つげ雨夜「ご主人様に気をつけて」
津田は双子の姉が骨折してしまったため、姉の代わりにメイド喫茶で働くことを求められる。同じ顔なんだから問題ないという姉に強引におされて働くことになるが、知ってる奴に会うかもしれないと気が気じゃない。ところが早速同じ学校の連中がやって来る。向こうは津田のことを分からない様子だが、ひとり頬を染める男がいた。同じクラスだが、全然つきあいのない要だ。学校で津田と要は図書委員の仕事を一緒にするようになる。要はメイド姿の津田に明らかに惚れているが、好きなメイドが津田だとは分かっていない。メイド姿の津田に告って玉砕する要だが、要のことを理解してきた津田の心境は複雑だ。要が好きなのはメイド姿の自分。本当の男としての自分は眼中にないのかと。「GUSH」「Chips!」に掲載された作品を集めた短編集。
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かわいい男の子が女装してメイド姿になって男に惚れられる…というスジは、宮下キツネの「ストップ! ご主人様」と一緒ですね。主人公の男の子は超・女顔で、服を着るだけでもう女の子と見分けがつかないという点、声とか骨格とかでばれることは一切なしという点も一緒です。つげ雨夜の絵はカワイイ系ですし(この頃は)、男でも線が細くすらっとしているので、女装しても違和感がないのですね。漫画ですから見た目による性別越境は非常に容易です。いやー、漫画って本当にいいものです。
で、BL的にどうかといいますと、これが実にちゃんとしてるんですわ。男の姿の時にちゃんとフラグが立っていきますし、「男でもいいの?」という迷いもちゃんと描かれます。まあ一歩引いてみれば荒唐無稽であることには変わりないのですが、BL世界・ときめき世界に引き込むお膳立てはしっかり整っているので、甘くドキドキするラブにどっぷり浸かることができます。…同じお話なんですが、宮下キツネとはものすごーく違う作品になっています。興味深いですなあ。
この作品集には、もう一つ興味深い作品が収められています。「ファミリー・ポップ」という連作です。
大学生の実は、突然姪の苺花(まいか・3歳)を預かることになる。子育て経験がなく戸惑う実の前に、クラスメイトの小椋が現れる。歳の離れた兄弟がいる小椋は、子育てなら平気だというのだ。見た目が派手な小椋は目立つ存在で、実にとっては少しまぶしい存在だった。そんな小椋は実の家に泊まり、苺花の面倒を見ることになる。どこかぎくしゃくした三人での生活が始まるが、小椋は実を押し倒してキスする。以前から小椋は実を狙っていたのだ。それを見てしまった苺花はものすごく機嫌が悪くなる。
いやあ、この苺花ちゃんがいいんですわ。実とお風呂に入るのは嫌がるくせに、小椋とは平気でお風呂に入ります。実を前にすると妙にもじもじします。そう、苺花ちゃんは実を男の人として意識していて、実のことが好きなんですね。そして実をめぐる三角関係になります。小椋に向かって「みのるくんにベタベタしないでっ!」と言ったりします。かわええのう…。
女性が絡む三角関係BLは、女性が当て馬になったり邪魔者になったりして、どうにも切ないことになってしまいがちですが、そこに幼女を当てはめると、実にいい感じになるのですね。幼女の気持ちは「幼いんだから」ということで、かなわなくても深刻にはなりません。また幼女の行動はあどけなくてかーわいいので、角が立つこともありません。結局実は小椋に取られちゃうので、苺花ちゃんの思いはかなわず、かわいそうではあるのですが。子どもを登場させることによって、登場人物の関係は立体的になり、物語にも深みが出るのです。子どもが絡むBLにハズレなし、というのは経験的に分かってはいたのですが、改めてそう思いましたね。そしてそれを上手く描くことができるつげ雨夜という作家の力も、はっきりと思い知ったのでした。…それでも女の子が割を食ってるんですけどね。
ともあれ、次の作品も追いかけていこうと思っています。絵柄も目が横長の三白眼気味になり、他の人とは違った魅力を持つようになってきましたしね。次の作品が楽しみです。
海王社
2007年6月20日発行
2008年1月20日購入
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