2008年3月18日 (火)

つげ雨夜「君を渡れば」

 伊吹は、大正時代から建つというものすごく古い下宿に住むことになった。ある夜、妙に長い地震があった後、部屋に大正時代の書生風の服を着た若者が現れる。その若者は伊吹を明直と呼び、なぜ自分の部屋にいるのかと尋ねるが、話は要領を得ない。その青年、義護(よしもり)は、大正時代からタイムスリップしてきたのだ。管理人によると、この建物ではよくあることらしい。伊吹は義護を風呂に入れるが、操作を教えているうちに押し倒されてしまう。事情を聞くと、伊吹は義護の思い人、明直によく似ているのだという。そして昭直は伊吹の祖父であった。過去からの来訪者との共同生活を始める伊吹だが、いつか必ず義護が、もとの時代に帰ってしまうことを知ってしまう。著者三冊目の単行本。

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君を渡れば (あすかコミックスCL-DX)
君を渡れば (あすかコミックスCL-DX) つげ 雨夜

角川書店  2007-05-01
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 「GUSH」に載っていた作品を読んで、一気に好きになった作家です。以前の作品はロリショタっぽい絵柄で目が大きいんですが、最近の絵は目が横長になって、三白眼っぽくなってます。この三白眼っぽい絵がいいんですよ。以前の絵は目が大きくて表情に欠けるんですが、新しい絵だと表情にかなり細かな変化が出るんですね。
 で、この作品なんですが、義護というキャラがいいんですよ。まあ人物のしぐさや口調、服装などの歴史考証は完璧というわけではありません。ですが義護はいろんな意味で古風な「男」なんですね。未来に来てしまった自分の状況を冷静に判断して、最適な解を見つけようとします。義理堅く、一度した約束は守ろうと努めます。ひとりの自立した人間であろうとします。そして基本的に無口で、秘めた思いをギリギリまで隠そうとします。男としてオトナであろうとしているので、今の男とは異質な魅力を持っているんですね。そのため伊吹はころっと義護にホレてしまうことになります。ですが義護はあくまでストレンジャーで、避けることのできない別れが待っています。ドラマの展開も一ひねりしてあって、巧みさを感じます。

 短編も載ってるんですが、やっぱり2話か3話分、60~100ページくらいの中編が似合う作家のようですね。キャラの関係や物語をキッチリ描き込むタイプのようですから。こうした描写を重ねることで、どーんと大きなヒット作を飛ばすんじゃないかな、なんて思っています。絵柄もこの人独自のものに変わってきていますし。そこでちょっと注目していこうかな、と思っています。

角川書店
2007年5月1日発行
2008年2月15日購入

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2008年2月16日 (土)

ユキムラ「まるで初めての恋みたいに」

 河野は金庫のセールスマンだが、極度の上がり症で、クビ寸前になっている。訪れた設計事務所で、所長の伊藤に異様に親切にされる。伊藤は河野に一目惚れしていたのだ。恋人兼事務係として伊藤の事務所に転職する河野。しかし河野はこのまま世話になりっぱなしではいけないと思い、再び転職を考える。そんなとき河野の前に現れたのが、伊藤のかつての同級生であり、重要なクライアントの藤堂だった。迷っているならうちに来るよう誘われ、河野は迷う。「CIEL」に掲載された作品を集めたもので、著者10冊目の作品集。

まるで初めての恋みたいに (あすかコミックスCL-DX)
まるで初めての恋みたいに (あすかコミックスCL-DX) ユキムラ

角川書店  2008-02-01
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 うーん、全体的に惜しい! ここぞというところで終わっちゃうんですよね。あらすじで挙げた表題作は、藤堂が河野をこれから追い込む、というところで伊藤が現れて終わりになります。もっとネチネチやってほしかったんですがねえ。
 仕事で一緒になった無口なカメラマンは、かつて妹の彼氏として現れた男だったという「吐息を消して、雨音で」も、すんごく惜しいんですよね。カメラマンの小山田が無口なのは、当然仕事相手の高野が昔から好きだったからです。妹の彼氏になったのも、もちろん高野に会いたいからです。まあここまではよくある話なんですが、ここで妹が重要な役割を果たします。実は妹もマジで兄のことが好きで、叶わない思いを抱えるものどうし、一緒にいることにしたというんですね。ななななにそのおいしい設定! そこをつっこんで描いたら、もんのすごい、誰をもうならせるような名作になる可能性があるのに! 妹と小山田が砂を噛むようなセックスとかしてたら、もう何杯でもおかわりできるのに! 残念ながら妹はちらっとしか出てこず、いまは結婚して子供もいるという設定です。妹の思いをスルーするとは、やっぱり惜しい! BL誌に掲載された作品なので、BLの枠を遵守しすぎてる感じと、全体的に尺が足りず、詰め込んだ印象があるんですね。これは雑誌と編集の責任のように思えます。確かにBLとしてはそこそこできあがってはいるのですが、雑誌側がBLであることにこだわるあまり、作家の伸び代が失われているように思えるのです。のびのびやらせるだけのゆとりがあればよかったんでしょうがねえ。

 ただ、最後に載ってる「すべてをあなたに。」は素晴らしいですね。上司一人と部下一人だけのセクション。上司は口が悪く、いつも部下を叱っている。でも部下は、その叱責が実は自分を育てるための愛の鞭だと知っています。上司はずっと阻止してきたのですが、とうとう部下の転属が決まる、という作品です。この上司、べらんめえ口調なのは優しさと気遣いの裏返し、照れなんです。そして部下は叱ってもらわないともう満足できない体になっています。あーもう君ら結婚しちゃいなよ、という作品なんですが、秘めた思いを告げるまでの過程がもどかしくて盛り上がるんですね。それに上司はヒゲですし! 明らかにボーイという枠をはみ出しているために、この作品はインパクトを持っているのだと思います。

 7年目、10冊目の単行本で、中堅からベテランの域に達している作家です。次は存分に萌えを吐き出した、ボリュームのある作品を期待したいところです。

角川書店
2008年2月1日発行
2008年2月5日購入

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2008年2月 7日 (木)

まさお三月「身勝手なあなた」

 夏目先輩はいつも男をとっかえひっかえしているが、相手がいないときはふらりと辰雄の家を訪れ、セックスをせがむ。辰雄はそんな先輩のために、好きでもない手料理を作り、ずっと待っている。辰雄を頼る夏目先輩だが、辰雄の思いは通じていない様子だ。体はつながっているのに、心はつながっていないことに、辰雄は苦しむ。「マガビー」などに掲載された作品を集めた著者の初単行本。

身勝手なあなた (ビーボーイコミックス)Photo 身勝手なあなた (ビーボーイコミックス)
まさお 三月

リブレ出版  2008-01-10
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 「男だから」ということに常に自覚的なところがいいですね。たとえば「甘くない」のふたり。二人は相思相愛で幸せなんですが、受けの三昭は異様に周囲にばれることを嫌がります。「人前でベタベタしていたらふたりがデキてることがバレるだろ!」と。男性が普通にやる程度のボディタッチにさえも、かたくなな姿勢を崩しません。また父親の「再婚」相手が男だったという少年の視点から描いた、「幸せな人たち」という短編もあります。文昭少年(メガネっ子)は、父はなぜ男を選んだのだろうと思い悩みます。男同士に偏見はないつもりですが、それでも釈然としません。この迷いや苦しみが、説得力あるドラマを生むんですね。そしてそれは特に男性にとって説得力を持つものになります。なんたってそうした戸惑いは、男性こそがリアルに、生々しく感じるものなのですから。
 そして悩みや苦しみを描くのですが、最終的にハッピーエンドになっていくのがいいんですね。確かにハッピーエンドはBLのお約束です。ですがこの作品では、登場人物たちが努力して、周囲と折り合いをつけながら、なんとか幸せにこぎ着けます。飛躍したりファンタジーに逃げるのではなく、実際にありそうな解決を目指すのです。ブレイクスルーのカギになるのが愛のあるエロエロのセックスです。セックスで二人の絆を確かめて、状況に対して向かい合っていくのです。これは二重に来ますね。二人で協力して苦難を乗り越えようとするわけですし、なによりエロいことをして絆を深めていくんですから! いやいや、「BLの物語のちから」という帯の文句に偽りはないなあ、と思ったのでした。

 絵が非常に美麗なところも見逃せません。ホームラン・拳と、山本小鉄子に近い系統の絵なんですが、等身が高く顎長人ぎみで、アダルトな雰囲気があります。あと力を抜いて描いた絵もいいんですね。

2

 それにメガネ率の高さ!メガネキャラが出てこない作品は1本しかありませんよ。それにショタメガネもいいんですよ。文昭きゅん13歳の愛くるしさときたら!

1

 まあちょっと考えすぎのところはあるように思います。「のだだがBL読んだ。」さんでも指摘されているように、男同士の関係性に過剰反応しているところがあるかな、と思えるのですね。男どうしの関係を意識すればするほど、男どうしの関係が「特別な」「普通じゃない」関係に見えてくるのですから。ただそれは「ちゃんと男と男のラブを描こう」「現実に即して描こう」とする努力の結果だと思います。初単行本とは思えない完成度の高さ。こういう作家をきちんと発掘してこれるところに、リブレの底力があるのでしょう。

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腐女子の*MEMO to memoさん
BLな毎日さん
ムスカリアさん

リブレ出版
2008年1月10日発行
2008年1月10日購入

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2007年9月 7日 (金)

天城れの「獣耳商事」

獣耳商事 (Dariaコミックス) 獣耳商事 (Dariaコミックス)
天城 れの

フロンティアワークス  2007-08-22
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 獣耳商事(けもみみしょうじ)は、人間に役立つ愛玩動物を人化させ、依頼主に派遣する企業。依頼主はペットとして社員を扱えばよい。そして依頼主は必要ならば、社員を身請けして永久就職させることもできる。
 傾きかけた典男のデザイン会社にやってきたのは、長身でスーツが似合うウサギ、稲葉だった。人当たりの良さと高い能力で、稲葉はすぐに会社の人気者になり、会社の成績も上がる。自分は必要とされていないと思い、典男はみじめな思いをする。稲葉を置いてひとり出張に行ってしまう典男。ところがウサギは寂しがりや。残された稲葉はシオシオになってしまう。神社の巫女(でも当然男)とセックスするとどんな恋でもかなう! という設定の「コイミコ」も収録された短編集。

 お話そのものは実に真っ当なお仕事ものBLです。すねちゃった典男と稲葉の距離は一時的に離れてしまいます。ですがその距離が、二人の切り離せない思いをはっきりさせます。「やっぱりお前と離れることはできない」と。結局典男と稲葉は無事結ばれて、めでたしめでたしとなります。うんうん、いい話です。それからネコミミやウサミミのキャラが出てきて、主人公と恋愛関係になるっていうのもよくある話です。この作品でもカワイイネコミミキャラや犬耳キャラやウサミミキャラが出てきます。そしてそれが上手く物語に絡んできます。
 とまあ、お仕事ものとしてみても、ケモ耳ものとしてみても、実に真っ当な作品になっているといえるでしょう。ですがケモ耳キャラがお仕事をするようになると…しかもスーツをバッチリ着こなしてとなると…とたんにヘンテコな雰囲気がかもし出されるのです。すっごい優秀なリーマンなのにウサミミです。最高の執事なのに犬耳です。お話が真っ当なのでごまかされてしまいそうになりますが、ちょっと待ってください。異様な存在がそこに紛れているではないですか。ウサミミが! ネコミミが! 犬耳が! だんだん変な気分になってくるんですよ。自分の常識は大丈夫だろうかって。

 天城れのといえば、変な要素を無理矢理つなぎ合わせたBLを得意としてきました。そして見るからにオバカな展開を得意としてきました。この作品はそうした直球勝負のオバカっぷりは影を潜めています。ですがバカさは健在で、ジワジワくるオバカさへと変化しています。やっぱり天城れのは天城れのだな、と安心したのでした。

 そしてこの「ジワジワっぷり」は、お話作りに大きく拠っていることを忘れてはなりません。お話がちゃんとしたラブストーリーになっているので、ウサミミ、ネコミミが見えにくくなっているのです。なので今後は、バカ要素を一切抜いた作品で勝負しても面白んじゃないかな、と思いますね。

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霖雨の彼方さん
BL STUDYさん

フロンティアワークス
2007年8月20日発行
2007年8月26日購入

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2007年9月 6日 (木)

鈴木ツタ「この世異聞 其の弐」

この世異聞 其ノ2 (2) (ビーボーイコミックス) この世異聞 其ノ2 (2) (ビーボーイコミックス)
鈴木 ツタ

リブレ出版  2007-08-10
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 「この世異聞」の第2巻。セツがなぜ昭雄の家を守るようになったかが描かれる。時は江戸時代頃か。結構いい歳のおっさん・小太は、割れた器を直す不思議な力を持っている。その力のために金持ちから狙われる小太。それを守るために現れたのは、小太の昔なじみの森羅だった。森羅になつく小太のもらわれっ子の小次と、小太の実の娘の壱加。壱加は森羅に恋心を抱くようになる。ところが小太と壱加はとばっちりで祟られ、死の淵に面する。森羅は行動を共にしてきたあやかし・万象と合体して、小太とその一族を守ろうとする。

 まあセツは犬神みたいな不思議な存在でしたし、1巻で伏線が張られていたので、セツの過去は語られなければならなかったんでしょう。ただちょっとビミョー…。現代編が面白いので、それに比べちゃうと蛇足感が漂うのですね。なんたって現代編のキャラの立ちっぷりは相当なものがありますから。
 ただ過去編でもキャラが工夫されているのが良いですね。小太はいい歳のおじちゃんなのに中身はお子ちゃまのお馬鹿ちゃんですし、森羅に恋する小次の姉ちゃん・壱加は綺麗な、濃いに悩む存在として描かれてますしね。

 現代編に戻ってくると、1巻の魅力は戻ってきます。昭雄はイヤダイヤダと言いながら、実はセツのフェロモンと肉体に抗えなくなってきます。最終的には「とっくにお前のだよバカ」とか言ってます。うひょー、いいデレ! それに対してセツもケモノの本性を丸出しにして、がっちゅんがっちゅん昭雄をむさぼっちゃいます。ちんこがわんこ化してしまって抜けなくなるという描写もあります。うひょー!
 この作品はバイプレイヤーの存在感があるので、他のキャラの出番が少なくなるとちょっと魅力が減少してしまいます。特にエピキュリアンの所長ですよ! カワイイオヤジですよ! 物足りないのは所長の出番が少ないからなんですね。ただセツの過去はもう出てきたので、次の巻で所長と鳩木のロマンスとか描いてくれるんじゃないかと期待しています。

 後はお酒に対する愛があるのもいいですね。久保田の得月とか出てきますから、嬉しくなっちゃいます。純米大吟醸ですよ! こういううんちく語りはやりすぎちゃうと興ざめなんですが、上手く使うと作品の印象をぐっと強めることができます。トジツキハジメの鉄道ものなんかもそうでしたしね。今後もうまーくお酒ネタを使って欲しいものだと思います。

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BL偏食日記さん
こんな本よみましたさん
にゃんこのBL徒然日記さん

リブレ出版
2007年8月10日発行
2007年8月12日購入

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2007年7月 6日 (金)

トジツキハジメ「初恋の病」

初恋の病 初恋の病
トジツキ ハジメ

フロンティアワークス  2007-06-22
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 大阪・札幌間を結ぶ豪華特急のボーイ、曽於は、気障な男・手代木から「君は僕の運命の相手だ」と迫られる。最初はとまどう曽於。曽於は重度の鉄オタなのだが、手代木もまた非常に高度な鉄道知識を持っており、次第に意気投合していく。関係が近づいていくなかで、どうやら手代木は誰かに追われているらしいことがわかる。ミステリアスな雰囲気の中で、曽於は気障な台詞に強くときめいてしまう。札幌に到着するや否や、連れ去られてしまう手代木。実は手代木は人気ミステリ作家だったのだ。「Daria」に掲載された作品を集めた短編集。

 ホントに「短編集」という言葉がふさわしい本ですね。なんたって収録されている作品、全部モチーフが異なりますから。

「初恋の病」…事故によって幽霊が見えるようになった男の前に、初恋の男の幽霊が現れる。
「列車で始まるミステリー」…上のあらすじ参照。
「きつねつき」…狐を使い魔として使役する一族の若者と、老いた狐が不思議な事件に挑む。
「木草弥生月譚」…音楽学校の偏屈なバイオリニストは、主人公のピアノにだけ合わせて弾く。ある日主人公はバイオリニストの実家に招かれる。
「幸せな人」…かつて主人公に子犬のようにまとわりついていた小宮は、ある日突然消えてしまった。忘れようにも忘れられないでいたが、これまた突然小宮は帰ってくる。
「絶句」…文芸誌の編集二人は、戯れに五七五で自分の思いを伝え合う。
 とまあ、伝奇ものありハイブロウものありショタものありオタものありと、本当に幅広い題材を扱ってます。それにそれぞれにきちんと萌えどころが設定されているのですね。トジツキハジメの引き出しの多さは異常、とつぶやきたくなってしまいます。
 一方エロの薄さはこれまた異常といえるほどです。なんたってチューすらほとんどありません。ですがキュンキュンする度合いはこれまた異常レベル。BLのキモの一つは男二人が互いの気持ちを確認するシーケンスにあるわけですが、そこに重点を置いてきっちり描いているのですね。ですから「やられたっ!」と思うほど萌えさせられてしまうわけです。

Photo_33  私の一番のお気に入りは、ロリショタの男の子が登場する「幸せな人」でしょうか。この小宮がかわいいんですよ。ちっちゃいし、屈託なく「すき」とか言っちゃいますし、スキンシップ好きですし。子犬系の男の子は世界遺産に認定すべきではないでしょうか? 一方小宮の不在に寂しさを覚える大阪谷は、ぶっといセルフレームの眼鏡をかけてます。ロリショタ対メガネですか? それなんて怪獣大決戦? って感じです。そして実は小宮の方が甲斐性があるというどんでん返し。構成の巧みさにもうならせられます。あとは江戸的な粋さが感じられる「絶句」もたまりませんなあ。

 順調に仕事量も増えて、活躍の場を広げているトジツキハジメ。その魅力は引き出しの多さと、作品をきちっとまとめる構成力の高さにあったのだな、ということがはっきりわかる作品集ですね。イヤホント、まんがとしてもとてもレベルが高いので、嬉しくなっちゃう本ですよ、これ。

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詞の音さん
ゲイ&腐男子のBL読書ブログさん
余白からさん
こんな本よみましたさん

フロンティアワークス
2007年6月20日発行
2007年6月24日購入

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2007年6月16日 (土)

町屋はとこ「またあした」

またあした またあした
町屋 はとこ

リブレ出版  2006-11-10
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 木下はサラリーマン。仕事中倉庫の荷物が崩れてくるが、それを救ったのは運送業者の間中だった。足を怪我してしまった間中に、木下はお礼を言いたいと思っているが、チャンスをつかむことができず電話を待ち続ける。待ちに待っていた間中の電話に飛びついた木下は、怪我をサポートするということで、間中の家に上がり込む。間中にごちそうしてもらった木下は、「明日は俺が作る」と宣言する。対して間中は、「また明日一緒に作りましょう」と提案する。「ビーボーイゴールド」などに掲載された作品を集めた、筆者初の単行本。

 いやー、しっかり「男」を描いているのがいいんですね。顔は少々顎長人ですが、筋肉の付き方や姿勢の取り方が非常に自然なんですよ。表紙からして「これは…」と思わせる魅力があります。これはきちんと教育を受けているか、あるいは男性の肉体を相当観察していると見ましたよ。男性の描き方に嘘がない(漫画的な、BL的な誇張がなされていない)ということは、それだけである種の迫力を持ってきます。
Photo_30  もう一つ注目すべきは受のオトメっぷりですね。木下は間中への思いに気付くと、だんだんとオトメ化していきます。ついには「孔に入れて」とか言いだしてしまいます。そんな男いるかー! と叫びたくなってしまう人もいるかもしれませんが、そこはちゃーんと納得できるように描かれています。なんたって間中はしっかりした考えを持った社会人で、ガッチリした肉体を持ち、積極的に仕事をやってバリバリ稼いでいます。「男」として強い魅力を持っていて、高い甲斐性を持っているのですね。間中はすっげー「いい男」なんです。こういうキャラは人気の作品にも出てきますね。そう、「ハチクロ」のローマイヤ先輩です。ローマイヤ先輩に男連中がみんなキュンとしたのと同じく、間中は男から見ても魅力的な存在に映ります。This Charming Manって奴っすか? 木下が惚れてしまって、「掘って」と言い出すのも分かるというものです。しかもガマンできなくなるとケモノのように襲ったりしますし。きゃー!

 しかも肉体描写がリアルなように、セックスの描写もリアルなんですね。カチカチになったペニスを挿入するときの描写の生々しさ! 身体を重ねる時の構図の正確さ! これは男性向けからの影響なのかもしれませんが、相当なエロさを持っています。

 残念ながらそのリアリズムとオトメっぷりの同居が、ちぐはぐに見える感があります。皆さんの感想を見ると、セックス描写と肉体描写が妙にリアルで気になったというものがちらほらありますね。なのでそのあたりは改善の余地があるといえましょう。しかしオトメっぷりもある種のリアリズムに基づいていることは確か。そして「男にとっても魅力的な男」を描いていることは、非常に重要なことではないかと思います。次回作も非常に期待大です。

リブレ出版
2006年11月10日発行

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2007年4月 6日 (金)

Duo Brand.「仄かな恋の断片を」

仄かな恋の断片を (花音コミックス)仄かな恋の断片を (花音コミックス)
DUO BRAND

芳文社 2006-05-29
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 神父の瑛(えい)は、昼休みごとに遊びに来る遙晶(はるあき)のことが気になっている。男ばかりの職場で、遙晶は非常に無防備なのだ。ボタンを掛け違えて胸がのぞいたりしている。襲われるかもしれませんよ、と忠告する瑛だが、遙晶は何のことだか分からない。天然のフェロモンをまき散らす遙晶は、とうとう上司に無理矢理犯されてしまう。泣きながら瑛のもとに来る遙晶。「あんなヤツよりお前の方がずっといいんだっ…!」。妖魔を祓う4振りの御神刀の精と、その周りの人々の思いのぶつかり合いを描いたシリーズもの。

 いやー、耽美です。なんたって描き込みがすごいんですね。笠井あゆみ先生に通じる、空間を埋めていく線はそれだけで魅力があります。私はこういうタイプの、空間をみっちり埋めていくタイプの絵はそんなに得意じゃないのですが、強い魅力を持っているのは分かります。それにメガネ。全体的に描き込みが美麗なんでメガネが目立たなくなってしまっているのですが、それでもメガネを描きます。御神刀の精は全員メガネですし、遙晶もメガネです。こりゃなかなか良い傾向といえましょう。加えてすべてのお話がひとつの世界に属しているのも、広がりが感じられて良いですね。構成の上手さというか、お話作りの上手さを感じます。

 まあ私は、あんまり伝奇ものにはこころ動かされないタイプなので、御神刀が妖魔と闘って、御神刀どうしが恋愛をして…というお話にはあんまり興味がありません。ところが最初にあらすじを挙げた作品「あやうげな朧月」には、すごくヅキュンと来るものを感じたのでした。遙晶はとにかく天然にエロいです。可愛い顔をしてますし、濡れて乳首が透けたりします。でも自分では、自分がエロい存在であることが分かっていません。上司から「誘ってるのか」ともろに言われたりしますが、それがなにを意味しているのか理解できません。分かっててじらしているのではなく、本当に自分が同性の性的対象になっていることが分からないのですね。そんなもんですから強姦されちゃって、えぐえぐ泣きついてしまいます。これはいいですね! シチュエーションとして萌えるだけでなく、現在の男性が置かれている性的状況をも描き出していますから。
 ホモソーシャルな世の中では、男は男に性的欲望を抱いちゃいけないとされています。ですから男性は、同性が自分に性的欲望を抱いているとは考えないものです。ところが実際は結構な割合で同性にハァハァする人がいるわけでして、あるいはそれまでノンケでしたが、なんかのきっかけで同性にハァハァするようになる人もいるわけでして、そんなに「安全」でいられるわけじゃないんです。男性が男性を強姦することは、十分に考えられることなんです。その「容赦なさ」を描き出しているところがいいんですよ。グッと来るんですよ。そしてその後は「消毒」です。ちゃーんとBLになってるところもポイント高いですよ!

 いやー、普段触れないようなジャンルにも、ちゃんとズドギュッと来る萌えはあるものですね。当たり前のことですが。食わず嫌いはよくないことだなぁと思いましたよ。そんなこともあろうかと、新田祐克先生の「春を抱いていた」を借りてきた(5巻まで)ので、ちと読み込んでみたいと思いますよ!!!

芳文社
2006年6月15日発行
2007年3月20日購入

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2007年3月14日 (水)

天城れの「役立て!青春。」

役立て!青春。 役立て!青春。
天城 れの

ビブロス  2004-01-10
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 お掃除屋の古森は最近仕事が楽しくて仕方がない。それは以前からファンだった小説家・灰田の家の掃除を任されるようになってきたからだ。時折見せる灰田の素の表情にときめく古森。ある日古森は書きかけの原稿を見てしまう。それは濃厚なホモ小説だった。驚く古森だが、灰田の気持ちに気づき、雨の中マンションへと向かう。表題作の「役立て!青春。」のほか、ショタリーマンと部長の関係を描いた「桜色☆かたおもい」などを収録した、天城れのの初単行本。

 ビブロス倒産のあおりを食らって、1冊だけ入手できなかった天城れのの単行本。あちこちのブックオフを回って、ようやく手に入れましたよ。
 なんといっても驚かされるのは絵の完成度の高さ。初単行本ということもあってか、絵に気合いが入りまくりなんですね。天城れのの魅力は絵にあり、ということが改めて確認されます。天城れのの絵は、男性から見れば特殊な、いわゆるBL絵というか、顎長人系の絵になっています。ですが女性、特にBL経験値の高い女性からすれば、こうした絵はお手の物です。加えて独特の勢いというか華があります。そのためあまたのBL作家のなかでも、とりわけ目を惹くのですね。
 加えて注目すべきは、物語のBLとしての完成度が高いことです。パターンといえばパターンなのですが、近づいたり離れたりする男たちの気持ちが、実に微妙に描かれるのですね。例えば灰田がホモ小説の原稿を置いておくのは、これはわざとな訳です。古森が自分に好意を抱いていることを知っていて、遠回しに自分の気持ちを伝えているか、あるいは古森の背中を押そうとしているのですね。そして古森はその行為にショックを受けますが、結局は灰田の気持ちに気づいていきます。この「押し」と「引き」のバランス! 最初から天城れのは非常にお話作りが上手だったということが分かります。

 あとは少年の描き方のうまさや、よく見ると変な要素がこっそり含まれていることが目立ちますね。なんたってショタリーマンですから! 大手ビブロスということもあって、かなり「まっとうな」BL作品になっていますが、実は現在につながる要素は最初からほの見えていたわけです。優れた作家は最初から優れているんだなぁ、ということが、しみじみ感じられる作品だったのでした。

ビブロス
2004年1月10日発行
2007年3月12日購入

役立て!青春。
天城 れの

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2007年2月25日 (日)

天城れの「男恋」

Photo_4  鉄男は番空高校に入学したてのカワイイ系の一年生。無難に高校生活を送ろうと思っていたが、入学早々コワモテの男に「俺とつきあえ」と迫られる。あまりの迫力に流される鉄男だが、男は番空高校で知らぬものとてない、泣く子も黙る応援団長の竜司だったのだ。鉄男は地獄のシゴキを覚悟する。しかし竜司は鉄男と一緒に帰ろうとして、おそるおそる手をつなごうとしてくる。「つきあえ」と言ったのは、「交際してくれ」という意味だったのだ。漢力では誰にも負けないが恋愛には不器用な竜司と、鉄男の恋愛の行方はどっちだ? このほか応援団のメンバーであるクール系双子の恋、途中参加のツンデレ忍者の恋を描いた連作。

P29  キタキタキター! BLの枠組みを維持しながらヘンテコな要素をさりげなく取り入れてきた天城れの。とうとうヘンテコな要素の方を前面に出してきましたよ。なんたってこのキレイキレイした絵柄で応援団ですから! バンカラ漢と言えば「学ランなんて洗ったことねえ」みたいな「身なりにかまわない」印象がありますが、この作品の男たちにはものすごい清潔感があります。なんたってBLですから! そして応援団のメンバーは皆「男の中の男」を目指しますが、なんだかピュアな片思いや恋の駆け引きをやったりします。なんたってBLですから! そしてそもそも現代には死滅した応援団という存在を、さも当たり前のようにさらっと描いています。なんたってBLですから! いやーBLってすごいです。BLの枠組みにさえちゃんと従っていれば、取りあげる題材はなんだっていいんですから。
 この作品は、冷静に考えればブキミな領域に達していると言えるかもしれません。そもそもこの世の中で応援団を描こうとすること自体「大丈夫?頭?」と問いたくなってしまいます。そして絵柄はバンカラとは正反対の宇宙に属しているかのようなキレイさですし、繰り広げられるのは男どうしの甘い恋愛です。これまで私たちの文化に蓄積されてきた「バンカラ」のイメージや「応援団」のイメージとは、何一つ合致しないのです。正直最初に見た人はとまどうでしょう。「バンカラですよー硬派ですよー」と言葉では書いてあるのですが、絵柄や展開はそれとは全く違う方向に向かっていくのですから。ブキミというよりシュールかもしれませんね。シニフィアンとシニフィエがめちゃめちゃ乖離していると言うんでしょうか、描こうとする内容とアイコンがかけ離れきっているのですから。ですからこの作品はすさまじい破壊力を持ちます。「なんじゃこりゃ!」という強いインパクトを持っているのですね。いやー、BLの魅力はとんでもない作品にありということは分かり切っていたのですが、ここにまたとんでもない金字塔が現れたのでした。と学会の人とかは早急に読まなきゃダメですよ、この本。

 BLとして見たときにもしっかりした構造を持っていることを忘れてはなりません。鉄男と竜司は障害を乗り越えてラブラブになりますし、他のカポーも同様です。ですがこの作品はやはり「BLの多様さ」「作品ジャンルとしてのBLのポテンシャル」を示すいい例として読むのが適切ではないかと思います。多様な表現が許されるからこそ、旺盛な需要があって供給量を増やさねばならないからこそ、こうしたとんでもなくヘンテコな作品が現れるのですね。そしてこの多様さは、駄作も生むのでしょうが、その中から確実に名作を生み出していきます。この作品も当然記憶にイヤでもバッチリ残る大名作なわけです。漫画史、BL史のなかでも、記憶されるにふさわしい単行本といえるでしょう。

角川書店
2006年12月26日発行
2006年12月22日購入

男恋
天城 れの著

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2007年2月24日 (土)

天城れの「ただいま恋愛研修中!」

Photo_3  株式会社長瀬コンサルティングの営業部には鉄の掟があった。それは社内恋愛が厳禁であること。カタブツでセクハラ大嫌いの安堂部長のきつーいお達しなのだ。新入社員の泉野は、女の子と遊ぶことが生き甲斐の軽い男。しかし入社直後から安堂部長に目をつけられる。女装してまで泉野の軽口を止めようとする部長。いらだつ泉野だが、女遊びができないことと、部長の的確な指示があることで、めきめきと成績を伸ばしていく。そして泉野は、部長が社内恋愛を禁止している理由を知り、急速に部長に惹かれていく。「Chips!」に連載された、長瀬コンサルティングを舞台とした社内恋愛ものと、闇のお仕置き人三兄弟のシリーズが収められた作品集。

 天城作品と言えば、左斜め上にすっ飛んだ展開が楽しいわけですが、この作品集に収められた作品は意外なほど普通のBLになってます。いや意外なんて言っちゃ悪いんですが。安堂部長が恋愛禁止にこだわるのは、以前辛い(男どうしの)恋をしたため。そして泉野は、お節介とも言える部長の介入に辟易しながらも、部長との関係が深まっていくなかで、その傷に気づいていきます。そして波乱が起こることによって、二人は急速に接近していきます。まあなんていいBLですこと!(オバチャンモード)。それは天城れのという作家が、変化球だけではなく直球もしっかりしたものを持っていることを示します。
 そしてよーく読んでみると、真っ当な作品のそこかしこにヘンテコな要素がこっそり仕込まれています。安堂部長は女装までして泉野の行動を見張っています。ちょっとそれなんて変質者? お仕置き三兄弟の末っ子(中2)はドSなもので、クラスメイトの男の子からなじってほしいと迫られています。ちょっとそんな中2男子って?。そうしたヘンテコさはそこかしこにあるのですが、それでも真っ当なBL作品として成り立っています。つまりはちゃーんとカムフラージュできているのですね。どんなヘンテコな要素を入れても、上手くカムフラージュできれば、BL作品として成立するのです。

 これは実は非常に興味深いことでして、BLは男性向けエロマンガと同じであることが見えてきます。エロさえ描けていれば/BLの基本フォーマットに従ってさえいれば、何をやってもいいのですね。どんなとんでもないことを描いてもいいですし、どんな文芸的なことをやってもいい。どんなギャグをやってもいいですし、どんな悲劇をやってもいい。制約が逆に自由を生む、という例になっているのだと思います。天城れのという作家は、そのアナーキーさに気づいているのだと思いますね。

海王社
2006年5月20日発行
2007年2月8日購入

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2007年2月10日 (土)

天城れの「青春男子手芸クラブ」

Photo_1  清順男子高校には特別な部活があった。「手芸界の貴公子」と呼ばれる黒衣を部長とする手芸部だ。副部長は大富豪の御曹司で特技はテディベア。極道の息子の特技はレース編み。学年トップの頭脳の持ち主の特技はコスプレ衣装。野球部と兼部しているエースの特技はパッチワーク。それぞれ一流の特技を求められる部活なのだ。そこにひょんなことから、転入生の松田は入部してしまう。背が高くてメガネの松田はバレーボールの選手だったが、怪我でバレーの道をあきらめていたのだ。全く手芸経験のない松田に、何かひとつプロフェッショナルな技術を身につけることを求める黒衣。しかし松田はあきらめない。黒衣部長を好きになってしまったし、なにより彼は生粋のアタッカーだったのだから。天城れの3冊目の単行本。

 急いで本屋に走って、過去の作品も買ってきましたよ。
 えーっとこれなんてホスト部? というオハナシですね。手芸部部員はみんなキラキラしてますし、キャラ立ってますし、特技持ってますし。ハルヒに当たるのは黒衣部長ですね。姫扱いですから。このように構造的にホスト部そっくりですから、内容も白泉社漫画的になっていきそうなものですが…キャラの抱える欠落やら心の傷やらが松田の参入によって癒されるとかになりそうですが…当然そんなことはありません。なんたってBLですから! ヘタレ攻めの松田がどうやって女王受けの黒衣を落としていくかがポイントになってきます。そしてその展開がふるっているわけですよ、学園祭恒例の女装コンテストがあって、黒衣がウェディングドレス姿になるのですから。同じく女装コンテストに出場するライバルがいて、ライバルが手芸部の活動を妨害しようとして騒動が起こった結果、黒衣と松田が結ばれるという展開になるのですが、このライバルが「これなんてロリっ子?」とつぶやきたくなる性別受なんですね。いやー、やっぱりBLで大切なのは想像の斜め上をすっ飛んでいく展開だなあとしみじみ思いますね。ただ展開こそ大笑いではありますが、BLの基本線は絶対に外さないので、安心して読めます。

P141  それから番外編の、極道の坊っちゃんのお話がまたすっ飛んでいてスバラシイんですね。ぼん(=坊っちゃん)は組の連中に慕われていて、彼らが最も望んでいるのはぼんの編んだレース。もんもんを背負った極道たちがレースを身にまとってハァハァしている様は、強烈な衝撃力を持っています。加えてぼんのボディガードは元パティシエで、手芸部に毎日心のこもったおやつを差し入れてくれます。極道の作ったおやつ…。「極道」と「おやつ」という言葉の組み合わせには、ミシンとこうもり傘以上のシュールさが含まれていないでしょうか? とまあ基本的に美形な顎長人がBLをやっているわけですが、また基本的な筋書きは十分にBLなんですが、細かいパーツが少しずつ「なんか変」なんですね。BLとして読んでもちゃんとしていますし、変なまんがとして読んでも面白い。両方成立しているというさじ加減の巧みさが、天城れのという作家の最大の魅力なんだと思います。

 さて他にも買ってきたので、天城れのを続けてレビューしていきます。それに問題作もありますしね!

海王社
2005年7月20日発行
2007年2月8日購入

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2007年2月 6日 (火)

天城れの「保健の先生にきいてみて」

1  田中は男子校の保健の先生。日々男の子たちの性の悩みをカラダで解決している。そんな田中にいつも突っかかってくるのは、新任で熱血教師の佐藤。「先生犯して~」とやってくる生徒の相手をする田中に、佐藤はいつも「生徒との不純異性交遊はいけません!」とちょっかいを出してくるのだ。少々ウザいけれども純真で一本気な佐藤のことが気になる田中。そして佐藤は日々の辛さを田中に告白してしまう。「保健の先生」シリーズと、科学部に所属するショタっ子二人を描いた「放課後理科クラブ」シリーズの二つを収録した作品集。

 「恋愛紙上主義!」もたいがいアホなお話でしたが、この作品のお馬鹿さ加減も実にいい湯加減です。なんたって田中先生のもとにやってくる男子高校生たちがどうにもくるくるしているんですね。「田中先生もっとしてー」「性教育してー」とハァハァしているのですから。妙にかわいらしく描かれていますし。それに対して田中先生も「痔になるから固いものを入れてはいけない、どれこの肉棒を」とか言ってます。どこの宇宙にそんな男子校があるんですか! しかも男子生徒たちは田中と佐藤がくっついてしまうと、「田中先生はあとくされないセフレだったのにー」と残念がっています。どこの宇宙に(以下略) この人を喰ったような脇役描写がどうにもタマランのですよ。やっぱりここにも自分の作品に対する客観的な視線といいますか、突き放したような視線が見えますね。自分の作品に対してもシニカルな視線を欠かさないところが面白いんですよ。

4  それから「放課後理科クラブ」シリーズもいいんですね。私の大好物のショタなんですが、これは真っ当に面白いんですね。白髪メガネ知性派タイプの中野と黒髪やんちゃタイプの成田が、変態教師とか青姦プレイなどの様々な障害を乗り越えてラブラブになっていくんですが、とにかくショタっ子がカワイイんです。もちろん半ズボンですしね。それでいてやることはキッチリヤリます。液をメガネに飛ばすなんて当然です! この人の絵柄だと、可愛い少年を描くと映えるだろうなと思っていたのですが、まさに案の定。ショタものでもかなり強烈な破壊力を発揮しています。そしてヘンテコな部分があるのも相変わらず。真っ当なショタもの・エロものとしてみても面白いのですが、ヘンなスパイスも加わって、実に味わい深くなっているのですね。

 さてさて、過去の作品も買ってこないと。今の連載も盛り上がってますから、注目しないと!

三和出版
2007年3月15日発行
2007年2月2日購入

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2007年2月 5日 (月)

天城れの「恋愛紙上主義!」

Photo  満は中学時代、高校の文化祭で漫研の部誌を手に入れる。そこには120ページに及ぶ正統派少女まんがの大作が収められていた。青山美由という著者に憧れる満。その高校に進学し漫研の扉を叩くが、実は美由は男だった。驚く満だが、的確な指導をしてくれる美由に、次第に心惹かれていく。満はまんがを描きはじめるが、みんなには隠そうとする。なぜならそれは自分と美由をモデルにしたボーイズラブ作品だったからだ。しかし美由に知られてしまう。翌日、美由と満はネームを切ってくる。それはお互いへの思いが詰まったものだった。表題作「恋愛紙上主義!」の連作を中心とした作品集。

 いやー、オバカです。どの作品もどんどん展開がアホ臭くなっていくのが本当にたまりません。満を奪おうとする聖ブルジョワ学園(…)の部長が現れたり、クラス一の可愛い男の子を守るためにコワモテキャラが学園祭で女装したり、売れない芸人が「BL芸人」として売り出そうとしたりと…ここまでやってくれるとなにも文句はありません。いちいちしょーもない展開にしていく姿勢は本当に頭が下がります。それでいて絵柄は顎長人系の耽美なもの。手を抜いてさらっと描いている様子は見られません。つまりは、あほうなことを、マジメに、一生懸命やっているのですね。しかも勘違いや天然ではなく、ひとつの「芸」として。以前はこの人の絵に違和感があったのでちょっと敬遠していたのですが、単行本で読むと破壊力はバツグン。すっかり大ファンになってしまったのでした。
 もう一ついいのが、自分の作品に対して客観的な視点を持っているところですね。例えば「恋愛紙上主義!」は、漫研が舞台なものですから、当然まわりに女子部員…当然腐女子…がいるわけです。そして彼女たちはきわめて的確に満と美由にツッコミを入れるのですね。それは画面のこっち側にいる読者の気持ちを代弁するわけです。この一歩引いて客観視する視点があるために、あほうな展開がより強調され、ある種のドライブ感が生まれてくるのです。

 「BLの魅力のひとつはしょーもなさにあり」というのは、昔も今も変わらぬことですが、ここにまた輝く星が現れたのでした。しかもこのところ単行本ラッシュですし! そこでこれからちょっと立て続けにレビューしてみたいと思います。

海王社
2006年11月20日発行
2007年2月5日購入

恋愛紙上主義!
天城 れの

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2006年2月 3日 (金)

神楽坂はん子「夢の果てまでも」

kagurazaka_yumeno  白髪メガネ美人の柏森は、3年間付き合っていた穂積課長と別れたばかり。穂積課長は逆玉に乗るために結婚するというのだ。道ばたで泣いているところを男に見られてしまう柏森。仕事で着ぐるみのイベントをやることになるが、着ぐるみの中に入っていた男は、泣いているところを見られた男、司だった。司は穂積課長の後輩で、趣味が似ているという。柏森の弱いところを見てしまった司は、急速に柏森に惹かれていく。緊急事態のため、柏森と司は着ぐるみを着て営業しなくてはならなくなるが、着ぐるみを脱がすとき、司は我慢できずに柏森のうなじにキスしてしまう。この他穂積課長と結婚相手の弟の略奪愛を描いた「明日では遅すぎる」、幼なじみの国税査察官と代議士秘書の関係を描く「見知らぬ人でなく」、大きな運命に巻き込まれる代議士の息子とその運転手を描いた表題作「夢の果てまでも」ほかが収められた作品集。

 いやー、もうですね、お話が切ないんですよ。例えば表題作「夢の果てまでも」ですが、代議士の息子の創が切ないんです。大物代議士の息子として楽々な生活を送ってると思えば、危機に陥り、次第に汚れていきます。ヤケになったりもします。ですがずっと仕えてきた運転手の輿水が心の支えになっているので、最後まで折れないのですね。その裏には、深く傷ついた創の心があるわけでして。それをなんとかしようとする輿水もまた切ないのでして。幼なじみが好き合いながらも敵味方に分かれてしまう「見知らぬ人でなく」も、相当なモンです。ああああ切ないですなぁ!
 それから、この本に収められているお話全部が、実は微妙にリンクしているというのがいいんですね。穂積課長=柏森=司のシリーズは当然なんですが、「見知らぬ人でなく」「夢の果てまでも」も、そこはかとなくリンクしています。好きなんですよこういうの。作品世界がぐっと広がるっちゅうんでしょうか。
 まあちょっと微妙なところもあります。例えば着ぐるみのお話とか。攻が着ぐるみを着て登場するんですが…それってギャグ? ギャグなの? と問うてしまいたくなります。実際は外の可愛さと中の人のハァハァっぷりがよいコントラストを成していて、萌えどころなんですが。また想像の斜め上を行くぶっ飛び展開もあります。やっぱりだめな人はだめかもしれないですね。ですがギャグっぽいアイテムを、ちゃんと萌えにつなげているのは面白いところで、ワザを感じます。
 この人の場合、ギャグっぽく等身を下げて描いた絵がいいんですね。いい味があるっていうんでしょうか。多分ギャグは相当得意なんじゃないかと思います。あと女性の描き方がうまいんですね。穂積課長の部下の女の子ナベちゃんとか、穂積課長の結婚相手とか、とても生き生きと描かれています。「いいBLは女性の描き方がうまい」というのは私の持論なんですが、この人の場合もそうです。てことは女性を中心にした作品とかも描けるという訳でして。
 この人のBLでない作品も見てみたいと思います。ギャグだといっそう生きるでしょうね。4コマ誌で大ブレイクした牛乳リンダとかの例もあるので、そちらでも活躍できるのでは…なんて思いましたよ。

芳文社
2006年2月15日発行
2006年2月2日購入

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2006年2月 2日 (木)

夏水りつ「ラブロマンス・スウィートキス」

natumizu_loveromance  黒髪メガネでかわいい系の倉橋は、社長の甥でアメリカ帰りのエリート新入社員、佐伯に目を奪われてしまう。社内でぶつかったことがきっかけで二人は知り合う。年下の佐伯に敬語を使う倉橋。佐伯は横柄な態度で倉橋に迫り、その晩倉橋を強引に犯してしまう。なかば脅されるような形で佐伯に迫られる倉橋。しかし倉橋は佐伯の心にぽっかりと空いた空虚に気づいていた。年下わんこ攻が甘党受に迫る「天気雨、午後一時」、駆け出しの弁護士と地方判事の再会を描いた「キスときめきとスキ」などを収めた短編集。

 リーマンカプにジャケ買いしてみたんですが…リーマン! リーマン! もいっちょリーマン! 全編これリーマンですよ(一部学ランもあり)。スーツの男をマンガにするとなんでこんなにエロいんでしょうねぇ。そして美人眼鏡受が多いのがよし! やっぱ黒髪メガネはヤラレテなんぼですよ。しかも苦痛というか恥辱というか、とにかく顔をしかめるのがよし! 泣いたりしちゃうのもよし!
 それから、ツンデレというか意地っ張りが多いのが萌えますね。それは強引攻という形で現われたり、無表情受けという形で現われたりしますが、いずれにせよ共通しているのは「不器用な男」「素直じゃない男」ということ。男ってのは張らなくてもいい意地を張ったり、言わなくちゃならないこともつい隠してしまうもの。そうした不器用さ、不自由さを、ままならなさを描いているところが侮れません。このもどかしさがいいんですよ。西田東先生もそうですが、男の不器用さ(それは同時に男の可愛さでもあります)をきちんと描くタイプの作品は、リアル男性にも共感されるのだと思います。
 絵はちょっとまだ顎長人系ですが、ニューウェーブの影響も感じます。これからこの人の「本当の絵」が作られていくのでしょう。お話の作り方が非常に上手く、男性の描き方もきっちりしているので、これから伸びるのではないでしょうか。今後を期待したいと思います。

芳文社
2006年2月15日発行
2006年2月1日購入

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2006年1月26日 (木)

水上シン「うしろから抱きしめて」

mizukami_ushiro  舞台は戦前の高校。東条高校柔道部の主将、二ノ宮惣次は、美形童顔で、多くの男に言い寄られているが、全て投げ飛ばして拒んでいる。副将で幼なじみの井原浩一郎は、惣次のことを好いているが、言い出すことができない。町内会の夏祭りに、惣次は浩一郎を誘う。しかし浩一郎は、惣次が多くの男に誘われていることを聞き知っている。それに対し惣次は、「俺より弱い男に用はない」と返す。惣次に勝てば、進まない関係を一歩進めることができるとたくらんだ浩一郎は…。超リッチで世間に疎いおぼっちゃま・尚人と、庶民的でしっかりしている功の、でこぼこギャグタッチシリーズを含んだ短編集。

 時代物がいいですね。中国の王宮を舞台とした「反魂香」、戦前の高校(ってちょっと突っ込みたいところですが)を舞台にした表題作「うしろから抱きしめて」。この人の絵は独特のなまめかしさ、古風なツヤがあるのですが、それは時代物とよく合います。その一方で、ギャグ作品も得意としているところが面白いですね。なんたっておぼっちゃまの尚人は超ゴージャスでヘリ通学(!)ですから。庶民の生活を知るために巨人の星でお勉強ですから。まあちと滑り気味ではあったりしますが、それもまたご愛敬ですから。
 それから、お話の基本構造が、性格がしっかりしていて体格ががっちりした攻が、細めの受をしっかり抱き留めるというものになっているのがよいですね。これはもう盤石の構造ですよ。攻はもう男の甲斐性っていうんでしょうか、生活力にあふれているんですね。バリバリ稼いで受を養う力があるんですよ。おぼっちゃまのパートナーの功は、「実家の資産がなくても俺が養ってやる」と口説きますし、それが当然と思っていますし。乙女心がヅキュンと刺激されませんか? 攻の姿はあたかもローマイヤ先輩のごとくです。当然男であってもキュンとしてしまうわけです。

 ちょっと前の作品だと、絵柄がありがちな顎長人系のものなのですが、最近の作品では、俄然絵にツヤと独特の美しさが出てきています。やおいのお約束を離れ、自分らしい絵柄を見つけ出してきている、まさにそのとっかかりに来ているように感じます。すでに結構地位を築いている作家だと思いますが、本格的に頭角を現すのはこれからでしょう(BLに移り、CGを使って独自の絵柄世界を開いた星野リリィのように)。12月に出た新刊も買ってこないといけませんな。

芳文社
2005年10月15日発行
2005年10月6日購入

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