2009年9月 8日 (火)

松本ミーコハウス『テレビくんの気持ち』

蒼太 月9にも出演するようになった人気急上昇中のアイドル。顔はとてもいいけれど、しゃべり方はちょっと舌足らず。圭輔のことが昔から好き。
圭輔 大学生、自分のことをキモメンと思っている。

小泉 売り出し中のアイドル。本当は身の回りの事は全部自分でできるのに、マネージャーのうっちーに甘えて、なんにもしない。世話を焼いてもらう。
うっちー マネージャー。きまじめな性格。

道隆(20歳) コンビニの店長、父が倒れたため若くして店長になる。元ヤンキーのリーダーで人格者。人望も厚い。
須藤(25歳) コンビニチェーンの社員、眼鏡、まじめ。道隆の父が倒れたのは、自分のせいだと気に病んでいる。
…という3組のカップルの、デキる前、デキた後をそれぞれ描いた短編集。

テレビくんの気持ち (バーズコミックス ルチルコレクション) テレビくんの気持ち (バーズコミックス ルチルコレクション)

幻冬舎コミックス  2009-04-24
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 まず3組のカップルが、ゆるやかにつながっているのがいいですね。圭輔は、道隆のコンビニでバイトしてますし、蒼太は小泉とアイドル仲間ですし。1冊の本が「世界」を作るっていうんでしょうか、人が生活している「街」を舞台にして、物語が紡がれていくのがいいんですね。同じ手法は古街キッカの「洋6K2南向き 」でも使われていましたが、キャラクターたちへののめり込み方が深まります。
 それから、それぞれのカップルがデキていく過程がいいんですね。どのカップルもフェロモン系とコンプレックス系のカップルです。受の人たちは、自分に自信がなかったり、過去にトラウマを持っていたりして、自分にも相手にも素直になれないんですね。「あんなすごい人に自分はそぐわない」と思ったりしています。だから自分から別れようとしたり、恋心をなかったことにしようとしたりするんですよ。このいじけっぷり!
 フェロモンの人の方がコンプレックスの人のことを好きなので、手を伸ばせば恋は手に入るんです。ですが心がいじけちゃってるんで、自分から手を引っ込めてしまうんです。これは恋に慣れてない男性が結構やっちゃうことで…ですから男心をズキュウンと刺激するんですよ。そういや私もこのいじけモードが長かったですしねー。それを端的に示しているのが、受のメガネです。受は3人ともメガネなんです! メガネは外界からの防御壁。直接現実世界に触れるのがつらい、コンプレックスを持った人の必須アイテムです。受のメガネ君っぷりには、もうドキドキですわ。
 まあそうした難儀な受が集まっているのですが、なんとかカップルは成立します。それは巧みな心理描写のためでしょう。<赤面>が実に効果的に使われているんですね。それが雄弁に男の恋心を語るんです。あとはうるうるお目々も効果的に使われます。これがキクんですわ! 恋愛を怖がっている受も、相手の本気を受け止めざるを得なくなるんです。

 心理描写の巧みさは「みどりのまきば」でも見た通り。作風の広さにもほれぼれしてしまいます。マンガの神に愛されてるなあ、とつくづく感じます。これからの活躍が本当に楽しみな作家さんです。

幻冬舎コミックス
2009年4月24日発行

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2009年9月 3日 (木)

さかもと麻乃 『ほんとの事、言っちゃって!』

 中井は、他人をいじって楽しむのが好き。人をいじめたり、人の上に立つのが好きで、自分の性格をあまり良くないと自覚している。そんな中井は藤本先輩とつきあっている。藤本先輩は目つきがクールで、誰も彼に命令できない女王様タイプ。そこで中井は藤本先輩の前では猫をかぶっている。本当はもっと痛くしたい、乱暴にしたいと考えているのに。ところが先輩に、猫をかぶっていること、本当はSな性格であることがばれてしまう。その後先輩は口をきいてくれなくなる。実は先輩は…。
 女王様受、へたれ年下攻×ツンデレ受、ケモ耳ものなど、8本の学園ものの短編を集めた作品集。

ほんとの事、言っちゃって! (花音コミックス) ほんとの事、言っちゃって! (花音コミックス)

芳文社  2009-08-29
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 さかもと先生絶好調です。ノマカプ本「おとこのこは魔法」 で、非BLに本格進出するかと思いきや、ちゃんとBLでもナイス作品を見せてくれます。
 まず、全体が学園ものになっているのがポイントですね。1本だけ大学が舞台ですが、あとはみんな高校が舞台。オトナになりかけの美少年を描くにはもってこいの舞台です。登場人物がみんなかわいいんですわ! まつげの長いかわい子ちゃんの描写なんて、もうゾクゾクものです。そんな子が快感に頬を赤らめているところなんて…読んでるこっちもヤバイです!
 そして年下攻も目立ちます。あらすじに挙げた「全部ください」をはじめとして、実に8本中3本が年下攻です。学園もので年下攻っていうのがポイントなんですよ。たった1歳の違いが、具体的な権力関係になって現れる学校という舞台で、年下の方が主導権を握る…この「ひっくり返り具合」がいいんですよ。先輩は、心構えの上ではツンケンしたり、上位に立とうとしますが、いざ恋愛やセックスになると受け身になってしまうんですね。一方後輩は、ちょっとヘタレだったり、ニブいところがあったりしますが、恋愛やセックスにおいては、かなり上手に立ち回ります。ありがちな構造をうまーくひっくり返しているんですね。なかなか難しい構造なんですが、さかもと麻乃はきちんとまとめています。これもゾクゾクものですわ!

 あと、高慢な受(実はM)と、ちょっとヘタレな攻(堅物)という構図も目立ちますね。ああ、やっぱりスザルルなんだな、と思いますね。表紙なんかもろにそんな感じです。この人、非BLに行っちゃうのかな、と危惧していましたが、BLにも強い萌えがあるようで、一安心です。
 ただこの人の場合、萌えの幅が広いんでしょうね。だから百合(リスランタンプティフルール) も描けるし、ノマカプファンタジーも描けるのでしょう。この広い萌えから生まれてくる、BL、百合、ノマカプの混淆した、なんともジャンル分けのしづらい、新しいタイプの作品が生まれてくるように思います。さかもと麻乃という作家は、新たなジャンルを生み出すだけの実力と才能を持っていると思いますし。BL好きとしてはBLに集中して欲しい、かわいい男の子をバンバン描いて欲しいと思いもしますが、ジャンルに縛られることなく活躍して欲しいなあと思います。

芳文社
2009年9月13日発行

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2008年6月12日 (木)

北別府ニカ「すくすく好き好き」

 智は年齢の割にはちっちゃく、かわいい感じの高校生。隣に住む双子の一郎、二郎兄弟とずっと幼なじみで、朝食を一緒に食べたりする仲。一郎と智はひょんなきっかけで「かきっこ」をする仲になっていたが、その関係に智は迷っている。好きじゃなかったらこんなことしないだろうと。自分は一郎のことを好きになっているのに、それを一郎に問いかけると、いつもはぐらかされてしまう。バイト先で飲まされてしまい、酔って抱きついた相手は二郎だった。関係がばれるのではと焦る智だが、二郎にはすっかりバレバレ。どうして両思いなのにちゃんと告白しないのか、と諭されてしまう。智と一郎の恋と、恋愛にはうとかった二郎の恋を描いたシリーズを含む短編集。

すくすく好き好き (バーズコミックス リンクスコレクション) すくすく好き好き (バーズコミックス リンクスコレクション)
北別府 ニカ

幻冬舎コミックス  2008-03-24
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 いやーめでたいめでたい、二冊目の単行本です。北別府ニカといえばメガネ、というイメージがありますが、この作品は意外とそんなことはなく、メガネなしのキャラが多いです。唯一の眼鏡キャラとして「忠犬攻」ってキャラクターが出てきますけど。
 メガネがないからフェチ度が足りない…と思えるかもしれません。ですがこの作品には別の魅力があります。登場する男たちが実に「男性」らしいんですよ。まあ受の人は細ナヨって人もいるんですが、攻は基本的にちゃんとした肉付きの男性です。一郎も二郎も190近いですし、顔つきも体格もしっかりしています。しっかり「縦に伸びてる」感じですし、すくすく育っていますし、男性的な魅力を漂わせています。そういうリアルな男性がフォーリンラブしたりがっちゅんしたりするのですから…これは生々しくてキク!
 そして彼らは実に高校生っぽい、大学生っぽい雰囲気を漂わせています。将来に悩んだり、授業のつまんなさにだるさを感じたり、サークル活動をしたり。もちろんハイティーンから20代前半の若者の姿をリアルに描いたBLはこれまでも存在しましたが、北別府ニカの作品は生々しさの点で一歩抜けた感があります。若者を本当によく観察していることが分かりますし、そして若者のかわいさをよく見抜いていることも分かります。

 男性からすると、男の子の可愛さや男の体の魅力は、若者であるうちはよく分からなかったりします。自分自身若者なので、相対化して見ることができないんですね。ところが若者とはいえない年齢になってくると、次第に若者をいやらしい視線で見ることのよさが分かってきます。自分が若さを失いつつあることが分かるために、若者の体が性的魅力を持っていることが分かってくるのです。そこでこういうちゃんと育った若者ですから…つい「げへへへへ」という下品な笑みがこぼれてしまいます。男の体のエロさがわかると、世の中なんでもエロく見えるので、楽しいことこの上ないですよ。

幻冬舎
2008年3月24日発売
2008年3月28日購入

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2008年5月19日 (月)

彩景でりこ「傷だらけの愛羅武勇」

 清士郎は狂犬とも呼ばれるヤンキー。つるんでいる連中を片っ端からボコり、怖れられている。そんな清士郎に対し、一つ上の上坂は毎日タイマン勝負を仕掛けてくる。表面的にはウゼーという姿勢を示す清士郎だが、上坂の侠気と毎日挑んでくる律儀さにすっかりメロメロ☆になっている。自分の気持ちを素直に示せない清士郎は、とうとう上坂を無理矢理ものにしようとするが、全力で拒まれ、見損なったと言われる。廃人のように凹む清士郎だが、次の日上坂はまた挑んでくる。「お前俺のこと好きなのか?」と。「カタログシリーズ」に掲載された作品を集めた初短編集。

傷だらけの愛羅武勇 (MARBLE COMICS) 傷だらけの愛羅武勇 (MARBLE COMICS)
彩景 でりこ

ソフトライン 東京漫画社  2008-04
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 見た目はハードなヤンキー漫画です。清士郎も上坂もとてもBLという描写ではなく、ガチのヤンキーとして描かれています。上坂はヤンキーヒゲ生やしてますし。それに暴力描写はかなりえげつなかったりします。
 ところが清士郎は、一方で気にくわない奴を全員ボコるヤンキーマインドを持っていますが、もう一方でピュアな恋心を持っているのですね。外見はガン飛ばしまくってますけど、内面は上坂に話しかけられてキュンキュンしているのです。このギャップ! そして清士郎は恋心と一緒に、上坂に対してガチの性欲を抱いています。上坂を押し倒して拒まれるのですが、その時触ったちんこの感触にハァハァしまくりです。見た目こそおっかなげな作品なんですが、実はハードな外見と、戯画化されたピュアロマンス、そしてガチの性欲の間に生まれるギャップが笑える作品になっているのです。
 それが端的な形で現れているのが「妄想兄弟純情系」という作品ですね。兄はかわいい弟のフミにメロメロだった。

Saike02

 ところが2年のアメリカ留学を終えて帰ってきたとき、フミは兄より背が高くなり、ヒゲを生やして、アフロになっていた…という作品です。

Saike01

 いやーもう業が深いこと。兄が愛していたフミはショタっ子でした。ですが今のフミはどう見てもストリート系の兄ちゃん。でも内面は可愛いショタっ子のまんまなのですね。男性性バリバリの外見に可愛さが無理矢理結びついているので兄ちゃんは悩むのですが、その悩みは読者からすると大笑いできるギャグの源です。ハイテンションなギャグはたまらない面白さがあります。

 やっぱり面白いのは、男性性に疑問を感じることがなさそうな男に、無理矢理可愛さやピュア恋愛を結びつけていることですね。それがパンチ力の強いギャグになっています。それにBL的にもそそるものがありますね。ストリート系の兄ちゃんがボーイズなラブを繰り広げていくわけですが、そのことによってストリート系の男たちが持っていると思われる男性性へのこだわりが、どんどんぐずぐずになっていくのですから。そして「男らしさ」を目指していた男たちは、ロマンティックラブのとりこになっていきます。これは男を「陥落」させることですね。どんなにいきがっていても、どんなにツッパっていても、ラブにはかなわないのですから。

 テンポの良さ、絵の上手さと、これから大きく存在感を示しそうな作家です。一つ気になるのは、女性を上手く、可愛く描けること。攻と受が両方オカマという作品があるんですが、BLなんですけど見た目がほとんど百合なんですね(このことについては「プチ鬱読書人形日記」さんと「BL系。」さんで指摘されていますね)。BL以外もそつなく描けそうですし、BL以外でも活躍しそうなんですよね。それはそれで喜ばしいことですが、この作品で描かれるような「男をいじる漫画」も描き続けていって欲しいものだと思います。

東京漫画社
2008年5月15日発行
2008年5月5日購入

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2008年4月27日 (日)

ヤマシタトモコ「タッチ・ミー・アゲイン」

 小説家の遠田にはすぐ暴力を振るう癖がある。写真スタジオに勤める押切は間違いが多いという癖がある。二人は10年来の腐れ縁で、遠田の家の窓が開けっ放しになっていることもあって、いつも一緒にいる。7年前、遠田は一度だけ押切を抱いたことがある。そのとき確かに二人の心は近づいていた。しかしその時二人は肝心な言葉を口にすることができず、互いの心に踏み込むことを避けてしまった。それ以来二人はそのことを忘れたふりをし続け、親友という関係を保とうとする。ヤマシタトモコ2冊目の単行本。

タッチ・ミー・アゲイン (ビーボーイコミックス) タッチ・ミー・アゲイン (ビーボーイコミックス)
ヤマシタ トモコ

リブレ出版  2008-01-10
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 内容については「~漫画読みの読書感想ブログ~」さんや、「BL Diary」さんが詳しいので、そちらもご覧になってみてください。

 7年もの間宙づりになっているふたりの気持ち。ふたりはそれぞれ繰り返し自問自答します。「お互い自分の気持ちに気付いていながら 気付いていないふりをし続ける」というように。それは画面にはっきりと<言葉として>書かれ、読者の心に刻み込まれていきます。まるでポエムのようなのですが、やはり言葉で明示されているというのは強いインパクトを与えます。

 内面がきちんと語られるために、人物も立体的に見えてきますし、関係性もきゅんとくる衝撃力を持っています。もう一つの連作「息をとめて、」がいい例でしょう。デザイナーの芥は人付き合いが苦手で不眠症。ただ紙屋の佐方にだけは心を許せる。それは佐方のことが好きだから。一方佐方は後輩の恒夫が自分に思いを寄せているのに気付いていながら、恒夫を傷つけたくないと思っています。三人のエゴはぶつかり合います。人格的に破綻を抱えている芥がすがれるものは、「好き」という気持ち以外にありません。一方佐方は、芥の気持ちをすっかり許していますが、昔からのつきあいである恒夫を傷つけたくないために、中途半端な姿勢を取ります。そうした膠着した人間関係を崩すのは、やはり「好き」という強い気持ちと、それをはっきり言葉に表すことです。

 ヤマシタトモコ作品の最大の特徴であり、魅力なのは、一つ一つていねいに言葉が重ねられていくことでしょう。ゲイであること。許されない思いを抱いていること。そして一歩を踏み出したくても踏み出せないこと。そうしたつらい気持ちが、一つ一つ言葉で語られていきます。そのため読者はぐーっと登場人物に感情移入することになります。そして思いが叶ったあとも、その喜びが語られます。もちろん素直にではないのですが、願いが叶った喜びはひしひしと伝わってきます。ヤマシタ作品が読者の心を揺り動かし、デビュー以後急速に人気を博したのは、「言葉」の力によるのでしょう。

 ただ、男性の視点からすると、ヤマシタ作品からはどこか違和感が感じられます。ヤマシタ作品においては、「ゲイであること」「男が男を好きになってしまうこと」は、非常に「悪いこと」であるとされているのですね。もちろん登場人物がそれを「悪い」と思っているために、また人物の内面での「悪」の度合いが強いために、言葉に重みが出てきますし、思いが叶ったあとのカタルシスが強くなります。また男性社会におけるホモフォビアは確かに強固に存在します。ですが個人レベルでは、ホモフォビアは最初からあいまいです。「世間からダメと言われているからダメと思いこむ」のであって、男を好きになってしまうことそのものは、変えようのない事実として個人の中に存在します。それについての価値判断は社会的に決まるもので、そこで個人の悩みは生まれますが、男を好きになること自体は、個人の内面においては、それほど絶対的な悪ではないように思うんですよね。どうしてそこまで悪いことと思うのか、どうしてそんなに自分を責めるのか、そこがどうも分からないのです。

 これについては、もう少しヤマシタ作品を読み込んでいきながら、考えていきたいと思います。

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詞の音さん

リブレ出版
2008年1月10日発行
2008年1月20日購入

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2008年2月16日 (土)

ユキムラ「まるで初めての恋みたいに」

 河野は金庫のセールスマンだが、極度の上がり症で、クビ寸前になっている。訪れた設計事務所で、所長の伊藤に異様に親切にされる。伊藤は河野に一目惚れしていたのだ。恋人兼事務係として伊藤の事務所に転職する河野。しかし河野はこのまま世話になりっぱなしではいけないと思い、再び転職を考える。そんなとき河野の前に現れたのが、伊藤のかつての同級生であり、重要なクライアントの藤堂だった。迷っているならうちに来るよう誘われ、河野は迷う。「CIEL」に掲載された作品を集めたもので、著者10冊目の作品集。

まるで初めての恋みたいに (あすかコミックスCL-DX)
まるで初めての恋みたいに (あすかコミックスCL-DX) ユキムラ

角川書店  2008-02-01
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 うーん、全体的に惜しい! ここぞというところで終わっちゃうんですよね。あらすじで挙げた表題作は、藤堂が河野をこれから追い込む、というところで伊藤が現れて終わりになります。もっとネチネチやってほしかったんですがねえ。
 仕事で一緒になった無口なカメラマンは、かつて妹の彼氏として現れた男だったという「吐息を消して、雨音で」も、すんごく惜しいんですよね。カメラマンの小山田が無口なのは、当然仕事相手の高野が昔から好きだったからです。妹の彼氏になったのも、もちろん高野に会いたいからです。まあここまではよくある話なんですが、ここで妹が重要な役割を果たします。実は妹もマジで兄のことが好きで、叶わない思いを抱えるものどうし、一緒にいることにしたというんですね。ななななにそのおいしい設定! そこをつっこんで描いたら、もんのすごい、誰をもうならせるような名作になる可能性があるのに! 妹と小山田が砂を噛むようなセックスとかしてたら、もう何杯でもおかわりできるのに! 残念ながら妹はちらっとしか出てこず、いまは結婚して子供もいるという設定です。妹の思いをスルーするとは、やっぱり惜しい! BL誌に掲載された作品なので、BLの枠を遵守しすぎてる感じと、全体的に尺が足りず、詰め込んだ印象があるんですね。これは雑誌と編集の責任のように思えます。確かにBLとしてはそこそこできあがってはいるのですが、雑誌側がBLであることにこだわるあまり、作家の伸び代が失われているように思えるのです。のびのびやらせるだけのゆとりがあればよかったんでしょうがねえ。

 ただ、最後に載ってる「すべてをあなたに。」は素晴らしいですね。上司一人と部下一人だけのセクション。上司は口が悪く、いつも部下を叱っている。でも部下は、その叱責が実は自分を育てるための愛の鞭だと知っています。上司はずっと阻止してきたのですが、とうとう部下の転属が決まる、という作品です。この上司、べらんめえ口調なのは優しさと気遣いの裏返し、照れなんです。そして部下は叱ってもらわないともう満足できない体になっています。あーもう君ら結婚しちゃいなよ、という作品なんですが、秘めた思いを告げるまでの過程がもどかしくて盛り上がるんですね。それに上司はヒゲですし! 明らかにボーイという枠をはみ出しているために、この作品はインパクトを持っているのだと思います。

 7年目、10冊目の単行本で、中堅からベテランの域に達している作家です。次は存分に萌えを吐き出した、ボリュームのある作品を期待したいところです。

角川書店
2008年2月1日発行
2008年2月5日購入

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星野リリィ「おとめ妖怪ざくろ」1

 人間とあやかしが共に住む世界。我々の世界の明治維新のように、世の中の仕組みが改まり、太陰暦から太陽暦に変わることになる。あやかしたちの中には、それに不満をもつものもいた。そこで人間の代表とあやかしの代表は話し合い、あやかしにまつわる事件を解決する組織、妖人省をつくる。あやかし側で選ばれたのは活発で勝ち気なざくろ、しとやかで暦にこだわる薄蛍(すすきぼたる)、縦ロールの雪洞(ぼんぼり)と鬼灯(ほおずき)。人間側で選ばれたのは超美形の総角(あげまき)、五分刈りで無口な利劔(りけん)、自分の利発さを鼻にかける年少の丸竜。ざくろは総角と組むことになって大喜び。ところが総角は実はオバケが大嫌いで、ざくろたちを見るのもガクブル状態だったのだ。ざくろと総角の凸凹コンビは、果たして事件を解決できるのか? 「コミックバーズ」に季刊ペース→隔月で連載された作品の第一巻。

おとめ妖怪ざくろ 1 (1) (バーズコミックス) おとめ妖怪ざくろ 1 (1) (バーズコミックス)
星野 リリィ

幻冬舎コミックス  2008-01-24
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 なんといってもビシッと事件を解決するざくろがかっこいいです。もともとざくろは喧嘩独楽が得意な活発な少女。暴れる妖怪に対しては剣を振るい、一刀両断にしていきます。そんな雄々しいざくろに対して、総角は超美形なのに超ヘタレ。この絶妙なバランスが、漫画としての楽しさを盛り上げます。もともと星野リリィの漫画には魅力的な少女が登場します。「都立魔法学園 」のメラミちゃんしかり、「スーパーダブル」のラブしかり。ざくろはそうした少女キャラの延長線上にある、魅力的なキャラといえるでしょう。そしてざくろのアクションあり、薄蛍と利劔のラブロマンスあり、しんみりさせるお話あり。星野リリィの「漫画の上手さ」をしみじみと感じます。

 で、この作品には、表面的なやおい要素は全然無いように見えます。そもそもみんなノーマルカプです。ざくろと総角は少しずつフラグが立って、惹かれあっていくようですし、利劔と薄蛍は最初から慎ましく惚れあっています。ところがよく読んでみると、ざくろと総角の関係はなかなかそそるものがあることが分かってきます。
 よしながふみは、羽海野チカとの対談の中で、「男どうしの関係だけがやおいではない」「のだめと千秋の関係はやおいだ」と述べています(『よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり』太田出版、2007)。やおいとは、遠く離れていても、普段は反目していても、いざというときには助け合う、信頼しあっている姿だとしているのです。ざくろと総角の関係は、一見男女の恋愛という形で関係が接近していくように見えますが、実は接近していくのは信頼関係です。最初は総角に幻滅しまくるざくろですが、仕事に対する真摯な態度を知ったり、きちんと向かうべき敵に立ち向かう姿を見るなかで、総角を見直していきます。それは「総角を好きになっていく」と見ることもできますが、「総角を仕事上のパートナーとして認め、信頼していく」と見ることもできます。そしてざくろと総角はいい相棒になっていくんですね。そしてその相棒関係は、やおい萌え、BL萌えを構成する重要なポイントの一つです。素知らぬふりをしていても、心の底では相手を信頼し、強くつながりあっている…これは萌えるじゃないですか! 総角ヘタレ攻×ざくろ女王受ですよ!
 この作品は、「男女カップルでは描けない/描きにくい」と思われてきたやおい的関係を、(マイナー/オタ向け)青年誌で、ノーマルカプで描こうとした試みなんじゃないか、と思います。少なくともざくろと総角が普通にくっついて終わり、にはならないでしょう。ロマンチックなラブの役は薄蛍と利劔に割り当てられていますし。よしながふみがBLの方法論を存分に生かして、現実に対する鋭い批判力をもった少女漫画「大奥」を描いているように、星野リリィは、「ふたりの関係を現在こうあるべきとされている男女関係に収斂させない」というBLの方法論を生かして、男性読者にも向けた作品を描いているのではないかと思います。見た目は普通のラブロマンスなので、単に「あー可愛いね」「ときめくね」で消費される可能性もあるでしょう。ですがよく読んでいくと、ありがちに描かれる男女関係とは違った関係を描き出しています。こうした表現を通じて、なにかが「引っかかる」人も増えてくるんじゃないでしょうか。

 ただ苦言も呈したいですね。最近の星野リリィはあっちこっちで作品を描くようになってますが、そのため掲載が飛び飛びになり、なかなか単行本にまとまらないんですね。これは大きな問題だと思います。どこかに腰を定めて掲載誌を絞り、じっくりと作品を描いていって欲しいものだなぁ、と思います。

幻冬舎
2008年1月24日発行
2008年2月7日購入

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2008年2月 7日 (木)

まさお三月「身勝手なあなた」

 夏目先輩はいつも男をとっかえひっかえしているが、相手がいないときはふらりと辰雄の家を訪れ、セックスをせがむ。辰雄はそんな先輩のために、好きでもない手料理を作り、ずっと待っている。辰雄を頼る夏目先輩だが、辰雄の思いは通じていない様子だ。体はつながっているのに、心はつながっていないことに、辰雄は苦しむ。「マガビー」などに掲載された作品を集めた著者の初単行本。

身勝手なあなた (ビーボーイコミックス)Photo 身勝手なあなた (ビーボーイコミックス)
まさお 三月

リブレ出版  2008-01-10
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 「男だから」ということに常に自覚的なところがいいですね。たとえば「甘くない」のふたり。二人は相思相愛で幸せなんですが、受けの三昭は異様に周囲にばれることを嫌がります。「人前でベタベタしていたらふたりがデキてることがバレるだろ!」と。男性が普通にやる程度のボディタッチにさえも、かたくなな姿勢を崩しません。また父親の「再婚」相手が男だったという少年の視点から描いた、「幸せな人たち」という短編もあります。文昭少年(メガネっ子)は、父はなぜ男を選んだのだろうと思い悩みます。男同士に偏見はないつもりですが、それでも釈然としません。この迷いや苦しみが、説得力あるドラマを生むんですね。そしてそれは特に男性にとって説得力を持つものになります。なんたってそうした戸惑いは、男性こそがリアルに、生々しく感じるものなのですから。
 そして悩みや苦しみを描くのですが、最終的にハッピーエンドになっていくのがいいんですね。確かにハッピーエンドはBLのお約束です。ですがこの作品では、登場人物たちが努力して、周囲と折り合いをつけながら、なんとか幸せにこぎ着けます。飛躍したりファンタジーに逃げるのではなく、実際にありそうな解決を目指すのです。ブレイクスルーのカギになるのが愛のあるエロエロのセックスです。セックスで二人の絆を確かめて、状況に対して向かい合っていくのです。これは二重に来ますね。二人で協力して苦難を乗り越えようとするわけですし、なによりエロいことをして絆を深めていくんですから! いやいや、「BLの物語のちから」という帯の文句に偽りはないなあ、と思ったのでした。

 絵が非常に美麗なところも見逃せません。ホームラン・拳と、山本小鉄子に近い系統の絵なんですが、等身が高く顎長人ぎみで、アダルトな雰囲気があります。あと力を抜いて描いた絵もいいんですね。

2

 それにメガネ率の高さ!メガネキャラが出てこない作品は1本しかありませんよ。それにショタメガネもいいんですよ。文昭きゅん13歳の愛くるしさときたら!

1

 まあちょっと考えすぎのところはあるように思います。「のだだがBL読んだ。」さんでも指摘されているように、男同士の関係性に過剰反応しているところがあるかな、と思えるのですね。男どうしの関係を意識すればするほど、男どうしの関係が「特別な」「普通じゃない」関係に見えてくるのですから。ただそれは「ちゃんと男と男のラブを描こう」「現実に即して描こう」とする努力の結果だと思います。初単行本とは思えない完成度の高さ。こういう作家をきちんと発掘してこれるところに、リブレの底力があるのでしょう。

トラックバック先
腐女子の*MEMO to memoさん
BLな毎日さん
ムスカリアさん

リブレ出版
2008年1月10日発行
2008年1月10日購入

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2008年2月 6日 (水)

小笠原朋子「Hiスクラップ!」

 背が高くてメガネでまじめな委員長の麻生、副委員長で活発で幼児体型でお団子頭の理子、ちっちゃくて美少女顔のアキ。アキは前の男子校ですごくチヤホヤされていたけれど、なぜそうされるのか分からず、トラブルになった結果共学校に転校してきた。理子はこれまでの男たちとは違い、親身に接してくれるので、アキは理子を好きになってしまう。しかし理子は委員長の麻生が好き。アキと理子は友達関係になるが、アキは恋愛感情をあきらめられない。一方麻生は初めてアキを見たときから鼓動が高まるのを感じる。自分はノーマルなのに、男を好きになるはずなんてないのにと、麻生は自答する。「まんがライフmomo」に連載された4コマ作品。

Hiスクラップ!! (バンブー・コミックス) (バンブー・コミックス) Hiスクラップ!! (バンブー・コミックス) (バンブー・コミックス)
小笠原 朋子

竹書房  2008-01-26
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 もうおわかりのように、麻生→アキ→理子→麻生という、循環型の三角関係になっています。思いを寄せられている方は、そのことに何も気づいていないところがポイントですね。クラスの人たちからはみんなバレバレなのに。そこがこの作品のギャグの基本になっています。麻生は理子のことが全く眼中になく、「餅」としか呼びません。そして理子もアキのことを友達としか思っていません。ままならんですなあ。
 で、いわゆるやおい作品じゃないんですが、もう大変な作品です。アキがもうめっちゃくちゃカワユイのですよ! 色白、猫っ毛、身長は160ちょいなのでいつも上目遣い、でも自分は男らしくかっこよくなりたいと思ってます。それに自分が「男らしくない」ことには気づいていますが、「かわいい」ことには気づいていません。そのため無自覚にかわいさを振りまきまくります。無防備なところ見せまくりです。理子に言われると簡単に女装しちゃいます。こんだけ隙だらけとなると、好きになっちゃったり、抱きしめたくなったり、なめたくなったり、やっちまいたくなるのはむしろ当然です。こういう子は空想の存在? いやいやそんなことはありません。200人か300人に一人の割合ですが、たまにいるんですよ、こういうかわいい男の子が!

 この作品で重要なのはやっぱり麻生ですね。麻生は、自分はノーマルだと固く信じていますが、アキのかわいさにメロメロです。腹チラ、背中チラで鼻血吹きまくりで、盗撮したりストーキングしたりしてます。ですが頑固に、アキが女の子だったらいいのに、女の子なら俺はノーマルなのに、といつも思ってます。

You、素直になっちゃいなよ!

 麻生の気持ちは恋と性欲に決まってるんですけどね。でもそれを認めたくなくて、男を好きになっちゃいけない、ヘテロセクシャルじゃなきゃいけないと思っているんです。この苦悩は実に美味しいですねえ。好きになっちゃいけない、欲望を抱いちゃいけない。でも好き、でもやりたいという迷いと苦しみこそが、BLの醍醐味の重要な一つなんだと思います。そしてこの作品では、この苦悩が重要なギャグになっています。麻生が徹底的に報われないのが面白いんですな。

 こうした麻生の描写は、まだまだ男の性の姿、愛の姿が「解放されてない」ことを如実に示します。素直に好きって言えればいいんでしょうけど、今の状況ではなかなかそうはいきません。それにアキも、前の男子校で男に告白されたことがトラウマになって、共学校に転校してきたことになってます。ヘテロセクシャルのくびきはいまだに重いのです。まあ簡単に解放されちゃったらギャグにならないので、この作品ではヘテロが堅持されないといけないのは分かるんですけどね。それにアキは明らかに性的な意味でも欲望を抱かれているので、下手に解放され過ぎちゃうと大変なことになるんでしょうけれど。それにしても麻生のせつない気持ちは、かなえてあげたくなってしまいます。

 もどかしいギャグで笑わせるだけかと思えばさにあらず。私たちを包んでいるヘテロセクシュアルの強さと、それに伴う微妙な問題を描き出す作品ですね。

竹書房
2008年2月26日発行
2008年1月28日購入

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2008年1月14日 (月)

西田東「青春の病は」

 高校時代、湊(理系メガネ)は勉強ばかりしていて、クラスになじめなかった。しかしクラスの人気者の松本が物陰でだれかを思ってオナニーしているのを見てしまって以来、松本のことが気になるようになり、クラスにも関わるようになる。15年後、大学を卒業した湊は研究所員となり、商談にも関わるようになっていた。そこで営業をやっている松本と再会する。親しく接するようになるが、湊は高校の頃に松本に抱いていた思いを思い出す。そして湊がゲイであることが、松本に知られてしまう。「青春の病は」のシリーズと、「願い叶えたまえ」の番外編が収録された単行本。

青春の病は (花音コミックス) 青春の病は (花音コミックス)
西田 東

芳文社  2007-12-27
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 「普通の人達の普通の感情を描きたい」と前書きに示されています。松本は結婚を前提として彼女とつき合っており、徹底的にノンケです。湊がゲイだと知っていったんは拒絶します。ですが彼女とのつきあいは上手くいっているとはいえず、仕事でも部下が大きなミスをしてしまいます。一方湊は松本への初恋にとらわれ続けており、再会することによって初恋は再燃します。松本はノンケなもので、湊が自分に対してどんな思いを抱いているか、全然分かりません。ですが心が揺らぐ出来事が続くことによって、湊の想いがどのようなものであるかに気付いていきます。湊は自分が初恋を引きずっていることに気がついており、そこから逃れようと松本を無理矢理抱こうとします。嫌われれば、気持ち悪いと思われれば、二人の関係はとりあえず切れるのですから。それには「今度飲もう」「今度おごるよ」という、<ホモセクシュアルを隠蔽する男どうしの関係性>に取り込まれたくないという意図も含まれています。ホモソーシャルな社会における男どうしの関係性は、実は好きという感情を、「飲み友達」「遊び友達」「同僚」に強制的に変換してしまいますから。結局湊の行動は未遂に終わり、二人の関係はぎすぎすしてしまいます。松本は実は湊に心を許しているのですが、自分がホモを認めようとしていることを認めたくありません。
 これ! これですよ! 自分がノンケであると自己規定する男は、自分がホモセクシュアル関係に含まれようとすることに、そして内心ではホモ関係を認めてしまっていることに、戸惑い、拒否感を抱いてしまうものです。「自分はホモなわけない」「ホモは非生産的なこと、いけないこと」という感覚と、「実は男に拒否感がない」ことの間で苦しむんです。世の中の大多数の男は男性ジェンダーとホモソーシャリティを無前提で受け入れていますから、こういう感覚はよく感じることでしょう。ですからこうした描写は、強いリアリティと共感を生むことになります。まさに「普通の人達の普通の感情」であるといえるでしょう。

 もう一ついいのは、湊の想いですね。大人になった湊は、男たちと体だけの関係を持っていますが、それはずっと松本のことを忘れられなかったからです。勉強に打ち込み、優等生を気取り、他人とのつきあいを作らなかった高校生の頃の湊。それは自分で作った牢獄に自分から入っていたようなものでした。松本は湊をそこから救い出します。それは湊にとって、強い強い光だったのではないでしょうか。その光にすがりたいという湊の気持ちは、いかばかりのものだったでしょうか。そしてその想いが再び始まることは、いかに大きなことだったでしょうか(このあたりは「ゲイ&腐男子のBL読書ブログ」さんにも書かれていますね)。それは恋でもあったのでしょうが、希望でもあったのです。
 こうした自我の境界の問題、他者とのコミュニケーションの問題は、現在の我々が多かれ少なかれ抱える問題です。「エヴァ」で明確に提示され、今に至ってもはっきりした答えの出ていない問題です。この作品は、そうした普遍的な問題にも切り込んでいきます。

 西田東はオトコの内面描写に定評がありますが、それは「大人のオトコならこう感じるだろう」ことを、リアルに、生々しく描くことができるからでしょう。それは当然、大人の男性に響きます。それに他者とのコミュニケーションという、普遍的な問題も描き出します。女性向けのボーイズラブという枠を越えて、広く一般にも訴える力を持った作品といえるでしょう。

芳文社
2008年1月11日発行
2007年12月27日購入

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2008年1月13日 (日)

西田東「素晴らしい失恋」

 新任課長の内藤は、仕事については極めて有能だが、女性に対しては本気になることができず、関係は極めてだらしなかった。それは内藤の見つめる先に、上司の日野田部長がいたからだ。この人に抱かれたい、抱きしめられたいと願う内藤だが、以前別れた女が差し向けた男にレイプされてしまう。ショックを受けた内藤は、そのショックと、そして秘めた想いを日野田に告白してしまう。すがらせてくれ、抱きしめてくれと、内藤は瞳で日野田に訴える。「麗人」に掲載された作品を集めた短編集。

素晴らしい失恋 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
素晴らしい失恋 (バンブー・コミックス 麗人セレクション) 西田 東

竹書房  2007-12
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 今回は「男の失恋」が一つのテーマになっているようですね。上記の表題作「素晴らしい失恋」は、その名の通り失恋を扱ってます。また最後に収録された、社長と社長秘書との関係を描いた「いちばんの愛」も失恋ものです。傾いた会社のヘタレ社長と有能を描いた「オレの社長 僕の秘書」、東南アジアに派遣された堅物リーマンと自由奔放な現地ガイドを描いた「快楽の地」、妻を事故で失った男と妻の弟の関係を描いた「乞う者」も、どこか悲しい展開を含み込んでいます。
 男の恋はとかくままならないもの。男は恋愛の訓練を積んでいない人が多いですし、恋の相手が男ならなおさらです。加えて大人の男には立場と体面があります。西田東はそのあたりを実に丁寧に描くのですね。焦点をあてて描かれる男は全員リーマンで、社会的地位が高い人も多いです。そうなると男たちは、男としての体面と恋心の間で悩み、苦しむことになります。それはよい結果になることもありますが、悲しい結果に終わることもあります。「失恋」とは、「社会的立場」と「恋心」のせめぎ合いの結果現れるのです。西田東は以前からはっきりとその傾向を持っていましたが、この本でも<社会的存在としての男>を描き出すのです。しかも強いリアリティをもって。ですから作品全体が強い説得力を持つことになります。やっぱり西田東は、大人のオトコの心の機微を描かせたら天下一品ですなあ。この辺りは「BL Diary」さん、「オレのやおいさんに手を出すな!」さん、「年下攻め本舗」さん、「日々是徒然」さんにも記述がありますが、同感ですね。

 いちばん好きな作品は、やっぱりヘタレ社長と有能秘書を描いた「オレの社長 僕の秘書」でしょうか。社長は坊っちゃん育ちなもんですから、秘書に頼りまくりです。秘書は「しょうがないなあ」と社長を支えます。そんなとき会社が不渡りを出しそうになります。すると社長は自ら積極的に会社を救うため動き出します。スケベ金融業者に体を売ることも厭いません。最後には返済のためマグロ漁船にまで乗っちゃいます。スーツのままで! しかもオホーツク海に!
 いやいやこの社長が実は人物的に深みのある人物だった、というところがいいんですが、西田東はとんちんかんな意味でもきちんと落とします。だって「マグロ」「スーツ」「オホーツク」ですよ。マグロは暖流の魚ですからオホーツクにはおらんですよ。「素晴らしい失恋」でも、レイプする男と内藤の間には、なんだか微笑ましい関係が生まれます。「あっゲロが」「ナイスキャッチ」など(なんのこっちゃ)。シリアスな展開に潜むギャグは、違和感をもたれるかもしれない要素です。ですがとぼけた絵柄にはマッチしていますし、なにより男のかわいらしさを描き出します。このギャグも西田東作品の醍醐味なんだと思いますね。

 大人のオトコはいいところばかりではありません。心をかきむしられるような辛さを感じたりします。この作品は、大人の痛みを存分に描き出した作品だといえるでしょう。ただ、痛いだけが大人ではありません。痛みがあるからこそ、その向こうに幸せがあるのです。西田作品は痛みの向こうにある大人の幸せも描こうとしているのではないでしょうか。

 最後に一言。いっやー、西田東の描くリーマンキャラって、本当にレイプされるのが似合うよなー。

竹書房
2008年1月28日発行
2007年12月27日購入

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2008年1月 8日 (火)

古街キッカ「洋6K2南向き」

 仕事に疲れ、心機一転をはかった前田が越してきた隣の部屋には、2年前ケンカ別れした元彼の佐藤が住んでいた。あいたくない、と思う前田だが、佐藤のバイト先は最寄りのコンビニ。携帯のメモリーも消去し、完全に吹っ切ったはずなのに。引っ越したため前田は極貧生活を送る。見かねた佐藤はご飯を作ってやったり、引っ越しの片付けをしてやったりする。給料が入り、佐藤におごり返す前田だが、前田の飲み方はだらしなく、べろべろに酔ってしまう。口うるさく世話をする佐藤、いろんな面でだらしない前田…「俺、なんでこいつがいいんだ?」と自問する二人。「Hertz」に掲載された作品を集めた短編集。

洋6K2南向き (ミリオンコミックス) (ミリオンコミックス)
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大洋図書  2007-12-27
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梅雨 友達攻×無計画不倫受
夏  年下学生攻×美人男ヒモ受
秋  メガネ不思議攻×路上詩人受
冬  元ヤン守る攻×アホの子守られる受
春  元彼しっかりメガネ攻×酒乱だらしない受(表題作)

 と、様々なタイプのカップルが描かれます。静かな「間」と、丁寧な心理描写で読ませる作劇の方法は前作『さくらにあいたら』と一緒ですね。それに展開は単調ではなく、生々しい要素も加わっています。梅雨の季節の作品「グッバイ・レイン」では、婚約者がいる男とつき合っている男が描かれます。もちろん婚約者との間で修羅場になるんですね。また夏の作品「熱帯夜のアストロロジー」では、美貌で世の中を渡ってきた受が、ひどいDVにあってボッコボコにされる姿が描かれます。もちろん最後にはBL的展開を経てハッピーエンドになるんですが、それに至る展開はかなり生々しく、痛みを感じます。古街キッカの作品は、絵はオサレ系というか、あっさりキレイキレイなのですが(そこも魅力ですが)、お話は重厚なんですね。加えて今回の作品集ではお話のバリエーションも増えています。

 それに全ての作品が、緩やかにリンクしているのがいいんです。作品の間には、作品どうしをつなぐ2ページのつなぎ部分があります。また一つの作品の主人公が、他の作品に登場します。路上詩人は他の作品のカップルに示唆を与える存在として出てきますし、メガネ不思議攻は街のゲイバーの常連として登場します。登場人物たちは、ひとつの街に住み、同じ時間と空間を共有しているように見えるのですね。そしてそれはリアルな空気感を生みます。登場人物たちが直接・間接につながることによって、本当に息づいているような感覚が生まれるのです。
 加えて作品が進むに従って、季節も移り変わって行きます。梅雨の季節に始まった単行本は、再び梅雨の季節に戻ってきます。そして最初に出てきた二人は、少し間隔が近づいています。時間の点でも広がりが感じられるのです。季節はめぐり、そして人生は進む。さびしい心を抱えた男たちの間にも関係が作られていく。ロード・ムービーのような感動が生まれるのです。
 登場人物たちが一つの街に住み、互いに交流しているという「空間的広がり」は、ヤマシタトモコ『くいもの処明楽』や、SHOOWA『Nobody Knows』で見ることができました。ですがこの作品は、季節が刻々と変化していくという「時間的広がり」もはっきりと意識しています(「年下攻め本舗」さんや「BL STUDY」さんでも指摘されていますね)。この作品は見た目は地味かもしれませんが、実に画期的な作品だといえるでしょう。

 あー、誰かこの作品を映画化しませんかねー。この作品に流れる空気感と緩やかなつながりを再現できたら、非常にいいオムニバス映画になると思うんですがねー。

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ネクラで眼鏡でキモオタな優等生は"受け"るとイイよ!さん
la aqua vitaさん

大洋図書
2008年2月10日発行
2007年12月27日購入

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2007年12月23日 (日)

内田カヲル「飴と鞭」

 中学教師の上総は、教え子の長谷川に対して秘めた欲望を抱いていた。普段は普通の高校生だが、上総を見るときだけは冷たい目で見るのだ。その視線になじられたい、いじめられたいと感じる上総は、長谷川の体操着のにおいをこっそりかごうとする。案の定その行為は長谷川に見つかり、上総は長谷川に激しく責められるようになる。放課後だけでなく授業中も責められる上総。それは苦しくもあるが、自ら望んだものでもある。長谷川は冷酷に上総を責めるが、時折優しい手をさしのべる。上総はその手にすがりついてしまいたくなる。そんなとき上総が肉奴隷であることが、上総狙いの同僚に知られてしまう。「麗人」に掲載された作品を集めたもの。

飴と鞭 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
飴と鞭 (バンブー・コミックス 麗人セレクション) 内田 カヲル

竹書房  2007-10
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 …くらい欲望ですなあ。上総は例によって2メートルくらいありそうなゴツ男です。ですが明確に、長谷川の冷たい視線でなぶられたい、意地悪されたいと願っています。嫌だ嫌だと言っていますが、実際教師という社会生活を営んでいく上で長谷川の責めは困るんですが、上総は責められることにこの上ない欲望を感じています。ゾクゾクしながら次の責めを待ち望んでいます。ヤバくなればなるほど満足も大きくなるのです。…困ったものですなあ。マゾの中の人も大変です。
 一方長谷川は中学生なんですが、もう立派なサドの貫禄を見せています。言葉責め、授業中バイブ挿入、じらしプレイ、たまーにみせる愛…お前の人生経験はどんだけじゃ! とツッコミたくはなりますが、サドとしての実力はたいしたものです。
 そして二人の間にあるのは強い愛と絆です。長谷川は上総を愛しているがゆえに、つい意地悪してしまうんですね。そして上総も長谷川の愛が本当なのか疑念を抱きますが、最後のところではそれを信じています。二人は最初からラブラブなんですね。見た目がハードな責めで、カムフラージュされているので見えづらいのですが、要はいつものアレなんです。ですので非常に安心して読める作品になっているといえましょう。ただ直球ではなく、「意地悪する」というガジェットが加わっているため、より人間の深みを表現しているといえます。人間の欲望や思いって底知れないですからね。
 それにしてもこの二人は、上総の貪欲で恥知らずな欲望を、せっせと長谷川が満足させてあげているようにも見えます。いやはや、サドの中の人も大変です。どうして人はわざわざこんなめんどくさい恋愛をするんでしょうねえ。…そこに人間の真実の一端が隠れているんでしょうが。

 もう一つ興味深いのは、「激男」に載った作品「魚屋のオッサンが。」が収められていることです(巻末)。「激男」といえば、ゲイ向け女性向けに関係なく、筋肉や体毛やオヤジ描写のキツイ男どうしの作品を載せるというアンソロジーです。作ってる側は内田カヲルを意識してるとしか思えませんね。漫画の内容はやっぱりいつものアレで、驚くほどゲイ作家の作品と違和感がなかったと記憶しています。ところがあとがきでは「自分がBL作家であることが確認された」と記されているんですね。自分の作品はあくまでゲイコミックとは違う、BLであると認識しているんです。私が見た限りではどこが違うのかよく分かりませんでしたが。ここには非常に興味深い事柄が潜んでいるように思いますね。実作者の側には、ゲイコミックとBLの方法の違いがはっきりと認識されているのです。これはゲイコミックとBLの間に、はっきりした裂け目があることを示します。ですがこれはBLとゲイコミックの間の差異を明らかにすることでもあります。違いが分かれば交渉ができますし、差異を乗り越えることもできるんですね。今のところ「激男」における男女作家の交流はまだ始まったばかりで、ゲイコミックとBLの差異もまだまだはっきりしませんが、こうした試みを通じて差異を洗い出していく中で、真のコラボレーションだ行えるのだと思います。また「激男」で描いて欲しいよな、と強く思いますね。

 あと、この作品集には、以前の作品のサイドストーリー的な作品がいくつか収められています。作品の関連は「Yes! 腐漢ライブラリー」さんに詳しく載せられていますので、そちらも参照されると良いかと思います。

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マヨイガアーカイブさん

竹書房
2007年10月27日購入

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2007年12月22日 (土)

上田規代「同級生」

 かわいい系の久保は、テニス部の西崎先輩が大好き。ところがクラスメイトの朝倉にはしゃいだ様子を冷たく突っ込まれて以来、朝倉のことが大嫌いになり、部活も休みがちになっている。西崎先輩から部活に出るように勧められるが、それは朝倉が手を回したためだった。部活でなにかと気を回す朝倉をうざったく感じる久保だが、いつも目が合うので次第に気になっていく。そして西崎先輩が「男を好きになるなんてあり得ない」と言っているのを聞いてしまう。上田規代2冊目の単行本。

同級生 (ミリオンコミックス 40 Hertz Series 27) (ミリオンコミックス 40 Hertz Series 27)
同級生 (ミリオンコミックス 40 Hertz Series 27) (ミリオンコミックス 40 Hertz Series 27) 上田 規代

大洋図書  2007-08-30
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 かわいい男の子をかわいく描くのは、実は結構難しかったりします。「かわいい」に重点を置きすぎると性別受になってしまいますし、「男の子」に重点を置きすぎるとやんちゃショタになってしまいます。高校生くらいの微妙なお年頃のかわいさを描き出すのはもっと難しいものです。だいぶ大人になってきていますから。ところが上田規代の描く男の子は、ちゃんとかわいいんですね。第二次性徴を迎えて、身長も伸びていて(それでも周りより小さいですが)、リアルな男らしさも持っているんですが。この久保がかわいいんですよ。見た目がかわいいだけでなく、高校生が持っていそうな意地と、もう少し子どもっぽい無邪気さ、そして目覚めはじめた恋心が同居しているんですから。これはもうソノ気がなくてもかいぐりしたくなります。
 かわいい系の絵柄は、時としてかわいさが突っ走ってヘンテコになってしまったりします。最近の山本小鉄子がいい例ですね(かわいい極道というのもギャップの楽しみがありますが)。ですがこの人の絵にはちゃんと男性が住んでいます。それになんといっても清楚なんですね。純粋にキレイさかわいさを楽しむことができます。紺野キタや穂波ゆきねも同じスキルを持っていますが、上田の清楚さは決して負けるものではありません。

 そしてお話もこれから伸びる可能性を感じさせます。男の「抑制」や「複雑さ」を分かっているんですね。かわいい高校生は自分の恋心に戸惑います。リーマンは次の一歩を踏み出していいものかどうか迷います。展開は一筋縄では行かず、二転三転します。この迷い方がいいんですよ! で、最後はハッピーエンドになる。これこれ。最後にもたらされる安心感こそボーイズなラブのキモですよ。

 このところ多士済々、個性のかたまりみたいなニューウェーブばっかり読んでいたので、オーソドックスなボーイズラブはもう読めなくなっているかな、と思っていたのです。ところが実際読んでみると、こういうのもたまんなくいいですなあ。正統派の、綺麗な絵の作品は萌えが違いますし、お話もいいですから。三浦しをん先生ご推薦というのもよく分かります。今後の成長が楽しみな作家です。

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詞の音さん
ムスカリアさん

大洋図書
2007年10月10日発行
2007年11月15日購入

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2007年12月10日 (月)

古街キッカ「さくらにあいたら」

さくらにあいたら さくらにあいたら
古街 キッカ

大洋図書  2007-07-02
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 舞台は東京郊外の進学校。入学してから半年、神原は同じクラスの松永をずっと見つめてきた。松永はきれいな顔を武器に、蝶のように女をとっかえひっかえしているような男だったが、蒲原は松永に一目惚れして以来、松永から目をそらすことができなかったのだ。特定の相手を決めず飛び回る松永に対して、苦しい思いを抱く神原。幼なじみでしっかり者の女子・沢田に相談するも関係は進展せず、ついに神原は松永に告白してしまう。拒絶する松永だが、自分が女をとっかえひっかえしているのはなぜだろう、と自問するようになる。著者の初単行本で、「CRAFT」に連載されたもの。

 神原は自分がゲイだとはっきり自覚しています。中学のときにゲイであることが周囲に知られてしまい、酷く傷ついたことがあります。そのため好きという気持ちを行動に移すことは強くためらいますが、松永を好きという気持ちは強く持ち続けます。しかも意地っ張りで一本気で努力家です。とにかく頑固なキャラですね。セクシュアリティも行動も。
 一方松永が女をとっかえひっかえしているのには理由があって、父親が女を作って出て行ってしまい、母親に厳しく束縛されているからなのでした。父親の行動と母親の束縛から、女性たちのいう「ずっと一緒にいて」という言葉を信じることができなくなっているのですね。人の気持ちを信じられないからつきあいは続きません。そして自分に思いを寄せる男なら裏切らないかもしれない、ということで、わざと神原を誘うような行動を取ります。そうした心に傷を負った男二人が、ゆっくりと接近して、反発しながらも最後に癒しを得るという展開は、それだけでも魅力を持っています。
 ですがこの作品の最大のキモは、二人の良い相談役となる沢田でしょう。沢田は形の上では神原とつき合っていることになっていますが、それは神原を周囲の噂から守るためです。それはなぜかというと、実はずっと神原のことが好きだったためです。沢田は神原の一本気さ、隠れて努力するところが好きなんですね。神原は沢田に惹かれていますが、セクシュアリティも頑固なので、沢田を性や恋愛の対象にはできません。沢田は自分の恋が叶わないことを嫌でも気付かされるのですね。そこで沢田は神原と松永の恋をサポートする側に回ります。BLには男二人を結びつけるこうした女性キャラ、「やおイタコ」が時折登場しますが、沢田はこれまでのやおイタコとは決定的に異なっています。沢田は惚れた男のために二人をくっつけるますが、それは自分を犠牲にするタイプの献身ではありません。もちろん献身という面もありますが、なんといっても自分のためです。神原に惚れていたという事実に嘘をつかないためでもありますし、前の恋を吹っ切り、自分が次の恋に向かうために、二人を応援するのです。沢田は状況に振り回されるだけの存在ではなく、自分のために自分の道を切り開いていくのです。
 ですから沢田は本当に「いい女」として描かれているのですね。沢田はさばさばしたキャラで、男っぽいはっきりした面を持っています。ですが神原に恋する女性でもあります。そして自分の恋と未来を積極的に選択していく、主体的で活動的な女性です。こうした女性キャラはBLではあまり例がありませんでしたし、ここまで物語に絡んでくる例もほぼ皆無でした。その意味でこの作品は非常に画期的だといえるでしょう。BLでもあるのですが、実はこれ、女性の選択と行動の物語なんですね。BLという表現がまた一歩先に進んだということがよく分かります。まあこのことは、BLにおいて女性はきわめてぞんざいに扱われがちであることも、如実に示すんですが。

 BLという枠組みではありますが、この作品が描き出す恋愛の姿は、現実の様々な恋愛の姿にもつながってきます。特に沢田の、自分の恋は自分で選ぶという姿勢は、多くの人に訴えるのではないでしょうか。ですからBLという枠組みにとらわれず、いろんな人に読んでほしいと思います。もちろん男性にも。
 これが初単行本だというんですから、本当にびっくりです。これからの活躍にも注目する必要があるでしょう。

大洋図書
2007年8月15日発行
2007年7月2日購入

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2007年12月 8日 (土)

井上佐藤「エンドルフィンマシーン」

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井上佐藤

竹書房  2007-10
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 ある整体院の院長・五樹は怪しいと評判だ。施術室からは患者の怪しい声がしてくるし、ウェーブした髪、潤んだ瞳、整った顔立ち、ブランドに身を固めた出で立ちと、とても整体師とは思えないのだ。戸川は本部からその噂が本当か確かめるため派遣されてきた。しかし怪しい声がするのは五樹の技術が確かなためで、遊んでいる様子もない。そして恋愛に対してはむしろ距離を置いてきたことが分かる。五樹は女性に道具のように体を求められるだけで、何度も捨てられてきたのだ。戸川は五樹の誠実な態度と傷ついた心を知り、急速に惹かれていく。そしておそるおそる結ばれた二人は、麻薬のようなセックスにはまっていく。「麗人」でデビューした新人の初単行本。

P32  いっやー、エロい! エロすぎます。なんたって筋肉描写や体位がリアルです。絵の勉強をきちんとしているか、男性をよく観察していることが分かります。なによりエロいのがその表情です。大人の男の多くは、社会の中で自分の本心や欲望を押し殺してしまうものです。ですが本当にせっぱ詰まったときには、つい隠したものが見えてしまいます。それは特に視線に雄弁に現れます。井上佐藤はその危うい瞬間を見事に描き出します。これまた男性をよく観察していることが分かるのですね。必死に体面を保とうとしているのに、崩れてしまう男のエロスたるや! これに加えて眼鏡や白衣などの萌え強化アイテムが加わります。眼鏡越しのエロ視線です。なんの罠ですか、これ?
 物語の面でも非常に微妙で危ういところを描き出します。登場する男たちはみんな男を愛してしまったことにとまどいと迷いを感じます。そのため次の一歩を踏み出すことをためらいます。男という属性をまとわなくてはならないために、素直になることができないんですね。あるいは男たちは自分の思いを素直に示すことができないでいます。本当は愛しているのに、甘い関係になりたいのに、傷つけてしまったりいじめてしまったりします。これまた男の素直じゃなさ、素直になれないことを示します。このもどかしさが強烈な萌えを構成するんですよ! そしてこのもどかしさは、男性にとっても実に身に覚えのある、生々しいものだったりします。ここからも男性をよーく観察していることが分かるのですね。そして男性にとっても共感できる内容になっていると思います。

 面白いのは、コンドームをつけたセーファーセックスが描かれるんですね。これはかなり珍しいんじゃないでしょうか。しかも行きずりのセックスの時だけセーファーです。これは生々しいリアリティを持っていますね。それにあとがきでは、作者が新宿二丁目でマンガを描くことを勧められたことが描かれています。この人男性なんじゃないでしょうか? もしそうだとしたら、かなり興味深いことですね。確かに男性向けと女性向けの境界は、最近急速に低くなっていますが、男性でいわゆるBLを描く人は、ほとんど例がありませんから。女性の心をキュンキュンさせるBLを描ける男性が現れたのであれば、越境は本格的に進行してきたと言えるでしょう。またもし女性だったとしても、ここまで男性の心理や肉体をきちんと描写した例はあまりありません。
 いずれにしても注目すべき作家でしょうし、読者を引き込むマンガの実力もたいしたものです。この作家に注目せずして何を、と感じさせる作家ですね。次の単行本を早く! 早く!

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オレのやおいさんに手を出すな! さん
ネクラで眼鏡でキモオタな優等生は“受け”るとイイよ! さん
BL偏食日記さん

竹書房
2007年11月27日発行
2007年11月1日購入

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2007年12月 6日 (木)

宮下キツネ「おいでませ新婚さん」

おいでませ新婚さん (ビーズラビーコミックス) おいでませ新婚さん (ビーズラビーコミックス)
宮下 キツネ

エンターブレイン  2007-11-15
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 ボクは円、男の子だけど俊弘さんのお嫁さん☆ 俊弘さんがボクの朝一番のミルクを飲みたいっていうから、また遅刻しちゃった。俊弘さんのために家事とか料理をするけれど、ぜんぜん上手くならないので練習しているんだ。俊弘さんはボクの通ってる学校の先生なんだけど、他の生徒からも大人気なんで気が気じゃない。負けないようにするために、夜のおつとめを頑張るゾ☆ 宮下キツネ3冊目の単行本。

 えーと、私が発狂したのではなくて、全体を通してこんな感じです。いやもうヒドいヒドい。こんなにかわいい少年がヒドい目に遭わされる作品って見たことねえです。じゅるり。少年たちはクラスメイトや先輩や先生にさんっざんに汁気たっぷりにヤラレちまいます。それは少年たちがかわいすぎるのが悪いんです。男の子たちは細くて小さくて上目遣いで半ズボンなので、そのへんの女の子よりはるかにかわいいのです。言い寄られたり犯されたりするのは当然なんです。そして男の子たちも自分がかわいいことに気付いているので、かっこいい男の彼女…じゃなく彼氏になることに、なんの疑問も抱きません。ボクはちっちゃくてナヨっとしているので、かっこいいあの人に守ってもらわなきゃとマジで思っていたりします。性別受っぷりは前2作よりさらにヒートアップしています。そしてそのかわいさもよりすさまじく、暴力的といっていいレベルになっています。いやー、かわいい少年はいいですなあ。やっちまいてえですなあ。ハァハァ。
 で、宮下作品において、誰でもホモ関係になるかといえばそうではありません。ある性別受のファン二人(普通の高校生)が、性別受がさんざんにヤラレているところをのぞき見てハァハァし、自分たちもやってみるか、という流れになる作品があります。そこでどうなるかというと…「それはないな」「相手にするなら女だな」と、全然その気になりません。ホモ関係が許されるのはかわいい男の子だけなんです。それにここだけ「ホモなんてありえねー」と妙に常識的です。常識外れの性別受を描いているのに!

 とまあここから、「本当は同性愛はダメ」「ホモ関係が好きなのではなくて受のかわいさが好き」ということが分かってきます。つまりこれまでのジェンダーや性的嗜好のあり方から全く抜け出していないのですね。むしろそういう面から見ると保守的・封建的といえるかもしれません。弱くてかわいい受は受になって当然、襲われて当然、周りの男は襲うぐらいが元気があっていいという。ただその姿勢はふたつの興味深いことを明らかにします。
 ひとつは受が徹底的にモノ的に扱われることです。すでに前2作でもその傾向は見えていましたが、この単行本ではより徹底しています。そしてそれは「かわいいものを消費して何が悪い」という開き直りがはっきりしていることの表れです。つまり女性が男の子のかわいさを搾取するんだ、という高らかな宣言なのです。それは男性に対する抑圧でもありますが、解放でもあることはすでに述べてきました。男性は性の主体でなく客体になることもできるのです。またモノ的に扱われることは快楽の源泉でもあります。社会的存在であることをやめ、単に快楽を感じるだけの存在になれるのです。
 そしてもう一つは、女性もまた男性的な「マッチョ」な視線を持っているということです。ぶっちゃけた話この作品は、ほとんど男性向けエロ漫画と変わらない構造になっています。かわいいから犯す。受がかわいすぎるからいけないので、自分のせいじゃない。受は女の子よりかわいいから、犯す視線で受を見る自分はホモじゃない(=まっとうなヘテロセクシュアルである)。ホモフォビアを持っていることにすら気づかない男性の視線とほとんど変わらないのです。それは女性が性的により自由に・能動的になっていることを示すでしょう。性を搾取することに無頓着でいられるようになっているのです。もちろんそれは新たな搾取を生みますけどね。そして男性にとっても、この作品が簡単に受容できることを示します。男性向けエロマンガとほとんど地続きの読み方が可能なのですから。そう、この作品は「美少女漫画は男性向け」「BLは女性向け」という枠組み自体をぐらぐらにしているのですね。

 いやー、性に対する見方は変わるとはいいますが、宮下作品を見ていると男性性や女性性が本当にぐずぐずになっているのが分かりますね。確かにそれは男性的な見方が再生産されていることなのかもしれませんが、男性の見方も受になることによって解体されていきます。また確かにカオスでもあるのですが、男性も女性もジェンダーによってがんじがらめに縛られている現在、枠組みを揺るがすことも重要でしょう。やっぱり「もっとやれ!」と応援したくなりますね。もっともっと無意識過剰で突っ走って欲しいものです。突っ走れば突っ走るほど、大切な何かに近づいていくんだと思いますよ!

 以前の記事もご参照ください。
・ストップ! ご主人様
・少年料理法

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ネクラで眼鏡でキモオタな優等生は“受け”るとイイよ! さん

エンターブレイン
2007年11月27日発行
2007年11月27日購入

ストップ!ご主人様 (光彩コミックス Boys Lコミック) ストップ!ご主人様 (光彩コミックス Boys Lコミック)
宮下 キツネ

光彩書房  2005-10-17
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少年料理法 (光彩コミックス) 少年料理法 (光彩コミックス)
宮下 キツネ

光彩書房  2007-07-28
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2007年12月 4日 (火)

SHOOWA「NON Tea Room」

NON Tea Room (花音コミックス) NON Tea Room (花音コミックス)
SHOOWA

芳文社  2007-11-29
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 ベース弾きのケンタ(長身、細い)とギター弾きの連次(ちっちゃい、かわいい)。二人は別のバンドに所属していたが、同い年で同じバンドが好きな二人は意気投合し、つるんで行動することが多くなる。連次はリーダーのアーサーをかっこいいと思い、頼み込んでバンドに入れてもらったのだという。プロを目指しているけれど、もう一人のギタリストにテクニックで勝てず、自分の立ち位置をはかりかねている。ケンタは音楽を自分の仕事にできるとは思えず、将来に不安を感じている。連次はケンタに抱きついたりちゅーしたりするようになるが、連次がアーサーに思いを寄せているのは明らか。男どうしのじゃれあいだと思っていた。しかしライブの後、アーサーが女と親しそうにしているのを見てしまい、そしてその場に連次が居合わせているのも見てしまい、大きく動揺する。そしてケンタは思う。連次の居場所になれるなら、自分はアーサーの代わりでもいいと。前作「Nobody Knows」に収録された、ススムとモドルのその後も収められた作品集。

 ケンタの思いは非常に複雑なものです。そもそも将来に見通しが立っておらず、どのような選択をすべきかも分かりません。それにバンド活動に将来を見いだすこともできません。ですから高まってくる連次への思いもはっきりさせることができません。自分自身でごまかそうとしてしまうのですね。加えてケンタには、傷ついた連次を勢いで抱いてしまったという負い目があり、連次の思いが永遠にかなわないことも知ってしまいます。ですからケンタは一度連次を拒絶します。玄関のドア一枚はさんで連次はケンタを呼びます。ですがケンタは答えません。連次は携帯でケンタを呼びます。すぐそこにケンタがいるのに! 体の距離は近くても心の距離は遠ざかっている、このシーンはそれを象徴的に示して、ガツンと心を打ちます。
 ですが二人は再び近づいていきます。ケンタと連次はそれぞれ自分の気持ちに整理をつけ、二人で歩んでいくことを選びます。ゆっくりとですが二人は回復していきます。それは薄皮を一枚一枚はがすようにゆっくりとしたものですが、そうやって重ねた二人の行いの向こうに二人の絆が見えてきます。
 派手な演出は何もありません。セックスシーンも地味なものです。ですがSHOOWAは丁寧な視線と表情の交錯を通じて、淡々と物語を積み重ねていきます。ざっと読み飛ばすとわかりにくい展開なんですが、丹念に読み込んでいくとそこには思惑のすれ違い、ぶつかり合いがあって、深い物語が語られていることが分かります。深く読み込むことを要求する作品ではありますが、読み解けたときの衝撃力はすさまじいものがあります。はっと気付いたときにはぐいっと心を持って行かれているのですね。

 それから、ススムとモドルのその後が描かれているのもいいんですね。ススムという存在の謎が解けるだけでなく、モドルがススムに対して取り替えのきかない思いを抱いていることが分かります。前作では続きが気になる終わり方をしていましたが、2冊続けて読むと綺麗に終わっていることが分かるのですね。

 前作のようなパンチ力の強いギャグがないのは少しだけ残念ですが、ガンガンシリアスで攻めた内容は、期待をはるかに上回る素晴らしいものだったのでした。登場人物の細かい表情や仕草で物語を積み上げていく方法論の作品で、ここまで深みと余韻のある作品は、私は出会ったことがありません。静謐だからこそ雄弁なんですね。2007年ももうすぐ終わりですが、間違いなく2007年のベスト候補の作品なのでした。前作「Nobody Knows」と、一気にセット読みすることを、強く強く強くオススメしたいと思います。

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BL Diaryさん
la aqua vitaさん
霖雨の彼方さん

芳文社
2007年12月15日発行
2007年12月1日購入

Nobody Knows (花音コミックス) Nobody Knows (花音コミックス)
SHOOWA

芳文社  2007-03-29
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2007年12月 3日 (月)

鬼嶋兵伍「ジョカトーレ、捕獲計画。」

ジョカトーレ、捕獲計画。 (バンブー・コミックス 麗人セレクション) ジョカトーレ、捕獲計画。 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
鬼嶋 兵伍

竹書房  2007-11-07
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 ケンジはゲイバーでさびしそうにたたずんでいた青年、昇輝をナンパする。昇輝はガタイはいいが、いつも体にアザをつけていて、その事情をケンジに話すことはない。最初はいつものセフレのつもりだったが、ケンジは次第に昇輝にのめり込んでいく。本心をしゃべってくれてないと気に病むケンジに、バーのママが差し出したのは、プロレスのチケットだった。そこでケンジは悪役レスラーとしてリングに上がっている昇輝を見る。普段の気弱な顔とは全く違い、楽しそうに相手をいたぶっていたのだ。そしてケンジは昇輝を、リングを模したベッドのあるホテルに誘う。「麗人」に掲載された作品を集めた、著者の初単行本。

 なんたって絵の迫力が違います。筋肉描写にリアリティがありますし、表情は色気たっぷりです。絵柄を見るだけでもエロくていいんですよ。ハードでリアルな表現は現在の潮流ではありますが、絵がめちゃくちゃ上手いために、頭ひとつ抜けている感があります。それにお話の幅が広いのもいいところです。あらすじに挙げた作品の他に、田舎の祭り囃子、サッカー、ロック、美大生…。今っぽいもの、ワルっぽいもの、リアゲイっぽいもの、それぞれちゃんとそれっぽく描いています。どちらかというとアンダーグラウンドな文化に惹かれているようなんですが、ほのぼのラブラブもちゃんと描いています。引き出しの多さを感じますね。

 あと、男の執着に対してこだわりがあるのがいいんです。ずっと好きなのに思いを伝えられない、でも好きな相手を離したくないっていう。強く執着しているけれど気持ちを伝えられないため、どんどん緊張感が高まっていきます。それが爆発した結果二人は結ばれるので、非常に強いカタルシスが生まれるのですね。しかもエローい筋肉描写込みで。で、この執着というのは、ノンケの男にもなじみのあるものです。気持ちを伝える訓練を積んでいない男は結構多いもので、そういう男は「言いたいけど言えない」というのがデフォだったりするんですね。だから読んでいて身につまされるのです。それにこの執着へのこだわりは、もう一つ重要なことをもたらしています。攻めがヘタレっぽくなるんですよ! 次の一歩を踏み出すことにためらう、というのがヘタレのキモだと思うのですが、それは存分にこの作品で生かされています。そしてこの作品集では、そうしたヘタレはメガネで長髪なんですよ! 男としては男っぽいんですが恋愛としてはヘタレ、そして長髪。そしてメガネ。こ、これはヤバスギル!

1 こういう人とか

2 こういう人とかが。

 あと全体にハードコアな感じで、本人もおっかない人かと思っていたのですが、あとがきがカワイイんですね。お父さんに「麗人」を見せたりして一家団欒とかしてます。ほんとにハードなものは家庭的なところから生まれるのかもしれないですね。

 井上佐藤と同じく、単行本発売を待ち望んでいた作家でしたが、改めてまとまってみるとクオリティの高さに驚きです。こういう作家たちをぼんぼんと輩出する「麗人」のポテンシャルの高さを実感しますね。次回作も甚だしく期待しています。

竹書房
2007年12月7日発行
2007年11月27日購入

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2007年9月13日 (木)

さかもと麻乃「かわいい」

かわいい (バーズコミックス ルチルコレクション)Photo かわいい (バーズコミックス ルチルコレクション)
さかもと 麻乃

幻冬舎  2007-08-24
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 小町が保健室に来るようになったのは3週間前。保険委員の来杉は、ケガだらけの小町にびっくりする。小町はどこかうっかりしていて、木にぶつかったり、ビーカーを割ったりして、いつもどこかケガしている。小町を手当てしてみて、来杉は小町の腕がフカフカなのに驚く。小町をもっと触りたいと思う来杉。小町が保健室に来るのも、来杉がいるときに限られているという。とうとう来杉は小町に言ってしまう。「小町のこと好きかも」と。「ルチル」に掲載された短編をまとめたもの。

 ばっちりした目、さらさらの髪、ちっこいのでいつも上目遣い、透けるような白い肌。さかもと麻乃が描き出す男の子はみんな冗談のようにかわいいです。男の子を徹底的にかわいく描くタイプの作家は結構いますし、ロリショタ系として一つのジャンルを形成しています。ですがロリショタという言葉は半ば蔑称で、「そんなかわいい子いるわけないじゃん」という虚構性をベースにしています。ロリショタはあり得ない存在だから魅力があるのです。
 ところがさかもと麻乃の描く男の子は、確かに暴力的にかわいいのですが、本当にいそうな感じが強いんですね。ほら、たまにいるじゃないですか。声変わりが遅れていたり、成長が人より遅かったり、末っ子で甘え慣れていたり、男なのに吃驚するほど線の細い子が。男子校で姫扱いされるような男の子ですね。ここで描かれる男の子は、確かにものすごくかわいいのですが、本当にいそうなリアリティを持っています。それに性格設定がすごく「男の子」なんですよね。ツンツンしてたり、言うこと聞かなかったり、変な見栄があったり、やんちゃだったりと。そのリアリティがヅキュンと強い破壊力を持つんです。

 一方お話のほうもなかなか練られています。まあ初期の作品はまだまだこなれていないところがあったり、荒唐無稽なところがあったりします。ですが新しい作品になるにつれて、メキメキお話が上手くなっていくのですね。とくに巻末の「好きなので」は、異性愛コードを入れることによって、お話に深みを出すことに成功しています。受は以前攻から告白された過去を持つが、そのとき受は攻を振ってしまう。その反動か、攻は女をとっかえひっかえするようになり、受は気が気じゃない。一方受は先輩の女性に童貞を奪われそうになる。攻がこちらを振り向いてくれないのなら、女を抱いてもいいかなと思う…というものです。まあこの女先輩は当て馬なのですが、積極的に受を誘惑するのが面白いですね。そして受は性欲に押し流されそうになりながら、結局は攻を選ぶのです。単に「二人は両思いだから」ということでハッピーエンドにするのではなく、状況に流される中、結局受と攻はお互いを選ぶというストーリーになっているのです。これは萌えますなあ! 番外編ではふたりの初々しいセックスが描かれます。これまた萌えますなあ!

 「コミックエール」でも活躍中のさかもと麻乃。かわいい作画は百合っぽい少女漫画でも健在です。ですがやっぱりBLの方が似合っているように感じますね。女の子はかわいくて当然ですから。かわいいとは限らない男の子をかわいく描くところに強い衝撃力が生まれるのです。BLでもどんどん作品を発表して欲しいものです。

TB先
こんな本読みましたさん
ネクラで眼鏡でキモオタな優等生は“受け”るとイイよ!さん
 

幻冬舎
2007年8月24日発行

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2007年9月 8日 (土)

深瀬紅音「恋はすぐ隣」

恋はすぐ隣 (GUSH COMICS) 恋はすぐ隣 (GUSH COMICS)
深瀬 紅音

海王社  2007-08-10
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 萌(もゆる・かわいい系・兄)と冴(さゆる・体育会系・弟)は二卵性の双子の兄弟。両親が離婚したため一時離ればなれだったが、復縁したために同じ学校に通っている。萌はずっと誰にも言えない思いを抱いていた。それは冴を好きになってしまったこと。男どうしだし、何より離れることができない兄弟であるために、萌は苦しむ。しかし我慢しきれずに寝ている冴に触れてしまい、その思いはばれてしまう。俺も萌のことがが好きだった、という冴に対して、萌はまだ信じることができない。「たとえ好きだって両想いだって知ったって…恋人みたいになれないんだから余計苦しいだけだよ!」
 「ポケット・センチメンタル」のシリーズだが、萌と冴の関係に重点を置いているので、単体でも読める作品。「GUSH」に連載されたもの。

 ボーイズ・ラブというと、ホモ上等というところがあって、男どうしがするっと恋愛関係になってしまうことが多いものです。「男とか女とか関係ない、お前が好きなんだ!」というBLの常套句は、その無理さを隠蔽するためのワイルドカードだったと言えるでしょう。「好きという気持ちがあればよい」「ホモ関係に由来する苦しさとは無縁である」という宣言だったのですね。この「切り離し」があったために、BLはJUNEのくびきを離れ、急速に一般化したといえます。ですが、これがBLを観念の遊びにしてしまった感は否めません。なんたってそんなカポーは目に見えるところにはいないんですから。
 ただBLという言葉ができてから10年以上経ち、BLも成熟してきました。そうなるとBL表現も深まってきます。キャラクターの内面も丁寧に描かれるようになってきます。この作品はまさにその過程を経て描かれたものと言えるでしょう。萌も冴も葛藤します。抱いてはいけない思いを抱いてしまい、悩み、苦しみます。世間との関わりも考えなくてはなりません。それがいいんですよ! 加えて萌と冴の苦しみは、非常に細かく、リアルに描かれます。思いが通じ合った後も二人はいろいろ悩みます。それは当然でしょう。兄弟という障害、男どうしという障害があるのですから。これはBLを読まない男性にも生々しく感じられる葛藤です。その生々しさが作品に強い説得力を与えるのです。
 このように二人は悩むのですが、二人の想いは、そうした障害を乗り越えるほど強いものです。我慢しきれなくて二人が重ねる唇、嬉しさのあまり萌が流す涙は、二人の想いの強さを如実に示します。そして二人は逃げるのをやめ、二人で生きることを選びます。それが強いカタルシスを生むのです。これはたまりません!

 そうした説得力のある物語が、もろ私好みの深瀬紅音の絵で語られるわけです。もう萌とかもの凄くかわいいわけですよ。涙とか流しちゃうわけですよ。加えてセックスシーンも逃げがなく、しっかりしています。かわいい絵でハードな描写ですし、かわいい絵でしっかりした男性の骨格になっているのは、確かにちょっと不自然に見えます。ですがしっかりした描写はリアルさにもつながっています。

 ロリショタ系なので、かわいいだけの作品に違いないと、見てくれだけで判断してはいけません。この作品は非常に深みのある作品です。そして男性にとっても強く響く作品になっているといえるでしょう。見た目が取っつきやすいですし、物語も男性にとって心当たりのあるものですから。だから是非男性に読んでほしい作品ですね。

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霖雨の彼方さん

海王社
2007年8月20日発行
2007年8月26日購入

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2007年9月 7日 (金)

天城れの「獣耳商事」

獣耳商事 (Dariaコミックス) 獣耳商事 (Dariaコミックス)
天城 れの

フロンティアワークス  2007-08-22
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 獣耳商事(けもみみしょうじ)は、人間に役立つ愛玩動物を人化させ、依頼主に派遣する企業。依頼主はペットとして社員を扱えばよい。そして依頼主は必要ならば、社員を身請けして永久就職させることもできる。
 傾きかけた典男のデザイン会社にやってきたのは、長身でスーツが似合うウサギ、稲葉だった。人当たりの良さと高い能力で、稲葉はすぐに会社の人気者になり、会社の成績も上がる。自分は必要とされていないと思い、典男はみじめな思いをする。稲葉を置いてひとり出張に行ってしまう典男。ところがウサギは寂しがりや。残された稲葉はシオシオになってしまう。神社の巫女(でも当然男)とセックスするとどんな恋でもかなう! という設定の「コイミコ」も収録された短編集。

 お話そのものは実に真っ当なお仕事ものBLです。すねちゃった典男と稲葉の距離は一時的に離れてしまいます。ですがその距離が、二人の切り離せない思いをはっきりさせます。「やっぱりお前と離れることはできない」と。結局典男と稲葉は無事結ばれて、めでたしめでたしとなります。うんうん、いい話です。それからネコミミやウサミミのキャラが出てきて、主人公と恋愛関係になるっていうのもよくある話です。この作品でもカワイイネコミミキャラや犬耳キャラやウサミミキャラが出てきます。そしてそれが上手く物語に絡んできます。
 とまあ、お仕事ものとしてみても、ケモ耳ものとしてみても、実に真っ当な作品になっているといえるでしょう。ですがケモ耳キャラがお仕事をするようになると…しかもスーツをバッチリ着こなしてとなると…とたんにヘンテコな雰囲気がかもし出されるのです。すっごい優秀なリーマンなのにウサミミです。最高の執事なのに犬耳です。お話が真っ当なのでごまかされてしまいそうになりますが、ちょっと待ってください。異様な存在がそこに紛れているではないですか。ウサミミが! ネコミミが! 犬耳が! だんだん変な気分になってくるんですよ。自分の常識は大丈夫だろうかって。

 天城れのといえば、変な要素を無理矢理つなぎ合わせたBLを得意としてきました。そして見るからにオバカな展開を得意としてきました。この作品はそうした直球勝負のオバカっぷりは影を潜めています。ですがバカさは健在で、ジワジワくるオバカさへと変化しています。やっぱり天城れのは天城れのだな、と安心したのでした。

 そしてこの「ジワジワっぷり」は、お話作りに大きく拠っていることを忘れてはなりません。お話がちゃんとしたラブストーリーになっているので、ウサミミ、ネコミミが見えにくくなっているのです。なので今後は、バカ要素を一切抜いた作品で勝負しても面白んじゃないかな、と思いますね。

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霖雨の彼方さん
BL STUDYさん

フロンティアワークス
2007年8月20日発行
2007年8月26日購入

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2007年9月 6日 (木)

鈴木ツタ「この世異聞 其の弐」

この世異聞 其ノ2 (2) (ビーボーイコミックス) この世異聞 其ノ2 (2) (ビーボーイコミックス)
鈴木 ツタ

リブレ出版  2007-08-10
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 「この世異聞」の第2巻。セツがなぜ昭雄の家を守るようになったかが描かれる。時は江戸時代頃か。結構いい歳のおっさん・小太は、割れた器を直す不思議な力を持っている。その力のために金持ちから狙われる小太。それを守るために現れたのは、小太の昔なじみの森羅だった。森羅になつく小太のもらわれっ子の小次と、小太の実の娘の壱加。壱加は森羅に恋心を抱くようになる。ところが小太と壱加はとばっちりで祟られ、死の淵に面する。森羅は行動を共にしてきたあやかし・万象と合体して、小太とその一族を守ろうとする。

 まあセツは犬神みたいな不思議な存在でしたし、1巻で伏線が張られていたので、セツの過去は語られなければならなかったんでしょう。ただちょっとビミョー…。現代編が面白いので、それに比べちゃうと蛇足感が漂うのですね。なんたって現代編のキャラの立ちっぷりは相当なものがありますから。
 ただ過去編でもキャラが工夫されているのが良いですね。小太はいい歳のおじちゃんなのに中身はお子ちゃまのお馬鹿ちゃんですし、森羅に恋する小次の姉ちゃん・壱加は綺麗な、濃いに悩む存在として描かれてますしね。

 現代編に戻ってくると、1巻の魅力は戻ってきます。昭雄はイヤダイヤダと言いながら、実はセツのフェロモンと肉体に抗えなくなってきます。最終的には「とっくにお前のだよバカ」とか言ってます。うひょー、いいデレ! それに対してセツもケモノの本性を丸出しにして、がっちゅんがっちゅん昭雄をむさぼっちゃいます。ちんこがわんこ化してしまって抜けなくなるという描写もあります。うひょー!
 この作品はバイプレイヤーの存在感があるので、他のキャラの出番が少なくなるとちょっと魅力が減少してしまいます。特にエピキュリアンの所長ですよ! カワイイオヤジですよ! 物足りないのは所長の出番が少ないからなんですね。ただセツの過去はもう出てきたので、次の巻で所長と鳩木のロマンスとか描いてくれるんじゃないかと期待しています。

 後はお酒に対する愛があるのもいいですね。久保田の得月とか出てきますから、嬉しくなっちゃいます。純米大吟醸ですよ! こういううんちく語りはやりすぎちゃうと興ざめなんですが、上手く使うと作品の印象をぐっと強めることができます。トジツキハジメの鉄道ものなんかもそうでしたしね。今後もうまーくお酒ネタを使って欲しいものだと思います。

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BL偏食日記さん
こんな本よみましたさん
にゃんこのBL徒然日記さん

リブレ出版
2007年8月10日発行
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2007年8月27日 (月)

西田東「天使のうた」1

天使のうた 1 (1) (ディアプラスコミックス) 天使のうた 1 (1) (ディアプラスコミックス)
西田 東

新書館  2007-07-30
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 医者のミシェルは4年前、事故で妻と息子を失い、いまでもその痛手から立ち直りきれないでいる。手違いで男娼街に入り込んだミシェルは、10年前に出会った聡明な少年、アレックスが町に立っているのを見つける。アレックスの父クリスは高名な音楽家であった。息子のように思っていたアレックスが父親から放任されているのを見かねて、ミシェルはクリスに文句を言いに出かける。そこでミシェルが見たのは、快楽のために男に抱かれているクリスの姿だった。「Dear+」に連載された作品の第1巻。

 登場人物が寄せる思いは、非常に複雑になっています。アレックスはクリスに放任されているので、クリスを憎んでいると思いきや、クリスを放っておけないという気持ちを抱いています。ミシェルに対しては父親的な感覚を抱いていますが、「ミシェルだったら抱かれてもいいかも」と思っています。クリスはアレックスに対して苦手意識を持ち、父親であるという感覚を持てずにいますが、ミシェルの登場によって息子に対する意識を変えていきます。ミシェルに対しては、最初はお節介な奴と思っていますが、ミシェルの過去を知り、またアレックスに積極的に関わっているのを知ると、俄然積極的にアプローチするようになります。そして当のミシェルは、アレックスに対しては死んだ息子を重ねています。クリスに対しては、息子の世話をしない無責任な奴と思っていますが、その音楽性は理解しています。そして人間性はダメだが芸術家としては素晴らしいという二面性に、次第に惹かれていきます。
 大きく見ると、アレックスが媒介となり、クリスとミシェルの関係が近づいていくという構造になっているのですが、キャラクターの思いがいちいちアンビバレントなので、簡単に幸せなラブには至りません。非常にもどかしい展開なのですが、複雑であるからこそ深みがあります。人間の苦しみ、葛藤、ままならない思いといったものが、見事に描き出されるのです。これは西田東の作品には共通して見られる特徴でしたが、長編になることによってよりはっきりします。この深みは文学作品や映像作品に全く引けを取るものではなく、むしろ勝っている面もあります。西田先生頑張ってるなあ…。 編集もすごーく頑張ってるんだろうなあ…。

 その分これまでの西田作品に見られたようなギャグは極薄です。それを楽しみにしていた人には物足りない面もあるでしょう。ですがそれはあとがきで存分に発揮されています。ギャグを読みたいなら竹書房の単行本で…ということなのでしょうね。

 このところ日本のリーマンものだけでなく、こうした外国を舞台にした作品や、歴史ものを手がけるようになった西田東。漫画家としてガッツリ表現していくのだ、表現の幅を広げていくのだという「覚悟」を感じます。この単行本はその決意の第一歩なのでしょう。この先どう転がっていくか、非常に楽しみですね。

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BL Diaryさん
マンガ一巻読破さん

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2007年8月15日発行
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2007年8月26日 (日)

CJ Michalski「たとえ囚われの恋でも」1

たとえ囚われの恋でも 1 (1) (花音コミックス) たとえ囚われの恋でも 1 (1) (花音コミックス)
CJMichalski

芳文社  2007-07-30
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 高校生の穂澄は大富豪・蘇芳家の後継者。箱入りで町に遊びに出たこともない。穂澄の乗る車と接触事故を起こした青年・神崎は、車が直るまでの間穂澄を町に連れ出す。初めての体験と、神崎の優しさに、穂澄の心は揺れ動く。しかし神崎の目的は復讐だった。かつて蘇芳家の当主に性奴隷として弄ばれた神崎は、絶海の孤島で行われる性の饗宴で、穂澄を同じ目に遭わせようとしていたのだ。淡い思いを裏切られたために、穂積の心は乱れるが、どこかで神崎を信じる心を捨てきれない。一方神崎も、穂澄の愛らしさと素直さに、復讐を貫徹しようという決意が揺らいでいく。そして性の饗宴の幕が開く。「花音」で連載された作品の第1巻。

 いやードラマチック! とにかくお話の振幅が大きくて、追っかけていくだけで楽しいです。そもそも大富豪のお坊ちゃんが主人公ですから。それに犯され、傷ついたかつての神崎は、幼い頃の穂澄に会い、そこに救いを見いだしています。だからこそ穂澄を復讐の材料にしようとするのですが、その救いが神崎をひどくためらわせ、苦しめます。いかにも昼メロでありそうな展開じゃあないですか。それってどこの韓ドラ? どこの大映テレビ?
 最近CJ先生は振幅の大きい物語にご執心のようで、「花音」や「マガビー」では、はっきりそちらの方向にシフトしていますね。『恋するメイド少年』なんかもそうでした。それは「麗人」で発表してきたようなオバカな作品が多少影を潜めてきたことでもあるので、少々残念に思うところもあります。ただ無理矢理な擬人化やオバカな作品は、「ぱふ」や「Hertz」で読めるので、そっちに期待すればいいのです。よりメジャーな場では大きな物語に酔うというのもいいものです。それにこうした大きな物語は、見た目以上にエロさを感じるものです。それはどうしてかというと、作者が登場人物をもてあそんでいる感覚が読み取れるからですね。ニヤニヤしながら、ゲヘゲヘ笑いながら描いている様子が目に浮かびます。大げさな話が読みたい、描きたい、登場人物をどんどんひどい目に遭わせたいという様子が手に取るように分かるのです。世界を完全に自分の思うままにコントロールし、登場人物のイケメンや美少年を悩ませ、苦しませ、苦労させる…。これって女性の欲望が非常にストレートに現れているといえないでしょうか。そして「男をいじめたい/いじりたい」という欲望を隠そうともしていないことの表れではないでしょうか。
 その証拠に最近のCJ先生は、オヤジ度が非常に増してます。自画像がケツアゴのマッチョになってます。これが実にお話の内容にマッチしているのですね。男性オヤジがストレートにエロ話をするように、CJ先生も数枚オブラートをかぶせながらも、実はモロエロな話を描き出しているのです。とっくの昔にここまで来ていることは知っていましたが、いざ目にすると改めて感動を覚えますなあ。この調子でどんどん身も蓋もないお話を描いていって欲しいものです。

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マンガ一巻読破さん

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2007年8月15日発行
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2007年8月23日 (木)

宮下キツネ「少年料理法」

少年料理法 (光彩コミックス)Photo_2 少年料理法 (光彩コミックス)
宮下 キツネ

光彩書房  2007-07-28
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 高原はある日、体育を見学しているきれいな子に一目ぼれしてしまう。最初女の子だと思っていたが、実はその子は男の子だった。彼の名は蓜島といい、高原は少しずつ蓜島と接近していく。そんなとき高原は蓜島の妹のキララに出会う。蓜島に近づくためキララと仲良くなろうと思う高原だが、キララの高原を見る目は明らかに恋する瞳だ。蓜島は高原に、家に来てキララと二人きりになってほしいと頼みこむ。かわいい妹のために頼んだ蓜島だが、いざ頼んでみると高原のことが気になって仕方がない。妹と同じ人を好きになっちゃいけない、と自分を納得させようとするが。ショタものアンソロジーに掲載された作品を集めた2冊目の単行本。

 やったー! 2冊目だー! 『ストップ! ご主人様!』の突き抜けっぷりに、「これはすごい」と思っていた宮下キツネ。2冊目も期待に違わず突っ走っています。
 まずなんといっても男の子のかわいさが図抜けています。男の子は女の子のようにかわいいのは当然、女の子と間違えて男が惚れてしまうのもまた当然です。「かわいいからいいじゃん」という姿勢は終始一貫しており、最後のおまけまんがにもはっきり描いてあります。「きっとかわいければ全然OKなのではないかと思います」なんて言ってます。
 それに展開にスピード感があります。例えばあらすじに挙げた「ちょっとずついこう」は、短いページ数に多くの要素と人物が詰め込まれているので、必然的に展開は非常にスピーディーになります。炸裂したかわいさのオーバードライブ。タマランものがあります。

 女の子よりかわいい男の子を描く作家には星野リリィなどがいますが、宮下キツネの作品は全然印象が違います。BLで重要なことは、「オレにはお前しかいない」というカップリングの絶対性です。間男に犯されても、やむにやまれぬ事情で浮気しても、最後には元の鞘に戻ります。それに失恋して別の相手とくっつくにしても、強いカップリングの絆を作るだけの心の動きが必要です。ハーレムきゅんやダイヤきゅん、そしてネコたちは女の子よりかわいいですが、彼らと攻の間には絶対的な関係が築かれるような工夫がされています。ですが宮下作品にはそれがありません。受が尻軽すぎて強いラブに見えないのです。攻も「いつかは受のナンバーワンに」とか思ってます。えー、それでいいの?
 それに受は女の子にしか見えません。そしてセックスシーンになると興奮のせいか、みんなおちちが微妙に膨らみます。なのでノーマルカプのセックスに見えてしまいます。男と女なら特別な思い入れなくセックスすることができますから、やっぱり愛が薄く見えてしまうのですね。そう、宮下作品からはごっそりやおい性が欠落いるのですね。ですから違和感を抱く女性、怒り出す女性も出てくると思います。「ちんこのついた女の子じゃん」と。

 また女の子よりもかわいい男の子、という描写は、実は男の子にも女の子にも失礼な描写なんじゃないかと思いますね。男の子の方がかわいいというのでしたら、作品に登場する女の子の立場はなくなります。現在の社会においては男女関係には不均衡があり、だからこそ「美」や「かわいさ」は女性が持つものとされています。その点で男に凌駕されるとなると…女の子は立場がないじゃないですか。キララは本当に当て馬なんですね。それに男の子は女の子的基準で容姿を判断され、必死でそうあろうとしている「男らしさ」の基準では判断されません。これでは男の子も浮かばれません。そうした描写を「かわいいからいいじゃん」と無邪気に採用するのは、不注意どころか無自覚に人を傷つける可能性を持っているといえるでしょう。ゲイの人は激怒するかもしれませんね。同性愛の背後にある様々な抑圧や軋轢を無視するなと。

 ですが一方で、この作品は積極的に見るべき点も持っています。まず尋常ならざるかわいさ。「かわいければなんでもいい」という開き直りは暴力にもなりますが、横車を通してしまうパワーも持っています。「なんか変だけど、かわいいからまあいっか」という読みになるのですね。これはこれまで表現の背後にあった「遠慮」をすっ飛ばして、それまでやるのがはばかられた表現を可能にします。それは暴力的でもありますが、解放でもあります。「苺ましまろ」なんかがそうであったように。それにこのかわいさには、読者層を広げ、それまでBLを読まなかった層に訴える可能性があります。前作同様、問答無用でかわいいので、ノンケの男性読者を引き込む可能性があるのです。
 次にキャラを徹底的に突き放した表現になっているところがいいのですね。この作品で男の子たちはみな、感情移入の対象にはなりません。そのためやおい的な表現としては失格となります。ですが男の子たちは高度に客体化されているために、欲望の対象、見て楽しむ対象になっています。そこには、恋愛の対象や感情移入の対象として男の子を描くのではなく、性的な視線の対象として男の子を描くという視線があります。「かわいい男の子を消費して何が悪いの?」という開き直りですね。男の子は男性からも女性からも、性の対象として「まなざされる」のです。これは男性にとって新たな抑圧を生みます。女性と同じように、人格を否定され、性の対象として消費されるのですから。ですがもう一方で解放にもなります。男性をがんじがらめに縛っている「恋愛コード」から解放し、ひたすら受け身になる性の形を提示するのですから。男性がかわいくたって問題はないのです。むしろ男性はかわいい方がいいんです。これは「男らしくあらねばならない」というジェンダーのくびきに苦しんでいる男性にとって、福音になりうることです。

 宮下キツネの作品は、無意識と無自覚にあふれており、政治的には正しくない部分も持っています。やおいの政治性をめぐる議論においては、最大の敵になる作家でしょうね。ですがそのドライブ感、スピード感、「男を消費して何が悪いの?」という開き直りは、男性を解放する可能性も持っています。そこで私が言いたいことは…「もっとやれ!」ということです。かわいければいい? その通り! 男の子はどんどんかわいくなればいいんです。やおい性が足りない? 問題なし! やおい性なんてなくたっていいんです。ガンガン描くことで、やおいや男性向け表現をめぐる「かくあらねばならない」という暗黙の制約に風穴が空いていくんです。やおいの表現が揺れれば揺れるほど、新たな表現の可能性が生まれるのです。宮下キツネは、やおい界に現れた最大のトリックスターといえるでしょう。まさに大注目の作家です。

光彩書房
2007年7月28日購入

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2007年7月 6日 (金)

トジツキハジメ「初恋の病」

初恋の病 初恋の病
トジツキ ハジメ

フロンティアワークス  2007-06-22
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 大阪・札幌間を結ぶ豪華特急のボーイ、曽於は、気障な男・手代木から「君は僕の運命の相手だ」と迫られる。最初はとまどう曽於。曽於は重度の鉄オタなのだが、手代木もまた非常に高度な鉄道知識を持っており、次第に意気投合していく。関係が近づいていくなかで、どうやら手代木は誰かに追われているらしいことがわかる。ミステリアスな雰囲気の中で、曽於は気障な台詞に強くときめいてしまう。札幌に到着するや否や、連れ去られてしまう手代木。実は手代木は人気ミステリ作家だったのだ。「Daria」に掲載された作品を集めた短編集。

 ホントに「短編集」という言葉がふさわしい本ですね。なんたって収録されている作品、全部モチーフが異なりますから。

「初恋の病」…事故によって幽霊が見えるようになった男の前に、初恋の男の幽霊が現れる。
「列車で始まるミステリー」…上のあらすじ参照。
「きつねつき」…狐を使い魔として使役する一族の若者と、老いた狐が不思議な事件に挑む。
「木草弥生月譚」…音楽学校の偏屈なバイオリニストは、主人公のピアノにだけ合わせて弾く。ある日主人公はバイオリニストの実家に招かれる。
「幸せな人」…かつて主人公に子犬のようにまとわりついていた小宮は、ある日突然消えてしまった。忘れようにも忘れられないでいたが、これまた突然小宮は帰ってくる。
「絶句」…文芸誌の編集二人は、戯れに五七五で自分の思いを伝え合う。
 とまあ、伝奇ものありハイブロウものありショタものありオタものありと、本当に幅広い題材を扱ってます。それにそれぞれにきちんと萌えどころが設定されているのですね。トジツキハジメの引き出しの多さは異常、とつぶやきたくなってしまいます。
 一方エロの薄さはこれまた異常といえるほどです。なんたってチューすらほとんどありません。ですがキュンキュンする度合いはこれまた異常レベル。BLのキモの一つは男二人が互いの気持ちを確認するシーケンスにあるわけですが、そこに重点を置いてきっちり描いているのですね。ですから「やられたっ!」と思うほど萌えさせられてしまうわけです。

Photo_33  私の一番のお気に入りは、ロリショタの男の子が登場する「幸せな人」でしょうか。この小宮がかわいいんですよ。ちっちゃいし、屈託なく「すき」とか言っちゃいますし、スキンシップ好きですし。子犬系の男の子は世界遺産に認定すべきではないでしょうか? 一方小宮の不在に寂しさを覚える大阪谷は、ぶっといセルフレームの眼鏡をかけてます。ロリショタ対メガネですか? それなんて怪獣大決戦? って感じです。そして実は小宮の方が甲斐性があるというどんでん返し。構成の巧みさにもうならせられます。あとは江戸的な粋さが感じられる「絶句」もたまりませんなあ。

 順調に仕事量も増えて、活躍の場を広げているトジツキハジメ。その魅力は引き出しの多さと、作品をきちっとまとめる構成力の高さにあったのだな、ということがはっきりわかる作品集ですね。イヤホント、まんがとしてもとてもレベルが高いので、嬉しくなっちゃう本ですよ、これ。

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フロンティアワークス
2007年6月20日発行
2007年6月24日購入

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2007年6月26日 (火)

神楽坂はん子「地球の上に朝がくる」

地球の上に朝がくる  HertZシリーズ17 地球の上に朝がくる  HertZシリーズ17
神楽坂 はん子

大洋図書  2006-11-01
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 帰山は新進気鋭の脚本家。日夏はなりたてのプロデューサーで、初めてドラマを任されている。二人は駆け出しの頃恋人どうしだった。しかし帰山が売れるにつれ、女優とのゴシップが浮上したり、女性作家と浮気している様子があったため、二人は5年会っていなかったのだ。ぎこちないやりとりの二人だが、実は日夏はまだ吹っ切れていなかった。帰山の姪の美少女アイドル・マリエの後押しで焼けぼっくいに火がつく二人。以前のようにラブラブな生活に戻ったかと思われた。しかし今度は帰山を乗り越えようとする若手脚本家、麻生が現れる。ドラマのシナリオコンペで帰山と麻生は争い、いったんは麻生のシナリオが採用になる。しかし女優の事務所のごり押しで、麻生のシナリオは没になる。納得できない麻生は、大人の事情への怒りか、憧れの帰山に当てつけるためか、日夏を犯そうとする。「HertZ」に連載された作品をまとめたもの。 

 You,早く結婚しちゃいなよ!

 と叫びたくなってしまう作品ですなあ。帰山も日夏も、もうお互いじゃないとダメなカップルなのに、身も心もラブラブなのに、ちょっとの諍いで離れたりくっついたりを繰り返すのですから。ゴシップやエロいことには事欠かず、「純愛」が成り立ちにくい芸能界が舞台になっているので、まあ仕方ないところではあるのですが。ラブラブなんだから結婚しちゃえばいいんですよ!
 ただそれだと話が盛り上がらないのは事実。それに昔ラブラブだったカップルが何らかの原因でよそよそしくなって、敬語で話し合うってシーンは、激しい萌えをかもし出しますね。距離を上手く取れずに互いの腹を探り合っているのですから。これはへたれ萌えと非常に近いものがあります。焼けぼっくい萌えというジャンルは、これから結構クルかもしれないですね。

 それからこの作品は、バイプレイヤーが魅力的なんですよ。なんたって美少女アイドルのマリエがいいんですね。よくあるBLだったら、二人の恋路を邪魔する意地悪女か、当て馬として扱われそうなものですが、ここでは二人の関係をさりげなく後押しします。それにかわいい美少女が出てくることによって画面にツヤが出ます。すずはら篠の作品でも感じることですが、美少女はBLと非常に親和性が高いのですね。これは男性読者の呼び水になるでしょう。それからトコトンまで報われない日夏狙いの若手俳優・藤巻や、ホモの先輩プロデューサー・東が実にいい味を出しています。メインのストーリーからサブキャラまで、隅から隅まで楽しめる作品といえるでしょう。

 もう一つ注目すべきは装丁ですね。カバーがクラフト紙で、それだけでも強い存在感があります。さすがはアート志向のHertZですね。表紙の紙にも凝る動きがこれから広がるかもしれないな、と思ったのでした。BLってまだまだ工夫の余地があるんですねぇ。

大洋図書
2006年12月15日発行

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2007年6月20日 (水)

草間さかえ「夢見る星座」

夢見る星座 夢見る星座
草間 さかえ

リブレ出版  2007-06-08
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 圭一の家は大家族。弟と双子の妹の面倒を見なければならないのに加えて、姉と赤ちゃんが夫婦ゲンカをしたせいで里帰りしている。そのためストレスがたまって寝不足になり、とうとう学校保健室のお世話になる。そこには保健の先生ではなく、妙に尊大なメガネの先輩がいた。大学が決まって暇なので保健室に入り浸っているのだ。不健康そうな圭一を見て、なにかと世話を焼く先輩。圭一は安心して先輩の手を握って眠りこけてしまう。先輩はつぶやく。「何でお前は構ったり触ったりしたくなるんだろう」と。マガビーなどに掲載された5編の短編を集めた短編集。

 草間さかえといえば細やかなフェティッシュの描写ですが、この単行本でも細部の描写に力が入っています。まずはメガネ。5本中3本がメガネ攻です。それにスーツ、制服という「服萌え」も良いですね。今回のポイントは圭一のジャージ姿でしょう。ジャージといっても学校の体操着、いわゆるイモジャーですよ。それでも草間さかえが描くと非常に色気があります。
 そして何よりよいのが感情の動きの細やかな描写です。BLでの「好き」という気持ちは、男どうしなので、必然的に心の揺れや葛藤をもたらします。男なのに好きになっちゃったとか、最初から男が好きだけど手を出していいものか迷う、といった逡巡が、丁寧に描かれるのですね。男どうしの関係を無自覚的に描いている作家もいますが、草間さかえはそのあたり非常に自覚的です。男どうしの関係だからこそ現れる物語の揺らぎを、実に上手に描くのですね。そしてそこに重要な役割を果たしているのが、微妙な空気感の描写です。夏の暑さ、夜の電車、冬休み直前の学校…。そうした空気の温度が、二人の関係の接近を実に印象的に彩ります。
 物語を一歩離れたところから描くという特徴も健在です。この距離感が、これまでの草間作品の特徴であったわかりにくさや取っつきづらさを生み出していました。ただこれは「肉食獣のテーブルマナー」(以前の記事を読む)でも感じたことですが、以前に比べるとだいぶ親しみやすく、分かりやすくなっています。そのため「肉食獣」と同様の訴求力を持っているといえるでしょう。

 もう一つ忘れてはならないのは、「されど美しき日々」で、ヘビーないじめが描かれることですね。出っ歯の山口は小学生時代いじめられ、「キモい」と言われて紙袋をかぶせられる。そんな山口の世話をするのは、唯一委員長だけだった。結局紙袋を取ることはできなかったが、委員長が見てくれているだけで幸せだった。高校に進学して久しぶりに委員長に再会する山口だったが、委員長は交通事故に遭い、小学校の頃の記憶を失っていた…というお話です。
 これはキッツイですね。まずこういうヘビーないじめを描くところからしてキツイです。それにオチは「それでいいの?」と感じさせるものです。山口が紙袋をかぶっていたのは、実は互いが互いのオンリーワンになるためだったのでした。これは二人の閉じた世界を作ることですから、よい解決になりません。結局は時と二人の関係が問題を解決してくれるのですが、いじめた側は本気で改心しているわけではありません。いじめを描くにしては少々不注意な表現といえるでしょう。「BLだから」「フィクションだから」という言葉も免罪符にはなりにくいですね。
 ただこうした難しいテーマにチャレンジしたのは立派です。それにいじめには明快で完璧な解決はありません。いじめられていても、その背後には絆があったという展開は、救いにはなります。それにいじめられていた側が次の一歩を踏み出すことができれば、まあ結果オーライです。そうした次の一歩を描いたのは良いところでしょう。キャラを一歩突き放して描くという作劇法が、これを可能にしていることは間違いありません。これはもっともっと深い作品を描きうることを示します。痛ーい作品を読んでみたくなるではないですか。胸をかきむしられるような作品を読んでみたくなるではないですか。

 発売日に一度見かけて以来、瞬時に店頭から蒸発してしまったこの本。入手には本当に苦労しました。それだけ草間さかえのビーボーイコミックを待ち望んでいた人が多かったのでしょうね。そして内容はそれに見合ったもの。ビーボーイコミックというBLではメジャーな媒体で流通することによって、草間作品はよりメジャーに、一般的なものになっていくでしょうね。そしてニューウェーブもより一般的になっていくでしょうね。ニューウェーブがBLの王道に手をかけ、本格的にその中に組み入れられた歴史的な一冊といえるでしょう。

リブレ出版
2007年6月10日発行
2007年6月14日購入

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2007年6月 9日 (土)

もろづみすみとも「あかるい家族計画」

あかるい家族計画 (MARBLE COMICS) あかるい家族計画 (MARBLE COMICS)
もろづみ すみとも

ソフトライン 東京漫画社  2007-05
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 高校生の澁谷は、何人もの女の子とつきあってきたけれど、どの子ともしっくりいかず、すぐに別れてしまった。そんなとき澁谷は、駅で偶然黒髪同年代の男の子に出会い、心惹かれる。心揺れる澁谷の前に、次の日その子は現れる。彼は吉住といい、偶然同じクラスに転校してきたのだ。しかも家もすぐ近く。普段の生活の中の何気ない仕草を通じて、次第に吉住が好きだという気持ちを自覚し始める澁谷。距離を詰めようとするけれど、吉住は距離を置いてしまう。気まずい雰囲気の二人だが、ふとしたきっかけで顔が近づいたとき、澁谷は吉住にくちづけしてしまう。「カタログシリーズ」に掲載された澁谷と吉住シリーズを中心にした短編集。

 いやー! もどかしー! 男の子のとまどいが非常によく描かれるんですよ。澁谷ははっきりと吉住が好きになるんですが、自分の思いにとまどいます。自分が好きなのは女の子のはずなのにと。また吉住はゲイなんですが、自分に寄せられた澁谷の思いを受け入れていいものかどうか悩みます。自分の性癖のために、これまで何度も傷ついてきたのですから。そのため二人は両思いなのになかなか結ばれません。そのとまどいは男性にとっては非常にリアルなものですね。男性は本当は同性に恋心を抱いたり抱かれたりしますが、非常に異性愛コードに縛られていますから。なのでこのもどかしさは、かなりの衝撃力を持って私に迫ってきたのでした。
 もどかしさはまだ続きます。二人は結局結ばれて、一緒に生活するようになります。そこで親にどう報告するか、二人の今後をどうしていくか悩むのですね。これまた非常に生々しい描写といえます。その問題を逃げることなく描いているのですから、これまた衝撃力が強いです。
Photo_29  あと興味深いのは、「だって男の子だもん」に、女の子の裸が出てくるところですね。彼氏ができて、もう一緒に暮らしている男の子。でもセックスはまだ。飲み会の時に女の子に誘われて、女の子とセックスしてみようとする。でもいざ入れようというときに出てくる名前は男の子の名前という展開です。BLに女の子の裸っていうのは、ほとんどタブーといってもよかったんじゃだったんじゃないでしょうか? しかもこの女の子の裸は、かなりリアルに、エローく描かれます。BLの文脈から見れば意外というか、そぐわない表現とさえ言えるかもしれません。ですがこの作品ではそんなことはないのですね。絵柄がこれまでのBLとは違っているというせいもあるのでしょうが、やはりリアリティがあるためにすらっと読めるのですね。だって男の子ですもの。性欲に負けることだってあります。それがまた男の子二人の関係を立体的なものにするのです。

 J庭で買った「だって男の子だもん」がえれえよかったもろづみすみとも。「カタログシリーズ」での活動もチェックしてきましたが、めでたく単行本にまとまりました。絵も新鮮・独特であれば、お話も非常に巧み。いやー、東京漫画社って、どうしてこういい作家を発掘してくるのでしょう。私も負けないように同人誌即売会に通わなきゃ、と思いましたね。

東京漫画社
2007年6月25日発行
2007年5月19日購入

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2007年6月 1日 (金)

内田かおる「ヘイ!ドクター」

ヘイ、ドクター ヘイ、ドクター
内田 かおる

竹書房  2003-07-26
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 高校生の五十嵐は、風邪をひいてかかりつけの医者に行く。そこにはいつもの先生とは違う、若い先生がいた。先生が言うことには、ドキドキするのはエロ病であって、治療するためには先生のちんこをなめたり看護婦のコスプレをしなければならないという。ウブな五十嵐はそれに従い、エロい気分になると先生の元を訪れるようになる。バイト先の店長にも迫られる五十嵐だが、本当に自分を治せるのは先生だけだと思う。超美形芸能人とちんちくりんな野球部員の恋を描いた「はっきりいっとけ」も収録した作品集。

 …そんな高校生いません! というツッコミより先に。
 先生の襲来によって五十嵐を取られちゃったバイト先の店長ですが、即座に新しい恋を見つけます。それは出入りのうどん屋の配達員です。これが長身、筋肉巨乳、がっちりしたケツ、ヒゲ、気が強い、でも恋愛にはスキが多いというキャラなんです。店長、「ああ今自分の惚れツボわかっちゃった…」とか言ってます。それは内田先生自身の惚れツボじゃあないんですか?
Photo_28  このキャラの登場は、内田かおるにとっても電撃が走るほど衝撃的だったんじゃないかと思えます。それまで内田かおるが得意としていたキャラは、負けん気・利かん気が強く、ぎゃんぎゃん騒ぎますが、こと恋愛にはなじみがないので、恋愛となると大人しくなるというものでした。ヤンチャ系ツンデレとでも呼ぶべき存在で、体格はちっちゃい小型犬系が多かったものです。ところがそういうキャラにものすごくごっつい外見を与えてみたら? しかもそれが受だったりしたら? 年上だったりしたら? そして生まれたのがこのうどん屋というわけです。そして実際描いてみると、ギャップが男のかわいさを甚だしく強調します。ゴツければゴツいほど、ぶっきらぼうであればあるほど、ふだんの行動が老成しているほど、かわいさは強くなります。
 とまあ、この作品以降、基本的に内田作品の受はゴツ男ばかりになります。『あなたをひとりじめ』(2004、竹書房)、『だまって泣いているのです』(2005、竹書房)は、いずれも受が高度にゴツいです。加えて体毛がどんどんボーボーになっていくのですね。それもギャップの破壊力を増していくことになります。
 ただ、見た目が過剰になっていく一方、物語性はむしろ安定へと向かっていきます。年下攻がオッサン受のことを好きになり、自分に向けられた恋心にとまどいながらも、受はその思いを受け止めていくという構図です。伝統的な少女まんがのように、途中の展開は山あり谷ありキンニクありですが、最終的には甘いハッピーエンドになるのですね。この安心感が、内田作品のもう一つの重要な要素となっていきます。

 こうやって見てくると、このヒゲゴツ萌えと、デビューの頃から持ち続けた萌えである「やんちゃ萌え」が組み合わさったのが、『それではみなさん。 1 (1)』(2007、リブレ出版)(以前の記事を見る)だということが分かってきます。この作品はいわばこれまでの作品の総決算なんですね。これまでの萌えの歩みを振り返り、新しい一歩を踏み出すための意欲作なんだろうな、と思います。

竹書房
2003年8月26日発行

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2007年5月27日 (日)

内田かおる「たかをくくろうか」

たかをくくろうか (バンブー・コミックス) たかをくくろうか (バンブー・コミックス)
内田 かおる

竹書房  1996-12
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 高校生の逢坂は、隣の学校のヤンキーに朝からシメられてしまう。そんなときに隣のクラスの高田が通りかかる。女たらしで有名な高田だが、逢阪をぶっきらぼうながらも介抱してくれる。やんちゃばっかりやっていた逢坂は、高田の何気ない心遣いに一発で惚れてしまう。女と親しくしている高田の姿に、激しい嫉妬を覚える逢坂。そんなとき高田の方から、「一発やらせろや」と告げられる。逢坂は軽く拒否するが、快楽には抗えない。内田かおるのデビュー単行本。

 いやー、人に歴史ありですなあ。10年前のデビュー単行本ですよ。12等身くらいありそうな等身の高さ、ツンツンの髪、短ラン・ボンタン、肩幅の広さなど、80年代様式はこの時期ではまだまだ残っていたことが分かります。単行本発行は97年、執筆時期は95年頃からなんでしょうが、それでも80年代が終わって5年以上経ってます。ヤンキーの世界は時間の流れが違ったんでしょうか? まずはその80年代テイストに心惹かれるところです。
 それに萌えの姿も興味深いですね。徹底したヤンキー萌えです。ヤンキーといいますか、エネルギーがあふれていて、やんちゃしまくっている男の子に萌えがあったのでしょうね。内田かおるは現在でも「体で稼ぐ男萌え」が強いのですが、それはこの頃からはっきりしていたことが分かります。それにちらっとショタ風味が見えるのも興味深いですね。三冊目の『いつもみているものだから』(98年)や、四冊目の『ハートにご用心』(2000年)にはもっとはっきり現れますが、「年下、強気、やんちゃ」に強い萌えを覚えていたことが伺えます。現在の内田かおるは、見た目は相当「遠くまで」来てしまったように見えますが、実は根本的な萌えはずっと持ち続けてきたんですね。初の単行本というのは、作家の将来を暗示するものなのだなぁと、しみじみ思ったのでした。

 内田かおるは、ある作品で明確に新たなステージに入りますが、次回はそれを書きたいと思います。

竹書房
1997年1月12日発行

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2007年5月 4日 (金)

野垣スズメ「バカバカゴシップ」

バカバカゴシップバカバカゴシップ
野垣 スズメ

オークラ出版 2007-04-12
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 長身メガネスーツのレイは、若手タレントのナルミのマネージャーになる。必殺技は「俺にもみ消せないゴシップはない」。後先考えないで女に手を出すナルミのゴシップをもみ消すことが大きな仕事となる。ところがレイは最初からオバカなナルミに萌えまくり。いつか喰ってやろうと虎視眈々と狙う。冷たい感じのするレイに対して、最初はツンケンしているナルミだけれど、大好きなくまちゃんケーキを与えるととたんになつき、心を許すようになる。そんなときナルミの仕事はあまりうまく行かなくなる。結婚して引退しようか、というナルミに対して、とうとうレイの堪忍袋の緒が切れる。同人誌で発表された作品を集めた作品集。

 いやーオバカです。ナルミは名実ともに見事なお馬鹿さん。なんたって九九もできないですし、大好物のくまちゃんケーキ(…)さえ与えていればご機嫌という、ハムスター並みの精神構造です。一方レイもたいがいお馬鹿さん。見た目はスーツにメガネなんで大人なのかと思えば、ことナルミとの関係ではお子様並みの意地を張りまくります。女性タレントと話していると、すぐすねちゃったりとか。そして頭の中にあるのはセックスのことばっかりです。大人げねー! 本文中では「デリカシーなし攻×バカ犬受」と説明されていますが、なんのことはない、オバカ攻×オバカ受なんですね。バカバカです。
Photo_22  バカだったら読む価値ないんじゃないの? と思う人もいるかもしれませんが、ほらそこは「バカな子ほど可愛い」っていうじゃないですか。ナルミのかわいさはまさに小動物なみ。クマちゃんケーキを前にして目を輝かせるナルミはえれえカワイイのです。それにレイのほうも怒ったり、すねたり、ハァハァしたりと表情豊か。読んでいて頬がほころんでくるのがよく分かりますね。ナルミみたいな動物は飼うのは大変ですが、癒し力は相当なもの。一匹飼ってみたいものですなぁ。レイの気持ちが分かりますなぁ。くふぅ。

 この人は一度漫画をやめ、ふっきれてバカを描くようになった結果、デビューすることができたとのこと。デビュー後の作品が『煩悩☆バカップル』になります(後ほどレビューする予定です)。その選択は正解ですね。確かにコミティアで以前売っていたリリカルな作品もとてもよかったんですが、漫画としての衝撃力はオバカ作品の方が上です。それになんといっても楽しく描いているのがひしひしと伝わってきますしね。この人の「生命の波長」に、こういうオバカさが合っているのだと思います。それに線のキレイさと色づかいの美しさは相当なもの。作品の幅を広げていくためには、別の描き方や別のテーマにも取り組んでいく必要があるとも思いますが、徹底的にオバカな男たちを描いていくのもありといえるでしょう。今後どうなっていくか、楽しみな作家です。

オークラ出版
2007年5月12日発行
2007年4月23日購入

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2007年5月 1日 (火)

草間さかえ「肉食獣のテーブルマナー」

肉食獣のテーブルマナー (ドラコミックス 130)肉食獣のテーブルマナー (ドラコミックス 130)
草間 さかえ

コアマガジン 2007-04-25
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 岸田は日々マンションの上の階からの物音に悩まされている。管理人に文句を言うが、らちが明かない。次の日も激しい物音がするので、とうとう岸田は直接文句を言いにいく。岸田が出くわしたのは、駆け去る男と、殴られて血を流す上階の住人だった。上階の住人は亮司といい、弟のサトシと二人暮らしをしているという。駆け去った男はサトシではなく、サトシとつきあっている男だという。岸田は「今度は殴られる前にここに来い」と亮司に告げ、亮司と岸田の奇妙な共同生活が始まる。しかしある時、亮司はふっつりと来なくなってしまう。さびしく思う岸田のまえに、弟のサトシが真実を告げにやって来る。「drap」に掲載されたシリーズを収録した作品集。

 草間さかえといえばそのざっくりとした線と、間と構成で語る独特の作劇方法。それが草間さかえの独特さと面白さを作り出していました。絵とお話運びは他の誰にも似ていなかったわけでして、それが草間さかえをニューウェーブの旗手にしていたのです。オノ・ナツメも同じですね。ところがこの本では、少し作風が変わってきましたね。線は細くなって密度を増し、台詞や描き文字でかなり展開が分かりやすくなっています。それまではコマとコマとのモンタージュで頭を使って展開を読まなくてはなりませんでしたが(もちろんそれが魅力だったのですが)、この本では最初から展開が提示され、分かりやすくなっています。この変化については「貴腐人の館」さんや「BL Diary」さんで触れられている通りだと思いますね。おそらくは「drap」という発表の場と、編集とのやりとりによって変化が起こってきたのでしょう。これは少しさびしいことではあります。ただ読みやすくなり、より一般性を持つようになったという点で、歓迎すべきことでしょう。少々取っつきづらかった草間さかえの本が、多くの人に受け入れられるようになる。まさにこのことはニューウェーブの拡大につながるでしょう。

Small_1  それから面白いのは、「ここだけのハナシ」ですね。ゲイのデザイナーがIT技術を持ったスマートなサラリーマンに惚れるという話です。このリーマンはファッショナブルなんですが女性に興味がなく、人に触れられるのを極端に嫌います。ですからゲイの人は「これは脈があるかも」と思うんですね。ところが実はこのリーマンはネコミミ好きの萌えオタだったのです。ファッショナブルなのは姉のせいで、オタだから人との接触が苦手、ということなんですね。こ、これは珍しい! 「マンガラブー」の川原さんに指摘されて気付いたんですが、いままでBLで萌えオタを描いた例って非常に少なかったんじゃないでしょうか。それに草間さかえがネコミミ美少女を描いているんですから吃驚です!

 作品についてですが、双子の兄亮司の側から描いた「キス、シロップ」と、弟のサトシの側から描いた「肉食獣のテーブルマナー」が、実によい対照をなしていますね。素直なんだけど素直だからこそ男への恋心に悩む亮司。ゲイで酷薄なつきあい方をするんだけれど、実は秘めた思いを抱いているサトシ。双子をそれぞれの視点から描くことによって、物語は非常に重層性を持つことになります。「ここだけのハナシ」も、誤解を含みながらも近づいていく二人の心が上手く描かれています。萌えオタという設定が上手いスパイスになっていますしね。お話そのものの上手さと、お話運びの上手さは健在で、以前より分かりやすくなるような工夫がされているために、より広い層に訴える可能性を持っています。以前のようなとんがり具合とナイフのような鋭さは弱まってしまったのが残念ではあるのですが。

 ともあれ、ニューウェーブの流れはこれで加速するな、ということがはっきりと感じられた作品なのでした。「災厄のてびき」で始まったニューウェーブの流れは、これからぐっと大きな流れになるでしょう。BLの歴史のなかで、重要なマイルストーンになる作品でしょうね。

コアマガジン
2007年5月9日発行
2007年4月25日購入

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2007年4月20日 (金)

蛇龍どくろ「シュガーミルク」

シュガーミルク (MARBLE COMICS) シュガーミルク (MARBLE COMICS)
蛇龍 どくろ

ソフトライン 東京漫画社  2007-01
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 コンビニで働く山田は彼女に振られたばかり。その理由が「一目惚れした人ができた」ということで、山田は一目惚れなんてあるものかと思っている。そんなときレジに並んだよれっとしたサラリーマンに山田は一目惚れしてしまう。再び会えないものかと苦悩する山田。とぼとぼ町を歩く山田に、異様に人なつっこい犬がまとわりついてくる。その飼い犬を見ると…なんと山田が一目惚れした人だった。犬のよだれでべとべとになった山田は、青年の家に招かれる。「カタログシリーズ」に掲載された短編を集めた短編集。

 振幅激しいです。少女まんがみたいにまつげバチバチお目々くりくりオトメマインド装備の男の子が出てくる作品もあれば、リリカル少年ものもあれば、ストリート系フリーターが恋に落ちる、という作品もあります。表紙がヨネケンっぽい今風不良系なので、そういう作品なんだろうと思って読むと拍子抜けするかと思います。
 ただこれは明らかにデビューしたての作家に見られる成長過程なんですね。自分が描くべき方向やお話がまだ定まっておらず、いろいろ試しているんだろうということがよく分かります。そして後半になるにつれて、みるみるスタンスと描き方が確立していくのですね(掲載順は発表順で、本の後ろに行くほど最近のものです)。自分の経験にもとづいてでしょうか、ストリート系に軸足を置くようになってきているのですね。これはよい方向へ向かっているのだと思います。ストリート系の作家はまんが以外にも楽しみを持っているので、まんがから離れてしまうこともあります。そのためストリートの感覚が生々しく表れることは、少々悩ましくはあります。ですがストリートの生の感覚が生きたまんがは、明らかに他にはない魅力を持っていますし、まんがを読まない層にもアピールする可能性を持っています。まんがが好きになればなるほど、本当のストリートには触れなくなるものです。一方BL的楽しみは、今はまんが好きになかば独占されているようなものですが、実は現実のそこら中に存在するものですし、まんが好きであるか否かを問わず楽しむことができます。「腐」であることとホモを楽しむことは別のレイヤーにあって、固定的に結びつけられているわけではないんですね。ストリートのにおいを持った作品は、これまでBLを楽しむことがなかった層にBLの楽しさを伝える可能性があるのです。

 個人的に一押しの作品は、中年のカメラマンが若者の美しさに惹かれ、家庭も何も放っぽいて二人で旅に出る、というものです。これがいいロードムービーになってるんですね(ちと大げさですが)。ワイルド系の青年は自分の美しさに気づいており、カメラマンが自分に惹かれていることを分かっていますが、改めて二人で旅に出るに際して、綺麗な髪を全部切ってしまいます。な、なんちゅう決意! これは愛の告白と同じ意味なのでありまして…これはモエル!

東京漫画社
2007年2月15日発行
2007年3月20日購入

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2007年4月14日 (土)

直野儚羅「意気地なしの幸せ」

意気地なしの幸せ 意気地なしの幸せ
直野 儚羅

竹書房  2007-03-07
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 森は長身で見た目はかっこいいのだが、どこか根本的に生活力に欠けていて、とうとう食べるものがなくなってしまう。空腹のあまり米を盗もうとするが、盗んだとたん倒れてしまう。気がつくとご飯の美味しそうなにおいがする。米屋の主で大家の川田が、森のためにご飯を作っていたのだ。川田はちっちゃくってヤンチャなタイプだが、じつは結構な歳であり、面倒見もいい。お父さんのように自分に接してくれる川田のことを、森は「小さな巨人」と呼ぶ。そして関係が深まっていくと、川田が実は寂しさを抱えていることが分かってくる。この年の差身長の差カップルに加えて、森の勤め先のホストクラブのオーナーと腹心のカップル、血縁人外カップル(なんじゃそりゃ)などのお話が収められた短編集。

 今まで直野儚羅といえば、「エロ描写はピカイチだがお話は微妙なものもあり」という認識でした。ここぞというところでファンタジーや特殊設定に逃げるよなー、という印象があったのです。それでもエロが濃厚だからまあいっか! と思っていたのですね。
 でもそれは私の見立て違い。直野が描こうとしていたのは、設定とか突飛なお話じゃなかったんですね。この作品を読んでいると、描こうとしていたのは「男のかわいさ」だったんじゃないか、と思えてきたのです。
 男のかわいさってなんでしょうか。背の小ささや全体的なちっちゃさ、顔のかわいさといった、外見のかわいさがまず思い浮かぶでしょう。これには性別受が装備している、女の子のようなかわいさも含まれるでしょうね。ですがそうでないかわいさもあります。歳をとっていても現れるかわいさは確かにあります。例えば子どもの頃のクセが無意識に現れてしまったり、ついムキになって食ってかかってしまったり、本当は好きなのに意地があるから言えなかったり。「社会的にきちんとすることを求められている状況で、つい出てしまう子供っぽさ」が、成人男性のかわいさなんだと思います。この作品はそうしたかわいさのオンパレードなんですね。小さな巨人川田は、森のことが気になっている(=好きになっている)のですが、自分の気持ちに戸惑っています。見た目もかわいいですが、オトナなかわいさも持っているのですね。ホストクラブのオーナーは夜の世界の帝王ですが、実は腹心が森とつきあっているのではないかと疑心暗鬼になっています。そして「俺の言うことを聞かないならクビだ」とばかりに、一度は腹心を突き放してしまうのですね。よくありそうな展開ですが、よく見るとガキ大将のわがままと大して変わらなかったりします。おっかねえ夜の世界の人なんですが、こと恋愛となるとヒジョーにかわいいんですね。そしてこのかわいさは、普段は隠しているもの/隠さなければならないものであるために、ひとたび現れると強烈な破壊力を持ちます。よ、夜の帝王が赤面してますよ??

Photo_16  それに身体の描き方のエロさは相変わらずというか、さらにパワーアップしています。内田(か)先生ほどムキムキはしていませんが、しっかり筋肉がついた身体が、ねっちょりがっちゅりキッチリおセックスをしています。それにケツがいいんですよ! 筋肉があるにもかかわらず、もうぷりっぷりなんですね! 「もっと締まってるんじゃないの?」なんてツッコミはヤボヤボ。腹や胸の筋肉はしっかりで一萌え、プリケツでもう一萌えできるじゃないですか!

 絵の美しさと筋肉描写の凄み、しっかりしたエロと、この人の作品には非常に優れた点があったわけですが、「男のかわいさ」を考えさせるという面白さもあったのでした。これは男にとっての問題提起でもあるんですよね。「男のかわいさ」を前面に出して生きる、という戦略もあるわけですから。既存の「男らしさ」に頼らない生き方もできるということを示すわけですから。ですから男性にとっても、興味深い作品なんじゃないかな、と思います。

竹書房
2007年4月7日発行
2007年3月10日購入

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2007年4月13日 (金)

シヲ「ラブヘタリスト」

ラブヘタリスト ラブヘタリスト
シヲ

ソフトライン 東京漫画社  2007-01
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 メイは高校一年生男子。化学部唯一の部員で、部活といって毎日理科室へ通っているが、実は化学教師の大神に会うのが目的。大神の鮮やかな実験に惚れ込んで、化学部の門を叩いたのだ。ほっぺを甘がみされるなどのセクハラもうけ、悪態をつきまくるが、メイの本心はイヤじゃない。ある日理科室に向かったメイは、大神が出入り業者の青年と親しげに話しているのを見てしまう。また転んだとき、自分ではなくお気に入りの試験管の方をかばったことに腹を立てて、「もう来ない」と走り去ってしまう。「カタログシリーズ」に掲載された作品を中心に集めた、著者の初単行本。

 いやー、風邪が長引いて、結局金曜日から今日までほとんど使い物になりませんでした。皆さんもお気をつけください。再起動一発目なので、「あらしのよるに」がらみで取りあげてみましたよ。
 いやいや、世の中に「へたれ」というジャンルは確かに存在し、確固たる人気を誇っていますが、全7作品+番外編+あとがきのすべてが一貫してへたれという本も珍しいのではないでしょうか。あらすじに挙げた大神は大型犬系へたれですし、芸術家系繊細へたれ、甲斐性なしニート系へたれ、実はインテリ心はへたれ、これはめずらしい男らしいオヤジへたれと、実に様々なタイプのへたれを取りそろえています。で、へたればかりで飽きてしまうかもしれないと思う人もいるかもしれませんが、見ての通りへたれのバリエーションが豊富なので、飽きることはありません。それに展開もいろいろなんですね。元気な学園ものあり、耽美的で繊細なものあり、中年男が老人に惚れるものあり、名実ともにへたれなものありと、作品内容もバラエティに富んでいます。この人同人からスカウトされてデビューしたとのことで、まだまだ自分の方法論が見つかっていないといったことをあとがきで書いています。確かに内容はバラバラではありますが、それはいろんなことを描いてみたいという意欲があることですし、可能性があるということです。それにどの作品もそこそこきちんと完成されていますし。個人的にはオヤジものプリーズ! と思いますが、どんどん作品を描くとどんどん伸びるんじゃないかと思います。

 それにしても考えさせられるのは、「へたれ」といっても実に様々なありかたがある、ということですね。お金がなくてへたれになる場合もありますし、お金があってもヘタレになることもあります。へたれは男の社会的属性とは別に存在しているのですね。へたれの本質は、「手を出そうか出すまいかものすごく迷う」ということにあるのだと思います。秘めた思いを行動に移すときの迷い、それがへたれの本質なんでしょう。この迷いは男女ともに共通するものでしょうが、男にとってはものすごく重要なことです。プライドを崩さないようにしながら思いを伝えるには? プライドを高く保つ傾向が非常に強いおたく男性にとって(もちろん私も含みます)、これは特に重い問題ですし、おたく男性に限らずこういう問題に直面する男性は多く存在するでしょう。そんなわけですから、へたれををうまく描き出すことができれば、BLは男性にとって感情移入できるものになるんじゃないかなと思います。

東京漫画社
2007年2月15日発行
2007年3月20日購入

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2007年4月 6日 (金)

Duo Brand.「仄かな恋の断片を」

仄かな恋の断片を (花音コミックス)仄かな恋の断片を (花音コミックス)
DUO BRAND

芳文社 2006-05-29
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 神父の瑛(えい)は、昼休みごとに遊びに来る遙晶(はるあき)のことが気になっている。男ばかりの職場で、遙晶は非常に無防備なのだ。ボタンを掛け違えて胸がのぞいたりしている。襲われるかもしれませんよ、と忠告する瑛だが、遙晶は何のことだか分からない。天然のフェロモンをまき散らす遙晶は、とうとう上司に無理矢理犯されてしまう。泣きながら瑛のもとに来る遙晶。「あんなヤツよりお前の方がずっといいんだっ…!」。妖魔を祓う4振りの御神刀の精と、その周りの人々の思いのぶつかり合いを描いたシリーズもの。

 いやー、耽美です。なんたって描き込みがすごいんですね。笠井あゆみ先生に通じる、空間を埋めていく線はそれだけで魅力があります。私はこういうタイプの、空間をみっちり埋めていくタイプの絵はそんなに得意じゃないのですが、強い魅力を持っているのは分かります。それにメガネ。全体的に描き込みが美麗なんでメガネが目立たなくなってしまっているのですが、それでもメガネを描きます。御神刀の精は全員メガネですし、遙晶もメガネです。こりゃなかなか良い傾向といえましょう。加えてすべてのお話がひとつの世界に属しているのも、広がりが感じられて良いですね。構成の上手さというか、お話作りの上手さを感じます。

 まあ私は、あんまり伝奇ものにはこころ動かされないタイプなので、御神刀が妖魔と闘って、御神刀どうしが恋愛をして…というお話にはあんまり興味がありません。ところが最初にあらすじを挙げた作品「あやうげな朧月」には、すごくヅキュンと来るものを感じたのでした。遙晶はとにかく天然にエロいです。可愛い顔をしてますし、濡れて乳首が透けたりします。でも自分では、自分がエロい存在であることが分かっていません。上司から「誘ってるのか」ともろに言われたりしますが、それがなにを意味しているのか理解できません。分かっててじらしているのではなく、本当に自分が同性の性的対象になっていることが分からないのですね。そんなもんですから強姦されちゃって、えぐえぐ泣きついてしまいます。これはいいですね! シチュエーションとして萌えるだけでなく、現在の男性が置かれている性的状況をも描き出していますから。
 ホモソーシャルな世の中では、男は男に性的欲望を抱いちゃいけないとされています。ですから男性は、同性が自分に性的欲望を抱いているとは考えないものです。ところが実際は結構な割合で同性にハァハァする人がいるわけでして、あるいはそれまでノンケでしたが、なんかのきっかけで同性にハァハァするようになる人もいるわけでして、そんなに「安全」でいられるわけじゃないんです。男性が男性を強姦することは、十分に考えられることなんです。その「容赦なさ」を描き出しているところがいいんですよ。グッと来るんですよ。そしてその後は「消毒」です。ちゃーんとBLになってるところもポイント高いですよ!

 いやー、普段触れないようなジャンルにも、ちゃんとズドギュッと来る萌えはあるものですね。当たり前のことですが。食わず嫌いはよくないことだなぁと思いましたよ。そんなこともあろうかと、新田祐克先生の「春を抱いていた」を借りてきた(5巻まで)ので、ちと読み込んでみたいと思いますよ!!!

芳文社
2006年6月15日発行
2007年3月20日購入

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2007年4月 5日 (木)

SHOOWA「Nobody Knows」

Nobody Knows Nobody Knows
SHOOWA

芳文社  2007-03-29
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 モドルの仕事は精巧な人形のメンテナンスをすること。その人形はきわめて精巧で、ほとんど人間と変わらないし、会話をすることもできる。モドルと一緒に仕事をするのは寡黙なススム。普段は互いに関わらないように仕事を進めていくが、ススムが一体の人形に執着したことをきっかけに、関係は変化していく。モドルはススムの人間性に興味を持ち始め、ススムの仕事がとても優しいことに気づく。人形の局部をていねいに浄めるススムに、「なんかやらしーなってさー」と告げるモドル。それに対してススムは、「どうせなら生身の人間としてみたい」と応え、モドルを抱きしめる。リリカルな表題作「Nobody Knows」の他、焼鳥屋「風来」に集まる男たちのいろんな関係を描いた作品を集めた作品集。

 お? 絵柄としてはなかなか良い感じのニューウェーブじゃない? ちょっと線がまだおぼつかないところがあるけれど、この人なりの味があるじゃん? え?この作品こんなどんでん返しがあるの? え?そういうオチだったの? すごいじゃん、この作品!

 とまあ表題作の「Nobody Knows」のリリカルっぷりにはすっかりヤラレテしまったのでした。少しずつ近づく二人の間隔もいいですし、現代文明批判につながるような展開もいいんですね。これはとんでもない文芸的な作品が現れたぞ、と思ったのです。ところが…

Shoowanobody_knows_1 裏筋太郎は漁師。浜辺で集団で男色に耽っている亀を見かけ、一番下になっていた亀を助ける。瀕死の亀だが、裏筋太郎が悲しみのあまり涙を流すと、美しい男の姿になる。その美しさに打たれた太郎は、自分の亀の高ぶりを押さえることができない。それを見た亀は、亀の亀を太郎の亀にすりあわせる。

 …って、なんじゃこりゃー! 他の現代を舞台にした作品もおおむねこんな感じで、基本的に頭のネジが数本飛んだ感じになってます。ギャグの破壊力がすさまじいんですよ、これが。ギャグが魂からにじみ出て来る感じなんですね。シリアスな展開にしようと試みてはいますし、そのためBL部分はよくできています。ですがそのにじみ出てくるギャグによって、作品の雰囲気が非常に独特なものになっているのです。たとえていうなら、西田東の単行本の巻末にあるあとがき(強烈なギャグ)を培養して、単行本全体にちりばめているような感じでしょうか。

 そう説明していくと「ちぐはぐな作品なのか」と思えるかもしれませんが、この人の場合はそんなことはありません。ギャグの部分と恋愛を語る部分とが、実に上手くくっついていて、違和感を感じないのです。ですから「なんじゃこりゃー!」と笑ったすぐ次の瞬間、キュンと萌えが走るという内容になっているのです。これはなかなかできるこっちゃないですよ。ものすごいバランス感覚、ものすごいギャグのセンス、ものすごい才能を感じます。

 またもBLに「ぐゎつーん(岩鬼のスイングのように)」と来る作家が現れたのでした。帯の「業界騒然!!」というアオリは嘘じゃありません。西田東や松山花子がクリエイターズ・クリエイターであるように、この人もそうなっていくでしょう。こういう力のある作家に出会えるので、やっぱりBLあさりはやめられねえですな。

芳文社
2007年4月15日発行
2007年4月3日購入

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2007年3月28日 (水)

みろくことこ「メガネばくだん」

メガネばくだん メガネばくだん
みろく ことこ

海王社  2007-03-10
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 クラス委員の瀬乃は面倒見の良いメガネ。クラスの中で一人浮いている咲屋のことが気になっている。咲屋は背が小さく、ものすごくかわいい顔をしているのだが、クラスメイトとの交流を避けている。上級生の慰み者になっているともっぱらの評判だ。テストの補習の面倒を見ることで、少しずつ接近していく二人。そのうちに咲屋がなぜ他人を避けているのか分かってくる。咲屋は目が悪く、眼鏡をかけて周りが見えるようになると、性格が一変して強引・凶暴になるのだ。そんな自分を抑えるために、周りを見ないようにし、人との交流も避けていたのだ。瀬乃がさしのべた手を振り払おうとする咲屋だが、瀬乃はそんな咲屋を抱きしめる。「GUSH」などに掲載された「メガネばくだん」シリーズを集めた作品集。

 メガネをかけると性格が一変するという咲屋の設定ですが、これはちょっと変わっていますね。メガネなしだと素直でイノセントなほわほわ系なんですが、眼鏡をかけるとガラが悪くなり、「やらせろー」ってな具合になるのですから。みろくことこの受け子はみんなかわいいのですが、かわいい子が強引になるというのは、毛色が変わっていて楽しめます。ただ設定に相当無理があるのも事実。メガネをかけると性格が変わる…そんな人いたらヤバイですって! BLの設定にリアリティを求めるのもヤボという気もしますが、あんまりにもトンデモな設定だと萎えてしまうのも確か。実際単行本の前半は「うーむ」とうなってしまったのでした。
 ただ後半になると、咲屋は期待通り(?)どんどんオトメ化していきます。学園祭でメイド服を着たり、「せっかくコイビトドーシになれたのに」なんて殊勝なことを考えたりします。そうそう、それで良いんですよ。かわいい性別受は性別受を演じきるのが一番。変に色気を出して変化球を投げようとすると、とんでもないところに球が飛んでしまうもの。設定に凝りすぎるのも考え物だなぁと思いましたね。難しいものです。
4_1  そして後半のオトメ化した咲屋はかなりパンチ力のあるかわいさを発揮します。女の子よりかわいい? それでいいんです。こんなにかわいいんですから、ちんこがついていない方がおかしいんです! 見てくださいよこの表4を!

 とまあ、この作品は「ふたば」や「2ちゃん」などで起こっている男性の「うがったエロ」の文脈にすっきりと当てはまる構造になっています。もちろん作者は男性が読むなんてことは想定してないんでしょうが、性別受っぷりをつきつめるあまり、男性の「うがったエロ」と意味論的に等価になってきているのですね。つまり咲屋は「ちんこの生えた美少女」になってしまっているのです。これはある意味堕落と見ることもできるでしょう。「男である意味がない」と。しかしこうも読めるのではないでしょうか、ここから越境が始まる、と。宮下キツネのように、この人もまた注目されて然るべきだと思います。

海王社
2007年3月20日発行
2007年3月18日購入

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2007年3月26日 (月)

ホームラン・拳「三十一夜」

三十一夜 三十一夜
ホームラン・拳

角川書店  2007-03-01
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 舞台は昭和30年代。売れない小説家の理(おさむ)は家賃が払えず、下宿を追い出されてしまう。そんなとき高校の同級生だった辰夫と再会する。困っている理に、辰夫は二つの条件付きで自分の部屋を提供すると申し出る。一つめの条件は泊められるのは1月だけということ。二つめの条件は自分の言いつけをすべて守ること。二つ返事で転がり込む理だが、辰夫は体の関係を求めるのだった。思いを遂げた辰夫だが、「1月が過ぎたらもう会えないだろう」と涙を流すのだった。「CIEL」に掲載された作品を集めたもの。

 ドラマですよ、ドラマ。辰夫は強引に理をものにしますが、それはもちろん事情があるからです。辰夫は精神に障害を抱えた娘、弥栄子との偽装結婚という形で、エロじじいに買われることが決まっているのですね。だから最後の思い出を作ろうと、理を泊めるわけです。そして強引にやってしまうことで、理への思いを断ち切ろうとするのですね。しかし理は事情を知ることによって、また辰夫の思いに気づくことによって、辰夫を助けようと動き出します。最初は掘られたことにショックを受けた理ですが、辰夫への愛が芽生えていきます。それを陰からサポートするのが、精神障害を装っていた弥栄子だっていうんですから吃驚です。そして理はドラマチックに辰夫を奪い去るのですね。韓国ドラマもかくやというほどのドラマの盛り上がりじゃあないですか。昭和30年代(にはあまり見えませんが)に舞台が設定されているのも分かるというものです。山あり谷ありの大きなドラマが楽しめるのですね。ホームラン・拳先生は『僕は君の鳥になりたい。』でも大きなドラマを描いていましたが、ここでもまた上手にドラマを描き出したのでした。

 もう一つ特筆すべきなのは、二人の関係の揺らぎがていねいに描かれているところですね。理は最初は辰夫に陵辱に近い形でやられてしまいます。その時は辰夫への思いも揺らぎます。しかし理は事情を知ることによって、主体的に辰夫を求めていくようになります。帯には「不完全な理が立派な攻めっ子として徐々に成長(?)していくお話」とありますが、恋愛に対しても主体的に選び取っていくようになるのですね。この受攻関係の揺らぎは私の大好きなところで、それだけでグッと来るところです。
 またよーく読むと、実はこの揺らぎは最初から辰夫によって仕組まれていたのではないか、ということも見えてきます。一緒に生活していれば辰夫の結婚話などは必然的に見えてくる話ですし、辰夫が理を犯したことは、次の行動へ移らせるためのとば口であったことが見えてきます。辰夫は理を犯すことによって、理を攻に仕立て上げたとも考えられるのですね。表紙の絵がその仮説を強めます。表現には最初から裏の含みがあるわけでして、そこに「うまいなー」とうなってしまいます。

 萌えの点でも問題ありませんね。今回の受である辰夫は、いつもの受け子ちゃんとは違ってちゃんと大人なんですが、目をうるうるさせているところなんかはかなりヅキュンと来ます。そして最後は小説を書いている理を会社に通って支えているのですね。昼はだんなさん、夜はお嫁さんですか!

 弥栄子の描き方がしっかりしていることから、ノーマルカプもキッチリ描けることも分かります。マンガとして実に上手くできていることに、改めて気づかされます。次に一般誌にヘッドハンティングされるのはこの人なんだろうな、と強く感じますね。

角川書店
2007年3月1日発売
2007年3月10日購入

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2007年3月25日 (日)

ホームラン・拳「仲神家の一族 ~悪魔来る~」

仲神家の一族悪魔来る 仲神家の一族悪魔来る
ホームラン・拳

リブレ出版  2007-03-10
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 とんでもない家族に囲まれながら、少しずつ関係を深めていく朱鷺緒(ときお)と永(はるか)。そんなとき、一族のひばりが仲神家を訪れる。ひばりは仲神家の本家の事業を継いでいて、少し疎遠になっていたのだ。そして以前朱鷺緒はひばりにあこがれとも恋心ともいえる気持ちを抱いていた。久しぶりだからということで、ひばりは朱鷺緒を食事に誘う。端から見るとあからさまなひばりの誘いだが、朱鷺緒は昔の思いがあるため、まんざらじゃなさそうな様子。ひばりの悪魔的なほほえみに、永は気が気じゃなくなってくる。「仲神家の一族」の第2巻。

 「悪魔来る」のサブタイ通り、ひばりが実にいいキャラなんですね。社会人としては超エリートで、人当たりもよい。ですが外見の良さとは逆に、よほどのことがない限り本心を見せず、目的のためには手段を選ばないところがあります。恋愛に関してもカムフラージュがきつく、朱鷺緒狙いかと思いきや、実は永狙いのようなそぶりをして、でも実はそれもカムフラージュです。こういうキャラは描くのが難しいのですが、ホームラン・拳先生はキチンと描いています。たいしたものです。そしていつも見えているのは悪魔的な面なんですが、実は恋愛に関してはバッチリ一途です。なのでひばりは憎めないキャラ、むしろ好感度の高いキャラになっているのですね。BLにおいて重要なのは一途な思い、つまりは純愛なのでありまして、それについては抜かりなくガッチリ描き出しています。

 この作品集にはもう一編、時夫の弟・鷹丸が主人公になる話が収録されています。海賊の財宝伝説がある島で、鷹丸と島の青年・雪(きよし)が、島の秘密をめぐる陰謀に巻き込まれていくというものです。ミステリタッチになっていてこれがまた楽しめるのですね。あくまで「タッチ」なので、肩肘張らずに読めるのもよいですし、何より鷹丸と雪の恋愛関係が良いんですね。それに鷹丸を探しに来たひばりと、ひばりの思い人との関係も、わずかに近づいていきます。様々な手を使って、全体の物語を進めているところが面白く感じます。

 まあ最初のカポーである朱鷺緒と永の関係はなかなか進まないのですが、一癖も二癖もある仲神家の一族たちが、がちゃがちゃ騒動を繰り広げて行くだけでも面白いというものです。シリーズも続いていきそうな感じですしね。肩の凝らないライトなシリーズとして、これはこれで続けてもらいたいものだと思います。

リブレ出版
2007年3月10日発行
2007年3月20日購入

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2007年3月24日 (土)

ホームラン・拳「仲神家の一族」

仲神家の一族 (ビーボーイコミックス) 仲神家の一族 (ビーボーイコミックス)
ホームラン・拳

リブレ出版  2007-03-01
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 飯島永(はるか)は高校生。超童顔メガネの数学教師・仲神朱鷺緒(ときお)先生とひそかにつきあっている。数学の補習をするという名目で、永は仲神家に招かれる。離れでラブラブしようという魂胆の永だが、朱鷺緒の家は超豪邸だった。しかも出てくる家族はみんな特殊。母親は日本人形のような幼さだし、少女漫画家の兄はゴージャスな女装をしているし(胸あり)、父親は妙に若々しい儚い系。そして共通しているのは、全員が重度の朱鷺緒萌えであること。家族たちに視姦されまくる二人の未来はどっちだ?「仲神家の一族」シリーズに短編3本を加えたもの。今回紹介するのはビブロス版。

 まんがのいいところは「そんなんあるかー!」という設定を、平気で描くことができることです。なんたって絵ですから! しかもお金はほとんどかかりません。そこが3次元表現との違いでしょう。思えば映画やアニメは、まんがに描かれるとんでもない描写を映像化するために、ものすごい努力をしてきました。CGの普及と低廉化によってそれは比較的楽になりましたが(『少林サッカー』なんかが良い例ですね)、それでもまんがの持つとんでもなさを写しきることは難しいことです(『逆境ナイン』や『地獄甲子園』が良い例ですね)。まんがというのは本当に自由度が高く、想像力に直結している表現手段だといえるでしょう。

 そして「なんでも描ける」ということは、破壊力の高いギャグにもなるということです。仲神家の一族、もうみんなやばすぎです。女装していないときの兄は無精髭の青年ですが、女装するとなぜか胸がつきます。えーと、そのおっぱいはどういう仕組みになっているんでしょうか? 「女装の腕はまさにイリュージョン」と説明してありますが…それ説明になってないって! それにおじいちゃんがすごいんです。「それなんて荒木飛呂彦?」どころの騒ぎじゃなく、「それなんてジルベール?」って具合ですから。それに家族全員が朱鷺緒の可愛さに病的にハァハァしています。24時間監視していたり、フィギュア作ったりしてますから。ホームラン・拳先生といえば、『僕は君の鳥になりたい。』や『喜鬼』など、深刻なお話も得意としていますが、ギャグもきわめて上手だったのですね。引き出し多いです。
 それに絵柄の美麗さは相変わらずです。朱鷺緒先生自体ヤバスギです。25歳にしてカワイイメガネですから! ゴスロリ服とか似合っちゃいますから! 学ランとか超似合いますから! 白衣とか野球のユニフォームとかコスプレしまくりですから! 酔っぱらってあどけない顔で寝ちゃいますから! こんなにカワユイ25歳なら、もう全然大丈夫(何が)っすよ! むしろ私にもこんな人を授けてください、神様!
 …おっと、ハァハァしすぎてしまったようですね。もともと私はホームラン・拳先生の受け子さんにはマジでキュンキュンしているのですが、それだけ絵の美麗さと訴求力が大きいということです。男性にとってもこの美しさ/かわいさはヤバイくらいの魅力を持っています。

 永と朱鷺緒のなれそめや関係の深まりもちゃんと描かれているので、BLとしてもちゃんとしています。ただこの作品のポイントは、まんがという表現の特質を存分に活用して、BLの特徴である「とんでもなさ」を上手く<誇張>していることにあると思います。この<誇張>は少年まんがによく見られましたが(それを意図的にやっているのが島本和彦でしょう)、BLでも<誇張>は有効なのです。まあまんがですから当たり前なのですが。BLはギャグと非常に親和性が高いのですが、その理由はこの<誇張>にあるのではないかと思いましたね。

 ホームラン・拳先生の作品が連続して出ましたので、連続してレビューしたいと思います。原動力は萌えです!!

ビブロス
2005年7月10日発行
2007年2月15日購入

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2007年2月27日 (火)

北別府ニカ「僕の愛の劇場。」

Photo_6  白岡と赤羽は、売り出し中のお笑いコンビ「桃色メガネは恋の罠」を組んでいる。白岡がボケで赤羽がツッコミ。同居していた二人だが、ある日白岡は「相方やめます」という置き手紙を残して家出してしまう。多すぎるホモネタのせいか?と勘ぐる白岡だが、ものすごく不安になってしまう。赤羽に頼んでむりやり同居したというせいもあるが、なんといっても白岡は赤羽に恋していたのだから。いまさらコンビ解消なんて考えられないのだから。赤羽を捜しに白岡は走り出す。「カタログシリーズ」に掲載された作品を集めた短編集で、北別府ニカの初単行本。

 祝! 週刊アスキー連載! いやー驚きましたよ。週アスと言えば「電脳なをさん」「女子部」「トホホ会」が楽しみでよく立ち読みしているのですが、女子の萌えを語るというページが始まっているのですから! そして以前から大好きだった北別府ニカが萌えを語っているのですから! これはもう画期的なことですよ(ちょっと興奮気味)!! となると北別府ニカをレビューしないわけにはいかないじゃないですか。

P25  なにが良いかっていうと、その独特の絵柄ですね。目の下に斜線・横線が描かれている、というのがこの人の絵の特徴でして、それは他のどの作家とも似ていません。そしてこの線は変幻自在に使われるのですね。頬の紅潮をあらわしたり、悔しさなどの苦悩をあらわしたり、喜びを表すのにも使われます。他の作家と絵が決定的に違うというのは、それだけで大きなアドバンテージだといえます。
P131  そしてもう一つ、SDキャラというんでしょうか、デフォルメされたキャラがなんとも可愛いんですね。デフォルメの上手さは絵の上手さに直結します。そして「タメ」と「ヌキ」のいいコントラストが現れるのですね。ヌクべきところではデフォルメキャラを使って軽さを出し、タメるべき展開が強調されます。これはなかなか難しいテクニックだと思うのですが、それをマスターしているところは、やはりあなどれません。

 そして展開がまたいいBLなんですよ。微へたれ攻、年下攻、やんちゃ攻、ファンシー攻といろんなパターンのお話が展開されますが、どれも「想い」に重点がおかれ、展開がちゃーんと描かれています。白岡と赤羽の話も、「実は赤羽の方が」という例のパターンなんですが、白岡が思い出すこれまでの想いや、必死に赤羽を捜す姿が描かれるので、先がある程度読めたとしてもかなりヅキュンと来ます。それにメガネ! メガネを実に上手く展開に絡めてくるんですよ。最近はメガネ萌えもひとつのジャンルになってきていますが、この人の場合もかなり根深いものを感じます。スバラシイことじゃないですか! それもこれも自分の「萌え」に忠実だからなのでしょう。自分が萌えるものを描いているのですから、こちらにもその萌えが伝わってくるのです。

 ともあれ、注目していた作家が広い層にアピールするメディアに登場するというのは嬉しいことです。これからも激しく注目していきたいと思っていますよ!!!

東京漫画社
2006年12月15日発行
2006年11月23日購入

僕の愛の劇場。
北別府 ニカ著

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2007年2月25日 (日)

山本小鉄子「つまらない男」

Photo_5  サラリーマンの橋元は、「お前ってつまらない男」と言われて振られてしまったために、自分がつまらない人間なのではないかというコンプレックスを持っている。落ち込む橋元は、後輩の烏馬に羨望の念を抱く。背も高く仕事も速い烏馬は、こんな悩みを持つことはないんだろうなと。やけ酒を食らって風呂に入る橋元だが、危うく溺れそうになるところを烏馬に救われる。烏馬は橋元の行動をいつも気にしていたのだ。そして「俺 橋元さんのことが好きなんですよね」と告白する烏馬。しかし橋元はまた「つまらない男」と呼ばれるかもしれないと思い、明確な返事をすることができない。「GUSH」に掲載された短編を集めた作品集。ちっちゃくて可愛い年上男と長身でぶっきらぼうな高校生のカップルを描いた「かたく手をつなごう」シリーズも収録されている。

 山本小鉄子といえばやっぱり絵の美麗さと表情の上手さ。そこは抜きん出ていますね。もういちいち受の視線やら表情やらが美しくて色っぽいんですよ。これは男性の視点から見てもかなりガツンとくる要素ですね。これだけ可愛ければ心が動くのもまあ仕方ないかな、と思えてしまいます。男性も往々にして、同性の可愛いしぐさや瞬間にクラッとくるもの。つい同性を襲っちゃう男性の心の動きを疑似体験できるような気がするのですね。その意味で山本小鉄子の作品は、男性にも「よく分かる」作品になっているのだと思います。

 そしてもう一つ重要なのは、受けの男の子たちはみんな可愛くて美しいのですが、決して性別受になっていないところです。男性にかわいさ、美しさを付与しようとすると、どうしても女性的に描いてしまいがちです。宮下キツネはその極北にあると言えましょう。どう見ても女の子なのに男の子と言い張るというヘンテコさが生まれるのですね。ところが山本小鉄子の作品に登場する男の子は、ちゃんと男性の骨格を持っていますし、性格はオトメっぽかったりしますが、萌えどころである男の意地を忘れることはありません。美しさと男っぽさが微妙なところでバランスしているのですね。そのバランスがあるために、活躍の場が広がっているのですし、幅広い支持を受けるのだと思います。

海王社
2007年1月20日発行
2007年1月21日購入

つまらない男
山本 小鉄子

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天城れの「男恋」

Photo_4  鉄男は番空高校に入学したてのカワイイ系の一年生。無難に高校生活を送ろうと思っていたが、入学早々コワモテの男に「俺とつきあえ」と迫られる。あまりの迫力に流される鉄男だが、男は番空高校で知らぬものとてない、泣く子も黙る応援団長の竜司だったのだ。鉄男は地獄のシゴキを覚悟する。しかし竜司は鉄男と一緒に帰ろうとして、おそるおそる手をつなごうとしてくる。「つきあえ」と言ったのは、「交際してくれ」という意味だったのだ。漢力では誰にも負けないが恋愛には不器用な竜司と、鉄男の恋愛の行方はどっちだ? このほか応援団のメンバーであるクール系双子の恋、途中参加のツンデレ忍者の恋を描いた連作。

P29  キタキタキター! BLの枠組みを維持しながらヘンテコな要素をさりげなく取り入れてきた天城れの。とうとうヘンテコな要素の方を前面に出してきましたよ。なんたってこのキレイキレイした絵柄で応援団ですから! バンカラ漢と言えば「学ランなんて洗ったことねえ」みたいな「身なりにかまわない」印象がありますが、この作品の男たちにはものすごい清潔感があります。なんたってBLですから! そして応援団のメンバーは皆「男の中の男」を目指しますが、なんだかピュアな片思いや恋の駆け引きをやったりします。なんたってBLですから! そしてそもそも現代には死滅した応援団という存在を、さも当たり前のようにさらっと描いています。なんたってBLですから! いやーBLってすごいです。BLの枠組みにさえちゃんと従っていれば、取りあげる題材はなんだっていいんですから。
 この作品は、冷静に考えればブキミな領域に達していると言えるかもしれません。そもそもこの世の中で応援団を描こうとすること自体「大丈夫?頭?」と問いたくなってしまいます。そして絵柄はバンカラとは正反対の宇宙に属しているかのようなキレイさですし、繰り広げられるのは男どうしの甘い恋愛です。これまで私たちの文化に蓄積されてきた「バンカラ」のイメージや「応援団」のイメージとは、何一つ合致しないのです。正直最初に見た人はとまどうでしょう。「バンカラですよー硬派ですよー」と言葉では書いてあるのですが、絵柄や展開はそれとは全く違う方向に向かっていくのですから。ブキミというよりシュールかもしれませんね。シニフィアンとシニフィエがめちゃめちゃ乖離していると言うんでしょうか、描こうとする内容とアイコンがかけ離れきっているのですから。ですからこの作品はすさまじい破壊力を持ちます。「なんじゃこりゃ!」という強いインパクトを持っているのですね。いやー、BLの魅力はとんでもない作品にありということは分かり切っていたのですが、ここにまたとんでもない金字塔が現れたのでした。と学会の人とかは早急に読まなきゃダメですよ、この本。

 BLとして見たときにもしっかりした構造を持っていることを忘れてはなりません。鉄男と竜司は障害を乗り越えてラブラブになりますし、他のカポーも同様です。ですがこの作品はやはり「BLの多様さ」「作品ジャンルとしてのBLのポテンシャル」を示すいい例として読むのが適切ではないかと思います。多様な表現が許されるからこそ、旺盛な需要があって供給量を増やさねばならないからこそ、こうしたとんでもなくヘンテコな作品が現れるのですね。そしてこの多様さは、駄作も生むのでしょうが、その中から確実に名作を生み出していきます。この作品も当然記憶にイヤでもバッチリ残る大名作なわけです。漫画史、BL史のなかでも、記憶されるにふさわしい単行本といえるでしょう。

角川書店
2006年12月26日発行
2006年12月22日購入

男恋
天城 れの著

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2007年2月10日 (土)

天城れの「青春男子手芸クラブ」

Photo_1  清順男子高校には特別な部活があった。「手芸界の貴公子」と呼ばれる黒衣を部長とする手芸部だ。副部長は大富豪の御曹司で特技はテディベア。極道の息子の特技はレース編み。学年トップの頭脳の持ち主の特技はコスプレ衣装。野球部と兼部しているエースの特技はパッチワーク。それぞれ一流の特技を求められる部活なのだ。そこにひょんなことから、転入生の松田は入部してしまう。背が高くてメガネの松田はバレーボールの選手だったが、怪我でバレーの道をあきらめていたのだ。全く手芸経験のない松田に、何かひとつプロフェッショナルな技術を身につけることを求める黒衣。しかし松田はあきらめない。黒衣部長を好きになってしまったし、なにより彼は生粋のアタッカーだったのだから。天城れの3冊目の単行本。

 急いで本屋に走って、過去の作品も買ってきましたよ。
 えーっとこれなんてホスト部? というオハナシですね。手芸部部員はみんなキラキラしてますし、キャラ立ってますし、特技持ってますし。ハルヒに当たるのは黒衣部長ですね。姫扱いですから。このように構造的にホスト部そっくりですから、内容も白泉社漫画的になっていきそうなものですが…キャラの抱える欠落やら心の傷やらが松田の参入によって癒されるとかになりそうですが…当然そんなことはありません。なんたってBLですから! ヘタレ攻めの松田がどうやって女王受けの黒衣を落としていくかがポイントになってきます。そしてその展開がふるっているわけですよ、学園祭恒例の女装コンテストがあって、黒衣がウェディングドレス姿になるのですから。同じく女装コンテストに出場するライバルがいて、ライバルが手芸部の活動を妨害しようとして騒動が起こった結果、黒衣と松田が結ばれるという展開になるのですが、このライバルが「これなんてロリっ子?」とつぶやきたくなる性別受なんですね。いやー、やっぱりBLで大切なのは想像の斜め上をすっ飛んでいく展開だなあとしみじみ思いますね。ただ展開こそ大笑いではありますが、BLの基本線は絶対に外さないので、安心して読めます。

P141  それから番外編の、極道の坊っちゃんのお話がまたすっ飛んでいてスバラシイんですね。ぼん(=坊っちゃん)は組の連中に慕われていて、彼らが最も望んでいるのはぼんの編んだレース。もんもんを背負った極道たちがレースを身にまとってハァハァしている様は、強烈な衝撃力を持っています。加えてぼんのボディガードは元パティシエで、手芸部に毎日心のこもったおやつを差し入れてくれます。極道の作ったおやつ…。「極道」と「おやつ」という言葉の組み合わせには、ミシンとこうもり傘以上のシュールさが含まれていないでしょうか? とまあ基本的に美形な顎長人がBLをやっているわけですが、また基本的な筋書きは十分にBLなんですが、細かいパーツが少しずつ「なんか変」なんですね。BLとして読んでもちゃんとしていますし、変なまんがとして読んでも面白い。両方成立しているというさじ加減の巧みさが、天城れのという作家の最大の魅力なんだと思います。

 さて他にも買ってきたので、天城れのを続けてレビューしていきます。それに問題作もありますしね!

海王社
2005年7月20日発行
2007年2月8日購入

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2007年2月 5日 (月)

天城れの「恋愛紙上主義!」

Photo  満は中学時代、高校の文化祭で漫研の部誌を手に入れる。そこには120ページに及ぶ正統派少女まんがの大作が収められていた。青山美由という著者に憧れる満。その高校に進学し漫研の扉を叩くが、実は美由は男だった。驚く満だが、的確な指導をしてくれる美由に、次第に心惹かれていく。満はまんがを描きはじめるが、みんなには隠そうとする。なぜならそれは自分と美由をモデルにしたボーイズラブ作品だったからだ。しかし美由に知られてしまう。翌日、美由と満はネームを切ってくる。それはお互いへの思いが詰まったものだった。表題作「恋愛紙上主義!」の連作を中心とした作品集。

 いやー、オバカです。どの作品もどんどん展開がアホ臭くなっていくのが本当にたまりません。満を奪おうとする聖ブルジョワ学園(…)の部長が現れたり、クラス一の可愛い男の子を守るためにコワモテキャラが学園祭で女装したり、売れない芸人が「BL芸人」として売り出そうとしたりと…ここまでやってくれるとなにも文句はありません。いちいちしょーもない展開にしていく姿勢は本当に頭が下がります。それでいて絵柄は顎長人系の耽美なもの。手を抜いてさらっと描いている様子は見られません。つまりは、あほうなことを、マジメに、一生懸命やっているのですね。しかも勘違いや天然ではなく、ひとつの「芸」として。以前はこの人の絵に違和感があったのでちょっと敬遠していたのですが、単行本で読むと破壊力はバツグン。すっかり大ファンになってしまったのでした。
 もう一ついいのが、自分の作品に対して客観的な視点を持っているところですね。例えば「恋愛紙上主義!」は、漫研が舞台なものですから、当然まわりに女子部員…当然腐女子…がいるわけです。そして彼女たちはきわめて的確に満と美由にツッコミを入れるのですね。それは画面のこっち側にいる読者の気持ちを代弁するわけです。この一歩引いて客観視する視点があるために、あほうな展開がより強調され、ある種のドライブ感が生まれてくるのです。

 「BLの魅力のひとつはしょーもなさにあり」というのは、昔も今も変わらぬことですが、ここにまた輝く星が現れたのでした。しかもこのところ単行本ラッシュですし! そこでこれからちょっと立て続けにレビューしてみたいと思います。

海王社
2006年11月20日発行
2007年2月5日購入

恋愛紙上主義!
天城 れの

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2007年1月13日 (土)

まんだ林檎「Love Song」

Manda_lovesong_cover  益岡課長は部下の鳥屋尾に手を焼いている。仕事は遅いし休みは取るし飲むと暴れるしで手に負えないのだ。酔った鳥屋尾は益岡課長をマスベと呼ぶ。すると課長の苦い記憶がよみがえる。以前益岡をその名で呼んだのは、中学時代一緒に水泳でオリンピックを目指そうと誓った猿島だった。しかし益岡は家庭の事情で水泳をやめなくてはならなくなった。本当は猿島に心惹かれていたのに。
 鳥屋尾が仕事に力が入らなかった理由は、鳥人間コンテストに出場するために、みんなで人力飛行機を作っているためだった。やっぱり酔って暴れる鳥屋尾だけれど、周りの人々の視線は温かい。それは鳥屋尾がまっすぐな「飛びたい」という気持ちを持っていたからだ。益岡にもオリンピックを目指していたあの頃の気持ちがよみがえってくる。
 「麗人」に収録された作品を集めたもので、まんだ林檎の3年半ぶりの作品集。

 好きという思いはひとつなのに、あと一歩を踏み出せない迷いや、どうにもならない周囲の状況によって、思いは壊れていきます。そして残るのは苦い後悔であり、あのときああしておけばよかったという苦しい思いです。こうした思いは、私たちもこれまでの人生において積み重ねてきていることでしょう。まんだ林檎がまず描き出すのはその苦みです。私たちにとって親しみのある、古い友人ともいうべき痛みです。ですからその痛みは私たちの心を鋭くえぐることになります。
 ですが昔の苦しみは、いつまでも私たちを苦しめるわけではありません。小さなトゲのようにチクリと痛みを残すかもしれませんが、いつかは痛みから解放され、次の一歩を踏み出すことができるようになります。まんだ林檎が描くのは「その先」なのです。マスベ課長は昔の恋を思い出し、新たな一歩を踏み出していきます。解決しきれない問題もありますが、それでもなんとか次の一歩へ進もうとします。その姿が、読み手である私たちの心を静かに、深く動かしていくことになります。まさにリリカル。やおい作品のフォーマットには従っているのですが、ここで描かれているのはもっと深い人間のドラマです。ですからやおいを知らない人にも、強く訴える力を持っています。

Manda_lovesong_01  それから注目すべきはカメラワークの巧みさです。多くのBL作家は視点=カメラを地面と水平なところに置きますが、まんだ林檎はきわめて多様なカメラワークを使います。カメラを少し二人の斜め上に置いたり、ずっと引いたりするのですね。よくあるBLとは随分と印象が違うことが分かります。二人の関係性や状況がはっきりするのですね。そして二人が持っている感情の動きがそれによって紡がれて=演出されていきます。プロットが練られているだけでなく、演出面でも心を動かすものになっているのです。

 まんだ林檎といえば秀逸なギャグ作品で知られていましたが、ここまでくるとBLというカテゴリーを超えて、文芸的なまんがの領域に完全に入っていますね。四季賞とかビームとかIKKIとかで発表される文芸的な作品とおなじ領域です。そしてそれらに決して劣ってはおらず、そうした作品の中でも最良なものと比べても、光るものを持っていると思います。ていうかコミティアやJ庭に足繁く通うような創作系まんがウォッチャーは全員読め! と声を大にして言いたいです。いいまんがはここにあるぞ!

竹書房
2007年2月6日発行
2007年1月10日購入

LOVE SONG

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2006年11月20日 (月)

ホームラン・拳「迷仔」

Homerun_maigo  直(黒髪・メガネ・ワイルド系)と朋(白髪・キュート系)は幼なじみでいつも一緒に行動している。朋は漠然と、いつまでも二人一緒にいられたらいいのに、と考えている。ところが直が女の子と一緒に歩いているところを見てしまう。聞けば彼女ができたのだという。胸がつぶれるような思いをする朋。ぼーっとするあまり、体育でボールを受けて倒れてしまう。手を伸ばす直に、つい本当の思いが涙と一緒に出てしまう。「お前のことが好きなんだ」と。幼なじみモノ、学園モノ、オヤジ受け魔法モノと多彩な作品を取りそろえた作品集。

Homerun_maigo_diamond ヤ・バ・イ! ヤ・バ・イ! 絵が美麗すぎて死ぬ! 私好みのカワイイ男の子がバリバリ出てくるのでもう脳ミソクラクラ。脳内麻薬出まくりです。ホームラン・拳先生(先生と呼ばせていただきたい!)の受け子ちゃんたちはみんなお目々くりくりの女顔美少年で、女の子より可愛かったりします。加えてオトコノコなもんですから、自分のエロさに気づいていないことになってますので…無意識にエロい表情や姿勢を取りまくるわけです。パンチラしたりするんです。こういうのをエロカワイイっちゅうんですかー!!

 その一方で、お話の方もヒネリが効きまくっているのも忘れてはなりません。美しいけどキチクなお兄さんがふと流す涙の美しさ。攻めの方が頭くるくるで、中学生なのに受け子と結婚しようと言い出す。西洋風魔法使いの弟子が和装書生風おっさん。あり得なさそうな取り合わせなのに、展開が巧みなのでするっと読めてしまい、ガツンと心を動かされてしまいます。テクニックの上手さはただ者ではないものがあります。

 絵の上手さといい展開の巧みさといいマンガ的な上手さといいエロカワイさといい、ポスト星野リリィの最右翼。順調に仕事量が増えれば、同じような経路で活躍することになるでしょう。今のうちに親しんでおかないと、あとで後悔しますよ!
 それにBLはこういう絵が美麗な人がバンバン増えてるので、嬉しくてたまらないですね。まんがのジャンルとして完成してきていることがよく分かります。面白いまんがはBLにいくらでもあるのに、現在BLを手に取るのは一部の女性に限られています。実にもったいない話ではないですか。この作品は、ショタっ気のある男性ならするっと親しめるはず。ていうかショタを自覚する人なら読まなきゃダメです。是非とも男性にも手にとってほしい作品ですね。

海王社
2006年11月15日購入
2006年11月20日発行

迷仔
ホームラン・拳

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2006年11月 7日 (火)

大槻ミゥ「隣に君のぬくもりを」

Ootuki_tonarini  くせっ毛の道弘は、愛犬の公一郎さんが死んでしまったために、学校に行くことができなくなっている。悲しみに沈む中、公一郎さんと同じ髪の色をした青年が現れる。恋しさのあまり、人間の姿になって帰ってきたというのだ。いぶかしく思う道弘だが、公一郎の積極的な愛情表現に、すっかりなじんでいく…。「LYNX」に掲載された作品を中心に集めた初単行本。

 ぶっきらぼうともいえる描線で、かなりざっくりとした印象があります。また受は全員ずいぶんかわいく描かれ、女体化とも思える程です。内面的にもギャル男だったり不思議ちゃんだったりオトメだったりするので、かなり性別受に足を踏み込んでいます。萌え袖装備してたりリボンつけてたりします。いやーなんだかクラクラしてきますね。もちろんこういうのは大好物なんですが。ただ恐ろしいのはこういうオトメ系の男子高校生は確実に存在しているので、リアルとつながってくるところですね。単に性別受と笑っているわけにも行かないリアリティが感じられます。
Ootuki_p151  それに受たちは、妙にエロいのですね。よくよく見てみると口の描き方、唇の描き方が、他の作家と違っていることが分かります。受の唇は、どうしようもなくつややかで、明らかに男を誘っています。このエロさはこれまでのBLとは毛色の違ったものです。女性だけが持つとされていたタイプの色気を、この作品では受が備えているのです。これはかなり画期的なことではないでしょうか?

 お話の方もまっすぐな「思い」が前面に出ていて、安心感があります。ずっと秘めていた思いは必ず報われるのですから。そしてご褒美のエロシーンもバッチリ。以前から注目していた作家なので、初単行本は本当に嬉しいところです。こうした「絵柄によるエロさの越境」を、今後もどんどん拡大していって欲しいものです。

幻冬舎
2006年10月24日発行
2006年11月1日購入

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2006年11月 6日 (月)

志々籐からり「コイイケ」

Sisitou_koiike  ある男子校の裏庭にある池には伝説がある。その池に二人ではまると、二人は必ず結ばれるというのだ。なのでその池は「恋が淵」と呼ばれている。陸上部の哉良(ちから)は、落としたお金を探そうと池に入っていたが、そこにやっぱりお金を落とした先輩の陸上部マネージャー、宗方が入ってくる。宗方はぼーっとしたタイプで、しかも選手を外された結果マネージャーになったという。そこで哉は最初ははっきりと宗方を蔑んだ目で見る。こんなヘタレと一緒になるのはイヤだと。しかし哉は、夜間必死で練習する宗方を見てしまう。宗方がマネージャーになったのは事故のせいで、必死にリハビリを重ねていたのだ。ズキュンと心を動かされる哉。同じ高校を舞台にした3組のカップルを描いた短編集。

 なんといってもこのすっきりとした絵! 日輪早夜あたりで確立された、まあありがちといえばありがちな絵柄といえましょう。ですがロリショタの影響が強いようで、かわいさがより前面に出ています。このアレンジは完成されていて、この人の絵柄になっていると思います。それに表情の描き方がいいのですね。私の場合BLは絵から入ることが多いのですが、この人の絵は完全に「合格」。すっかり好きになってしまいましたね。

 そしてオハナシがまたいいんですよ。男子校で縁結び伝説なんてあるかとか、こいつらなんでホモばっかり、なんていうツッコミはなしなし! そうしたBL的オヤクソクをちょっと乗り越えれば、男性にとってもなじみのある感情が現れます。描かれている男の子たちは、自分が抱いた/自分に向けられた恋心に、最初は反発します。男どうしでこんな感情を覚えていいのかとか、池の伝説に惑わされてるんじゃないかとか。それは男性としては当たり前に感じる感覚です。男どうしは恋愛感情を抱いちゃいけないことになってますから。ですが二人の関係が深まっていくと、拒否感は「コイツならいい、コイツなら受け入れられる」という感覚に変わっていきます。この作品ではその変化を丁寧に描いており、そこが萌えポインツになっています。男性が男性に対して抱く好意が、男性にも分かる形で描かれているのですね。
 この作品ではもう一つ、二人は必ず恋愛関係を基礎とするカップルになるというBL的オヤクソクがあります。そのためこの作品は女性向けのBL作品として成立し、男性から見たときは少々引いてしまう面があります。しかし基本になっているのは男性も常日頃感じている同性への/同性からの好意です。ですからちょっとオヤクソクをクリアすることができれば、男性にとっても衝撃力のある内容になっていると思います。

 BLのオヤクソクというのは、女性がジェンダーを楽しむために作られたと考えられていますが(『やおい小説論』を書いた永久保陽子さんはそう言っていますね)、実は男性をジェンダーのくびきから解き放つ役割を果たしているのかもしれません。男性が男性に対して抱く、性的な意味を色濃く含む好意を、素直に表現できるようにする働きを持っているのかもしれません。そうなるとBLはメンズリブのためにも使えるのではないでしょうか。ジェンダーの制約に苦しむ男性の欲望を解放するようにも使えるのではないでしょうか。そんな大きなことを考えさせられてしまったのでした。

新書館
2006年11月15日発売
2006年11月3日購入

コイイケ
志々藤 からり

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2006年10月27日 (金)

かいやたつみ「レンズ越しの微熱」

Kaiya_lenz  タケオ(黒髪、メガネ)は今をときめくIT社長。メディアにもよく登場し、住んでいるところは超高級マンション。ところが本当の姿は超ヘタレで、ずっと好きだった同級生フミちゃんを本気で誘うこともできない。フミちゃんはフミちゃんでタケオとの腐れ縁を感じているが、自分のことを根っからのヘテロと思いこんでいるために、タケオのアタックを拒絶するばかり。ところがフミちゃんの弟ショーゴが仲立ちをするようになり、またタケオ狙いの業深OLが現れると、二人の関係はぎくしゃくしながらも進展していく。「Hearts」に掲載された連作。

 「ヘタレ」と「メガネ」はそれぞれでもたいそう美味しく召し上がれるものですが、それがセットになっているとなると…そういう属性を持っている人にとってはもうタマラヌものがあるでしょうなぁ。ヘタレメガネのタケオをニラニラしながら見る、というのが基本的な楽しみ方でしょう。タケオはヘタレなんですが金だけは持ってますから、フミちゃんの歓心を買うためにとんでもない行動に出たりしますし、フミちゃんと会わないと、それだけでヨレヨレになってしまいます。そのズレっぷりも見所といえましょう。

 その一方でフミちゃんは最初のうちはまったくタケオのアタックになびきません。しかもチャラくてダメ男なんですね。好きな女性のタイプは深キョンだって言ってますし。ただそこで引くのはまだ早いです。「うざい」「キモイ」とか言いながら、実はフミちゃんは最初からタケオに「陥落」しているのです。根っこに安定感があるのが重要なポイントといえましょう。なのでこの作品は安心して読めるのですね。

 フミちゃんは、一方でいかにも男性的と思えるジェンダー性を表象しています。セックスした女の数を誇ったり、つきあう女は自分より下がいいとはっきり考えています。ですがもう一方でタケオの求愛をなんだかんだで受け入れてしまいます。実は両者は非常に近いものなのかもしれません、というか近いんでしょうね。セジウィックが言ってるように。で、この「近さ」は男性が常に感じていることでもあるわけです。ですからこの作品は女性のモエを喚起するだけでなく、男性にとっても衝撃力を持っているといえましょう。

大洋図書
2006年12月01日発行
2006年10月25日購入

レンズ越しの微熱
かいや たつみ

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2006年10月25日 (水)

藤本ハルキ「それでもやっぱりキミが好き」

Hujimoto_soredemo  ぽやんとした秀郎は、幼なじみで同じクラスの直樹のあとをいつもついて行っている。秀郎は何事もぼんやりなので、直樹が世話してやらないととんでもないことになるのだ。でも背は秀郎の方が高い。受験が近づき、直樹と同じ大学に行きたいと言う秀郎。なぜかと言えば今の志望校には直樹がいないから…。「花音ゴージャス」に掲載された作品を中心に集めた短編集。

 まずは↑のカポーですよ! 大型犬へたれわんこ攻とご主人様受ですよ! わんこの方が背が高いっちゅうのがミソですな。包容力のあるわんこじゃなくて、でっかくてもご主人様ラブで、ご主人様のあとを絶対付いていく! というタイプのわんこですから。そしてご主人様も実はわんこにメロメロなんですが、意地を張ってツンとしてます。こりゃ萌えるっちゅうもんじゃないすか! 他の作品も多くが「素直になれない攻」を描いているので、衝撃力は大きくなります。

 面白いのは、男の意地にこだわっているところですね。攻の意地は男のジェンダーです。男は本心をひけらかすべきではない、直接気持ちを伝えるのは恥ずかしいという。攻は必死にそれを守ろうとしますが、結局こらえきれなくて「陥落」してしまいます。恥ずかしいセリフとか言っちゃうんですよ。このあたりに男のかわいさが表れているのですよ。そして描写がまた秀逸なんですね。広い意味ではツンデレなんですが、実際はもっと複雑なこころの動きですし、そしてそれを複雑なままに描き出しています。丁寧な仕事です。
 それにヘタレ攻めというのも、実はその裏返しです。「男らしくしなくちゃ」というジェンダーの縛りが、逆にあと一歩を踏み出せないヘタレを生むのですから。男が抱えているジェンダーの縛りに気づいてるところが大きな魅力といえましょう。

 それにメガネ率が高いのも注目です。メガネ攻、メガネ受、セルフレーム、ふちなし、アラレちゃんっぽいデカメガネ…メガネの魅力も存分に味わえます。分かっていらっしゃること!

 その綺麗な描線からずっと期待していた作家です。同人誌も買いに行きましたとも。まとめて読むと改めてそのクレバーっぷりに感心です。これは追っかけていかないとな、と強く思いましたよ。

芳文社
2006年9月15日発行
2006年9月19日購入

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2006年10月24日 (火)

藤谷陽子「シャンプー」

Hujitanishampoo  高校生の久弥(黒髪)は、幼なじみの巧(茶髪・かわいい系)にずっと思いを抱いている。しかし進路はもう別れることが決まっている。巧は親の職を継ぐために東京の大学に進み、久弥は地元に残るのだ。あとわずかしかない二人の時間、少しでも距離を詰めようとする久弥だが、もう思いは届かないものと半ばあきらめている。日差しの照りつける夏、出口の見えない思いを抱く久弥。「drap」に掲載された短編5本が収録された作品集。

 我孫子武丸原作の「スライハンド」を描いていた人なのですね。道理で見覚えがあると思いましたよ。
 この人の作品の特徴は、攻と受との間に絶対的な力や立場の差があるわけではなく、常に微妙に揺れ動くことだと思います。幼なじみに対するかなわない片思いで終わるかと思いきや、幼なじみから告白されて主導権を握られてしまいます。関係上も描写のオヤクソクからも攻としか思えないキャラが受けに回ったりします。絶対君主として振る舞っていた攻が、あるきっかけで受に目覚めたりします。
 確かにちょっと意外に思えるところはあります。ですが相手に対する「愛」「想い」が最優先されているために、これもありと思えます。とにかく心理描写が巧みなのですね。それに実際の男どうしの関係では、攻とか受とかの役割は固定化されないものだったりしますから、リアルさが感じられるという点でも訴えるものがあります。巧い、という表現がぴったり来る作家だと思います。
 またこういう透明感があって繊細な描線は現在のハヤリ。私もこう言うのは好きですね。イマジナリーな男性像である点は顎長人と変わりないのですが、「リアルさ」と「美しさ」を兼ね備えることができますから。

 「drap」はこのところチェックしそびれていましたが、綿密に見なくちゃいけませんね。こういう実力者が出てくるので、BLあさりはやめられないというものです。

コアマガジン
2006年10月9日発行
2006年9月27日購入

シャンプー
藤谷 陽子著

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2006年3月15日 (水)

星野リリィ「おとめ妖怪ざくろ」@BIRZ4月号

birz2006_04  場所は明治時代の日本と思われるところ。時は改元し、暦も西洋式に改まった頃。この世界では、人と妖怪たちが共に生活している。改元とともに、妖怪たちは人間主導になっていく社会に不満を抱き、様々な事件を起こすようになっている。それに備え、人間と妖怪の代表が集まり、「妖人省」が作られた。人間側からは若い陸軍の将校たちが、妖怪側からはオトメたちが選ばれ、顔合わせを行なうことになった。
 西王母桃(ざくろ)は喧嘩独楽では誰にも負けない活発なオトメ(ネコミミ付き)。パートナーとなることになった総角(あげまき)少尉はすごい美形で、ざくろはめちゃくちゃときめいてしまう。しかし総角は実は怖いものが大の苦手で、ネコミミ付きのざくろにもガクブル状態だったのだ。ヘタレきっている総角に幻滅するざくろ。

 うっひょー! リリィ先生初の青年誌(マニア誌?)ですよ? なんか女の子たちめちゃくちゃカワイイですよ? 「ローズンメイドン」目当てでバーズを読んでた男の子たちもメロメロになること間違いなしですよ? 男性たちも美形揃いで「はいからさんが通る」みたいですよ?
 お花やキラキラが乱舞して、ひどく少女まんがみたいなんですが、そこは女性作家ばっかりなバーズ。驚くほど誌面にマッチしているのでした。それに内容もいいんですよ。一見コッテコテの少女まんが的展開になると思いきや、実は美形少尉はヘタレ。ざくろのほうがよっぽど侠気があるのです。この構図は「ローゼン」と共通していますが、やっぱり面白いのでありまして。星野作品の女キャラは、メラミちゃんといいラブたんといい、みんな強い侠気の持ち主ですが、そうした女キャラのしゃきしゃきした感じが、星野作品の重要なカギになっていたことは間違いありません。その面白さは、この作品でも存分に発揮されそうな塩梅です。
 ただまぁひとつ不安でもあり楽しみでもあるのが、「ざくろは実は男の子だった」という展開になるかもしれないってことですね。バーズですしリリィ先生ですしやりかねねーとにらんでいるんですが。まあそれはそれでよし! ビバ性別受!

 で、主人公を女の子と設定した(とりあえずは、ですが)この作品を通じて、星野作品に登場する性別受の性質が見えてきます。
 ひとつは、「性別受はまんま女の子であった」ということです。実際妖怪側のオトメたちは、これまでの星野作品における性別受と、まったく同じ描かれ方をしています。そして星野作品における性別受の中には、「女の子にしか見えない」というキャラが何人も出てきます。「ななさん」とか「ハレムでひとり。」とか。こうしたキャラは、実は全くの女の子だったのですね。設定上男の子となってはいますが、内容的にはこれまでの物語の中で語られてきた女の子像とまったく変わりありません。「実は男の子」ということでキャラクターは強められていますが、それは違和感をもたらすものでもありました。そして性別受たちは、多くはファンタジー世界の中で、攻とのロマンチックな恋愛を繰り広げていきます。ですからこうした性別受たちは、まったくの「女の子」であったといえるでしょう。基本的には男女のロマンスを楽しむ構造になっています。また受は見た目も行動も女の子です。ですが性別だけ男と設定されています。ロマンスを楽しむことと、性別だけ男の子という「裂け目」を楽しむこと。星野作品の魅力のひとつは、この二重性にあったといえるでしょう。
 もうひとつは、性別受は「女の子の侠気」の反照として現われるということです。実は女の子だって、男らしさをたくさん持っているものです。主体的だったり押しが強かったりワガママだったりと。ですが女の子の持つ侠気が前面に出すぎてしまうと、そればかりが鼻につく表現になってしまいがちです。侠気っていうのは強い自己主張ですから、周りが押し切られてしまうのですね。そこでそのバランスを取るために、女の子性を強く付与した性別受を配していると思えるのです。ハーレムきゅんとかダイヤきゅんとかは、まさに個性の強い女キャラのカウンターパートです。そして描写のキモはどこにあるかというと、実はハーレムきゅんやダイヤきゅんとご主人様の関係を描くことにはありません。明らかにメラミちゃんとかラブたんを生き生きと描くために、ハーレムきゅんとダイヤきゅんは描かれているのですね。「女の子」を魅力的に描くために、性別受は「女の子性」を付与されるのです。
 となると、星野作品における性別受は、方法の違いこそあれ、「女の子の魅力」を描き出すために設定されていることが分かります。それは女の子に対する応援歌であり、だからこそ女の子に受けるのだということも分かります。そして女の子どうしの関係も描いているために、百合作品と親和性が高いことも分かります。これは男性にも訴える要素となるでしょう。描写の中心は常に「女の子らしさ」にあるのですから。男の子たちは、成長の過程で「持つべきではない」と教えられている「女の子らしさ」の精髄を星野作品に見て、それに惹かれるのです。
 まあこれ以外にも「花嫁くん」みたいな、成長した男が示す受け受けしさも描けてしまうので、星野先生はすげーのですが。

 これを機会に男の子たちが「スーパーダブル」とか「魔法学園」とか「かわいがってください。」とか読むといいのに! そしてみんなダイヤきゅんとかハーレムきゅんとかネコとかの性別受の魅力にメロメロになってくれればいいのに!

幻冬舎
2006年4月号掲載

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2006年3月 3日 (金)

深瀬紅音「いいなり」

hukase_iinari  古賀嵐、通称コガラシ(京都弁)はカワイイ顔をしているが、振られてばかり。相手のいいなりになるばかりでつまらないというのだ。主体性のある男になるために本屋に立ち寄るが、そこの店員に親切に声をかけられる。最初は怪訝に思うが、いつしかそれが嫌ではなくなっている。つきあうことにした二人だが、コガラシは以前振られた経験を思い出し、極力きっぱり意見を主張しようとがんばる。意地を張っているけれども、いつしか店員のいいなりになって身を任せたくなる誘惑に勝てなくなってくる。同じ学園を舞台とし、さまざまなカップルが繰り広げる恋愛模様を集めた連作集。

 まずは叫んでおきましょう。受がものすごーくカワイイんですよ! カワイイ男の子マンセー! マンセー! マンマンセー!もう絵面からしてたまらないものがあります。もう描線が繊細きわまりないんですよ。また伏せた目や恥ずかしがる描写なんかも一流。ヅキュウウンと来まくりです。

キャラクターの内面描写も多様で魅力的です。意地っ張りだったり、人と距離を置いてしまう性格だったり、過去の暗い経験からちょっとひねた見方をしてみたり。受はみんなちゃんと「男の子」として描かれるのですね。その辺がいかにもな性別受本とは異なっているところです。ところが男の子たちは、ことえっちの時になると、涙うるうるのオトメモードになります。意地を張りながらも涙目なんです!この鮮やかな展開とギャップが、た・ま・り・ま・せ・ん! 

 あとは、細部へのこだわりが非常にきめ細かいところも注目すべきところです。コガラシのやわらかい京都弁、ちょっとした肌のふれあいから感じられる電気のような感覚、はっきりと口に出さない思い、トロンボーンや弓道といった小道具。細部にまで目が行き届いており、それが攻受二人の関係を非常に強めています。そしてエロはかなーりしっかり。うはー萌え死ぬー!

 この人の場合、正確には性別受とはいえないでしょう。えっちのとき以外はちゃんとした男の子なんですから。ですが絵の美しさと、そしてえっちのときのエロい描写は、明らかに性別受と重なってきます。それに男の子とはいえ、キャラクターたちはみな間違いなく心にオトメを飼っています。

 サイトを調べてみたのですが、この人の出自はもともとデジモンとかのショタだったんですね(最近はマイヒメやマイオトメとかにもはまっていらっしゃるようですが)。まさに真っ当な系譜といえるでしょう。女性向けショタは、男の子の「かわいさ」「きれいさ」が強調されるもの。それがこうじて性別受の方向へ向かっていったのでしょう。ですから性別受が出現する背景のひとつはショタであるということがわかってきます。実際の少年が持っている汚さややんちゃさを抜き去ったところに成立する、理想の少年たち。それをよしとし、求める心の動きが、性別受という特殊な存在を作り出していることが見えてくるのではないでしょうか。

 この人の場合は、デジモンというしっかりした下地があるために、キャラクターがちゃんと「男の子」になっています。ですからぶっ飛んだ性別受になることを回避しています。バランス感覚が優れているといえるでしょう。また舞-Himeや舞乙-Himeなど、男性向けジャンルもやっているために、エロ描写が非常にちゃんとしています。その意味でもバランスに優れた作品だといえましょう。男性の目から見ても破壊力抜群。ショタ属性のある人ならなおさらです。今度のJ庭には真っ先に買いに行かないと!

海王社

2005年12月20日発行

2006年2月22日購入

いいなり
いいなり
posted with 簡単リンクくん at 2006. 3. 3
深瀬 紅音
海王社 (2005.12)
通常24時間以内に発送します。

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2006年1月21日 (土)

直野儚羅「欲望少年」

naono_yokubou

 優は忍の10歳年上。父親のいない忍は、優にとてもなついていて、いつしかオナニーの手伝いをしてもらうようになる。もちろん優はそれを良いこととは思っておらず、こうした関係は一時的なものだと思っている。そんなときに忍はクラスの女の子から告白され、その子とつきあうことになる。いい機会だと思い、優は忍を突き放す。女の子とつきあってみて、キスしたり、セックスしたりする忍だが、どうも違和感をぬぐえない。結局女の子とは別れてしまう。そして忍は思う。なぜ優は最後までしてくれないのかと。そんなとき忍は、優雅女と会っているところを見てしまう。煮え切らない優を押し倒してしまう忍。「麗人」に掲載された作品を集めた短編集。

 相変わらずこの人の作品はいろいろ微妙なところがあります。特にファンタジー作品はもにょりまくり。美しいケモノの王が人間界から男をさらってきてヨメにする、という作品なんですが、設定からしてもにょーという感じです。男妊娠ものですし。また当て馬になる女の描き方は、意図的ではあるのでしょうが、ちょっとぞんざいにすぎる感があります。
 ですがいい点もやはり多いです。なんといっても絵が上手い! がっちゅんシーンにはなんの妥協もありません。BLといえば男性の肉体を抽象化したりしてしまいがちですが、この人はちゃんと筋肉を描き、ちんこも抜かりなく描きます(当然修正は入りますが)。筋肉の描き方は内田(か)先生を彷彿とさせます。なによりいいのが汁だくなことなんですね。汁やら汗やらでぐちょぐちょぬちょぬちょです。これはエロイ! それから表情の描き方もいいですね。攻が上目遣いになることが多いのですが、これがまあそそること。他の表情の描き方も全体的に非常に繊細です。
 それから心の「接近」を描いているのがいいのですね。離れていた攻と受との距離が、少しずつ近づいていくという構図が多いのですが、その描き方が上手いのです。登場する人々はみんなちゃんと男で、乙女化したりすることはありません。でも男に惚れてしまうことはあるわけです。そうなると、当然「接近」も難しくなるわけです。「男なのに男を好きになるなんて」と。そうした心の壁を越えて近づいていく二人の心を描くのですね。このていねいな描写は、強い萌えを生み出します。

 まあ確かにあちこちに「アレ?」と思う点はあります。微妙にもにょる点もあります。ですが二人の男心がゆっくり接近していった末に、どハードながっちゅんシーンがある。これはかなりクルものがあります。男性が見たときにも、解剖学的に正しい筋肉描写は、かなりそそるものがあります。ボディビルダーのようにマッチョではありませんが、男のエロスを感じさせる筋肉なのですね。これはノンケの男性にも、結構訴えるものがあると思います。

竹書房
2006年2月7日発行
2006年1月14日購入

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2006年1月19日 (木)

桜木知沙子作/穂波ゆきね画 「てのひらの星座」

honami_tenohira  大学生の瑞穂は、一つ年下のいとこ、円治と7年ぶりに再会することになる。円治が瑞穂と同じ大学に合格したので、瑞穂の家に下宿することになったのだ。子どもの頃は瑞穂にすごくなついてた円治。だが、いまでは瑞穂より背も高く、男前に成長していた。昔のような親しさを期待していた瑞穂だが、円治の態度はぎこちなく、そっけない。近づかない関係に瑞穂はやきもきする。ある日抱きしめられ、「好きだ」と告白されるが、それもからかわれているのだと思いこんでしまう。
 そんなとき、瑞穂の前に、円治の元家庭教師で、いまは医師をしている吉見が現れる。吉見の前では円治はくつろいだ表情を見せ、瑞穂は嫉妬する。そして吉見はゲイで、円治を大切に思っていることを明かす。吉見と円治がつきあっていると思った瑞穂は、円治の手を振り払ってしまう。そして円治は家を出て、吉見の元で暮らすことになる。

 いやー、もどかしさ炸裂なんすよ、これが。ふたりとも自分の気持ちをはっきり自覚してるんですが、特に瑞穂は悪い方、悪い方へと考えてしまいます。円治はかなり素直に「好きだ」って言ってるんですが、瑞穂にはそれが信じられないのです。そんなわけですから、ふたりの関係はなかなか近づきません。それが1巻まるまる続くので、読者としては身もだえざるを得なくなるというわけです。モドカシー! ちょっと引っ張りすぎの間は否めませんが。
 あと興味深いのは、自分の気持ち、相手の気持ちを分かっているけれど、それを自分の中でごまかしてしまうという心理が見られるところです。どうすればベストの展開になるか分かっているのですが、自分が傷つくのが怖いから、その一歩を踏み出すことができない。結局何も得ることができず、みすみすチャンスを逃してしまう。この心理はヘタレ攻の基本心理なんですが、ササキバラがいう「優しい男オタク」も共有するものです。こうした心理は、オタク男性なら結構身に覚えがあるものなんじゃないでしょうか。「灰羽連盟」というアニメでは、こうした撤退の結果、罪悪感の堂々巡りに陥るキャラが現れ、そうした人を「罪憑き」と呼んでいます。ここで瑞穂が陥るマイナスの堂々巡りは、まさに「罪憑き」であるといえるでしょう。これはオタクに限らず、結構多くの人に共通する、一般性のある心理状態なのではないでしょうか。いやー、なんで人って、こんなに恋愛に臆病なんでしょう。もちろんなかなか成就しないから、恋愛って面白いんだと思うのですが。

 穂波ゆきねの絵は相変わらず美麗。今回はかわいい女の子がたくさん出てくることもあって、華やかさが増しています。この人、梶原にきや山本小鉄子と同じく、一般誌でも充分やっていけるでしょう.まぁ原作つきにはなるんでしょうが。今度は女の子を主人公にした、BLでない作品も見てみたいよな、と思います。

徳間書店
2006年1月1日発行
2005年11月25日購入

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2006年1月18日 (水)

窪スミコ「暮れゆく空は君の味方」

kubo_kureyuku  牧は野球部のエース。街で不良に絡まれているところを、空手をやっている南方に助けられたことがきっかけで、超南方ラブになる。人目をはばからず愛を伝える牧を、南方は煩わしく思うが、その子犬のような目に、次第にまんざらでもないと思うようになる。ついには南方は、牧の帰りを校門で待つようになる。
 そんな中で、南方の前に、憧れの先輩佐々が現れる。南方は無理な練習がたたって体をこわし、空手をあきらめようとしていたが、崇拝する先輩のすすめで再び空手に打ち込む。佐々に対する憧れを隠そうともしない南方に、牧は気が気じゃない。

 まあなんちゅうか、牧きゅんもうカワイイです。カワイ過ぎます。一方でめちゃくちゃハァハァしていながらも、相手の「おあずけ」の命令に従わないではいられない。やっちゃいたいという気持ちと従わなくちゃという気持ちを天秤にかけ、結局従ってしまう犬チックなところがたまりません。そしてそんなけなげな牧きゅんに対して、「し、しょうがねえなあ」てな感じで心を開いていく南方のさま! 「お前が悪いんだからな!」と言いつつも、でも牧の愛情表現がないとちょっと寂しく感じてしまう。こういうのをツンデレというのですね! ここまでいいツンデレはBLでは珍しいんじゃないでしょうか。

 こうして南方は主導権を握り、牧に対しては攻的立場になります。ですが一方で、南方は佐々先輩に対しては、まったくわんこになってしまいます。目をきらきら輝かせながら、佐々先輩に陶酔しています。これはこれでまたカワイイんです。そして佐々先輩が「貸せ」と言おうものなら、南方はのしをつけて貸しまくることでしょう。めちゃくちゃサービスすることでしょう。南方は、先輩に対しては受なんですね。
 つまり南方は受、牧もまた受なのです。実際、最後の最後まで、どちらが攻になるかは確定しません。これがなんかトランスジェンダーっぽくって、すごくドキドキするんですよ。最後まで役割が決まらないのは少々すわりが悪いんですが、受が勇気を出して攻になるというのは、なんだかとってもいけないことをしているように思えるのですね。いや、いけないことをするから、BLって面白いんですが。おそらく現実世界で、男の子どうしが恋に落ち、セックスしようとするなら、やっぱりこんな攻受闘争が行われることでしょう。リアルさという点からも、ドキドキするものになっていると思います。

 絵柄の方はぶっちゃけ「おお振り」にインスパイヤされまくりな訳ですが、見るからにミハシな南方がやんちゃ系になっているのが面白いですね。そして全体の構造も、受×受になっていて、すごく興味をそそられます。これからは、こうした「いかにも攻」「いかにも受」ではない、リバっぽい作品が流行るのかもしれません。今後が激・楽しみな作家です。

2005年12月15日発行
2005年11月25日購入

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2006年1月17日 (火)

ユキムラ「好きのめばえ」

yukimura_sukinomebae  16歳の敬介は、お隣の久志くんにすごくなついている。母子家庭のうえ、兄の源三は厳しく、手が先に出るタイプ。敬介は何かあるとやさしい久志の家に入り浸っていた。一方久志は、もう抑えきれないくらい敬介にハァハァしている。そんな状況で、敬介の母が再婚することになる。相手の連れ子は、以前久志が家庭教師で教えていた、黒髪メガネの貴一。貴一と久志の過去になにかあったことをかぎ取った敬介は、久志に対して素直になることができず、さしのべられた久志の手を振り払ってしまう。久志はどうしていいか分からず、戸惑ってしまう。

 なんたってヘタレ攻ですよ! 久志はオトナで落ち着いているんですが、こと敬介のことになると、傷つけちゃいけないっていうんで、とたんにおずおずしてしまいます。オスとしての欲望はバリバリにあってハァハァしまくっているっていうのに! オタク男性には結構ヘタレ攻の気持ちってわかりやすいんじゃないでしょうか。ほら、ササキバラ・ゴウも、「やさしさに目覚めた男性は、相手を傷つけまいと、距離を置くようになった」といったことを、『<美少女>の現代史』で述べてますし。それがラブコメや、触れ得ない存在としての美少女=萌えキャラを生んだって言ってますし。ヘタレ攻はオタク男性の基本メンタリティですよ。
 それから敬介の描き方が非常にいいのですね。敬介がもうめちゃくちゃカワイイんですよ。流行りの言葉で言えば、うはテラカワイスってところでしょうか。設定は16歳なんですが背が低く、目がくりくりしています。また感情表現が子どもとおんなじで、とにかくはっきりのびのびしているんですね。表情の百面相を見ているだけでもニンマリしてしまいます。また体もまだ育ちきっておらず、薄っぺたいのですが、これがエロいのですよ。年齢的にも体型的にもショタじゃないんですが、ショタ要素をひっそり持っているんですね。これは萌える! この「隠れショタ」の描き方は、なかなか新しいんじゃないでしょうか。
 あとは、どうしても蚊帳の外に置かれそうな源三と貴一にも、ちゃんと花を手向けているところでしょうか。ちょっと総ホモになって、ご都合主義的展開になるきらいはあるのですが、全体的なお話もきちんとまとまっています。完成度高いです。

 2000年代に入って、BLにも「ニューウェーブ」といえる流れが現れてきていると思います。わかりやすい形では絵柄の変化があるのですが、実は質的な変化も起こっています。ユキムラのこの作品は、質的、表面的な変化を、両方感じることができるものになっていると思います。

2005年11月1日発行
2005年10月14日購入

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