ。その視線になじられたい、いじめられたいと感じる上総は、長谷川の体操着のにおいをこっそりかごうとする。案の定その行為は長谷川に見つかり、上総は長谷川に激しく責められるようになる。放課後だけでなく授業中も責められる上総。それは苦しくもあるが、自ら望んだものでもある。長谷川は冷酷に上総を責めるが、時折優しい手をさしのべる。上総はその手にすがりついてしまいたくなる。そんなとき上総が肉奴隷であることが、上総狙いの同僚に知られてしまう。「麗人」に掲載された作品を集めたもの。

飴と鞭 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
飴と鞭 (バンブー・コミックス 麗人セレクション) 内田 カヲル

竹書房  2007-10
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 …くらい欲望ですなあ。上総は例によって2メートルくらいありそうなゴツ男です。ですが明確に、長谷川の冷たい視線でなぶられたい、意地悪されたいと願っています。嫌だ嫌だと言っていますが、実際教師という社会生活を営んでいく上で長谷川の責めは困るんですが、上総は責められることにこの上ない欲望を感じています。ゾクゾクしながら次の責めを待ち望んでいます。ヤバくなればなるほど満足も大きくなるのです。…困ったものですなあ。マゾの中の人も大変です。
 一方長谷川は中学生なんですが、もう立派なサドの貫禄を見せています。言葉責め、授業中バイブ挿入、じらしプレイ、たまーにみせる愛…お前の人生経験はどんだけじゃ! とツッコミたくはなりますが、サドとしての実力はたいしたものです。
 そして二人の間にあるのは強い愛と絆です。長谷川は上総を愛しているがゆえに、つい意地悪してしまうんですね。そして上総も長谷川の愛が本当なのか疑念を抱きますが、最後のところではそれを信じています。二人は最初からラブラブなんですね。見た目がハードな責めで、カムフラージュされているので見えづらいのですが、要はいつものアレなんです。ですので非常に安心して読める作品になっているといえましょう。ただ直球ではなく、「意地悪する」というガジェットが加わっているため、より人間の深みを表現しているといえます。人間の欲望や思いって底知れないですからね。
 それにしてもこの二人は、上総の貪欲で恥知らずな欲望を、せっせと長谷川が満足させてあげているようにも見えます。いやはや、サドの中の人も大変です。どうして人はわざわざこんなめんどくさい恋愛をするんでしょうねえ。…そこに人間の真実の一端が隠れているんでしょうが。

 もう一つ興味深いのは、「激男」に載った作品「魚屋のオッサンが。」が収められていることです(巻末)。「激男」といえば、ゲイ向け女性向けに関係なく、筋肉や体毛やオヤジ描写のキツイ男どうしの作品を載せるというアンソロジーです。作ってる側は内田カヲルを意識してるとしか思えませんね。漫画の内容はやっぱりいつものアレで、驚くほどゲイ作家の作品と違和感がなかったと記憶しています。ところがあとがきでは「自分がBL作家であることが確認された」と記されているんですね。自分の作品はあくまでゲイコミックとは違う、BLであると認識しているんです。私が見た限りではどこが違うのかよく分かりませんでしたが。ここには非常に興味深い事柄が潜んでいるように思いますね。実作者の側には、ゲイコミックとBLの方法の違いがはっきりと認識されているのです。これはゲイコミックとBLの間に、はっきりした裂け目があることを示します。ですがこれはBLとゲイコミックの間の差異を明らかにすることでもあります。違いが分かれば交渉ができますし、差異を乗り越えることもできるんですね。今のところ「激男」における男女作家の交流はまだ始まったばかりで、ゲイコミックとBLの差異もまだまだはっきりしませんが、こうした試みを通じて差異を洗い出していく中で、真のコラボレーションだ行えるのだと思います。また「激男」で描いて欲しいよな、と強く思いますね。

 あと、この作品集には、以前の作品のサイドストーリー的な作品がいくつか収められています。作品の関連は「Yes! 腐漢ライブラリー」さんに詳しく載せられていますので、そちらも参照されると良いかと思います。

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マヨイガアーカイブさん

竹書房
2007年10月27日購入

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2007年12月19日 (水)

国枝彩香「番人」

 時は戦前。白い髪、赤い目、美しい顔、しかし心の成長は止まったままの少年・霞。その見た目のため、山奥の洋館に幽閉されている。そんな霞の世話をするのは、浅黒いというには黒すぎる肌と、不思議な瞳の色をした寡黙な成年・加納だった。霞の兄の胤彦は久しぶりに洋館を訪れる。洋館は人手に渡ることになり、霞もまた洋館と共に好事家に売られることになったためだ。そこで胤彦は加納に伽を命ずる。そして挑発的に語りかける。霞は加納と胤彦の母との不義の子と考えられてきたが、実は胤彦と母との子かもしれないと。それは加納のナマの感情のほとばしりを見たいためだった。「マガビー」他に掲載された作品を集めた短編集。

番人 (ビーボーイコミックス)
番人 (ビーボーイコミックス) 国枝 彩香

リブレ出版  2007-10-10
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 シリアス作品では、表題作「番人」、「Show Me Heaven」、「空の裏側」が収録されています。どの作品も展開がヒジョーに巧みですね。「番人」では、死んでしまった胤彦の視点から物語が語られます。「空の裏側」では、10年前、好きな人がレイプされている場に居合わせた主人公が、ゆっくりその傷を自分の中に取り込んでいく物語です。どの作品も展開は一本道ではありません。登場人物たちの気持ちは素直には表現されず、回りくどかったり、時には相手を傷つけるような形で現れます。そのため登場人物たちの間には衝突が生まれます。ですが根本にあるのは愛です。愛しているから回り道をする、愛しているから傷つけるのです。ハッピーエンドにならない作品もありますが、それは愛のため。ラブという根っこは実にしっかりしています。そのためやきもき、ハラハラしながら、痛々しいラブを楽しむ構造になっています(だからこそBLっぽくないという意見もありますが)。いやー、やっぱり国枝先生はマンガが上手。ベテランのワザに翻弄される楽しさがあります。
 そしてもう一つ、ヒリヒリするような男の欲望が描かれるのですね。「番人」では、胤彦は加納の本当の情動を見てみたいと渇望しています。「空の裏側」では、レイプに伴う残虐な欲望、認めたくないけれど確かに存在する加虐性が描かれます。これは男性にも理解できるものですね。確かに女性が想像して描いているなという印象はありますが、そこは名手・国枝。わざとらしさやインチキ臭さが伝わるような展開にはなりません。その強い心の動きは、物語の振幅を強めますが、男性への衝撃力も持っています。

 とまあいろいろ書いてきましたが、この本にはものすごい問題作が収録されています。「めぐり逢い…COSMO」です。

 宇宙世紀801x年。地球連邦と独立軍の戦いは激しさを増していた。地球連邦のエースはコールタール艦長。彼は自他共に認めるぶさいくだったが、心根のやさしさと優れた戦果で一目置かれていたのだ。ある日コールタールは独立軍の捕虜を捕らえる。それは美形の兄によく似た青年だった。

 えーと、銀英伝とかそういうのを想像すると足下をすくわれることになります。なんたってB-Boy Phoenix「不細工特集」に収録された作品ですから!
 特筆すべきは毛へのこだわりでしょう。髪の毛うねるうねる。ぶさいくなんで衝撃力ありまくりです。胸毛腹毛指毛腕毛描かれまくりです。そして一番のこだわりは鼻毛。全てのコールタール艦長の顔にはご丁寧に鼻毛が描かれています…一コマの例外もなく! 国枝先生が超ノリノリで描いていることがビリビリ伝わってきます。もともと国枝彩香はギャグっぽい表現も得意としてきましたが、いざ本気となるとえらい破壊力。漫画の上手さがギャグでも遺憾なく発揮されるのでした。
 シリアス作品も面白いんですが、この作品だけでも間違いなく買う価値があります。一冊で二回楽しめる、お得な作品集といえましょう。

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オレのやおいさんに手を出すな! さん
BL系。さん
こんな本よみました… さん
霖雨の彼方 さん

リブレ出版
2007年10月10日発行
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2007年12月12日 (水)

田亀源五郎「ウィルトゥース」

ウィルトゥース (オークラコミックス) (オークラコミックス) ウィルトゥース (オークラコミックス) (オークラコミックス)
田亀 源五郎

オークラ出版  2007-10-12
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 時は帝政ローマの頃。剣奴として連れてこられたガイウスは、全てに絶望し、死んだような目をしていた。人気剣闘士のクレスケンスはそんなガイウスを、圧倒的な力の差を使って犯す。クレスケンスへの憎しみから生きる活力を取り戻し、クレスケンスを倒すために剣闘士への道を進んでいくガイウス。しかし実はクレスケンスは、ガイウスに希望を取り戻させるために、なによりガイウスを愛しているために、ガイウスを犯したというのだ。ガイウスに嫉妬する貴族の女の策略により、ガイウスとクレスケンスは闘技場で戦うことになる。「激男」に掲載された作品に、書き下ろしの結末と短編を加えた作品集。

 田亀源五郎といえばゲイコミックの第一人者。ガチムチ筋肉、体毛描写、ぶっとい線、はっきりしたキャラと、BLの表現とはさすがに違ったハードな表現になっています。そこで違和感を感じる人もいるかもしれません。それにBLには非常に珍しく、包茎ちんこが描かれますし(ローマ時代ですからね)。ですがベースにあるのはラブです。えー、そんな結末? と言ってしまいたくなるほどのラブっぷりです。ですから見た目のハードさに比べて、非常に安心して読める作品だといえましょう。それに構造的には内田カヲルの作品と大して変わることはありません。筋肉、体毛、実はラブラブ…なんだ、全然変わらないじゃないですか。ですから内田作品に親しんだ女性なら、田亀作品は普通に「読める」ものです。BLのレーベルで出したオークラ出版の読みは正解ですね。ちょっと怖い、ちょっと違うと思っている女性も多いと思いますが、どんどん手にとって欲しいと思いますね。
 そして、これは非常に興味深い「越境」を生んでいます。BL漫画とゲイ漫画の境界が、ものすごく低くなっていることを示すのですから。内田カヲルの作品はゲイ漫画と表象的には変わらなくなっていますし、田亀源五郎の作品は内容的にはBLと変わらなくなっています。実際BLともゲイ漫画とも見分けがつかない「激男」(古川書房)はもう10冊も続いています。それはBLがハード化し、リアル志向になっていることの当然の帰結でしょうね。BLで描かれる男たちの関係が生々しくなるほど、男たちの身体がリアルになるほど、リアルな男を描くゲイ漫画に接近していくのですから。そしてこの動きはこれからも加速していくでしょう。そうなるとBLというものは、わたしたちがこれまで見てきたものとは違った領域を形成していくかもしれません。オークラ出版のこのシリーズ(「AQUA肉体派シリーズ」)や、「激男」は、その動きの先頭にあるといえるでしょう。

 まあこうした新しさの面でも興味深いんですが、この作品集にはもう一つ重要な作品があるんです。日露戦争を舞台にした作品で、特命を帯びた少佐が師団長閣下に報告する…というモチーフの作品です。当然少佐攻師団長受です。師団長閣下は中将でおじいちゃんです。そして白髪で立派なおひげです。見た目は威厳があって恰幅もいいんですが、実際当時の中将ですからものすごく偉いんですが、いざやおい関係においては受になるんです。「誰の所為でこんな恥ずかしい躯になったと思っとるんじゃ…」とか言っています。

 

 うおおー! おひげのおじいちゃん激萌えー!

Photo

 このおじいちゃんがかわいいんですよ。いわゆるツンデレっちゅうんですか? 自分がエロモードに入っていることを必死に否定しようとしますが、体はそんなことは言っていません。そして最後には大人の(おじじの?)包容力を見せます。いやー、おじいちゃんという存在がこんなにエロい存在だとは気付きませんでしたよ。灰になるまでとは良く言われることですが、人間歳をとってもエロくあり続けることは全然可能なんですね。むしろ歳を重ねるほどエロくなると言ってもいいでしょう。これからじじい萌えは間違いなく「来る」な、と思ったのでした。もちろんばばあ萌えもですが。
 「若くてぴちぴちの肉体こそが最高」という一般的な理念は、やっぱり誰かが得をするために無理矢理作りだしたプロパガンダなんだなー、と思いますね。ですからこの作品は、そんな迷信を打破して、それぞれの年齢の人が自ずと持っている性的魅力を正当に評価する動きの先駆けなんだよ!!!!! と叫んでおきたいと思います。

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Yes! 腐漢ライブラリーさん

オークラ出版
2007年11月12日発行
2007年11月10日購入

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2007年12月 8日 (土)

井上佐藤「エンドルフィンマシーン」

エンドルフィンマシーン (バンブー・コミックス 麗人セレクション) エンドルフィンマシーン (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
井上佐藤

竹書房  2007-10
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 ある整体院の院長・五樹は怪しいと評判だ。施術室からは患者の怪しい声がしてくるし、ウェーブした髪、潤んだ瞳、整った顔立ち、ブランドに身を固めた出で立ちと、とても整体師とは思えないのだ。戸川は本部からその噂が本当か確かめるため派遣されてきた。しかし怪しい声がするのは五樹の技術が確かなためで、遊んでいる様子もない。そして恋愛に対してはむしろ距離を置いてきたことが分かる。五樹は女性に道具のように体を求められるだけで、何度も捨てられてきたのだ。戸川は五樹の誠実な態度と傷ついた心を知り、急速に惹かれていく。そしておそるおそる結ばれた二人は、麻薬のようなセックスにはまっていく。「麗人」でデビューした新人の初単行本。

P32  いっやー、エロい! エロすぎます。なんたって筋肉描写や体位がリアルです。絵の勉強をきちんとしているか、男性をよく観察していることが分かります。なによりエロいのがその表情です。大人の男の多くは、社会の中で自分の本心や欲望を押し殺してしまうものです。ですが本当にせっぱ詰まったときには、つい隠したものが見えてしまいます。それは特に視線に雄弁に現れます。井上佐藤はその危うい瞬間を見事に描き出します。これまた男性をよく観察していることが分かるのですね。必死に体面を保とうとしているのに、崩れてしまう男のエロスたるや! これに加えて眼鏡や白衣などの萌え強化アイテムが加わります。眼鏡越しのエロ視線です。なんの罠ですか、これ?
 物語の面でも非常に微妙で危ういところを描き出します。登場する男たちはみんな男を愛してしまったことにとまどいと迷いを感じます。そのため次の一歩を踏み出すことをためらいます。男という属性をまとわなくてはならないために、素直になることができないんですね。あるいは男たちは自分の思いを素直に示すことができないでいます。本当は愛しているのに、甘い関係になりたいのに、傷つけてしまったりいじめてしまったりします。これまた男の素直じゃなさ、素直になれないことを示します。このもどかしさが強烈な萌えを構成するんですよ! そしてこのもどかしさは、男性にとっても実に身に覚えのある、生々しいものだったりします。ここからも男性をよーく観察していることが分かるのですね。そして男性にとっても共感できる内容になっていると思います。

 面白いのは、コンドームをつけたセーファーセックスが描かれるんですね。これはかなり珍しいんじゃないでしょうか。しかも行きずりのセックスの時だけセーファーです。これは生々しいリアリティを持っていますね。それにあとがきでは、作者が新宿二丁目でマンガを描くことを勧められたことが描かれています。この人男性なんじゃないでしょうか? もしそうだとしたら、かなり興味深いことですね。確かに男性向けと女性向けの境界は、最近急速に低くなっていますが、男性でいわゆるBLを描く人は、ほとんど例がありませんから。女性の心をキュンキュンさせるBLを描ける男性が現れたのであれば、越境は本格的に進行してきたと言えるでしょう。またもし女性だったとしても、ここまで男性の心理や肉体をきちんと描写した例はあまりありません。
 いずれにしても注目すべき作家でしょうし、読者を引き込むマンガの実力もたいしたものです。この作家に注目せずして何を、と感じさせる作家ですね。次の単行本を早く! 早く!

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オレのやおいさんに手を出すな! さん
ネクラで眼鏡でキモオタな優等生は“受け”るとイイよ! さん
BL偏食日記さん

竹書房
2007年11月27日発行
2007年11月1日購入

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2007年12月 3日 (月)

鬼嶋兵伍「ジョカトーレ、捕獲計画。」

ジョカトーレ、捕獲計画。 (バンブー・コミックス 麗人セレクション) ジョカトーレ、捕獲計画。 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
鬼嶋 兵伍

竹書房  2007-11-07
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 ケンジはゲイバーでさびしそうにたたずんでいた青年、昇輝をナンパする。昇輝はガタイはいいが、いつも体にアザをつけていて、その事情をケンジに話すことはない。最初はいつものセフレのつもりだったが、ケンジは次第に昇輝にのめり込んでいく。本心をしゃべってくれてないと気に病むケンジに、バーのママが差し出したのは、プロレスのチケットだった。そこでケンジは悪役レスラーとしてリングに上がっている昇輝を見る。普段の気弱な顔とは全く違い、楽しそうに相手をいたぶっていたのだ。そしてケンジは昇輝を、リングを模したベッドのあるホテルに誘う。「麗人」に掲載された作品を集めた、著者の初単行本。

 なんたって絵の迫力が違います。筋肉描写にリアリティがありますし、表情は色気たっぷりです。絵柄を見るだけでもエロくていいんですよ。ハードでリアルな表現は現在の潮流ではありますが、絵がめちゃくちゃ上手いために、頭ひとつ抜けている感があります。それにお話の幅が広いのもいいところです。あらすじに挙げた作品の他に、田舎の祭り囃子、サッカー、ロック、美大生…。今っぽいもの、ワルっぽいもの、リアゲイっぽいもの、それぞれちゃんとそれっぽく描いています。どちらかというとアンダーグラウンドな文化に惹かれているようなんですが、ほのぼのラブラブもちゃんと描いています。引き出しの多さを感じますね。

 あと、男の執着に対してこだわりがあるのがいいんです。ずっと好きなのに思いを伝えられない、でも好きな相手を離したくないっていう。強く執着しているけれど気持ちを伝えられないため、どんどん緊張感が高まっていきます。それが爆発した結果二人は結ばれるので、非常に強いカタルシスが生まれるのですね。しかもエローい筋肉描写込みで。で、この執着というのは、ノンケの男にもなじみのあるものです。気持ちを伝える訓練を積んでいない男は結構多いもので、そういう男は「言いたいけど言えない」というのがデフォだったりするんですね。だから読んでいて身につまされるのです。それにこの執着へのこだわりは、もう一つ重要なことをもたらしています。攻めがヘタレっぽくなるんですよ! 次の一歩を踏み出すことにためらう、というのがヘタレのキモだと思うのですが、それは存分にこの作品で生かされています。そしてこの作品集では、そうしたヘタレはメガネで長髪なんですよ! 男としては男っぽいんですが恋愛としてはヘタレ、そして長髪。そしてメガネ。こ、これはヤバスギル!

1 こういう人とか

2 こういう人とかが。

 あと全体にハードコアな感じで、本人もおっかない人かと思っていたのですが、あとがきがカワイイんですね。お父さんに「麗人」を見せたりして一家団欒とかしてます。ほんとにハードなものは家庭的なところから生まれるのかもしれないですね。

 井上佐藤と同じく、単行本発売を待ち望んでいた作家でしたが、改めてまとまってみるとクオリティの高さに驚きです。こういう作家たちをぼんぼんと輩出する「麗人」のポテンシャルの高さを実感しますね。次回作も甚だしく期待しています。

竹書房
2007年12月7日発行
2007年11月27日購入

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2007年8月 8日 (水)

山田参助「山田参助の無駄な抵抗やめましょう」

山田参助の無駄な抵抗やめましょう (オークラコミックス) 山田参助の無駄な抵抗やめましょう (オークラコミックス)
山田 参助

オークラ出版  2007-07-12
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 渋崎健の表の顔は演歌歌手。しかし裏では「泣かせ屋の健」として知られていた。健にやられた男は、もう健のチンポなしではいられなくなってしまうのだ。西にチンポ狩りの暴漢が出れば退治しに行き、東にリストラされたオヤジがいれば抱いてやり。男・シブケンは今日も行く。「若さでムンムン」に続く山田参助2冊目の単行本。

 先日ロフトで行なわれた「眼鏡茶屋」でご一緒した参助先生。いやまあ「ムンムン」の頃から大ファンですから緊張したのですが、いざお会いしてみると参助先生自身も激萌えなんですね。丸眼鏡に和服の丁稚ルックなんですから。加えてトークが濃い濃い! 左門豊作を取り上げておられたのですが、これがまあ実にいい眼鏡なんですわ。眼鏡キャラの最大の特徴ともいうべきコンプレックスがあって、それがダダ漏れになっているんですね。眼鏡キャラは本心をあんまり見せないように眼鏡をかけてることが多いんですが、左門は実に脇が甘いんです。それを見つけてくる参助先生の「目の良さ」にシビレルところですね。帰り際に原画も頂きましたし! これから眼鏡書生は来ますよ、ホントに。

 で、作品なんですが、「さぶ」や「サムソン」といったゲイ雑誌に収録された作品が中心です。これが実に細やかなんですね。「男が感じる男のエロさ」「オヤジのエロさ」というものは、実はちょっとだぶついた肉とか微妙な表情とかヒゲのそり残しとかなどの細かい部分に現れると思うのですが、それをいちいち抜き出してきているのですね。イラストにそれは端的に表れているのですが、漫画にもそこここに現れます。
 それにBLっぽい作品もあります。同じアパートに住む男子二人が、ケジラミをうつされたせいで急接近するという「オソリソリ」なんか実にBLですね。聞くとゲイ漫画の中ではBLに近い感性を持っているといわれているそうで。
 そしてなんといっても山田参助の優れている点は、男のかわいさと詩情を描けることでしょう。それは「甘い生活」に非常によく表れています。

 クリスマスの晩、漫画家の一郎先生(29)は、戯れに自分の履いていた靴下を枕元に置いてみる。朝目が覚めてみると、靴下の中には手のひらサイズの、でぶの五分刈り青年が入っていた。青年は粟津虎吉と名乗る。とてとて走り回るアワヅに、先生は段ボールでお家を造ってやり、二人の奇妙な共同生活が始まる。先生の消しゴム掛けを手伝ったり、お嫁さんとしてリカちゃん人形を買ってもらったり、エロい遊びをしてみたりするアワヅ。ある日先生はアワヅに「お前はどこからなんのためにやってきたんだろうねえ」と尋ねようとするが、先生はそのことばを飲み込む。なぜなら尋ねたとたん、粟津が雪のように消えてしまうように思ったから。久しぶりに一緒に寝よう、と先生は提案する。

96dpi  という作品なのですが、これがまあかわいいんですよ。アワヅは小動物扱いですが、実際とってもかわいいんですね。しかも純情ですし。普段はそれを感じさせないように振る舞っていますから見えにくいのですが、実際の男も結構かわいいところがあります。それを極端な形で描いたのがアワヅだといえるでしょう。そしてこの展開! 今は安定している二人の関係も、いつか壊れてしまうかもしれない。周りの状況が許さなくなるかもしれない。同性を好きになる、同性がかけがえのない存在になるということは、そうした不安を秘めるものです。異性の関係でもその不安はありますが、同性の方がより強くなるでしょう。一郎先生が感じているのは、その不安は分かってる。幸せは壊れやすいかもしれない。でも今はこの幸せに浸っていたいという思いなんだと思います。な、なんとリリカルな! そしてこの幸せと悲しみがごっちゃになったような複雑な思いは、BL好きの女性にも強くアピールするんじゃないかと思います。ゲイ漫画のレーベルではなくて、BLのレーベルから出るのは、こういう理由なのかと思いましたね。

 厳密に分類するならゲイ漫画なんでしょうが、内容はBLに通じるというか、もろBLな作品もあります。なのでぜひ多くの女性に読んでほしいところですね。そしてこれまでBLやゲイ漫画を読まなかった人にも読んでほしい作品ですね。なんたって普遍的な面白さがありますから。さて、サインもらって来ようっと。

オークラ出版
2007年8月12日発行
2007年7月12日購入

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2007年6月29日 (金)

吉野まつり「オレの好きな先生」

オレの好きな先生 オレの好きな先生
吉野 まつり

オークラ出版  2007-06-12
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 係一はヒゲ熊タイプの養護教諭。最近生徒の和美に異様になつかれていて、最近ではなつくというレベルを超えるようになってきている。以前係一は和美に偶然銭湯で出会い、背中を流してやったことがあるのだが、それ以来和美はずっと保健室に来るようになっているのだ。そして係一は、和美が両親を失っていることを知る。和美が寄せる思いは親に対する思慕だと自分を納得させようとする係一。ところが和美の就職が決まった日、和美は思いきって係一に結婚を申し込む。持ってきたのは豪華な婚礼布団だった。「筋肉男」「肉体派」に掲載されたマッチョ系作品に、ケモノ系ショタアンソロに掲載されたショタものを合わせた作品集。

 あーあ、熊先生ヤラレちゃったよー。係一先生は養護教諭なのにキンニクごつごつです。体毛もボーボーです。ものすごく柔道とか強そうです。ですが受です。いやまあ当然ですけど。
 そんな先生は年下に主導権を握られて、あんあん言わされてしまいます。ボーボーの胸毛に白い液を飛ばしてしまいます。これまた当然ですけど。
 ごついヒゲ熊男が受になる、それは一般的な感覚では変に思えることでしょう。なんたって筋肉、体毛、ヒゲというアイコンは皆、「男の力強さ」を示すものですから。一般的な読みと逆になっているために、ヘンテコに思える面を持っています。BLに親しんでいない人は、この作品をトンデモ本として読むかもしれませんね。田亀源五郎の作品が半ばそのように読まれているように。
 ですがこの作品はBLです。BLは最初から既存の価値観をひっくり返す傾向を強く持っています。熊ヒゲマッチョが受になるからゾクゾクするんじゃないですか! それに真っ当に読んでも、熊ヒゲであることには強い必然性があります。二人は非常にラブラブで、甘ーい「結婚生活」を営んでいます。だからこの作品はBLとして成り立っているのですが、和美の積極的なアタックを係一先生が受け止めるという構図になっています。その時係一先生の男らしいアイコンは、読者には包容力の高さとして受け取られます。男らしいからこそ、マッチョで毛がボーボーだからこそ、係一先生は受たりえるのです。
 加えて係一先生は実にカワイイのですね。熊ヒゲマッチョのキャラクターは、男性向けゲイ漫画でも可愛く描かれる傾向が強いですが、この作品でもそうです。行動が思いやりに富んだ「やさしい」ものであるために、かわいさはより強調されます。擬人化された熊が力強さとかわいさ・やさしさを兼ね備えているように、熊ヒゲキャラも強そうでありながら、かわいくなりうるのです。ここまでくるとケモノ萌えとほぼ隣接してくることが分かります。なぜケモノ擬人化やポケモン擬人化が受け入れられるかといえば、それは強さとかわいさを兼ね備えているからなのでしょう。
 そしてもう一つ、この作品集にはケモショタものも収められています。ヒゲ熊マッチョとショタもの? と思われるかもしれません。ですがもうお分かりと思いますが、ヒゲ熊もショタもカワイイものであることには変わりありません。ケモショタとヒゲゴツには明確な類縁関係があります。そしてどちらもカワイイものであるために、読者の欲望を刺激するのです。

 そう考えると、筋肉萌えはなぜ成立するか、という疑問に答えが見えてくるように思えます。田亀源五郎や内田かおるの作品がなぜ熱い支持を受けるかといえば、筋肉そのものの萌えに加えて、ごついがゆえの、毛むくじゃらであるがゆえの、かわいさがあるからなのでしょう。なにか一つ賢くなったように思います。そしてこの作品は、ヒゲゴツ萌えとケモノ萌えとショタ萌えの間に明確な類縁関係があることを示すので、非常に興味深い作品集といえるでしょう。

光彩書房
2007年7月12日発行
2007年6月15日購入

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2007年6月16日 (土)

町屋はとこ「またあした」

またあした またあした
町屋 はとこ

リブレ出版  2006-11-10
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 木下はサラリーマン。仕事中倉庫の荷物が崩れてくるが、それを救ったのは運送業者の間中だった。足を怪我してしまった間中に、木下はお礼を言いたいと思っているが、チャンスをつかむことができず電話を待ち続ける。待ちに待っていた間中の電話に飛びついた木下は、怪我をサポートするということで、間中の家に上がり込む。間中にごちそうしてもらった木下は、「明日は俺が作る」と宣言する。対して間中は、「また明日一緒に作りましょう」と提案する。「ビーボーイゴールド」などに掲載された作品を集めた、筆者初の単行本。

 いやー、しっかり「男」を描いているのがいいんですね。顔は少々顎長人ですが、筋肉の付き方や姿勢の取り方が非常に自然なんですよ。表紙からして「これは…」と思わせる魅力があります。これはきちんと教育を受けているか、あるいは男性の肉体を相当観察していると見ましたよ。男性の描き方に嘘がない(漫画的な、BL的な誇張がなされていない)ということは、それだけである種の迫力を持ってきます。
Photo_30  もう一つ注目すべきは受のオトメっぷりですね。木下は間中への思いに気付くと、だんだんとオトメ化していきます。ついには「孔に入れて」とか言いだしてしまいます。そんな男いるかー! と叫びたくなってしまう人もいるかもしれませんが、そこはちゃーんと納得できるように描かれています。なんたって間中はしっかりした考えを持った社会人で、ガッチリした肉体を持ち、積極的に仕事をやってバリバリ稼いでいます。「男」として強い魅力を持っていて、高い甲斐性を持っているのですね。間中はすっげー「いい男」なんです。こういうキャラは人気の作品にも出てきますね。そう、「ハチクロ」のローマイヤ先輩です。ローマイヤ先輩に男連中がみんなキュンとしたのと同じく、間中は男から見ても魅力的な存在に映ります。This Charming Manって奴っすか? 木下が惚れてしまって、「掘って」と言い出すのも分かるというものです。しかもガマンできなくなるとケモノのように襲ったりしますし。きゃー!

 しかも肉体描写がリアルなように、セックスの描写もリアルなんですね。カチカチになったペニスを挿入するときの描写の生々しさ! 身体を重ねる時の構図の正確さ! これは男性向けからの影響なのかもしれませんが、相当なエロさを持っています。

 残念ながらそのリアリズムとオトメっぷりの同居が、ちぐはぐに見える感があります。皆さんの感想を見ると、セックス描写と肉体描写が妙にリアルで気になったというものがちらほらありますね。なのでそのあたりは改善の余地があるといえましょう。しかしオトメっぷりもある種のリアリズムに基づいていることは確か。そして「男にとっても魅力的な男」を描いていることは、非常に重要なことではないかと思います。次回作も非常に期待大です。

リブレ出版
2006年11月10日発行

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2007年6月 1日 (金)

内田かおる「ヘイ!ドクター」

ヘイ、ドクター ヘイ、ドクター
内田 かおる

竹書房  2003-07-26
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 高校生の五十嵐は、風邪をひいてかかりつけの医者に行く。そこにはいつもの先生とは違う、若い先生がいた。先生が言うことには、ドキドキするのはエロ病であって、治療するためには先生のちんこをなめたり看護婦のコスプレをしなければならないという。ウブな五十嵐はそれに従い、エロい気分になると先生の元を訪れるようになる。バイト先の店長にも迫られる五十嵐だが、本当に自分を治せるのは先生だけだと思う。超美形芸能人とちんちくりんな野球部員の恋を描いた「はっきりいっとけ」も収録した作品集。

 …そんな高校生いません! というツッコミより先に。
 先生の襲来によって五十嵐を取られちゃったバイト先の店長ですが、即座に新しい恋を見つけます。それは出入りのうどん屋の配達員です。これが長身、筋肉巨乳、がっちりしたケツ、ヒゲ、気が強い、でも恋愛にはスキが多いというキャラなんです。店長、「ああ今自分の惚れツボわかっちゃった…」とか言ってます。それは内田先生自身の惚れツボじゃあないんですか?
Photo_28  このキャラの登場は、内田かおるにとっても電撃が走るほど衝撃的だったんじゃないかと思えます。それまで内田かおるが得意としていたキャラは、負けん気・利かん気が強く、ぎゃんぎゃん騒ぎますが、こと恋愛にはなじみがないので、恋愛となると大人しくなるというものでした。ヤンチャ系ツンデレとでも呼ぶべき存在で、体格はちっちゃい小型犬系が多かったものです。ところがそういうキャラにものすごくごっつい外見を与えてみたら? しかもそれが受だったりしたら? 年上だったりしたら? そして生まれたのがこのうどん屋というわけです。そして実際描いてみると、ギャップが男のかわいさを甚だしく強調します。ゴツければゴツいほど、ぶっきらぼうであればあるほど、ふだんの行動が老成しているほど、かわいさは強くなります。
 とまあ、この作品以降、基本的に内田作品の受はゴツ男ばかりになります。『あなたをひとりじめ』(2004、竹書房)、『だまって泣いているのです』(2005、竹書房)は、いずれも受が高度にゴツいです。加えて体毛がどんどんボーボーになっていくのですね。それもギャップの破壊力を増していくことになります。
 ただ、見た目が過剰になっていく一方、物語性はむしろ安定へと向かっていきます。年下攻がオッサン受のことを好きになり、自分に向けられた恋心にとまどいながらも、受はその思いを受け止めていくという構図です。伝統的な少女まんがのように、途中の展開は山あり谷ありキンニクありですが、最終的には甘いハッピーエンドになるのですね。この安心感が、内田作品のもう一つの重要な要素となっていきます。

 こうやって見てくると、このヒゲゴツ萌えと、デビューの頃から持ち続けた萌えである「やんちゃ萌え」が組み合わさったのが、『それではみなさん。 1 (1)』(2007、リブレ出版)(以前の記事を見る)だということが分かってきます。この作品はいわばこれまでの作品の総決算なんですね。これまでの萌えの歩みを振り返り、新しい一歩を踏み出すための意欲作なんだろうな、と思います。

竹書房
2003年8月26日発行

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2007年5月27日 (日)

内田かおる「たかをくくろうか」

たかをくくろうか (バンブー・コミックス) たかをくくろうか (バンブー・コミックス)
内田 かおる

竹書房  1996-12
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 高校生の逢坂は、隣の学校のヤンキーに朝からシメられてしまう。そんなときに隣のクラスの高田が通りかかる。女たらしで有名な高田だが、逢阪をぶっきらぼうながらも介抱してくれる。やんちゃばっかりやっていた逢坂は、高田の何気ない心遣いに一発で惚れてしまう。女と親しくしている高田の姿に、激しい嫉妬を覚える逢坂。そんなとき高田の方から、「一発やらせろや」と告げられる。逢坂は軽く拒否するが、快楽には抗えない。内田かおるのデビュー単行本。

 いやー、人に歴史ありですなあ。10年前のデビュー単行本ですよ。12等身くらいありそうな等身の高さ、ツンツンの髪、短ラン・ボンタン、肩幅の広さなど、80年代様式はこの時期ではまだまだ残っていたことが分かります。単行本発行は97年、執筆時期は95年頃からなんでしょうが、それでも80年代が終わって5年以上経ってます。ヤンキーの世界は時間の流れが違ったんでしょうか? まずはその80年代テイストに心惹かれるところです。
 それに萌えの姿も興味深いですね。徹底したヤンキー萌えです。ヤンキーといいますか、エネルギーがあふれていて、やんちゃしまくっている男の子に萌えがあったのでしょうね。内田かおるは現在でも「体で稼ぐ男萌え」が強いのですが、それはこの頃からはっきりしていたことが分かります。それにちらっとショタ風味が見えるのも興味深いですね。三冊目の『いつもみているものだから』(98年)や、四冊目の『ハートにご用心』(2000年)にはもっとはっきり現れますが、「年下、強気、やんちゃ」に強い萌えを覚えていたことが伺えます。現在の内田かおるは、見た目は相当「遠くまで」来てしまったように見えますが、実は根本的な萌えはずっと持ち続けてきたんですね。初の単行本というのは、作家の将来を暗示するものなのだなぁと、しみじみ思ったのでした。

 内田かおるは、ある作品で明確に新たなステージに入りますが、次回はそれを書きたいと思います。

竹書房
1997年1月12日発行

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2007年5月 8日 (火)

神室晶・高緒拾「ランブル・ラッシュ」

JUNEコミックス ピアスシリーズランブル・ラッシュ
神室 晶 高緒 拾

マガジン・マガジン 2005-11-30
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 ある鉄道路線では、若い男ばかり触る痴女の被害が出ている。そこで担当課長の飯島は、一番若くてカワイイ、新入りの秋山におとりになるよう命じる。車内で早速触られる秋山。そのテクニックはすさまじく、秋山はイカされそうになってしまう。そんなときに飯島が現れ、触った者を捕まえる。捕まえられた者はメガネの教師で、このことを学校に通報しないように頼み込む。その様子を見た飯島はいい案を思いつく。「コミックJune」に掲載された作品を集めた短編集。

 基本的に非常に濃度の濃いホモ漫画ですね。なんたってキンニクの描き方が違いますから。解剖学をガッチリ踏まえた、高いデッサン力に裏付けられたリアルな男の裸体が、これでもかというくらいに描かれるのです。ちんこやケツ、それに前戯の描写にも、限りない「本物性」を感じます。それにえっちのネタがいちいち濃いんですね。あらすじの作品は電車ネタのせいもあってか<3連結>ですし、シバリやら体育用具室エッティやら、男性ホモのフェティシズムを刺激するハードな描写がてんこ盛りです。あられもない体位も多いですしね。

 普通なら、男性ホモの萌えとやおいの萌えは、両立しなさそうなものです。ですがこの作品は、立派にBLとして成り立っています。それはまず、登場人物たちが美しく描かれているためでしょう。顔の描き方、表情の付け方はやっぱりBLなんですね。それになんといっても、想いの寄せ方、関係の近づき方がちゃんとBLになっているのです。エッティ重視の作品も、最後にはラブラブになります。それに幼なじみを描いたお話では、実は二人とも好きあっているのに、その想いは接近したり遠ざかったりを繰り返します。当然最後は結ばれます! この作品は、「ホモ萌えとやおい萌えの接触・融合」が非常にいい形で起こっている例だといえるでしょう。

 先日、BL読書会をやったのですが、その時にやおい党幹事長からお借りした本です。「コミックJune」はまったく守備範囲外なので、結構前の本なのに、全然アンテナに引っかかってこなかったのでした。検索してみるとかなり好評じゃないですか。うーむ、まだまだBL世界は広いですのう。マガジン・マガジンの本もちゃんと読まなくてはなりませんのう。

 あとひとつだけ叫ばせてください。ギャー! それ違う! ヒゲ先生は受に決まってるだろ!

マガジン・マガジン
2005年12月15日発行

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2007年4月14日 (土)

直野儚羅「意気地なしの幸せ」

意気地なしの幸せ 意気地なしの幸せ
直野 儚羅

竹書房  2007-03-07
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 森は長身で見た目はかっこいいのだが、どこか根本的に生活力に欠けていて、とうとう食べるものがなくなってしまう。空腹のあまり米を盗もうとするが、盗んだとたん倒れてしまう。気がつくとご飯の美味しそうなにおいがする。米屋の主で大家の川田が、森のためにご飯を作っていたのだ。川田はちっちゃくってヤンチャなタイプだが、じつは結構な歳であり、面倒見もいい。お父さんのように自分に接してくれる川田のことを、森は「小さな巨人」と呼ぶ。そして関係が深まっていくと、川田が実は寂しさを抱えていることが分かってくる。この年の差身長の差カップルに加えて、森の勤め先のホストクラブのオーナーと腹心のカップル、血縁人外カップル(なんじゃそりゃ)などのお話が収められた短編集。

 今まで直野儚羅といえば、「エロ描写はピカイチだがお話は微妙なものもあり」という認識でした。ここぞというところでファンタジーや特殊設定に逃げるよなー、という印象があったのです。それでもエロが濃厚だからまあいっか! と思っていたのですね。
 でもそれは私の見立て違い。直野が描こうとしていたのは、設定とか突飛なお話じゃなかったんですね。この作品を読んでいると、描こうとしていたのは「男のかわいさ」だったんじゃないか、と思えてきたのです。
 男のかわいさってなんでしょうか。背の小ささや全体的なちっちゃさ、顔のかわいさといった、外見のかわいさがまず思い浮かぶでしょう。これには性別受が装備している、女の子のようなかわいさも含まれるでしょうね。ですがそうでないかわいさもあります。歳をとっていても現れるかわいさは確かにあります。例えば子どもの頃のクセが無意識に現れてしまったり、ついムキになって食ってかかってしまったり、本当は好きなのに意地があるから言えなかったり。「社会的にきちんとすることを求められている状況で、つい出てしまう子供っぽさ」が、成人男性のかわいさなんだと思います。この作品はそうしたかわいさのオンパレードなんですね。小さな巨人川田は、森のことが気になっている(=好きになっている)のですが、自分の気持ちに戸惑っています。見た目もかわいいですが、オトナなかわいさも持っているのですね。ホストクラブのオーナーは夜の世界の帝王ですが、実は腹心が森とつきあっているのではないかと疑心暗鬼になっています。そして「俺の言うことを聞かないならクビだ」とばかりに、一度は腹心を突き放してしまうのですね。よくありそうな展開ですが、よく見るとガキ大将のわがままと大して変わらなかったりします。おっかねえ夜の世界の人なんですが、こと恋愛となるとヒジョーにかわいいんですね。そしてこのかわいさは、普段は隠しているもの/隠さなければならないものであるために、ひとたび現れると強烈な破壊力を持ちます。よ、夜の帝王が赤面してますよ??

Photo_16  それに身体の描き方のエロさは相変わらずというか、さらにパワーアップしています。内田(か)先生ほどムキムキはしていませんが、しっかり筋肉がついた身体が、ねっちょりがっちゅりキッチリおセックスをしています。それにケツがいいんですよ! 筋肉があるにもかかわらず、もうぷりっぷりなんですね! 「もっと締まってるんじゃないの?」なんてツッコミはヤボヤボ。腹や胸の筋肉はしっかりで一萌え、プリケツでもう一萌えできるじゃないですか!

 絵の美しさと筋肉描写の凄み、しっかりしたエロと、この人の作品には非常に優れた点があったわけですが、「男のかわいさ」を考えさせるという面白さもあったのでした。これは男にとっての問題提起でもあるんですよね。「男のかわいさ」を前面に出して生きる、という戦略もあるわけですから。既存の「男らしさ」に頼らない生き方もできるということを示すわけですから。ですから男性にとっても、興味深い作品なんじゃないかな、と思います。

竹書房
2007年4月7日発行
2007年3月10日購入

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2007年3月12日 (月)

山田ユギ「誰にも愛されない」

誰にも愛されない 誰にも愛されない
山田 ユギ

リブレ出版  2007-01-10
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 出版社営業の飯島に課せられた使命は、映画公開で盛り上がるチェコ語の小説を訳せる人材を捜すこと。断られ続け、藁をもつかむ気持ちで出会った訳者は、大学時代因縁があった日下だった。日下に女を取られたと思った飯島は、日下を殴ってしまったが、日下は全く無抵抗だった。そのことがずっと心に引っかかっていたのだ。日下の経営する古本屋で原稿の出来上がりを待つ飯島。出版トラブルをめぐっていさかいになり、飯島は日下の胸ぐらをつかむ。しかし次に飯島が取った行動は、日下の唇を奪うことだった。書き下ろしも含めた全308ページの大作。

 えーと、これまで私はBLややおい本をたくさん読んできましたが、身もだえするほどヅキュンと来るのはあまりなかったんです。日下は寂しさをずっと抱えて、人付き合いが苦手で、無愛想なタイプなんですが、ずっと飯島に対する思いを抱いてきたのですね。その思いがやっと叶って、「この身体も…お前しか知らない これから先も…おまえだけしか…」と潤んだ瞳で言うのですね。「ぐひゃー!」と変な声を出して、足をばたばたさせて転げ回ってしまいましたよ。おかげで同居人から「本当に頭がおかしくなったかと思った。いや今でも十分おかしいけどさ」といったことを言われてしまいましたよ。
 思えばこれまで私はやおい本をやっぱりどこか一歩引いた視線で見てきたのでした。登場人物総ホモという変なオヤクソクに従った作品世界を、部外者の視線から見て喜ぶという姿勢を持っていたのでした。ですがこの作品には本当に心がヅキュンと動かされたのですね。女性が感じる萌えなんでしょうが、それをはっきりと感じたのでした。そうなんですよね。BLとは分析的な視点で見るものではなく、強い感動を読みとるもの。もちろんそこから分化してギャグやらヘンテコな作品も生まれてきますが、基本は恋愛に伴う、「人の心をガツンと動かすもの」を描くものなんですね。いやー、慢心していました。「BLの魅力はヘンテコさにあり」なんて書いてしまっていた自分が恥ずかしいです。すいません山田ユギ先生!(謝られてもお困りかと思いますが)

 そしてこの感動を生み出す背景には、やはり山田ユギ先生の圧倒的ともいえる「まんがの上手さ」があるのですね。まずはキャラクター造形の絶妙さ。日下は家庭環境などから圧倒的な寂しさを抱え、人との距離を測るのが下手です。ですがずっと秘めた思いを抱き続けています。一方飯島は面倒見の良い熱血サラリーマンという外見(そとみ)ですが、内側には複雑な葛藤を抱えています。そしてその二人のキャラクターは最終的に恋愛関係になるのですが、その触媒として心に寂しさを抱えた女の子を使ったり、昔の男の影を使うなどして、実にやきもきさせるのですね。その展開の上手さに、再びうなってしまうというわけです。山田ユギ先生の引き出しの多さ、ワザの幅広さ、小技の上手さ、そして何よりまんがに対する「命のかけ方」に、改めてガツンと心打たれたのでした。

 そういえば山田ユギ先生を取りあげるのは随分久しぶり。やっぱり心のどこかで、本当に優れたやおい・BLを避ける気持ちが働いていたのでしょう。これからは心を入れ替えて、メジャーな作品にも手を出していこうと思います。あとは更新頻度も上げなくちゃ!

リブレ出版
2007年1月10日発行
2007年1月23日購入

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2006年1月21日 (土)

直野儚羅「欲望少年」

naono_yokubou

 優は忍の10歳年上。父親のいない忍は、優にとてもなついていて、いつしかオナニーの手伝いをしてもらうようになる。もちろん優はそれを良いこととは思っておらず、こうした関係は一時的なものだと思っている。そんなときに忍はクラスの女の子から告白され、その子とつきあうことになる。いい機会だと思い、優は忍を突き放す。女の子とつきあってみて、キスしたり、セックスしたりする忍だが、どうも違和感をぬぐえない。結局女の子とは別れてしまう。そして忍は思う。なぜ優は最後までしてくれないのかと。そんなとき忍は、優雅女と会っているところを見てしまう。煮え切らない優を押し倒してしまう忍。「麗人」に掲載された作品を集めた短編集。

 相変わらずこの人の作品はいろいろ微妙なところがあります。特にファンタジー作品はもにょりまくり。美しいケモノの王が人間界から男をさらってきてヨメにする、という作品なんですが、設定からしてもにょーという感じです。男妊娠ものですし。また当て馬になる女の描き方は、意図的ではあるのでしょうが、ちょっとぞんざいにすぎる感があります。
 ですがいい点もやはり多いです。なんといっても絵が上手い! がっちゅんシーンにはなんの妥協もありません。BLといえば男性の肉体を抽象化したりしてしまいがちですが、この人はちゃんと筋肉を描き、ちんこも抜かりなく描きます(当然修正は入りますが)。筋肉の描き方は内田(か)先生を彷彿とさせます。なによりいいのが汁だくなことなんですね。汁やら汗やらでぐちょぐちょぬちょぬちょです。これはエロイ! それから表情の描き方もいいですね。攻が上目遣いになることが多いのですが、これがまあそそること。他の表情の描き方も全体的に非常に繊細です。
 それから心の「接近」を描いているのがいいのですね。離れていた攻と受との距離が、少しずつ近づいていくという構図が多いのですが、その描き方が上手いのです。登場する人々はみんなちゃんと男で、乙女化したりすることはありません。でも男に惚れてしまうことはあるわけです。そうなると、当然「接近」も難しくなるわけです。「男なのに男を好きになるなんて」と。そうした心の壁を越えて近づいていく二人の心を描くのですね。このていねいな描写は、強い萌えを生み出します。

 まあ確かにあちこちに「アレ?」と思う点はあります。微妙にもにょる点もあります。ですが二人の男心がゆっくり接近していった末に、どハードながっちゅんシーンがある。これはかなりクルものがあります。男性が見たときにも、解剖学的に正しい筋肉描写は、かなりそそるものがあります。ボディビルダーのようにマッチョではありませんが、男のエロスを感じさせる筋肉なのですね。これはノンケの男性にも、結構訴えるものがあると思います。

竹書房
2006年2月7日発行
2006年1月14日購入

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2006年1月16日 (月)

内田かおる「それではみなさん。」1

ucchidaka_soredeha

  筋肉はゴリラ! 心は乙女! の内田(か)先生の新作で、大家族ものです。

 赤城家は男ばかりの四人兄弟。両親はいなく、長男の東吾がガテン系のバイトをして一家を支えている。次男の西也は、ガタイはいいが気がめちゃくちゃ弱い長髪メガネ。三男の南樹は、年の割には幼く見える高校生。そして主人公の四男北斗は、朝が弱くてワイルドな高校生。東吾には春太郎という、イタリアンのシェフをやっているパートナーがおり、一家の朝食は春太郎が作っている。

 ある日東吾が過労で倒れてしまい、北斗は見舞いに行く。そこで北斗はガタイのいいおっさんに出会う。そのおっさん秋吉は東吾の同僚。お互い意地っ張りなのでぶつかり合う二人だけれど、実は互いに一目惚れしていた。また、東吾が倒れたために、西也が北斗の担任・冬野と会うことになるが、これまた二人は互いに一目惚れ。急速に惹かれていく。(ゴツイ)男ばかりの兄弟だけれど、それぞれ愛する人を得て、しっかりちゃんと生きていく。

 いやー、親がなくて兄弟だけで生きていくっていうのは、すごく少女まんが的ではないですか。そして兄弟それぞれが恋を見つけていき、自立はしていくけれど、絆は失われず、むしろ強まっていくというのも少女まんが的です。若草物語ですよね。ちょっと構造は違いますが、三原順の「はみだしっ子」とも似ています。構造的には少女まんがの王道を行っているといえるでしょう。
 それにそれぞれの恋がいいんですよね。北斗と秋吉の年の差恋愛。まだ未熟なところがある北斗を、秋吉は料理でもてなしたりして、がっちり抱きとめます。また自分に自信がなくて、次の一歩を踏み出せないでいる西也は、冬野の思いやりによって、自立の道を歩み始めます。一家を支えて倒れてしまう東吾も、実は春太郎がちゃんと支えています。南樹のお話はこの巻では描かれませんが、どうやら同級生との恋愛があるようです。もうみんなすっごくオトメなんですよ! 背筋がモゾモゾしてくるようなういういしさのある、いい感じの恋愛が描かれるのですね。その点で、この作品は非常にしっかりした少女まんがだといえます。

 ですが、ですがですよ。この作品の登場人物は全員男です。しかも全員筋肉系。ヒゲ装備率も高いです。結構な歳のヒゲゴツ男が、顔を真っ赤にしながら、ういういしい恋愛をやっているんです。エプロン姿になったりします。バラ背負ったりします。「好きだ」とか言ったりします。そう、この作品は、高度な少女まんがの構造に、ヒゲゴツ男たちをそのまんま代入しているのですね。特殊といえばあまりに特殊。内田(か)先生の特殊な趣味は、ほとんどギャグの域に到達しています。オマエラオトメ過ぎです! 読んでいて、ニヤニヤが止まらなくなってきます。

 確かに、ヒゲゴツ男がオトメである、という構図は、ついて行けない人もいるでしょう。ですが、これはこれで、実に味わい深く、楽しいものです。のめり込むにつれてどんどん脳内麻薬が分泌され、気持ちよくなってくるのですよ。「こんなオヤジいません」なんて言うのはヤボってものです。それに、恋愛のありさま、心が近づいていくさまが、非常にきっちり描かれているために、読後感もすっきりしています。特殊といえば特殊すぎるんですが、BLとしての構造はかっちりしています。それが、内田先生の人気を支えているのだと思います。

 この作品を男性が読んだなら、変なまんが・特殊漫画として認識されることでしょう。山本弘とか飛び上がって喜ぶでしょうね。ですが、BL作品として、非常にしっかりしており、萌える作品であることを忘れてはなりません。BL作品として、まっとうに評価される必要がある作品だといえましょう。

ビブロス
2005年12月10日発行
2005年12月20日購入

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