2008年4月19日 (土)

つげ雨夜「ご主人様に気をつけて」

 津田は双子の姉が骨折してしまったため、姉の代わりにメイド喫茶で働くことを求められる。同じ顔なんだから問題ないという姉に強引におされて働くことになるが、知ってる奴に会うかもしれないと気が気じゃない。ところが早速同じ学校の連中がやって来る。向こうは津田のことを分からない様子だが、ひとり頬を染める男がいた。同じクラスだが、全然つきあいのない要だ。学校で津田と要は図書委員の仕事を一緒にするようになる。要はメイド姿の津田に明らかに惚れているが、好きなメイドが津田だとは分かっていない。メイド姿の津田に告って玉砕する要だが、要のことを理解してきた津田の心境は複雑だ。要が好きなのはメイド姿の自分。本当の男としての自分は眼中にないのかと。「GUSH」「Chips!」に掲載された作品を集めた短編集。

ご主人様に気をつけて (GUSH COMICS) ご主人様に気をつけて (GUSH COMICS)
つげ 雨夜

海王社  2007-06-08
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 かわいい男の子が女装してメイド姿になって男に惚れられる…というスジは、宮下キツネの「ストップ! ご主人様」と一緒ですね。主人公の男の子は超・女顔で、服を着るだけでもう女の子と見分けがつかないという点、声とか骨格とかでばれることは一切なしという点も一緒です。つげ雨夜の絵はカワイイ系ですし(この頃は)、男でも線が細くすらっとしているので、女装しても違和感がないのですね。漫画ですから見た目による性別越境は非常に容易です。いやー、漫画って本当にいいものです。
 で、BL的にどうかといいますと、これが実にちゃんとしてるんですわ。男の姿の時にちゃんとフラグが立っていきますし、「男でもいいの?」という迷いもちゃんと描かれます。まあ一歩引いてみれば荒唐無稽であることには変わりないのですが、BL世界・ときめき世界に引き込むお膳立てはしっかり整っているので、甘くドキドキするラブにどっぷり浸かることができます。…同じお話なんですが、宮下キツネとはものすごーく違う作品になっています。興味深いですなあ。

 この作品集には、もう一つ興味深い作品が収められています。「ファミリー・ポップ」という連作です。
 大学生の実は、突然姪の苺花(まいか・3歳)を預かることになる。子育て経験がなく戸惑う実の前に、クラスメイトの小椋が現れる。歳の離れた兄弟がいる小椋は、子育てなら平気だというのだ。見た目が派手な小椋は目立つ存在で、実にとっては少しまぶしい存在だった。そんな小椋は実の家に泊まり、苺花の面倒を見ることになる。どこかぎくしゃくした三人での生活が始まるが、小椋は実を押し倒してキスする。以前から小椋は実を狙っていたのだ。それを見てしまった苺花はものすごく機嫌が悪くなる。

 いやあ、この苺花ちゃんがいいんですわ。実とお風呂に入るのは嫌がるくせに、小椋とは平気でお風呂に入ります。実を前にすると妙にもじもじします。そう、苺花ちゃんは実を男の人として意識していて、実のことが好きなんですね。そして実をめぐる三角関係になります。小椋に向かって「みのるくんにベタベタしないでっ!」と言ったりします。かわええのう…。
 女性が絡む三角関係BLは、女性が当て馬になったり邪魔者になったりして、どうにも切ないことになってしまいがちですが、そこに幼女を当てはめると、実にいい感じになるのですね。幼女の気持ちは「幼いんだから」ということで、かなわなくても深刻にはなりません。また幼女の行動はあどけなくてかーわいいので、角が立つこともありません。結局実は小椋に取られちゃうので、苺花ちゃんの思いはかなわず、かわいそうではあるのですが。子どもを登場させることによって、登場人物の関係は立体的になり、物語にも深みが出るのです。子どもが絡むBLにハズレなし、というのは経験的に分かってはいたのですが、改めてそう思いましたね。そしてそれを上手く描くことができるつげ雨夜という作家の力も、はっきりと思い知ったのでした。…それでも女の子が割を食ってるんですけどね。

 ともあれ、次の作品も追いかけていこうと思っています。絵柄も目が横長の三白眼気味になり、他の人とは違った魅力を持つようになってきましたしね。次の作品が楽しみです。

海王社
2007年6月20日発行
2008年1月20日購入

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2008年2月 6日 (水)

小笠原朋子「Hiスクラップ!」

 背が高くてメガネでまじめな委員長の麻生、副委員長で活発で幼児体型でお団子頭の理子、ちっちゃくて美少女顔のアキ。アキは前の男子校ですごくチヤホヤされていたけれど、なぜそうされるのか分からず、トラブルになった結果共学校に転校してきた。理子はこれまでの男たちとは違い、親身に接してくれるので、アキは理子を好きになってしまう。しかし理子は委員長の麻生が好き。アキと理子は友達関係になるが、アキは恋愛感情をあきらめられない。一方麻生は初めてアキを見たときから鼓動が高まるのを感じる。自分はノーマルなのに、男を好きになるはずなんてないのにと、麻生は自答する。「まんがライフmomo」に連載された4コマ作品。

Hiスクラップ!! (バンブー・コミックス) (バンブー・コミックス) Hiスクラップ!! (バンブー・コミックス) (バンブー・コミックス)
小笠原 朋子

竹書房  2008-01-26
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 もうおわかりのように、麻生→アキ→理子→麻生という、循環型の三角関係になっています。思いを寄せられている方は、そのことに何も気づいていないところがポイントですね。クラスの人たちからはみんなバレバレなのに。そこがこの作品のギャグの基本になっています。麻生は理子のことが全く眼中になく、「餅」としか呼びません。そして理子もアキのことを友達としか思っていません。ままならんですなあ。
 で、いわゆるやおい作品じゃないんですが、もう大変な作品です。アキがもうめっちゃくちゃカワユイのですよ! 色白、猫っ毛、身長は160ちょいなのでいつも上目遣い、でも自分は男らしくかっこよくなりたいと思ってます。それに自分が「男らしくない」ことには気づいていますが、「かわいい」ことには気づいていません。そのため無自覚にかわいさを振りまきまくります。無防備なところ見せまくりです。理子に言われると簡単に女装しちゃいます。こんだけ隙だらけとなると、好きになっちゃったり、抱きしめたくなったり、なめたくなったり、やっちまいたくなるのはむしろ当然です。こういう子は空想の存在? いやいやそんなことはありません。200人か300人に一人の割合ですが、たまにいるんですよ、こういうかわいい男の子が!

 この作品で重要なのはやっぱり麻生ですね。麻生は、自分はノーマルだと固く信じていますが、アキのかわいさにメロメロです。腹チラ、背中チラで鼻血吹きまくりで、盗撮したりストーキングしたりしてます。ですが頑固に、アキが女の子だったらいいのに、女の子なら俺はノーマルなのに、といつも思ってます。

You、素直になっちゃいなよ!

 麻生の気持ちは恋と性欲に決まってるんですけどね。でもそれを認めたくなくて、男を好きになっちゃいけない、ヘテロセクシャルじゃなきゃいけないと思っているんです。この苦悩は実に美味しいですねえ。好きになっちゃいけない、欲望を抱いちゃいけない。でも好き、でもやりたいという迷いと苦しみこそが、BLの醍醐味の重要な一つなんだと思います。そしてこの作品では、この苦悩が重要なギャグになっています。麻生が徹底的に報われないのが面白いんですな。

 こうした麻生の描写は、まだまだ男の性の姿、愛の姿が「解放されてない」ことを如実に示します。素直に好きって言えればいいんでしょうけど、今の状況ではなかなかそうはいきません。それにアキも、前の男子校で男に告白されたことがトラウマになって、共学校に転校してきたことになってます。ヘテロセクシャルのくびきはいまだに重いのです。まあ簡単に解放されちゃったらギャグにならないので、この作品ではヘテロが堅持されないといけないのは分かるんですけどね。それにアキは明らかに性的な意味でも欲望を抱かれているので、下手に解放され過ぎちゃうと大変なことになるんでしょうけれど。それにしても麻生のせつない気持ちは、かなえてあげたくなってしまいます。

 もどかしいギャグで笑わせるだけかと思えばさにあらず。私たちを包んでいるヘテロセクシュアルの強さと、それに伴う微妙な問題を描き出す作品ですね。

竹書房
2008年2月26日発行
2008年1月28日購入

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2007年12月 6日 (木)

宮下キツネ「おいでませ新婚さん」

おいでませ新婚さん (ビーズラビーコミックス) おいでませ新婚さん (ビーズラビーコミックス)
宮下 キツネ

エンターブレイン  2007-11-15
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 ボクは円、男の子だけど俊弘さんのお嫁さん☆ 俊弘さんがボクの朝一番のミルクを飲みたいっていうから、また遅刻しちゃった。俊弘さんのために家事とか料理をするけれど、ぜんぜん上手くならないので練習しているんだ。俊弘さんはボクの通ってる学校の先生なんだけど、他の生徒からも大人気なんで気が気じゃない。負けないようにするために、夜のおつとめを頑張るゾ☆ 宮下キツネ3冊目の単行本。

 えーと、私が発狂したのではなくて、全体を通してこんな感じです。いやもうヒドいヒドい。こんなにかわいい少年がヒドい目に遭わされる作品って見たことねえです。じゅるり。少年たちはクラスメイトや先輩や先生にさんっざんに汁気たっぷりにヤラレちまいます。それは少年たちがかわいすぎるのが悪いんです。男の子たちは細くて小さくて上目遣いで半ズボンなので、そのへんの女の子よりはるかにかわいいのです。言い寄られたり犯されたりするのは当然なんです。そして男の子たちも自分がかわいいことに気付いているので、かっこいい男の彼女…じゃなく彼氏になることに、なんの疑問も抱きません。ボクはちっちゃくてナヨっとしているので、かっこいいあの人に守ってもらわなきゃとマジで思っていたりします。性別受っぷりは前2作よりさらにヒートアップしています。そしてそのかわいさもよりすさまじく、暴力的といっていいレベルになっています。いやー、かわいい少年はいいですなあ。やっちまいてえですなあ。ハァハァ。
 で、宮下作品において、誰でもホモ関係になるかといえばそうではありません。ある性別受のファン二人(普通の高校生)が、性別受がさんざんにヤラレているところをのぞき見てハァハァし、自分たちもやってみるか、という流れになる作品があります。そこでどうなるかというと…「それはないな」「相手にするなら女だな」と、全然その気になりません。ホモ関係が許されるのはかわいい男の子だけなんです。それにここだけ「ホモなんてありえねー」と妙に常識的です。常識外れの性別受を描いているのに!

 とまあここから、「本当は同性愛はダメ」「ホモ関係が好きなのではなくて受のかわいさが好き」ということが分かってきます。つまりこれまでのジェンダーや性的嗜好のあり方から全く抜け出していないのですね。むしろそういう面から見ると保守的・封建的といえるかもしれません。弱くてかわいい受は受になって当然、襲われて当然、周りの男は襲うぐらいが元気があっていいという。ただその姿勢はふたつの興味深いことを明らかにします。
 ひとつは受が徹底的にモノ的に扱われることです。すでに前2作でもその傾向は見えていましたが、この単行本ではより徹底しています。そしてそれは「かわいいものを消費して何が悪い」という開き直りがはっきりしていることの表れです。つまり女性が男の子のかわいさを搾取するんだ、という高らかな宣言なのです。それは男性に対する抑圧でもありますが、解放でもあることはすでに述べてきました。男性は性の主体でなく客体になることもできるのです。またモノ的に扱われることは快楽の源泉でもあります。社会的存在であることをやめ、単に快楽を感じるだけの存在になれるのです。
 そしてもう一つは、女性もまた男性的な「マッチョ」な視線を持っているということです。ぶっちゃけた話この作品は、ほとんど男性向けエロ漫画と変わらない構造になっています。かわいいから犯す。受がかわいすぎるからいけないので、自分のせいじゃない。受は女の子よりかわいいから、犯す視線で受を見る自分はホモじゃない(=まっとうなヘテロセクシュアルである)。ホモフォビアを持っていることにすら気づかない男性の視線とほとんど変わらないのです。それは女性が性的により自由に・能動的になっていることを示すでしょう。性を搾取することに無頓着でいられるようになっているのです。もちろんそれは新たな搾取を生みますけどね。そして男性にとっても、この作品が簡単に受容できることを示します。男性向けエロマンガとほとんど地続きの読み方が可能なのですから。そう、この作品は「美少女漫画は男性向け」「BLは女性向け」という枠組み自体をぐらぐらにしているのですね。

 いやー、性に対する見方は変わるとはいいますが、宮下作品を見ていると男性性や女性性が本当にぐずぐずになっているのが分かりますね。確かにそれは男性的な見方が再生産されていることなのかもしれませんが、男性の見方も受になることによって解体されていきます。また確かにカオスでもあるのですが、男性も女性もジェンダーによってがんじがらめに縛られている現在、枠組みを揺るがすことも重要でしょう。やっぱり「もっとやれ!」と応援したくなりますね。もっともっと無意識過剰で突っ走って欲しいものです。突っ走れば突っ走るほど、大切な何かに近づいていくんだと思いますよ!

 以前の記事もご参照ください。
・ストップ! ご主人様
・少年料理法

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ネクラで眼鏡でキモオタな優等生は“受け”るとイイよ! さん

エンターブレイン
2007年11月27日発行
2007年11月27日購入

ストップ!ご主人様 (光彩コミックス Boys Lコミック) ストップ!ご主人様 (光彩コミックス Boys Lコミック)
宮下 キツネ

光彩書房  2005-10-17
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少年料理法 (光彩コミックス) 少年料理法 (光彩コミックス)
宮下 キツネ

光彩書房  2007-07-28
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2007年8月23日 (木)

宮下キツネ「少年料理法」

少年料理法 (光彩コミックス)Photo_2 少年料理法 (光彩コミックス)
宮下 キツネ

光彩書房  2007-07-28
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 高原はある日、体育を見学しているきれいな子に一目ぼれしてしまう。最初女の子だと思っていたが、実はその子は男の子だった。彼の名は蓜島といい、高原は少しずつ蓜島と接近していく。そんなとき高原は蓜島の妹のキララに出会う。蓜島に近づくためキララと仲良くなろうと思う高原だが、キララの高原を見る目は明らかに恋する瞳だ。蓜島は高原に、家に来てキララと二人きりになってほしいと頼みこむ。かわいい妹のために頼んだ蓜島だが、いざ頼んでみると高原のことが気になって仕方がない。妹と同じ人を好きになっちゃいけない、と自分を納得させようとするが。ショタものアンソロジーに掲載された作品を集めた2冊目の単行本。

 やったー! 2冊目だー! 『ストップ! ご主人様!』の突き抜けっぷりに、「これはすごい」と思っていた宮下キツネ。2冊目も期待に違わず突っ走っています。
 まずなんといっても男の子のかわいさが図抜けています。男の子は女の子のようにかわいいのは当然、女の子と間違えて男が惚れてしまうのもまた当然です。「かわいいからいいじゃん」という姿勢は終始一貫しており、最後のおまけまんがにもはっきり描いてあります。「きっとかわいければ全然OKなのではないかと思います」なんて言ってます。
 それに展開にスピード感があります。例えばあらすじに挙げた「ちょっとずついこう」は、短いページ数に多くの要素と人物が詰め込まれているので、必然的に展開は非常にスピーディーになります。炸裂したかわいさのオーバードライブ。タマランものがあります。

 女の子よりかわいい男の子を描く作家には星野リリィなどがいますが、宮下キツネの作品は全然印象が違います。BLで重要なことは、「オレにはお前しかいない」というカップリングの絶対性です。間男に犯されても、やむにやまれぬ事情で浮気しても、最後には元の鞘に戻ります。それに失恋して別の相手とくっつくにしても、強いカップリングの絆を作るだけの心の動きが必要です。ハーレムきゅんやダイヤきゅん、そしてネコたちは女の子よりかわいいですが、彼らと攻の間には絶対的な関係が築かれるような工夫がされています。ですが宮下作品にはそれがありません。受が尻軽すぎて強いラブに見えないのです。攻も「いつかは受のナンバーワンに」とか思ってます。えー、それでいいの?
 それに受は女の子にしか見えません。そしてセックスシーンになると興奮のせいか、みんなおちちが微妙に膨らみます。なのでノーマルカプのセックスに見えてしまいます。男と女なら特別な思い入れなくセックスすることができますから、やっぱり愛が薄く見えてしまうのですね。そう、宮下作品からはごっそりやおい性が欠落いるのですね。ですから違和感を抱く女性、怒り出す女性も出てくると思います。「ちんこのついた女の子じゃん」と。

 また女の子よりもかわいい男の子、という描写は、実は男の子にも女の子にも失礼な描写なんじゃないかと思いますね。男の子の方がかわいいというのでしたら、作品に登場する女の子の立場はなくなります。現在の社会においては男女関係には不均衡があり、だからこそ「美」や「かわいさ」は女性が持つものとされています。その点で男に凌駕されるとなると…女の子は立場がないじゃないですか。キララは本当に当て馬なんですね。それに男の子は女の子的基準で容姿を判断され、必死でそうあろうとしている「男らしさ」の基準では判断されません。これでは男の子も浮かばれません。そうした描写を「かわいいからいいじゃん」と無邪気に採用するのは、不注意どころか無自覚に人を傷つける可能性を持っているといえるでしょう。ゲイの人は激怒するかもしれませんね。同性愛の背後にある様々な抑圧や軋轢を無視するなと。

 ですが一方で、この作品は積極的に見るべき点も持っています。まず尋常ならざるかわいさ。「かわいければなんでもいい」という開き直りは暴力にもなりますが、横車を通してしまうパワーも持っています。「なんか変だけど、かわいいからまあいっか」という読みになるのですね。これはこれまで表現の背後にあった「遠慮」をすっ飛ばして、それまでやるのがはばかられた表現を可能にします。それは暴力的でもありますが、解放でもあります。「苺ましまろ」なんかがそうであったように。それにこのかわいさには、読者層を広げ、それまでBLを読まなかった層に訴える可能性があります。前作同様、問答無用でかわいいので、ノンケの男性読者を引き込む可能性があるのです。
 次にキャラを徹底的に突き放した表現になっているところがいいのですね。この作品で男の子たちはみな、感情移入の対象にはなりません。そのためやおい的な表現としては失格となります。ですが男の子たちは高度に客体化されているために、欲望の対象、見て楽しむ対象になっています。そこには、恋愛の対象や感情移入の対象として男の子を描くのではなく、性的な視線の対象として男の子を描くという視線があります。「かわいい男の子を消費して何が悪いの?」という開き直りですね。男の子は男性からも女性からも、性の対象として「まなざされる」のです。これは男性にとって新たな抑圧を生みます。女性と同じように、人格を否定され、性の対象として消費されるのですから。ですがもう一方で解放にもなります。男性をがんじがらめに縛っている「恋愛コード」から解放し、ひたすら受け身になる性の形を提示するのですから。男性がかわいくたって問題はないのです。むしろ男性はかわいい方がいいんです。これは「男らしくあらねばならない」というジェンダーのくびきに苦しんでいる男性にとって、福音になりうることです。

 宮下キツネの作品は、無意識と無自覚にあふれており、政治的には正しくない部分も持っています。やおいの政治性をめぐる議論においては、最大の敵になる作家でしょうね。ですがそのドライブ感、スピード感、「男を消費して何が悪いの?」という開き直りは、男性を解放する可能性も持っています。そこで私が言いたいことは…「もっとやれ!」ということです。かわいければいい? その通り! 男の子はどんどんかわいくなればいいんです。やおい性が足りない? 問題なし! やおい性なんてなくたっていいんです。ガンガン描くことで、やおいや男性向け表現をめぐる「かくあらねばならない」という暗黙の制約に風穴が空いていくんです。やおいの表現が揺れれば揺れるほど、新たな表現の可能性が生まれるのです。宮下キツネは、やおい界に現れた最大のトリックスターといえるでしょう。まさに大注目の作家です。

光彩書房
2007年7月28日購入

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2007年6月16日 (土)

町屋はとこ「またあした」

またあした またあした
町屋 はとこ

リブレ出版  2006-11-10
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 木下はサラリーマン。仕事中倉庫の荷物が崩れてくるが、それを救ったのは運送業者の間中だった。足を怪我してしまった間中に、木下はお礼を言いたいと思っているが、チャンスをつかむことができず電話を待ち続ける。待ちに待っていた間中の電話に飛びついた木下は、怪我をサポートするということで、間中の家に上がり込む。間中にごちそうしてもらった木下は、「明日は俺が作る」と宣言する。対して間中は、「また明日一緒に作りましょう」と提案する。「ビーボーイゴールド」などに掲載された作品を集めた、筆者初の単行本。

 いやー、しっかり「男」を描いているのがいいんですね。顔は少々顎長人ですが、筋肉の付き方や姿勢の取り方が非常に自然なんですよ。表紙からして「これは…」と思わせる魅力があります。これはきちんと教育を受けているか、あるいは男性の肉体を相当観察していると見ましたよ。男性の描き方に嘘がない(漫画的な、BL的な誇張がなされていない)ということは、それだけである種の迫力を持ってきます。
Photo_30  もう一つ注目すべきは受のオトメっぷりですね。木下は間中への思いに気付くと、だんだんとオトメ化していきます。ついには「孔に入れて」とか言いだしてしまいます。そんな男いるかー! と叫びたくなってしまう人もいるかもしれませんが、そこはちゃーんと納得できるように描かれています。なんたって間中はしっかりした考えを持った社会人で、ガッチリした肉体を持ち、積極的に仕事をやってバリバリ稼いでいます。「男」として強い魅力を持っていて、高い甲斐性を持っているのですね。間中はすっげー「いい男」なんです。こういうキャラは人気の作品にも出てきますね。そう、「ハチクロ」のローマイヤ先輩です。ローマイヤ先輩に男連中がみんなキュンとしたのと同じく、間中は男から見ても魅力的な存在に映ります。This Charming Manって奴っすか? 木下が惚れてしまって、「掘って」と言い出すのも分かるというものです。しかもガマンできなくなるとケモノのように襲ったりしますし。きゃー!

 しかも肉体描写がリアルなように、セックスの描写もリアルなんですね。カチカチになったペニスを挿入するときの描写の生々しさ! 身体を重ねる時の構図の正確さ! これは男性向けからの影響なのかもしれませんが、相当なエロさを持っています。

 残念ながらそのリアリズムとオトメっぷりの同居が、ちぐはぐに見える感があります。皆さんの感想を見ると、セックス描写と肉体描写が妙にリアルで気になったというものがちらほらありますね。なのでそのあたりは改善の余地があるといえましょう。しかしオトメっぷりもある種のリアリズムに基づいていることは確か。そして「男にとっても魅力的な男」を描いていることは、非常に重要なことではないかと思います。次回作も非常に期待大です。

リブレ出版
2006年11月10日発行

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2007年4月 4日 (水)

天童まひる「魔人倶楽部」

魔人倶楽部 (GUSH COMICS)魔人倶楽部 (GUSH COMICS)
天堂 まひる

海王社 2007-03-10
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 摩利也はそのへんをさまよう霊にものすごく取り憑かれやすい霊媒体質の男の子。その体質を利用して、創摩先輩は除霊のクラブ活動をしている。倶楽部の名前は通称「魔人クラブ」。摩利也に霊を取り憑かせえっちなことをし、摩利也が昇天すると霊もまた昇天するのだ。気持ちは良いんだけれど、摩利也は毎回切なさを感じている。創摩先輩が触ってくれるのは、だれかが憑依しているときだけ。摩利也本人の時には触ってくれないのだ。満たされない思いを抱えた摩利也の心の隙を突いて、邪悪な霊がのりうつる。「Chips!」などに掲載された作品を集めたもの。

 やっぱり天童まひるの絵はかわいくていいですなあ。受のマインドが随分とオトメなので、かわいさは加速します。摩利也は「どうしてセンパイはボクをさわってくれないの」とか思っちゃいますし、失恋を癒すために女装してホストクラブに連れて行かれる男の子は、ホストにきゅんと惚れてしまいます。「そんな男いねえ」なんてツッコミはヤボヤボ。ありえないから良いんじゃないですか。たしかにこういうオトメ受は現実にはほとんど存在しないので、不思議なキャラクターではあります。ですが男性にとってもかなりヅキュンと来るのは確かです。確かに「男の子なのにこんなにかわいくていいの?」という意外性もありますが、ですが実際の男の子にもかわいいところはあるもの。オトメ受というのは、そうした男の子の可愛さを誇張した存在なんだと思います。女の子の可愛さに萌えるのと同様、男の子の可愛さに萌えることも十分に可能なんですね。

Kirio  そしてこのところの天童作品に顕著なことは、「受の骨格が男っぽい」ことですね。例えばメイド服を着て喫茶店でバイトする来利緒きゅん。男の子にしては細っこいですが、肩幅やぺたんこな胸など、男性の骨格をかなり意識して描いていることが分かります。そしてキャラの性格も、かなり男性らしさを意識していますね。この来利緒きゅんは、最初は雇い主のマスターのことを「だれがあんなコンニャク男に惚れるかよっ」とか言っています。そうそうそれそれ。男ってものはそうやって意地を張ってしまうものです。ところが、客に指摘されたり男の客に迫られたりするうちに、「オレマスターが好きなんだ」と自分の本当の心に気づきます。男というものは体面を重んじるあまり、意地を張って自分の本心にさえ嘘をつくもの。そこを分かっているところが良いんですね。そこは男性にも共感できるところです。ところが自分の本心に気づいたあとは極端にオトメ化するんですね。このギャップ! 確かにリアルじゃないかもしれませんが、意地を張るからこそ、そのオトメっぷりが生きてくるわけです。
 そしてオトメになった男の子が繰り広げる恋愛は、かなり甘くてキュンキュンくるもの。流星ひかるが描くような「男少女まんが」(女性よりもむしろ男性を悶えさせるタイプの恋愛まんが)になっているのですね。これはキキます!

 以前の作品のようなロリショタっぷりは影を潜めていますが、男らしい属性を結構持ったキャラがオトメ化していくのですから、かなりの衝撃力を持っています。そして男性に訴える要素も強く持っています。男性がBLに「入門」するときの一冊に向いた作品といえるでしょう。

海王社
2007年3月20日発行
2007年3月17日購入

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2007年3月28日 (水)

みろくことこ「メガネばくだん」

メガネばくだん メガネばくだん
みろく ことこ

海王社  2007-03-10
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 クラス委員の瀬乃は面倒見の良いメガネ。クラスの中で一人浮いている咲屋のことが気になっている。咲屋は背が小さく、ものすごくかわいい顔をしているのだが、クラスメイトとの交流を避けている。上級生の慰み者になっているともっぱらの評判だ。テストの補習の面倒を見ることで、少しずつ接近していく二人。そのうちに咲屋がなぜ他人を避けているのか分かってくる。咲屋は目が悪く、眼鏡をかけて周りが見えるようになると、性格が一変して強引・凶暴になるのだ。そんな自分を抑えるために、周りを見ないようにし、人との交流も避けていたのだ。瀬乃がさしのべた手を振り払おうとする咲屋だが、瀬乃はそんな咲屋を抱きしめる。「GUSH」などに掲載された「メガネばくだん」シリーズを集めた作品集。

 メガネをかけると性格が一変するという咲屋の設定ですが、これはちょっと変わっていますね。メガネなしだと素直でイノセントなほわほわ系なんですが、眼鏡をかけるとガラが悪くなり、「やらせろー」ってな具合になるのですから。みろくことこの受け子はみんなかわいいのですが、かわいい子が強引になるというのは、毛色が変わっていて楽しめます。ただ設定に相当無理があるのも事実。メガネをかけると性格が変わる…そんな人いたらヤバイですって! BLの設定にリアリティを求めるのもヤボという気もしますが、あんまりにもトンデモな設定だと萎えてしまうのも確か。実際単行本の前半は「うーむ」とうなってしまったのでした。
 ただ後半になると、咲屋は期待通り(?)どんどんオトメ化していきます。学園祭でメイド服を着たり、「せっかくコイビトドーシになれたのに」なんて殊勝なことを考えたりします。そうそう、それで良いんですよ。かわいい性別受は性別受を演じきるのが一番。変に色気を出して変化球を投げようとすると、とんでもないところに球が飛んでしまうもの。設定に凝りすぎるのも考え物だなぁと思いましたね。難しいものです。
4_1  そして後半のオトメ化した咲屋はかなりパンチ力のあるかわいさを発揮します。女の子よりかわいい? それでいいんです。こんなにかわいいんですから、ちんこがついていない方がおかしいんです! 見てくださいよこの表4を!

 とまあ、この作品は「ふたば」や「2ちゃん」などで起こっている男性の「うがったエロ」の文脈にすっきりと当てはまる構造になっています。もちろん作者は男性が読むなんてことは想定してないんでしょうが、性別受っぷりをつきつめるあまり、男性の「うがったエロ」と意味論的に等価になってきているのですね。つまり咲屋は「ちんこの生えた美少女」になってしまっているのです。これはある意味堕落と見ることもできるでしょう。「男である意味がない」と。しかしこうも読めるのではないでしょうか、ここから越境が始まる、と。宮下キツネのように、この人もまた注目されて然るべきだと思います。

海王社
2007年3月20日発行
2007年3月18日購入

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2007年2月 6日 (火)

天城れの「保健の先生にきいてみて」

1  田中は男子校の保健の先生。日々男の子たちの性の悩みをカラダで解決している。そんな田中にいつも突っかかってくるのは、新任で熱血教師の佐藤。「先生犯して~」とやってくる生徒の相手をする田中に、佐藤はいつも「生徒との不純異性交遊はいけません!」とちょっかいを出してくるのだ。少々ウザいけれども純真で一本気な佐藤のことが気になる田中。そして佐藤は日々の辛さを田中に告白してしまう。「保健の先生」シリーズと、科学部に所属するショタっ子二人を描いた「放課後理科クラブ」シリーズの二つを収録した作品集。

 「恋愛紙上主義!」もたいがいアホなお話でしたが、この作品のお馬鹿さ加減も実にいい湯加減です。なんたって田中先生のもとにやってくる男子高校生たちがどうにもくるくるしているんですね。「田中先生もっとしてー」「性教育してー」とハァハァしているのですから。妙にかわいらしく描かれていますし。それに対して田中先生も「痔になるから固いものを入れてはいけない、どれこの肉棒を」とか言ってます。どこの宇宙にそんな男子校があるんですか! しかも男子生徒たちは田中と佐藤がくっついてしまうと、「田中先生はあとくされないセフレだったのにー」と残念がっています。どこの宇宙に(以下略) この人を喰ったような脇役描写がどうにもタマランのですよ。やっぱりここにも自分の作品に対する客観的な視線といいますか、突き放したような視線が見えますね。自分の作品に対してもシニカルな視線を欠かさないところが面白いんですよ。

4  それから「放課後理科クラブ」シリーズもいいんですね。私の大好物のショタなんですが、これは真っ当に面白いんですね。白髪メガネ知性派タイプの中野と黒髪やんちゃタイプの成田が、変態教師とか青姦プレイなどの様々な障害を乗り越えてラブラブになっていくんですが、とにかくショタっ子がカワイイんです。もちろん半ズボンですしね。それでいてやることはキッチリヤリます。液をメガネに飛ばすなんて当然です! この人の絵柄だと、可愛い少年を描くと映えるだろうなと思っていたのですが、まさに案の定。ショタものでもかなり強烈な破壊力を発揮しています。そしてヘンテコな部分があるのも相変わらず。真っ当なショタもの・エロものとしてみても面白いのですが、ヘンなスパイスも加わって、実に味わい深くなっているのですね。

 さてさて、過去の作品も買ってこないと。今の連載も盛り上がってますから、注目しないと!

三和出版
2007年3月15日発行
2007年2月2日購入

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2007年2月 3日 (土)

藤成ゆうき「オトメカレシ。」

Hujinari_otomekareshi  蓮は姉の影響で、男ながら少女趣味で、可愛いものを愛でるのが大好き。現在の「愛で対象」は、同じクラスでやんちゃな翔。蓮は翔の活動的なところに惹かれているのだが、幼なじみから実は翔も昔女の子のように、可愛く育てられていたことを知る。そのことを話してしまったために気まずくなる二人だけれど、恒例の女装コンテストをきっかけに、急速に二人は接近していく。「Chips」や「GUSHmaniaEX」に載った作品を集めた作品集。

 いやー、いきなりGUSH編集部から封筒が届いたんで吃驚しましたよ。「私も献本をもらう身分になったか?」なんて思ってしまいましたね。実は以前出したGUSHの懸賞が当たったのでした。サイン本ですよサイン本。せっかく頂いたものですから、レビューしないと申し訳ないじゃないですか。
 『オトメカレシ。』の名の通り、出てくる男の子たちは結構オトメだったりします。可愛いものが好きだったり、年下の彼氏のためにせっせとノートを作ってあげたり、女装が妙に似合ったりします。好きな相手に冷たくされて、もじもじうつむいてしまったりします。「そんな男いるかー!」ってツッコミはヤボっていうもの。その一方でこの人は、やんちゃで活発な男の子も得意としています。ライバルに負けまいと精一杯意地を張ってみたり、心の中に住まうオトメを隠すためにわざとやんちゃをしてみたり。オトメな男たちも意地を張ることを忘れません。そうした「男の子の意地」を描くことに対して、並々ならぬこだわりが感じられるのです。
 男というものは「かくあらねばならない」という世間の要請に弱いものです。自分のアイデンティティを保つために、わざと面倒くさい「男らしさ」を採用したりします。それは男の社会的地位を保障したりしますが、一方でスキも生みます。「しっかりしなくちゃ」「あいつには負けない」という意地が、ふっと弱さに変化したりするんです。その弱さを見せたときが、BL的に「落とす」チャンスなんですね。この人はそのチャンス、意地と弱気の微妙な狭間をよく分かっているのです。

 絵柄はまだまだ硬さが残りますし、類型化されたストーリー運びも見られます。アニメっぽすぎる絵柄に拒否反応を示す人もいるでしょう。ですがこの「意地の弱さ」を見抜いているために、これからぐーっと伸びそうな塩梅です。徹底的に意地っ張りな男の子を描いていってほしいものです。

2006年10月20日発行

LOVE SONG
藤成 ゆうき

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2007年1月 9日 (火)

怖いなぁ性別受って

 年末年始はもう殺人的スケジュールでした。朝6時40分の電車に乗って出勤し、帰りは午後10時過ぎという日々が続いたのです。加えて年末にはコミケ原稿があったものですから、もう本当に死ぬるかと思いましたね。忙しすぎる日々は人間を摩滅させるなぁ、とつくづく感じたのでした。

Ounootoko_1  その絶望的期間も昨日で終わり。リフレッシュするためにはやおいしかないと思い、韓国映画「王の男」を見てきましたよ。
 心に空虚を抱えた王の前に、二人の芸人が呼ばれる。一人はワイルド系のチャンセン兄貴、もう一人は女よりも美しい女形のコンギル。二人が呼ばれたのは王宮内の腐敗した状況を王に悟らせるためという大臣の計らいだったが、王の心の空虚の原因も王に知られてしまう。自暴自棄になった王は正妻を省みなくなり、コンギルにおぼれていく。正妻一派がコンギルを抹殺しようとすると、より王は壊れていき、自分に意見する重臣を片っ端からサツガイしていく。コンギルにすがる王だが、コンギルの心には兄貴がいるので、心まで王になびくわけではない…という作品です。

 まあなんちゅうか暑苦しいくらいの男同士の愛のぶつかり合いが描かれた作品だったので、思わず「なにか」を吹き出しそうになってしまいましたよ。しかも男同士の愛があることが、さもあたりまえのようにさらりと描かれています。いやまあ本当はあたりまえなんでしょうが。そして女は二人の仲を嫉妬する、懐かしくなるほど正統派のお邪魔キャラとして描かれています。まさに「これなんてボブゲ?」「これなんて面妖本?」という作品だったのでした。そしてコンギルはまさに傾国の美女というか美男なんですね。3次元ではありますが、これだけ美しいならまあ心が動くのもありかな、と思えるほどでしたし、なんか男らしいというよりオトメな面が目立ちますし。
 つまりコンギルは重度の性別受なんですね。性別受自身は別に悪い意図を持っているわけではなく、ただ愛に殉じたいだけなんですが、周りがどんどん迷っていって、最後にはカタストロフを迎えます。まさに魔性の受という表現がふさわしいキャラだったのでした。怖いなあ性別受って。

 ただやっぱり気になったのが、国をも傾ける美しさが、「女性的な」ものとして描かれていたことですね。「美しい」という感覚にはどうしても女性性がつきまといます。性別受けがどんどん乙女化し、女の子よりも可愛くなっていくのはなぜかとずっと考えてきたのですが、この映画を見てひとつ分かったのでした。現在の感覚では、「美しく」するなら、女性的にするしかないのですね。それも世界的に共通することとして。性別受というヘンテコなキャラが生まれる心の動きは、ある程度普遍的なものとして存在するのです。それはそれだけジェンダーの枠組みが強いということも示すのですが。我々の世界を規定するジェンダーの網の目はかくも根深いのかと、ちょっとだけ戦慄してしまったのでした。

 それにしても、ナヨっとして優柔不断なコンギルより、何があろうとコンギルを救おうとするチャンセン兄貴の方が私にとってはよっぽど萌えキャラでした。口が悪くて汗臭くて、という韓国映画にはよく出てくるタイプのキャラなんですが、コンギルを救おうとする思いはすごくまっすぐなんですね。これぞ男気という感じで。やべえ惚れそう、兄貴なら抱かれてもいいかも、なんて思いましたね。私も少し大人の階段を昇ったようです。

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2006年11月21日 (火)

ホームラン・拳「ぼくとアクマと魔法のことば」

Homerun_bokuto  日本の闇に潜む妖(あやかし)を退治するために作られた秘密組織、「日本聖奇士団」。主人公の爾史(ちかし)は、兄千波留(ちはる)とともに組織の一員だ。メンバーには必ず使い魔がおり、爾史の使い魔は菊童丸、千波留の使い魔は影童丸。主は使い魔に精気を分け与えなくてはならないが、それは当然身体的な接触…キスをすること。主は契約にもとづいて使い魔を使役できるはずだが、爾史はまだ完全に菊童丸を従わせることはできていない。菊童丸の方も新たな主である爾史を受け入れ切れていない様子。爾史はいいところを見せようと、学園で起こる怪しい事件を一人で解決しようとする。爾史と千波留の活躍を描いたシリーズ2話と、前作『喜鬼』の設定を使った短編1本が収められた作品集。



    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 オーバーニー! オーバーニー
  (  ⊂彡
   |   |
   し ⌒J 

Homerun_bokuto_chikashi  えーと、これはなにかの罠でしょうか? 爾史13歳はお目々くりくりでまん丸メガネですよ? なんか言動がいちいちカワイイですよ? 超ショートの半ズボンの下にあるケツは妙にぷりっとしてますよ? そしてなにより靴下止めつきのオーバーニーソックスを常用してますよ(作品内ではレッグウォーマーっちゅうことになってますが)? 靴下止めなんて鳩山郁子のマンガに出てくるだけかと思ってましたよ。またオーバーニーソックスで超ショートの半ズボンということは、太ももがチラーリとのぞくわけで…これが男版絶対領域ですか? 男絶対領域ってのは初めて見ましたよ!
 …とまあ、かように爾史きゅんはエロカワイイわけです。BLキャラは萌え要素を必ずまとっているわけですが、ここまで過剰に萌え要素をまとったキャラは珍しいでしょう。爾史きゅんはBL界のデ・ジ・キャラットといえるのではないでしょうか。この例えも古いですが。ただでじこがそのあざとさからギャグにならざるのを得ないのに対し、爾史きゅんの場合はキャラ造形がきちんとしているために、凶悪といっても過言ではない破壊力を持っています。特にショタ属性をたんと持っている人には。やばいやばい! とにかく拳先生の「こういうキャラが好きなんだー!」という気持ちは痛いほど伝わってきます。それがまたいいんですよ!

 こう書くとキャラの魅力だけに頼っている作品と思われそうですが、さにあらず。続き物のせいか、きっちりと「ファンタジックな学園もの」という世界が作り込まれ、伏線がちゃんと張られているのですね。菊童丸は前の主人と辛い別れをしていて、それが今後物語に関わってきそうな感じです。また爾史と千波留の母親はなんだかものすごいキャラで、奇士団の重要メンバーのようなんですが、まだ本編には登場していません。きっちりした世界設定があるために、すっとお話の中に入り込むことができるんですね。また小物も実はよーく考えられているところも見逃せません。爾史のオーバーニーソックスは、実は爾史の抱えるトラウマと関係しています。これはそういう伏線だったのか、と思わずヒザを叩いてしまいましたよ。しっかりした世界を構築することができるということは、すなわち作家に力があることを意味します。以前からホームラン・拳先生の力は分かっていたつもりだったのですが、こういう長編ものだと、よりはっきりと力が見えます。改めて舌を巻きます。

 このシリーズは現在も継続中。是非とも何巻かのボリュームで読みたいところです。できればエロカワイイ爾史きゅんをメインにお願いしたいところです!

海王社
2006年11月20日発行
2006年11月15日購入

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2006年11月20日 (月)

ホームラン・拳「迷仔」

Homerun_maigo  直(黒髪・メガネ・ワイルド系)と朋(白髪・キュート系)は幼なじみでいつも一緒に行動している。朋は漠然と、いつまでも二人一緒にいられたらいいのに、と考えている。ところが直が女の子と一緒に歩いているところを見てしまう。聞けば彼女ができたのだという。胸がつぶれるような思いをする朋。ぼーっとするあまり、体育でボールを受けて倒れてしまう。手を伸ばす直に、つい本当の思いが涙と一緒に出てしまう。「お前のことが好きなんだ」と。幼なじみモノ、学園モノ、オヤジ受け魔法モノと多彩な作品を取りそろえた作品集。

Homerun_maigo_diamond ヤ・バ・イ! ヤ・バ・イ! 絵が美麗すぎて死ぬ! 私好みのカワイイ男の子がバリバリ出てくるのでもう脳ミソクラクラ。脳内麻薬出まくりです。ホームラン・拳先生(先生と呼ばせていただきたい!)の受け子ちゃんたちはみんなお目々くりくりの女顔美少年で、女の子より可愛かったりします。加えてオトコノコなもんですから、自分のエロさに気づいていないことになってますので…無意識にエロい表情や姿勢を取りまくるわけです。パンチラしたりするんです。こういうのをエロカワイイっちゅうんですかー!!

 その一方で、お話の方もヒネリが効きまくっているのも忘れてはなりません。美しいけどキチクなお兄さんがふと流す涙の美しさ。攻めの方が頭くるくるで、中学生なのに受け子と結婚しようと言い出す。西洋風魔法使いの弟子が和装書生風おっさん。あり得なさそうな取り合わせなのに、展開が巧みなのでするっと読めてしまい、ガツンと心を動かされてしまいます。テクニックの上手さはただ者ではないものがあります。

 絵の上手さといい展開の巧みさといいマンガ的な上手さといいエロカワイさといい、ポスト星野リリィの最右翼。順調に仕事量が増えれば、同じような経路で活躍することになるでしょう。今のうちに親しんでおかないと、あとで後悔しますよ!
 それにBLはこういう絵が美麗な人がバンバン増えてるので、嬉しくてたまらないですね。まんがのジャンルとして完成してきていることがよく分かります。面白いまんがはBLにいくらでもあるのに、現在BLを手に取るのは一部の女性に限られています。実にもったいない話ではないですか。この作品は、ショタっ気のある男性ならするっと親しめるはず。ていうかショタを自覚する人なら読まなきゃダメです。是非とも男性にも手にとってほしい作品ですね。

海王社
2006年11月15日購入
2006年11月20日発行

迷仔
ホームラン・拳

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2006年11月 7日 (火)

大槻ミゥ「隣に君のぬくもりを」

Ootuki_tonarini  くせっ毛の道弘は、愛犬の公一郎さんが死んでしまったために、学校に行くことができなくなっている。悲しみに沈む中、公一郎さんと同じ髪の色をした青年が現れる。恋しさのあまり、人間の姿になって帰ってきたというのだ。いぶかしく思う道弘だが、公一郎の積極的な愛情表現に、すっかりなじんでいく…。「LYNX」に掲載された作品を中心に集めた初単行本。

 ぶっきらぼうともいえる描線で、かなりざっくりとした印象があります。また受は全員ずいぶんかわいく描かれ、女体化とも思える程です。内面的にもギャル男だったり不思議ちゃんだったりオトメだったりするので、かなり性別受に足を踏み込んでいます。萌え袖装備してたりリボンつけてたりします。いやーなんだかクラクラしてきますね。もちろんこういうのは大好物なんですが。ただ恐ろしいのはこういうオトメ系の男子高校生は確実に存在しているので、リアルとつながってくるところですね。単に性別受と笑っているわけにも行かないリアリティが感じられます。
Ootuki_p151  それに受たちは、妙にエロいのですね。よくよく見てみると口の描き方、唇の描き方が、他の作家と違っていることが分かります。受の唇は、どうしようもなくつややかで、明らかに男を誘っています。このエロさはこれまでのBLとは毛色の違ったものです。女性だけが持つとされていたタイプの色気を、この作品では受が備えているのです。これはかなり画期的なことではないでしょうか?

 お話の方もまっすぐな「思い」が前面に出ていて、安心感があります。ずっと秘めていた思いは必ず報われるのですから。そしてご褒美のエロシーンもバッチリ。以前から注目していた作家なので、初単行本は本当に嬉しいところです。こうした「絵柄によるエロさの越境」を、今後もどんどん拡大していって欲しいものです。

幻冬舎
2006年10月24日発行
2006年11月1日購入

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2006年3月20日 (月)

宮下キツネ「ストップ! ご主人様」

miyashita_stopmaster  岬にはひとつ悩みがあった。両親が死んだあと、姉たちが生活のためにメイド喫茶を始めてしまい、岬もメイドとして働かなくてはならなくなっていたのだ。女の子のように、いや女の子以上にかわいい岬は、じゅうぶんメイドとしてやっていけている。そんななか、岬を目当てにやってくる医学生が現われる。好きだと告げる医学生に対し、岬は胸を触らせ、スカートをまくり上げて、「本当に本当に男の子なんですよー!」と答える。その他ウサミミ少年ネコミミ少年キツネ耳少年メガネ少年女装少年を取りそろえた短編集。

 いやー、ここまでくると見事です。胸がないだけでどう見ても女の子です。本当にどうもありがとうございました。まず顔の描き方がまったく女の子というかいわゆる美少女です。現在の漫画状況において、男の子と女の子の最大の違いは目の描き方にありますが、この作品では明らかに女の子の描き方になっています。作品によっては受けにビミョーにおちちがあったりします。小畑健の影響を受けたと思しき絵柄のかわいさは相当なものなんですが、どうみても女の子な受が、「ボクは男の子だ」と主張しているさまからは、なんだか深刻な問いが発生してきます。「なんなんだ、これ?」という。
 また受の性格も振るっています。上の例ですが、アホかお前、とか思いません? 誘ってるのかそれ? そんなことしたらヤラレても文句は言えぬぞ? その他攻の気を惹くためにセーラー服を着てみたり、普通の人間の受が「ボク猫なんで飼ってくれません?」と攻に問いかけてみたり。えーと、アタマ大丈夫ですかあなた? と、これまた深刻な問いが発生してきます。かように受は性格的にはぜんぜん男の子ではありません。かといって女の子でもないわけでして、ここに描かれているのは、現実には存在しない未知の存在です。これぞまさに性別受、というわけです。

miyashita_stop_neko  で、BLとしてどうかといいますと、これまたBL的要諦をなんも分かっていないと言いますか、基本的にかわいい受けがヤラレて終わりです。エロという点ではバッチリなんですが、BLのキモのひとつである「二人の関係性」については、いかんせん受がくるくるしているので、表には出てきません。むしろ男性向けショタやふたなりに傾向が似ています。なんたってエロ重視ですし、「男の子を女の子より可愛くする」ではなくて、「美少女にちんちんを生やす」という構造になっているのですから。エロのマインド的には、まったく男性向けと同じと言っても過言ではありません。

 ですが私は、この作品をけなすつもりはまったくありません。むしろ非常に興味深い作品だと思っています。なんたってこの作品は売れています。発売わずか2ヶ月で三刷りですから。それに新宿とらのあなでは、この作品は男性向けエロまんがの棚に並べられ、注目作品として表紙を立てて並べられていたのです(2006年1月下旬)。それになんたって私はこの作品をめちゃくちゃ楽しく読んだのです。もうすっかりファンですよ。非常に興味深いと思いませんか? なぜこの作品は、高い支持を得るのでしょうか?

 第一の理由は、とにかく極端だからでしょう。どう見ても女の子なキャラを男の子と言い張る。中身はすっ飛びまくり。この暴走っぷりは、なかなかできることではありません。まあぶっちゃけ厨房くさいのですが、作者には迷いがなく、「これでいいんだ」とやってます。そのスピード感がいいんですね。
 第二の理由は、とにかく絵が上手いからでしょう。小畑健の影響がはっきり感じられます。小畑といえばその絵の魅力で、多くの男性たちを萌やした作家。「ヒカ碁」の終盤では、ヒカルやアキラの色気に男たちもハァハァしていましたしね。そうした流れにある絵なので、男も萌えるわけです。
 そして第三の理由は、実質的にふたなりと変わらないところですね。ふたなりにしては胸とまんこがありませんが、ふたなりの魅力はちんこにあり。ちんこさえついていればふたなりと変わらないのです。また、「こんなにカワイイのにちんこが?」という驚きも与えます。

 とまあ、女性向けとして描かれていながら、男性にも受ける要素を持っています。実質的にまんま男性向けエロ漫画の手法なので、当然なんですが。ただ、「男性向け手法を使ってもBLと言い張ることができる」というのは、大きな変化の現れではないでしょうか。そしてここには、「同じエロ作品を男女がともに楽しむ」という、セクシュアリティの越境が行われてはいないでしょうか。

 まあしょうもない作品なんですが、しょうもないがゆえに、面白い動きになっていると思います。これは要注目ですよ! 皆さん読んで脱力してください!!!!

光彩書房
2005年11月17日発行
2006年1月20日購入(第三刷)

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2006年3月15日 (水)

星野リリィ「おとめ妖怪ざくろ」@BIRZ4月号

birz2006_04  場所は明治時代の日本と思われるところ。時は改元し、暦も西洋式に改まった頃。この世界では、人と妖怪たちが共に生活している。改元とともに、妖怪たちは人間主導になっていく社会に不満を抱き、様々な事件を起こすようになっている。それに備え、人間と妖怪の代表が集まり、「妖人省」が作られた。人間側からは若い陸軍の将校たちが、妖怪側からはオトメたちが選ばれ、顔合わせを行なうことになった。
 西王母桃(ざくろ)は喧嘩独楽では誰にも負けない活発なオトメ(ネコミミ付き)。パートナーとなることになった総角(あげまき)少尉はすごい美形で、ざくろはめちゃくちゃときめいてしまう。しかし総角は実は怖いものが大の苦手で、ネコミミ付きのざくろにもガクブル状態だったのだ。ヘタレきっている総角に幻滅するざくろ。

 うっひょー! リリィ先生初の青年誌(マニア誌?)ですよ? なんか女の子たちめちゃくちゃカワイイですよ? 「ローズンメイドン」目当てでバーズを読んでた男の子たちもメロメロになること間違いなしですよ? 男性たちも美形揃いで「はいからさんが通る」みたいですよ?
 お花やキラキラが乱舞して、ひどく少女まんがみたいなんですが、そこは女性作家ばっかりなバーズ。驚くほど誌面にマッチしているのでした。それに内容もいいんですよ。一見コッテコテの少女まんが的展開になると思いきや、実は美形少尉はヘタレ。ざくろのほうがよっぽど侠気があるのです。この構図は「ローゼン」と共通していますが、やっぱり面白いのでありまして。星野作品の女キャラは、メラミちゃんといいラブたんといい、みんな強い侠気の持ち主ですが、そうした女キャラのしゃきしゃきした感じが、星野作品の重要なカギになっていたことは間違いありません。その面白さは、この作品でも存分に発揮されそうな塩梅です。
 ただまぁひとつ不安でもあり楽しみでもあるのが、「ざくろは実は男の子だった」という展開になるかもしれないってことですね。バーズですしリリィ先生ですしやりかねねーとにらんでいるんですが。まあそれはそれでよし! ビバ性別受!

 で、主人公を女の子と設定した(とりあえずは、ですが)この作品を通じて、星野作品に登場する性別受の性質が見えてきます。
 ひとつは、「性別受はまんま女の子であった」ということです。実際妖怪側のオトメたちは、これまでの星野作品における性別受と、まったく同じ描かれ方をしています。そして星野作品における性別受の中には、「女の子にしか見えない」というキャラが何人も出てきます。「ななさん」とか「ハレムでひとり。」とか。こうしたキャラは、実は全くの女の子だったのですね。設定上男の子となってはいますが、内容的にはこれまでの物語の中で語られてきた女の子像とまったく変わりありません。「実は男の子」ということでキャラクターは強められていますが、それは違和感をもたらすものでもありました。そして性別受たちは、多くはファンタジー世界の中で、攻とのロマンチックな恋愛を繰り広げていきます。ですからこうした性別受たちは、まったくの「女の子」であったといえるでしょう。基本的には男女のロマンスを楽しむ構造になっています。また受は見た目も行動も女の子です。ですが性別だけ男と設定されています。ロマンスを楽しむことと、性別だけ男の子という「裂け目」を楽しむこと。星野作品の魅力のひとつは、この二重性にあったといえるでしょう。
 もうひとつは、性別受は「女の子の侠気」の反照として現われるということです。実は女の子だって、男らしさをたくさん持っているものです。主体的だったり押しが強かったりワガママだったりと。ですが女の子の持つ侠気が前面に出すぎてしまうと、そればかりが鼻につく表現になってしまいがちです。侠気っていうのは強い自己主張ですから、周りが押し切られてしまうのですね。そこでそのバランスを取るために、女の子性を強く付与した性別受を配していると思えるのです。ハーレムきゅんとかダイヤきゅんとかは、まさに個性の強い女キャラのカウンターパートです。そして描写のキモはどこにあるかというと、実はハーレムきゅんやダイヤきゅんとご主人様の関係を描くことにはありません。明らかにメラミちゃんとかラブたんを生き生きと描くために、ハーレムきゅんとダイヤきゅんは描かれているのですね。「女の子」を魅力的に描くために、性別受は「女の子性」を付与されるのです。
 となると、星野作品における性別受は、方法の違いこそあれ、「女の子の魅力」を描き出すために設定されていることが分かります。それは女の子に対する応援歌であり、だからこそ女の子に受けるのだということも分かります。そして女の子どうしの関係も描いているために、百合作品と親和性が高いことも分かります。これは男性にも訴える要素となるでしょう。描写の中心は常に「女の子らしさ」にあるのですから。男の子たちは、成長の過程で「持つべきではない」と教えられている「女の子らしさ」の精髄を星野作品に見て、それに惹かれるのです。
 まあこれ以外にも「花嫁くん」みたいな、成長した男が示す受け受けしさも描けてしまうので、星野先生はすげーのですが。

 これを機会に男の子たちが「スーパーダブル」とか「魔法学園」とか「かわいがってください。」とか読むといいのに! そしてみんなダイヤきゅんとかハーレムきゅんとかネコとかの性別受の魅力にメロメロになってくれればいいのに!

幻冬舎
2006年4月号掲載

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2006年3月 3日 (金)

深瀬紅音「いいなり」

hukase_iinari  古賀嵐、通称コガラシ(京都弁)はカワイイ顔をしているが、振られてばかり。相手のいいなりになるばかりでつまらないというのだ。主体性のある男になるために本屋に立ち寄るが、そこの店員に親切に声をかけられる。最初は怪訝に思うが、いつしかそれが嫌ではなくなっている。つきあうことにした二人だが、コガラシは以前振られた経験を思い出し、極力きっぱり意見を主張しようとがんばる。意地を張っているけれども、いつしか店員のいいなりになって身を任せたくなる誘惑に勝てなくなってくる。同じ学園を舞台とし、さまざまなカップルが繰り広げる恋愛模様を集めた連作集。

 まずは叫んでおきましょう。受がものすごーくカワイイんですよ! カワイイ男の子マンセー! マンセー! マンマンセー!もう絵面からしてたまらないものがあります。もう描線が繊細きわまりないんですよ。また伏せた目や恥ずかしがる描写なんかも一流。ヅキュウウンと来まくりです。

キャラクターの内面描写も多様で魅力的です。意地っ張りだったり、人と距離を置いてしまう性格だったり、過去の暗い経験からちょっとひねた見方をしてみたり。受はみんなちゃんと「男の子」として描かれるのですね。その辺がいかにもな性別受本とは異なっているところです。ところが男の子たちは、ことえっちの時になると、涙うるうるのオトメモードになります。意地を張りながらも涙目なんです!この鮮やかな展開とギャップが、た・ま・り・ま・せ・ん! 

 あとは、細部へのこだわりが非常にきめ細かいところも注目すべきところです。コガラシのやわらかい京都弁、ちょっとした肌のふれあいから感じられる電気のような感覚、はっきりと口に出さない思い、トロンボーンや弓道といった小道具。細部にまで目が行き届いており、それが攻受二人の関係を非常に強めています。そしてエロはかなーりしっかり。うはー萌え死ぬー!

 この人の場合、正確には性別受とはいえないでしょう。えっちのとき以外はちゃんとした男の子なんですから。ですが絵の美しさと、そしてえっちのときのエロい描写は、明らかに性別受と重なってきます。それに男の子とはいえ、キャラクターたちはみな間違いなく心にオトメを飼っています。

 サイトを調べてみたのですが、この人の出自はもともとデジモンとかのショタだったんですね(最近はマイヒメやマイオトメとかにもはまっていらっしゃるようですが)。まさに真っ当な系譜といえるでしょう。女性向けショタは、男の子の「かわいさ」「きれいさ」が強調されるもの。それがこうじて性別受の方向へ向かっていったのでしょう。ですから性別受が出現する背景のひとつはショタであるということがわかってきます。実際の少年が持っている汚さややんちゃさを抜き去ったところに成立する、理想の少年たち。それをよしとし、求める心の動きが、性別受という特殊な存在を作り出していることが見えてくるのではないでしょうか。

 この人の場合は、デジモンというしっかりした下地があるために、キャラクターがちゃんと「男の子」になっています。ですからぶっ飛んだ性別受になることを回避しています。バランス感覚が優れているといえるでしょう。また舞-Himeや舞乙-Himeなど、男性向けジャンルもやっているために、エロ描写が非常にちゃんとしています。その意味でもバランスに優れた作品だといえましょう。男性の目から見ても破壊力抜群。ショタ属性のある人ならなおさらです。今度のJ庭には真っ先に買いに行かないと!

海王社

2005年12月20日発行

2006年2月22日購入

いいなり
いいなり
posted with 簡単リンクくん at 2006. 3. 3
深瀬 紅音
海王社 (2005.12)
通常24時間以内に発送します。

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2006年2月24日 (金)

ホームラン・拳「僕は君の鳥になりたい。」

homerun_bokuha  高校生の炯の家庭は、実母が死に、後妻を迎えている。父親は医者で、家にはあまり寄りつかない。炯は姉とは仲がいいが、深い空虚を抱えている。その空っぽを埋めるために、美術教師と愛のないセックスをしたりしている。しかし炯の前に、姉の恋人である藤井が現われる。藤井のさりげないやさしさに、炯は恋に落ちてしまう。初めて本気で恋した相手が、姉の恋人であることに、炯は悩む。姉の恋路を叶えてあげようと、身を引こうとする炯だが、藤井のことを忘れることはできない。炯と藤井の恋、そして炯のゆっくりとした回復を描いた連作。

homerun_bokuha_kei  炯くん美少年すぎてどう見ても女の子です。本当にありがとうございました。つうか女物の浴衣が似合うっちゅうのはどうよ! 女の子に間違えられてやられちゃいそうになっちゃうってどうよ! …まあそれがいいんですがね。カワイイ子が描かれること自体がイイっていうのと、あまりにありえなさすぎてイイっていう、二つの良さがあるんですが。げへへへへ。とにかく炯きゅんの美しさはそれだけでかなりガツンとくるインパクトがあります。炯きゅんを見ているだけでもニヤニヤハァハァしてしまいます。

 その一方で物語はかなりハードというかシリアスなものです。炯の心の空虚、身を引こうとする炯の決意は痛いほどよく描かれています。好きになった相手が、好きになってはいけない相手だという設定も、お話を盛り上げています。心に茨を抱えた少年が、切ない恋し、その過程で癒されていく、満たされていくというお話なので、かなりグイグイと引き込まれます。語り方の上手さはかなりのものといえましょう。
 客観的に見ると、藤井の炯への思いはもにょるところではあります。炯は女の子よりも可愛いのですから、やおいの前提となるテーゼ「男とか女とか関係ねえ! 俺はお前が好きなんだ!」という黄金律が破れてしまいます。こんなに可愛ければ誰だって、男だってぐらっと来るというものです。ですから炯を特権的に美しくするのはどうかと思うのですね。でもその一方で「好きになった相手は姉の恋人」という枷をかけることなどで、炯くんの超絶的な可愛さを特権化しない工夫がなされています。これはよく考えられていて感心するところです。驚くほど物語はしっかりしているといえるでしょう。

 まあこうしたオトナな工夫がある一方で「女の子より美しい男の子」に激しく萌えており、その萌えが暴走しているのも一目瞭然です。なぜこういうキャラが求められるんでしょうかねぇ。そりゃラブロマンスに出てくる男の子は美しいに超したことはないんですが。「あり得ない存在」という点では、超絶的にかっこいい顎長人と変わらないんですが。この辺については、これから続く「性別受シリーズ」で、ちょっと考えていきたいと思います。

 絵は超絶的に上手いし、独特のツヤがあるし、構図の取り方がうまい。それにお話の展開も非常に上手。姉ちゃんを出してくることによってお話の幅も俄然広がっています。星野リリィの次に大ブレイクするのはまず間違いなくこの人でしょう。もうCDが出ていることからも、すでにブレイクの兆しが見られますが。こういう圧倒的な実力の人に出会うとうきうきしてしまいます。次の即売会には買いに行かないと!!!!!

 また男性視点からもこれはかなりヤバいです。姉ちゃんとかが弟の可愛さに萌えまくっていて、女物の浴衣とか着せたりするのはちと萎えですが、女の子より可愛い男の子ってのにはグラグラ来ます。そんなに可愛くていい子、しかも実はエロい子だったら当然手を出しますが何か? ちゅうかこんな子が「すき…」とか言ってきたら、理性を保てる自信はありません。「これはワナね」と分かっていてもデス。

海王社
2005年8月25日発行
2005年12月30日購入

僕は君の鳥になりたい。
ホームラン・拳
海王社 (2005.8)
通常2-3日以内に発送します。

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2006年1月16日 (月)

内田かおる「それではみなさん。」1

ucchidaka_soredeha

  筋肉はゴリラ! 心は乙女! の内田(か)先生の新作で、大家族ものです。

 赤城家は男ばかりの四人兄弟。両親はいなく、長男の東吾がガテン系のバイトをして一家を支えている。次男の西也は、ガタイはいいが気がめちゃくちゃ弱い長髪メガネ。三男の南樹は、年の割には幼く見える高校生。そして主人公の四男北斗は、朝が弱くてワイルドな高校生。東吾には春太郎という、イタリアンのシェフをやっているパートナーがおり、一家の朝食は春太郎が作っている。

 ある日東吾が過労で倒れてしまい、北斗は見舞いに行く。そこで北斗はガタイのいいおっさんに出会う。そのおっさん秋吉は東吾の同僚。お互い意地っ張りなのでぶつかり合う二人だけれど、実は互いに一目惚れしていた。また、東吾が倒れたために、西也が北斗の担任・冬野と会うことになるが、これまた二人は互いに一目惚れ。急速に惹かれていく。(ゴツイ)男ばかりの兄弟だけれど、それぞれ愛する人を得て、しっかりちゃんと生きていく。

 いやー、親がなくて兄弟だけで生きていくっていうのは、すごく少女まんが的ではないですか。そして兄弟それぞれが恋を見つけていき、自立はしていくけれど、絆は失われず、むしろ強まっていくというのも少女まんが的です。若草物語ですよね。ちょっと構造は違いますが、三原順の「はみだしっ子」とも似ています。構造的には少女まんがの王道を行っているといえるでしょう。
 それにそれぞれの恋がいいんですよね。北斗と秋吉の年の差恋愛。まだ未熟なところがある北斗を、秋吉は料理でもてなしたりして、がっちり抱きとめます。また自分に自信がなくて、次の一歩を踏み出せないでいる西也は、冬野の思いやりによって、自立の道を歩み始めます。一家を支えて倒れてしまう東吾も、実は春太郎がちゃんと支えています。南樹のお話はこの巻では描かれませんが、どうやら同級生との恋愛があるようです。もうみんなすっごくオトメなんですよ! 背筋がモゾモゾしてくるようなういういしさのある、いい感じの恋愛が描かれるのですね。その点で、この作品は非常にしっかりした少女まんがだといえます。

 ですが、ですがですよ。この作品の登場人物は全員男です。しかも全員筋肉系。ヒゲ装備率も高いです。結構な歳のヒゲゴツ男が、顔を真っ赤にしながら、ういういしい恋愛をやっているんです。エプロン姿になったりします。バラ背負ったりします。「好きだ」とか言ったりします。そう、この作品は、高度な少女まんがの構造に、ヒゲゴツ男たちをそのまんま代入しているのですね。特殊といえばあまりに特殊。内田(か)先生の特殊な趣味は、ほとんどギャグの域に到達しています。オマエラオトメ過ぎです! 読んでいて、ニヤニヤが止まらなくなってきます。

 確かに、ヒゲゴツ男がオトメである、という構図は、ついて行けない人もいるでしょう。ですが、これはこれで、実に味わい深く、楽しいものです。のめり込むにつれてどんどん脳内麻薬が分泌され、気持ちよくなってくるのですよ。「こんなオヤジいません」なんて言うのはヤボってものです。それに、恋愛のありさま、心が近づいていくさまが、非常にきっちり描かれているために、読後感もすっきりしています。特殊といえば特殊すぎるんですが、BLとしての構造はかっちりしています。それが、内田先生の人気を支えているのだと思います。

 この作品を男性が読んだなら、変なまんが・特殊漫画として認識されることでしょう。山本弘とか飛び上がって喜ぶでしょうね。ですが、BL作品として、非常にしっかりしており、萌える作品であることを忘れてはなりません。BL作品として、まっとうに評価される必要がある作品だといえましょう。

ビブロス
2005年12月10日発行
2005年12月20日購入

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