2009年9月 8日 (火)

松本ミーコハウス『テレビくんの気持ち』

蒼太 月9にも出演するようになった人気急上昇中のアイドル。顔はとてもいいけれど、しゃべり方はちょっと舌足らず。圭輔のことが昔から好き。
圭輔 大学生、自分のことをキモメンと思っている。

小泉 売り出し中のアイドル。本当は身の回りの事は全部自分でできるのに、マネージャーのうっちーに甘えて、なんにもしない。世話を焼いてもらう。
うっちー マネージャー。きまじめな性格。

道隆(20歳) コンビニの店長、父が倒れたため若くして店長になる。元ヤンキーのリーダーで人格者。人望も厚い。
須藤(25歳) コンビニチェーンの社員、眼鏡、まじめ。道隆の父が倒れたのは、自分のせいだと気に病んでいる。
…という3組のカップルの、デキる前、デキた後をそれぞれ描いた短編集。

テレビくんの気持ち (バーズコミックス ルチルコレクション) テレビくんの気持ち (バーズコミックス ルチルコレクション)

幻冬舎コミックス  2009-04-24
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 まず3組のカップルが、ゆるやかにつながっているのがいいですね。圭輔は、道隆のコンビニでバイトしてますし、蒼太は小泉とアイドル仲間ですし。1冊の本が「世界」を作るっていうんでしょうか、人が生活している「街」を舞台にして、物語が紡がれていくのがいいんですね。同じ手法は古街キッカの「洋6K2南向き 」でも使われていましたが、キャラクターたちへののめり込み方が深まります。
 それから、それぞれのカップルがデキていく過程がいいんですね。どのカップルもフェロモン系とコンプレックス系のカップルです。受の人たちは、自分に自信がなかったり、過去にトラウマを持っていたりして、自分にも相手にも素直になれないんですね。「あんなすごい人に自分はそぐわない」と思ったりしています。だから自分から別れようとしたり、恋心をなかったことにしようとしたりするんですよ。このいじけっぷり!
 フェロモンの人の方がコンプレックスの人のことを好きなので、手を伸ばせば恋は手に入るんです。ですが心がいじけちゃってるんで、自分から手を引っ込めてしまうんです。これは恋に慣れてない男性が結構やっちゃうことで…ですから男心をズキュウンと刺激するんですよ。そういや私もこのいじけモードが長かったですしねー。それを端的に示しているのが、受のメガネです。受は3人ともメガネなんです! メガネは外界からの防御壁。直接現実世界に触れるのがつらい、コンプレックスを持った人の必須アイテムです。受のメガネ君っぷりには、もうドキドキですわ。
 まあそうした難儀な受が集まっているのですが、なんとかカップルは成立します。それは巧みな心理描写のためでしょう。<赤面>が実に効果的に使われているんですね。それが雄弁に男の恋心を語るんです。あとはうるうるお目々も効果的に使われます。これがキクんですわ! 恋愛を怖がっている受も、相手の本気を受け止めざるを得なくなるんです。

 心理描写の巧みさは「みどりのまきば」でも見た通り。作風の広さにもほれぼれしてしまいます。マンガの神に愛されてるなあ、とつくづく感じます。これからの活躍が本当に楽しみな作家さんです。

幻冬舎コミックス
2009年4月24日発行

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2009年9月 3日 (木)

さかもと麻乃 『ほんとの事、言っちゃって!』

 中井は、他人をいじって楽しむのが好き。人をいじめたり、人の上に立つのが好きで、自分の性格をあまり良くないと自覚している。そんな中井は藤本先輩とつきあっている。藤本先輩は目つきがクールで、誰も彼に命令できない女王様タイプ。そこで中井は藤本先輩の前では猫をかぶっている。本当はもっと痛くしたい、乱暴にしたいと考えているのに。ところが先輩に、猫をかぶっていること、本当はSな性格であることがばれてしまう。その後先輩は口をきいてくれなくなる。実は先輩は…。
 女王様受、へたれ年下攻×ツンデレ受、ケモ耳ものなど、8本の学園ものの短編を集めた作品集。

ほんとの事、言っちゃって! (花音コミックス) ほんとの事、言っちゃって! (花音コミックス)

芳文社  2009-08-29
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 さかもと先生絶好調です。ノマカプ本「おとこのこは魔法」 で、非BLに本格進出するかと思いきや、ちゃんとBLでもナイス作品を見せてくれます。
 まず、全体が学園ものになっているのがポイントですね。1本だけ大学が舞台ですが、あとはみんな高校が舞台。オトナになりかけの美少年を描くにはもってこいの舞台です。登場人物がみんなかわいいんですわ! まつげの長いかわい子ちゃんの描写なんて、もうゾクゾクものです。そんな子が快感に頬を赤らめているところなんて…読んでるこっちもヤバイです!
 そして年下攻も目立ちます。あらすじに挙げた「全部ください」をはじめとして、実に8本中3本が年下攻です。学園もので年下攻っていうのがポイントなんですよ。たった1歳の違いが、具体的な権力関係になって現れる学校という舞台で、年下の方が主導権を握る…この「ひっくり返り具合」がいいんですよ。先輩は、心構えの上ではツンケンしたり、上位に立とうとしますが、いざ恋愛やセックスになると受け身になってしまうんですね。一方後輩は、ちょっとヘタレだったり、ニブいところがあったりしますが、恋愛やセックスにおいては、かなり上手に立ち回ります。ありがちな構造をうまーくひっくり返しているんですね。なかなか難しい構造なんですが、さかもと麻乃はきちんとまとめています。これもゾクゾクものですわ!

 あと、高慢な受(実はM)と、ちょっとヘタレな攻(堅物)という構図も目立ちますね。ああ、やっぱりスザルルなんだな、と思いますね。表紙なんかもろにそんな感じです。この人、非BLに行っちゃうのかな、と危惧していましたが、BLにも強い萌えがあるようで、一安心です。
 ただこの人の場合、萌えの幅が広いんでしょうね。だから百合(リスランタンプティフルール) も描けるし、ノマカプファンタジーも描けるのでしょう。この広い萌えから生まれてくる、BL、百合、ノマカプの混淆した、なんともジャンル分けのしづらい、新しいタイプの作品が生まれてくるように思います。さかもと麻乃という作家は、新たなジャンルを生み出すだけの実力と才能を持っていると思いますし。BL好きとしてはBLに集中して欲しい、かわいい男の子をバンバン描いて欲しいと思いもしますが、ジャンルに縛られることなく活躍して欲しいなあと思います。

芳文社
2009年9月13日発行

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2008年6月16日 (月)

依田沙江美「愛の深さは膝くらい」

 神主の息子・石倉はぶらぶらしていたが、親のコネで高校の書道の代用教員として働くことになる。人当たりの良さですぐ人気者になるが、書道部一年でメガネでちっちゃい昴だけは、石倉にツンケンした態度を取る。それは石倉が以前、昴の姉を食ってしまったせいで、石倉のことを「エロい大人」と思っていたためだった。しかし実は石倉に興味津々。以前の姉との関係をばらすと揺さぶりをかけて優位に立とうとするものの、石倉にとってはそんなのすっかり過去のこと。凹む昴を見て、今度は石倉が昴に興味を示すようになる。依田沙江美久しぶりの単行本。

愛の深さは膝くらい (花音コミックス) 愛の深さは膝くらい (花音コミックス)
依田 沙江美

芳文社  2008-03-29
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 ギャー! お子様! メガネ! そしてツンデレ!!!
 とにかく昴の造形がいいんです。昴は一方で必死に背伸びして大人っぽくなろうとします。石倉の過去を上手く利用して、石倉に対して駆け引きをしようとします。ですがもう一方で、昴はいろんな点でまだ成熟しきってないことを露呈してしまいます。昴は尋常じゃないほど素直じゃありません。消しゴムぶつけたり意地悪したりします。実は先生にすごく興味を持っているんですが、それを認めたくないためと、照れ隠しのために、ものすごくツンケンしてしまうのです。それから友達が買ったコンドームを石倉に売りつけて気をひこうとするのですが、予想より多くお金をもらってつい何に使おうか考えてしまいます。性的なことに妙に潔癖だったり、色気より食い気を優先してしまったりします。つまり昴は、子どもから大人に変化していくまさに真っ最中なのです。情緒も行動も不安定になります。だから強度のツンデレになるのですし、だれかにすがりたくなるのです。こ、これは美味しい! そして昴は、まさにその微妙な時期にいるために、その時期しか見ることができない微妙な美しさを持っています。感極まって泣いちゃったりするんです! ギャー!(声にならない叫び)

 まさに昴はこれからなんでも書き込めるタブラ・ラサ(白紙)なんですね。そうであるために、石倉は昴に手を出すのを止められなくなります。こういうあやうい少年に手を出さない人がいましょうや? いやない! と断言したいところです。

 一方石倉ですが、基本的にはオトナなので、昴の可愛さを愛でる余裕を持っています。ですがそんなとき昴を好きになる女の先輩が登場します。そのため女を知る前に奪っちゃえとばかりに、石倉は事をちょっと急ぎます。…可愛い外見を持ちながら、石倉の欲望のありかたはなかなかえげつないものがありますねえ。今後児童ポルノ法に漫画が加わり、内容規制もかかるようになったら、アウトになっちゃうかもしれません。ですがこのえげつなさがあるために、物語の強度も萌え度合いも強烈になっているといえるでしょう。

 男の子の意地っ張りなところ、でもまだまだ子どもなので弱いところ、この作品は微妙な年代の「男の子らしさ」を余すところなく描き出します。京山あつきの「さよならBaby」に非常に近い視線ですね。ともすればリアルからどんどん離れてしまうBL的なお約束を踏まえながらも、男の子の男の子らしさを生々しく描こうとするのですから。男の子のありのままの姿が好きでなければ、つまり少年への愛が「本物」でなければ、なかなかこうした描写はできないでしょう。そしてその本気っぷりが伝わってくるために、この作品は強烈なパンチ力を持っているといえます。恐るべき作品です。
 ただそれはそれだけ「子ども」を生々しく描いているということですので、読む人を選ぶかもしれません。それは萌えがそれだけほとばしっているためなのでしょう。いずれにせよ強度が強いことには変わりありません。

 依田沙絵美の久しぶりの作品ですが、まったく衰えていないどころか、さらに切れ味を増していたのでした。続編もあるということですから、これは次が楽しみです。

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にゃんこのBL徒然日記さん
こんな本よみました…さん
BL Diaryさん
詞の音さん

芳文社
2008年4月15日発行
2008年3月30日購入

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2008年5月19日 (月)

彩景でりこ「傷だらけの愛羅武勇」

 清士郎は狂犬とも呼ばれるヤンキー。つるんでいる連中を片っ端からボコり、怖れられている。そんな清士郎に対し、一つ上の上坂は毎日タイマン勝負を仕掛けてくる。表面的にはウゼーという姿勢を示す清士郎だが、上坂の侠気と毎日挑んでくる律儀さにすっかりメロメロ☆になっている。自分の気持ちを素直に示せない清士郎は、とうとう上坂を無理矢理ものにしようとするが、全力で拒まれ、見損なったと言われる。廃人のように凹む清士郎だが、次の日上坂はまた挑んでくる。「お前俺のこと好きなのか?」と。「カタログシリーズ」に掲載された作品を集めた初短編集。

傷だらけの愛羅武勇 (MARBLE COMICS) 傷だらけの愛羅武勇 (MARBLE COMICS)
彩景 でりこ

ソフトライン 東京漫画社  2008-04
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 見た目はハードなヤンキー漫画です。清士郎も上坂もとてもBLという描写ではなく、ガチのヤンキーとして描かれています。上坂はヤンキーヒゲ生やしてますし。それに暴力描写はかなりえげつなかったりします。
 ところが清士郎は、一方で気にくわない奴を全員ボコるヤンキーマインドを持っていますが、もう一方でピュアな恋心を持っているのですね。外見はガン飛ばしまくってますけど、内面は上坂に話しかけられてキュンキュンしているのです。このギャップ! そして清士郎は恋心と一緒に、上坂に対してガチの性欲を抱いています。上坂を押し倒して拒まれるのですが、その時触ったちんこの感触にハァハァしまくりです。見た目こそおっかなげな作品なんですが、実はハードな外見と、戯画化されたピュアロマンス、そしてガチの性欲の間に生まれるギャップが笑える作品になっているのです。
 それが端的な形で現れているのが「妄想兄弟純情系」という作品ですね。兄はかわいい弟のフミにメロメロだった。

Saike02

 ところが2年のアメリカ留学を終えて帰ってきたとき、フミは兄より背が高くなり、ヒゲを生やして、アフロになっていた…という作品です。

Saike01

 いやーもう業が深いこと。兄が愛していたフミはショタっ子でした。ですが今のフミはどう見てもストリート系の兄ちゃん。でも内面は可愛いショタっ子のまんまなのですね。男性性バリバリの外見に可愛さが無理矢理結びついているので兄ちゃんは悩むのですが、その悩みは読者からすると大笑いできるギャグの源です。ハイテンションなギャグはたまらない面白さがあります。

 やっぱり面白いのは、男性性に疑問を感じることがなさそうな男に、無理矢理可愛さやピュア恋愛を結びつけていることですね。それがパンチ力の強いギャグになっています。それにBL的にもそそるものがありますね。ストリート系の兄ちゃんがボーイズなラブを繰り広げていくわけですが、そのことによってストリート系の男たちが持っていると思われる男性性へのこだわりが、どんどんぐずぐずになっていくのですから。そして「男らしさ」を目指していた男たちは、ロマンティックラブのとりこになっていきます。これは男を「陥落」させることですね。どんなにいきがっていても、どんなにツッパっていても、ラブにはかなわないのですから。

 テンポの良さ、絵の上手さと、これから大きく存在感を示しそうな作家です。一つ気になるのは、女性を上手く、可愛く描けること。攻と受が両方オカマという作品があるんですが、BLなんですけど見た目がほとんど百合なんですね(このことについては「プチ鬱読書人形日記」さんと「BL系。」さんで指摘されていますね)。BL以外もそつなく描けそうですし、BL以外でも活躍しそうなんですよね。それはそれで喜ばしいことですが、この作品で描かれるような「男をいじる漫画」も描き続けていって欲しいものだと思います。

東京漫画社
2008年5月15日発行
2008年5月5日購入

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2008年5月 8日 (木)

阿久津柑子「王子殿下のご奉仕猫」

 18歳になったハルは、王族の掟に従い隣国に身分を隠して留学することになる。しがらみにとらわれないので、ハルはやんちゃする気満々。ところが入学そうそう、猫耳・尻尾つきの男の子・クロに抱きしめられ、キスされてしまう。思わず手を出してしまうが、どことなく懐かしい気持ちになるハル。一方クロは学校一の不良と目されていたために、ハルは不良たちの争いに巻き込まれることになる。ボコボコにされるハルを助けに現れたのはクロだった。「BOY'sキッス」に掲載された作品などを集めた、阿久津柑子の初単行本。

王子殿下のご奉仕猫 (ビーズラビーコミックス) 王子殿下のご奉仕猫 (ビーズラビーコミックス)
阿久津 柑子

エンターブレイン  2008-02-15
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 この人の作品を始めて雑誌で読んだときは、ずいぶん興奮したものです。なんたって男の子がベリーキュートなんですもの。大急ぎで同人誌も買いそろえましたとも。

Akutu01

 かわいい少年を描く作家は大勢います。CJ Michalski、タカハシマコ、みなみ遙、宮下キツネ、深瀬紅音、などなど。思えば私はBLを読むにあたって、そうしたかわいい男の子をずっと求め続けてきたのでした。最近はBLすれしてきたせいか、オヤジとかキンニクとかヒゲとか体毛とか、そっちの方を重点的に読んできたのですが(そういう作品が多く出版されるようになってきたこともありますが)、改めてこういう超弩級スーパーキュート男の子を見ると、自分の原点がどこにあるかを思い知らされますね。私は少年が、それも可愛い少年がだーい好きだったんですねえ。
 で、この少年の可愛さというものは、なんだか独特の進化を遂げてきたもののように思いますね。なんたって現実世界には、こういうショタBLで描かれるような可愛い少年は、ほとんど存在しないのですから。少年の可愛さそのものは、どんな男の子にも少しずつは存在すると思いますけど。そうした少年の可愛さが濃縮され、キャラクターに結晶したものが、こうしたショタキャラであるように思いますが、その「濃縮」がどのように行なわれてきたか、どうした作者の気持ちがこの「濃縮」につながってくるのか、ちょっと考えてみる必要がありそうですね。それはなぜ私はショタがこんなにも好きなのか、という理由を明らかにするでしょうし、男性の中に少なからずショタ愛好者がいることを明らかにするでしょうから。

 もう一つ衝撃的なのは、掲載誌がマガジン・マガジンのせいか、セックス描写が実に汁気たっぷりでねちっこいということですね。可愛くさわやかな絵柄なのに、やることはものすごくねっとりしています。少年がちっちゃかろうが可愛かろうが関係なし! やることはやる! という姿勢が貫かれています。確かに絵柄とはあまりマッチしていないように思いますし、リリカルな展開もできそうな人なので、ちょっとやりすぎかなとも思います。ですが可愛い少年がさんざんにやられちゃうというのは、それはそれでクルものがあるわけでして。

 エンターブレインからの出版は、エンブレの雑誌に載るとか、作品が単行本にまとめられるといった、今後の布石なんでしょう。次の作品が実に楽しみです。今度はもっとリリカルなものをお願いしたいところです。

エンターブレイン
2008年2月27日発行
2008年2月21日購入

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2008年4月27日 (日)

ヤマシタトモコ「タッチ・ミー・アゲイン」

 小説家の遠田にはすぐ暴力を振るう癖がある。写真スタジオに勤める押切は間違いが多いという癖がある。二人は10年来の腐れ縁で、遠田の家の窓が開けっ放しになっていることもあって、いつも一緒にいる。7年前、遠田は一度だけ押切を抱いたことがある。そのとき確かに二人の心は近づいていた。しかしその時二人は肝心な言葉を口にすることができず、互いの心に踏み込むことを避けてしまった。それ以来二人はそのことを忘れたふりをし続け、親友という関係を保とうとする。ヤマシタトモコ2冊目の単行本。

タッチ・ミー・アゲイン (ビーボーイコミックス) タッチ・ミー・アゲイン (ビーボーイコミックス)
ヤマシタ トモコ

リブレ出版  2008-01-10
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 内容については「~漫画読みの読書感想ブログ~」さんや、「BL Diary」さんが詳しいので、そちらもご覧になってみてください。

 7年もの間宙づりになっているふたりの気持ち。ふたりはそれぞれ繰り返し自問自答します。「お互い自分の気持ちに気付いていながら 気付いていないふりをし続ける」というように。それは画面にはっきりと<言葉として>書かれ、読者の心に刻み込まれていきます。まるでポエムのようなのですが、やはり言葉で明示されているというのは強いインパクトを与えます。

 内面がきちんと語られるために、人物も立体的に見えてきますし、関係性もきゅんとくる衝撃力を持っています。もう一つの連作「息をとめて、」がいい例でしょう。デザイナーの芥は人付き合いが苦手で不眠症。ただ紙屋の佐方にだけは心を許せる。それは佐方のことが好きだから。一方佐方は後輩の恒夫が自分に思いを寄せているのに気付いていながら、恒夫を傷つけたくないと思っています。三人のエゴはぶつかり合います。人格的に破綻を抱えている芥がすがれるものは、「好き」という気持ち以外にありません。一方佐方は、芥の気持ちをすっかり許していますが、昔からのつきあいである恒夫を傷つけたくないために、中途半端な姿勢を取ります。そうした膠着した人間関係を崩すのは、やはり「好き」という強い気持ちと、それをはっきり言葉に表すことです。

 ヤマシタトモコ作品の最大の特徴であり、魅力なのは、一つ一つていねいに言葉が重ねられていくことでしょう。ゲイであること。許されない思いを抱いていること。そして一歩を踏み出したくても踏み出せないこと。そうしたつらい気持ちが、一つ一つ言葉で語られていきます。そのため読者はぐーっと登場人物に感情移入することになります。そして思いが叶ったあとも、その喜びが語られます。もちろん素直にではないのですが、願いが叶った喜びはひしひしと伝わってきます。ヤマシタ作品が読者の心を揺り動かし、デビュー以後急速に人気を博したのは、「言葉」の力によるのでしょう。

 ただ、男性の視点からすると、ヤマシタ作品からはどこか違和感が感じられます。ヤマシタ作品においては、「ゲイであること」「男が男を好きになってしまうこと」は、非常に「悪いこと」であるとされているのですね。もちろん登場人物がそれを「悪い」と思っているために、また人物の内面での「悪」の度合いが強いために、言葉に重みが出てきますし、思いが叶ったあとのカタルシスが強くなります。また男性社会におけるホモフォビアは確かに強固に存在します。ですが個人レベルでは、ホモフォビアは最初からあいまいです。「世間からダメと言われているからダメと思いこむ」のであって、男を好きになってしまうことそのものは、変えようのない事実として個人の中に存在します。それについての価値判断は社会的に決まるもので、そこで個人の悩みは生まれますが、男を好きになること自体は、個人の内面においては、それほど絶対的な悪ではないように思うんですよね。どうしてそこまで悪いことと思うのか、どうしてそんなに自分を責めるのか、そこがどうも分からないのです。

 これについては、もう少しヤマシタ作品を読み込んでいきながら、考えていきたいと思います。

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詞の音さん

リブレ出版
2008年1月10日発行
2008年1月20日購入

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2008年3月18日 (火)

つげ雨夜「君を渡れば」

 伊吹は、大正時代から建つというものすごく古い下宿に住むことになった。ある夜、妙に長い地震があった後、部屋に大正時代の書生風の服を着た若者が現れる。その若者は伊吹を明直と呼び、なぜ自分の部屋にいるのかと尋ねるが、話は要領を得ない。その青年、義護(よしもり)は、大正時代からタイムスリップしてきたのだ。管理人によると、この建物ではよくあることらしい。伊吹は義護を風呂に入れるが、操作を教えているうちに押し倒されてしまう。事情を聞くと、伊吹は義護の思い人、明直によく似ているのだという。そして昭直は伊吹の祖父であった。過去からの来訪者との共同生活を始める伊吹だが、いつか必ず義護が、もとの時代に帰ってしまうことを知ってしまう。著者三冊目の単行本。

Photo
君を渡れば (あすかコミックスCL-DX)
君を渡れば (あすかコミックスCL-DX) つげ 雨夜

角川書店  2007-05-01
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 「GUSH」に載っていた作品を読んで、一気に好きになった作家です。以前の作品はロリショタっぽい絵柄で目が大きいんですが、最近の絵は目が横長になって、三白眼っぽくなってます。この三白眼っぽい絵がいいんですよ。以前の絵は目が大きくて表情に欠けるんですが、新しい絵だと表情にかなり細かな変化が出るんですね。
 で、この作品なんですが、義護というキャラがいいんですよ。まあ人物のしぐさや口調、服装などの歴史考証は完璧というわけではありません。ですが義護はいろんな意味で古風な「男」なんですね。未来に来てしまった自分の状況を冷静に判断して、最適な解を見つけようとします。義理堅く、一度した約束は守ろうと努めます。ひとりの自立した人間であろうとします。そして基本的に無口で、秘めた思いをギリギリまで隠そうとします。男としてオトナであろうとしているので、今の男とは異質な魅力を持っているんですね。そのため伊吹はころっと義護にホレてしまうことになります。ですが義護はあくまでストレンジャーで、避けることのできない別れが待っています。ドラマの展開も一ひねりしてあって、巧みさを感じます。

 短編も載ってるんですが、やっぱり2話か3話分、60~100ページくらいの中編が似合う作家のようですね。キャラの関係や物語をキッチリ描き込むタイプのようですから。こうした描写を重ねることで、どーんと大きなヒット作を飛ばすんじゃないかな、なんて思っています。絵柄もこの人独自のものに変わってきていますし。そこでちょっと注目していこうかな、と思っています。

角川書店
2007年5月1日発行
2008年2月15日購入

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2008年2月16日 (土)

ユキムラ「まるで初めての恋みたいに」

 河野は金庫のセールスマンだが、極度の上がり症で、クビ寸前になっている。訪れた設計事務所で、所長の伊藤に異様に親切にされる。伊藤は河野に一目惚れしていたのだ。恋人兼事務係として伊藤の事務所に転職する河野。しかし河野はこのまま世話になりっぱなしではいけないと思い、再び転職を考える。そんなとき河野の前に現れたのが、伊藤のかつての同級生であり、重要なクライアントの藤堂だった。迷っているならうちに来るよう誘われ、河野は迷う。「CIEL」に掲載された作品を集めたもので、著者10冊目の作品集。

まるで初めての恋みたいに (あすかコミックスCL-DX)
まるで初めての恋みたいに (あすかコミックスCL-DX) ユキムラ

角川書店  2008-02-01
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 うーん、全体的に惜しい! ここぞというところで終わっちゃうんですよね。あらすじで挙げた表題作は、藤堂が河野をこれから追い込む、というところで伊藤が現れて終わりになります。もっとネチネチやってほしかったんですがねえ。
 仕事で一緒になった無口なカメラマンは、かつて妹の彼氏として現れた男だったという「吐息を消して、雨音で」も、すんごく惜しいんですよね。カメラマンの小山田が無口なのは、当然仕事相手の高野が昔から好きだったからです。妹の彼氏になったのも、もちろん高野に会いたいからです。まあここまではよくある話なんですが、ここで妹が重要な役割を果たします。実は妹もマジで兄のことが好きで、叶わない思いを抱えるものどうし、一緒にいることにしたというんですね。ななななにそのおいしい設定! そこをつっこんで描いたら、もんのすごい、誰をもうならせるような名作になる可能性があるのに! 妹と小山田が砂を噛むようなセックスとかしてたら、もう何杯でもおかわりできるのに! 残念ながら妹はちらっとしか出てこず、いまは結婚して子供もいるという設定です。妹の思いをスルーするとは、やっぱり惜しい! BL誌に掲載された作品なので、BLの枠を遵守しすぎてる感じと、全体的に尺が足りず、詰め込んだ印象があるんですね。これは雑誌と編集の責任のように思えます。確かにBLとしてはそこそこできあがってはいるのですが、雑誌側がBLであることにこだわるあまり、作家の伸び代が失われているように思えるのです。のびのびやらせるだけのゆとりがあればよかったんでしょうがねえ。

 ただ、最後に載ってる「すべてをあなたに。」は素晴らしいですね。上司一人と部下一人だけのセクション。上司は口が悪く、いつも部下を叱っている。でも部下は、その叱責が実は自分を育てるための愛の鞭だと知っています。上司はずっと阻止してきたのですが、とうとう部下の転属が決まる、という作品です。この上司、べらんめえ口調なのは優しさと気遣いの裏返し、照れなんです。そして部下は叱ってもらわないともう満足できない体になっています。あーもう君ら結婚しちゃいなよ、という作品なんですが、秘めた思いを告げるまでの過程がもどかしくて盛り上がるんですね。それに上司はヒゲですし! 明らかにボーイという枠をはみ出しているために、この作品はインパクトを持っているのだと思います。

 7年目、10冊目の単行本で、中堅からベテランの域に達している作家です。次は存分に萌えを吐き出した、ボリュームのある作品を期待したいところです。

角川書店
2008年2月1日発行
2008年2月5日購入

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2008年2月 7日 (木)

まさお三月「身勝手なあなた」

 夏目先輩はいつも男をとっかえひっかえしているが、相手がいないときはふらりと辰雄の家を訪れ、セックスをせがむ。辰雄はそんな先輩のために、好きでもない手料理を作り、ずっと待っている。辰雄を頼る夏目先輩だが、辰雄の思いは通じていない様子だ。体はつながっているのに、心はつながっていないことに、辰雄は苦しむ。「マガビー」などに掲載された作品を集めた著者の初単行本。

身勝手なあなた (ビーボーイコミックス)Photo 身勝手なあなた (ビーボーイコミックス)
まさお 三月

リブレ出版  2008-01-10
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 「男だから」ということに常に自覚的なところがいいですね。たとえば「甘くない」のふたり。二人は相思相愛で幸せなんですが、受けの三昭は異様に周囲にばれることを嫌がります。「人前でベタベタしていたらふたりがデキてることがバレるだろ!」と。男性が普通にやる程度のボディタッチにさえも、かたくなな姿勢を崩しません。また父親の「再婚」相手が男だったという少年の視点から描いた、「幸せな人たち」という短編もあります。文昭少年(メガネっ子)は、父はなぜ男を選んだのだろうと思い悩みます。男同士に偏見はないつもりですが、それでも釈然としません。この迷いや苦しみが、説得力あるドラマを生むんですね。そしてそれは特に男性にとって説得力を持つものになります。なんたってそうした戸惑いは、男性こそがリアルに、生々しく感じるものなのですから。
 そして悩みや苦しみを描くのですが、最終的にハッピーエンドになっていくのがいいんですね。確かにハッピーエンドはBLのお約束です。ですがこの作品では、登場人物たちが努力して、周囲と折り合いをつけながら、なんとか幸せにこぎ着けます。飛躍したりファンタジーに逃げるのではなく、実際にありそうな解決を目指すのです。ブレイクスルーのカギになるのが愛のあるエロエロのセックスです。セックスで二人の絆を確かめて、状況に対して向かい合っていくのです。これは二重に来ますね。二人で協力して苦難を乗り越えようとするわけですし、なによりエロいことをして絆を深めていくんですから! いやいや、「BLの物語のちから」という帯の文句に偽りはないなあ、と思ったのでした。

 絵が非常に美麗なところも見逃せません。ホームラン・拳と、山本小鉄子に近い系統の絵なんですが、等身が高く顎長人ぎみで、アダルトな雰囲気があります。あと力を抜いて描いた絵もいいんですね。

2

 それにメガネ率の高さ!メガネキャラが出てこない作品は1本しかありませんよ。それにショタメガネもいいんですよ。文昭きゅん13歳の愛くるしさときたら!

1

 まあちょっと考えすぎのところはあるように思います。「のだだがBL読んだ。」さんでも指摘されているように、男同士の関係性に過剰反応しているところがあるかな、と思えるのですね。男どうしの関係を意識すればするほど、男どうしの関係が「特別な」「普通じゃない」関係に見えてくるのですから。ただそれは「ちゃんと男と男のラブを描こう」「現実に即して描こう」とする努力の結果だと思います。初単行本とは思えない完成度の高さ。こういう作家をきちんと発掘してこれるところに、リブレの底力があるのでしょう。

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腐女子の*MEMO to memoさん
BLな毎日さん
ムスカリアさん

リブレ出版
2008年1月10日発行
2008年1月10日購入

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2007年12月12日 (水)

田亀源五郎「ウィルトゥース」

ウィルトゥース (オークラコミックス) (オークラコミックス) ウィルトゥース (オークラコミックス) (オークラコミックス)
田亀 源五郎

オークラ出版  2007-10-12
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 時は帝政ローマの頃。剣奴として連れてこられたガイウスは、全てに絶望し、死んだような目をしていた。人気剣闘士のクレスケンスはそんなガイウスを、圧倒的な力の差を使って犯す。クレスケンスへの憎しみから生きる活力を取り戻し、クレスケンスを倒すために剣闘士への道を進んでいくガイウス。しかし実はクレスケンスは、ガイウスに希望を取り戻させるために、なによりガイウスを愛しているために、ガイウスを犯したというのだ。ガイウスに嫉妬する貴族の女の策略により、ガイウスとクレスケンスは闘技場で戦うことになる。「激男」に掲載された作品に、書き下ろしの結末と短編を加えた作品集。

 田亀源五郎といえばゲイコミックの第一人者。ガチムチ筋肉、体毛描写、ぶっとい線、はっきりしたキャラと、BLの表現とはさすがに違ったハードな表現になっています。そこで違和感を感じる人もいるかもしれません。それにBLには非常に珍しく、包茎ちんこが描かれますし(ローマ時代ですからね)。ですがベースにあるのはラブです。えー、そんな結末? と言ってしまいたくなるほどのラブっぷりです。ですから見た目のハードさに比べて、非常に安心して読める作品だといえましょう。それに構造的には内田カヲルの作品と大して変わることはありません。筋肉、体毛、実はラブラブ…なんだ、全然変わらないじゃないですか。ですから内田作品に親しんだ女性なら、田亀作品は普通に「読める」ものです。BLのレーベルで出したオークラ出版の読みは正解ですね。ちょっと怖い、ちょっと違うと思っている女性も多いと思いますが、どんどん手にとって欲しいと思いますね。
 そして、これは非常に興味深い「越境」を生んでいます。BL漫画とゲイ漫画の境界が、ものすごく低くなっていることを示すのですから。内田カヲルの作品はゲイ漫画と表象的には変わらなくなっていますし、田亀源五郎の作品は内容的にはBLと変わらなくなっています。実際BLともゲイ漫画とも見分けがつかない「激男」(古川書房)はもう10冊も続いています。それはBLがハード化し、リアル志向になっていることの当然の帰結でしょうね。BLで描かれる男たちの関係が生々しくなるほど、男たちの身体がリアルになるほど、リアルな男を描くゲイ漫画に接近していくのですから。そしてこの動きはこれからも加速していくでしょう。そうなるとBLというものは、わたしたちがこれまで見てきたものとは違った領域を形成していくかもしれません。オークラ出版のこのシリーズ(「AQUA肉体派シリーズ」)や、「激男」は、その動きの先頭にあるといえるでしょう。

 まあこうした新しさの面でも興味深いんですが、この作品集にはもう一つ重要な作品があるんです。日露戦争を舞台にした作品で、特命を帯びた少佐が師団長閣下に報告する…というモチーフの作品です。当然少佐攻師団長受です。師団長閣下は中将でおじいちゃんです。そして白髪で立派なおひげです。見た目は威厳があって恰幅もいいんですが、実際当時の中将ですからものすごく偉いんですが、いざやおい関係においては受になるんです。「誰の所為でこんな恥ずかしい躯になったと思っとるんじゃ…」とか言っています。

 

 うおおー! おひげのおじいちゃん激萌えー!

Photo

 このおじいちゃんがかわいいんですよ。いわゆるツンデレっちゅうんですか? 自分がエロモードに入っていることを必死に否定しようとしますが、体はそんなことは言っていません。そして最後には大人の(おじじの?)包容力を見せます。いやー、おじいちゃんという存在がこんなにエロい存在だとは気付きませんでしたよ。灰になるまでとは良く言われることですが、人間歳をとってもエロくあり続けることは全然可能なんですね。むしろ歳を重ねるほどエロくなると言ってもいいでしょう。これからじじい萌えは間違いなく「来る」な、と思ったのでした。もちろんばばあ萌えもですが。
 「若くてぴちぴちの肉体こそが最高」という一般的な理念は、やっぱり誰かが得をするために無理矢理作りだしたプロパガンダなんだなー、と思いますね。ですからこの作品は、そんな迷信を打破して、それぞれの年齢の人が自ずと持っている性的魅力を正当に評価する動きの先駆けなんだよ!!!!! と叫んでおきたいと思います。

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Yes! 腐漢ライブラリーさん

オークラ出版
2007年11月12日発行
2007年11月10日購入

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2007年9月13日 (木)

さかもと麻乃「かわいい」

かわいい (バーズコミックス ルチルコレクション)Photo かわいい (バーズコミックス ルチルコレクション)
さかもと 麻乃

幻冬舎  2007-08-24
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 小町が保健室に来るようになったのは3週間前。保険委員の来杉は、ケガだらけの小町にびっくりする。小町はどこかうっかりしていて、木にぶつかったり、ビーカーを割ったりして、いつもどこかケガしている。小町を手当てしてみて、来杉は小町の腕がフカフカなのに驚く。小町をもっと触りたいと思う来杉。小町が保健室に来るのも、来杉がいるときに限られているという。とうとう来杉は小町に言ってしまう。「小町のこと好きかも」と。「ルチル」に掲載された短編をまとめたもの。

 ばっちりした目、さらさらの髪、ちっこいのでいつも上目遣い、透けるような白い肌。さかもと麻乃が描き出す男の子はみんな冗談のようにかわいいです。男の子を徹底的にかわいく描くタイプの作家は結構いますし、ロリショタ系として一つのジャンルを形成しています。ですがロリショタという言葉は半ば蔑称で、「そんなかわいい子いるわけないじゃん」という虚構性をベースにしています。ロリショタはあり得ない存在だから魅力があるのです。
 ところがさかもと麻乃の描く男の子は、確かに暴力的にかわいいのですが、本当にいそうな感じが強いんですね。ほら、たまにいるじゃないですか。声変わりが遅れていたり、成長が人より遅かったり、末っ子で甘え慣れていたり、男なのに吃驚するほど線の細い子が。男子校で姫扱いされるような男の子ですね。ここで描かれる男の子は、確かにものすごくかわいいのですが、本当にいそうなリアリティを持っています。それに性格設定がすごく「男の子」なんですよね。ツンツンしてたり、言うこと聞かなかったり、変な見栄があったり、やんちゃだったりと。そのリアリティがヅキュンと強い破壊力を持つんです。

 一方お話のほうもなかなか練られています。まあ初期の作品はまだまだこなれていないところがあったり、荒唐無稽なところがあったりします。ですが新しい作品になるにつれて、メキメキお話が上手くなっていくのですね。とくに巻末の「好きなので」は、異性愛コードを入れることによって、お話に深みを出すことに成功しています。受は以前攻から告白された過去を持つが、そのとき受は攻を振ってしまう。その反動か、攻は女をとっかえひっかえするようになり、受は気が気じゃない。一方受は先輩の女性に童貞を奪われそうになる。攻がこちらを振り向いてくれないのなら、女を抱いてもいいかなと思う…というものです。まあこの女先輩は当て馬なのですが、積極的に受を誘惑するのが面白いですね。そして受は性欲に押し流されそうになりながら、結局は攻を選ぶのです。単に「二人は両思いだから」ということでハッピーエンドにするのではなく、状況に流される中、結局受と攻はお互いを選ぶというストーリーになっているのです。これは萌えますなあ! 番外編ではふたりの初々しいセックスが描かれます。これまた萌えますなあ!

 「コミックエール」でも活躍中のさかもと麻乃。かわいい作画は百合っぽい少女漫画でも健在です。ですがやっぱりBLの方が似合っているように感じますね。女の子はかわいくて当然ですから。かわいいとは限らない男の子をかわいく描くところに強い衝撃力が生まれるのです。BLでもどんどん作品を発表して欲しいものです。

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こんな本読みましたさん
ネクラで眼鏡でキモオタな優等生は“受け”るとイイよ!さん
 

幻冬舎
2007年8月24日発行

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2007年9月 6日 (木)

鈴木ツタ「この世異聞 其の弐」

この世異聞 其ノ2 (2) (ビーボーイコミックス) この世異聞 其ノ2 (2) (ビーボーイコミックス)
鈴木 ツタ

リブレ出版  2007-08-10
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 「この世異聞」の第2巻。セツがなぜ昭雄の家を守るようになったかが描かれる。時は江戸時代頃か。結構いい歳のおっさん・小太は、割れた器を直す不思議な力を持っている。その力のために金持ちから狙われる小太。それを守るために現れたのは、小太の昔なじみの森羅だった。森羅になつく小太のもらわれっ子の小次と、小太の実の娘の壱加。壱加は森羅に恋心を抱くようになる。ところが小太と壱加はとばっちりで祟られ、死の淵に面する。森羅は行動を共にしてきたあやかし・万象と合体して、小太とその一族を守ろうとする。

 まあセツは犬神みたいな不思議な存在でしたし、1巻で伏線が張られていたので、セツの過去は語られなければならなかったんでしょう。ただちょっとビミョー…。現代編が面白いので、それに比べちゃうと蛇足感が漂うのですね。なんたって現代編のキャラの立ちっぷりは相当なものがありますから。
 ただ過去編でもキャラが工夫されているのが良いですね。小太はいい歳のおじちゃんなのに中身はお子ちゃまのお馬鹿ちゃんですし、森羅に恋する小次の姉ちゃん・壱加は綺麗な、濃いに悩む存在として描かれてますしね。

 現代編に戻ってくると、1巻の魅力は戻ってきます。昭雄はイヤダイヤダと言いながら、実はセツのフェロモンと肉体に抗えなくなってきます。最終的には「とっくにお前のだよバカ」とか言ってます。うひょー、いいデレ! それに対してセツもケモノの本性を丸出しにして、がっちゅんがっちゅん昭雄をむさぼっちゃいます。ちんこがわんこ化してしまって抜けなくなるという描写もあります。うひょー!
 この作品はバイプレイヤーの存在感があるので、他のキャラの出番が少なくなるとちょっと魅力が減少してしまいます。特にエピキュリアンの所長ですよ! カワイイオヤジですよ! 物足りないのは所長の出番が少ないからなんですね。ただセツの過去はもう出てきたので、次の巻で所長と鳩木のロマンスとか描いてくれるんじゃないかと期待しています。

 後はお酒に対する愛があるのもいいですね。久保田の得月とか出てきますから、嬉しくなっちゃいます。純米大吟醸ですよ! こういううんちく語りはやりすぎちゃうと興ざめなんですが、上手く使うと作品の印象をぐっと強めることができます。トジツキハジメの鉄道ものなんかもそうでしたしね。今後もうまーくお酒ネタを使って欲しいものだと思います。

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BL偏食日記さん
こんな本よみましたさん
にゃんこのBL徒然日記さん

リブレ出版
2007年8月10日発行
2007年8月12日購入

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2007年8月23日 (木)

宮下キツネ「少年料理法」

少年料理法 (光彩コミックス)Photo_2 少年料理法 (光彩コミックス)
宮下 キツネ

光彩書房  2007-07-28
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 高原はある日、体育を見学しているきれいな子に一目ぼれしてしまう。最初女の子だと思っていたが、実はその子は男の子だった。彼の名は蓜島といい、高原は少しずつ蓜島と接近していく。そんなとき高原は蓜島の妹のキララに出会う。蓜島に近づくためキララと仲良くなろうと思う高原だが、キララの高原を見る目は明らかに恋する瞳だ。蓜島は高原に、家に来てキララと二人きりになってほしいと頼みこむ。かわいい妹のために頼んだ蓜島だが、いざ頼んでみると高原のことが気になって仕方がない。妹と同じ人を好きになっちゃいけない、と自分を納得させようとするが。ショタものアンソロジーに掲載された作品を集めた2冊目の単行本。

 やったー! 2冊目だー! 『ストップ! ご主人様!』の突き抜けっぷりに、「これはすごい」と思っていた宮下キツネ。2冊目も期待に違わず突っ走っています。
 まずなんといっても男の子のかわいさが図抜けています。男の子は女の子のようにかわいいのは当然、女の子と間違えて男が惚れてしまうのもまた当然です。「かわいいからいいじゃん」という姿勢は終始一貫しており、最後のおまけまんがにもはっきり描いてあります。「きっとかわいければ全然OKなのではないかと思います」なんて言ってます。
 それに展開にスピード感があります。例えばあらすじに挙げた「ちょっとずついこう」は、短いページ数に多くの要素と人物が詰め込まれているので、必然的に展開は非常にスピーディーになります。炸裂したかわいさのオーバードライブ。タマランものがあります。

 女の子よりかわいい男の子を描く作家には星野リリィなどがいますが、宮下キツネの作品は全然印象が違います。BLで重要なことは、「オレにはお前しかいない」というカップリングの絶対性です。間男に犯されても、やむにやまれぬ事情で浮気しても、最後には元の鞘に戻ります。それに失恋して別の相手とくっつくにしても、強いカップリングの絆を作るだけの心の動きが必要です。ハーレムきゅんやダイヤきゅん、そしてネコたちは女の子よりかわいいですが、彼らと攻の間には絶対的な関係が築かれるような工夫がされています。ですが宮下作品にはそれがありません。受が尻軽すぎて強いラブに見えないのです。攻も「いつかは受のナンバーワンに」とか思ってます。えー、それでいいの?
 それに受は女の子にしか見えません。そしてセックスシーンになると興奮のせいか、みんなおちちが微妙に膨らみます。なのでノーマルカプのセックスに見えてしまいます。男と女なら特別な思い入れなくセックスすることができますから、やっぱり愛が薄く見えてしまうのですね。そう、宮下作品からはごっそりやおい性が欠落いるのですね。ですから違和感を抱く女性、怒り出す女性も出てくると思います。「ちんこのついた女の子じゃん」と。

 また女の子よりもかわいい男の子、という描写は、実は男の子にも女の子にも失礼な描写なんじゃないかと思いますね。男の子の方がかわいいというのでしたら、作品に登場する女の子の立場はなくなります。現在の社会においては男女関係には不均衡があり、だからこそ「美」や「かわいさ」は女性が持つものとされています。その点で男に凌駕されるとなると…女の子は立場がないじゃないですか。キララは本当に当て馬なんですね。それに男の子は女の子的基準で容姿を判断され、必死でそうあろうとしている「男らしさ」の基準では判断されません。これでは男の子も浮かばれません。そうした描写を「かわいいからいいじゃん」と無邪気に採用するのは、不注意どころか無自覚に人を傷つける可能性を持っているといえるでしょう。ゲイの人は激怒するかもしれませんね。同性愛の背後にある様々な抑圧や軋轢を無視するなと。

 ですが一方で、この作品は積極的に見るべき点も持っています。まず尋常ならざるかわいさ。「かわいければなんでもいい」という開き直りは暴力にもなりますが、横車を通してしまうパワーも持っています。「なんか変だけど、かわいいからまあいっか」という読みになるのですね。これはこれまで表現の背後にあった「遠慮」をすっ飛ばして、それまでやるのがはばかられた表現を可能にします。それは暴力的でもありますが、解放でもあります。「苺ましまろ」なんかがそうであったように。それにこのかわいさには、読者層を広げ、それまでBLを読まなかった層に訴える可能性があります。前作同様、問答無用でかわいいので、ノンケの男性読者を引き込む可能性があるのです。
 次にキャラを徹底的に突き放した表現になっているところがいいのですね。この作品で男の子たちはみな、感情移入の対象にはなりません。そのためやおい的な表現としては失格となります。ですが男の子たちは高度に客体化されているために、欲望の対象、見て楽しむ対象になっています。そこには、恋愛の対象や感情移入の対象として男の子を描くのではなく、性的な視線の対象として男の子を描くという視線があります。「かわいい男の子を消費して何が悪いの?」という開き直りですね。男の子は男性からも女性からも、性の対象として「まなざされる」のです。これは男性にとって新たな抑圧を生みます。女性と同じように、人格を否定され、性の対象として消費されるのですから。ですがもう一方で解放にもなります。男性をがんじがらめに縛っている「恋愛コード」から解放し、ひたすら受け身になる性の形を提示するのですから。男性がかわいくたって問題はないのです。むしろ男性はかわいい方がいいんです。これは「男らしくあらねばならない」というジェンダーのくびきに苦しんでいる男性にとって、福音になりうることです。

 宮下キツネの作品は、無意識と無自覚にあふれており、政治的には正しくない部分も持っています。やおいの政治性をめぐる議論においては、最大の敵になる作家でしょうね。ですがそのドライブ感、スピード感、「男を消費して何が悪いの?」という開き直りは、男性を解放する可能性も持っています。そこで私が言いたいことは…「もっとやれ!」ということです。かわいければいい? その通り! 男の子はどんどんかわいくなればいいんです。やおい性が足りない? 問題なし! やおい性なんてなくたっていいんです。ガンガン描くことで、やおいや男性向け表現をめぐる「かくあらねばならない」という暗黙の制約に風穴が空いていくんです。やおいの表現が揺れれば揺れるほど、新たな表現の可能性が生まれるのです。宮下キツネは、やおい界に現れた最大のトリックスターといえるでしょう。まさに大注目の作家です。

光彩書房
2007年7月28日購入

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2007年4月13日 (金)

シヲ「ラブヘタリスト」

ラブヘタリスト ラブヘタリスト
シヲ

ソフトライン 東京漫画社  2007-01
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 メイは高校一年生男子。化学部唯一の部員で、部活といって毎日理科室へ通っているが、実は化学教師の大神に会うのが目的。大神の鮮やかな実験に惚れ込んで、化学部の門を叩いたのだ。ほっぺを甘がみされるなどのセクハラもうけ、悪態をつきまくるが、メイの本心はイヤじゃない。ある日理科室に向かったメイは、大神が出入り業者の青年と親しげに話しているのを見てしまう。また転んだとき、自分ではなくお気に入りの試験管の方をかばったことに腹を立てて、「もう来ない」と走り去ってしまう。「カタログシリーズ」に掲載された作品を中心に集めた、著者の初単行本。

 いやー、風邪が長引いて、結局金曜日から今日までほとんど使い物になりませんでした。皆さんもお気をつけください。再起動一発目なので、「あらしのよるに」がらみで取りあげてみましたよ。
 いやいや、世の中に「へたれ」というジャンルは確かに存在し、確固たる人気を誇っていますが、全7作品+番外編+あとがきのすべてが一貫してへたれという本も珍しいのではないでしょうか。あらすじに挙げた大神は大型犬系へたれですし、芸術家系繊細へたれ、甲斐性なしニート系へたれ、実はインテリ心はへたれ、これはめずらしい男らしいオヤジへたれと、実に様々なタイプのへたれを取りそろえています。で、へたればかりで飽きてしまうかもしれないと思う人もいるかもしれませんが、見ての通りへたれのバリエーションが豊富なので、飽きることはありません。それに展開もいろいろなんですね。元気な学園ものあり、耽美的で繊細なものあり、中年男が老人に惚れるものあり、名実ともにへたれなものありと、作品内容もバラエティに富んでいます。この人同人からスカウトされてデビューしたとのことで、まだまだ自分の方法論が見つかっていないといったことをあとがきで書いています。確かに内容はバラバラではありますが、それはいろんなことを描いてみたいという意欲があることですし、可能性があるということです。それにどの作品もそこそこきちんと完成されていますし。個人的にはオヤジものプリーズ! と思いますが、どんどん作品を描くとどんどん伸びるんじゃないかと思います。

 それにしても考えさせられるのは、「へたれ」といっても実に様々なありかたがある、ということですね。お金がなくてへたれになる場合もありますし、お金があってもヘタレになることもあります。へたれは男の社会的属性とは別に存在しているのですね。へたれの本質は、「手を出そうか出すまいかものすごく迷う」ということにあるのだと思います。秘めた思いを行動に移すときの迷い、それがへたれの本質なんでしょう。この迷いは男女ともに共通するものでしょうが、男にとってはものすごく重要なことです。プライドを崩さないようにしながら思いを伝えるには? プライドを高く保つ傾向が非常に強いおたく男性にとって(もちろん私も含みます)、これは特に重い問題ですし、おたく男性に限らずこういう問題に直面する男性は多く存在するでしょう。そんなわけですから、へたれををうまく描き出すことができれば、BLは男性にとって感情移入できるものになるんじゃないかなと思います。

東京漫画社
2007年2月15日発行
2007年3月20日購入

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2007年3月28日 (水)

みろくことこ「メガネばくだん」

メガネばくだん メガネばくだん
みろく ことこ

海王社  2007-03-10
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 クラス委員の瀬乃は面倒見の良いメガネ。クラスの中で一人浮いている咲屋のことが気になっている。咲屋は背が小さく、ものすごくかわいい顔をしているのだが、クラスメイトとの交流を避けている。上級生の慰み者になっているともっぱらの評判だ。テストの補習の面倒を見ることで、少しずつ接近していく二人。そのうちに咲屋がなぜ他人を避けているのか分かってくる。咲屋は目が悪く、眼鏡をかけて周りが見えるようになると、性格が一変して強引・凶暴になるのだ。そんな自分を抑えるために、周りを見ないようにし、人との交流も避けていたのだ。瀬乃がさしのべた手を振り払おうとする咲屋だが、瀬乃はそんな咲屋を抱きしめる。「GUSH」などに掲載された「メガネばくだん」シリーズを集めた作品集。

 メガネをかけると性格が一変するという咲屋の設定ですが、これはちょっと変わっていますね。メガネなしだと素直でイノセントなほわほわ系なんですが、眼鏡をかけるとガラが悪くなり、「やらせろー」ってな具合になるのですから。みろくことこの受け子はみんなかわいいのですが、かわいい子が強引になるというのは、毛色が変わっていて楽しめます。ただ設定に相当無理があるのも事実。メガネをかけると性格が変わる…そんな人いたらヤバイですって! BLの設定にリアリティを求めるのもヤボという気もしますが、あんまりにもトンデモな設定だと萎えてしまうのも確か。実際単行本の前半は「うーむ」とうなってしまったのでした。
 ただ後半になると、咲屋は期待通り(?)どんどんオトメ化していきます。学園祭でメイド服を着たり、「せっかくコイビトドーシになれたのに」なんて殊勝なことを考えたりします。そうそう、それで良いんですよ。かわいい性別受は性別受を演じきるのが一番。変に色気を出して変化球を投げようとすると、とんでもないところに球が飛んでしまうもの。設定に凝りすぎるのも考え物だなぁと思いましたね。難しいものです。
4_1  そして後半のオトメ化した咲屋はかなりパンチ力のあるかわいさを発揮します。女の子よりかわいい? それでいいんです。こんなにかわいいんですから、ちんこがついていない方がおかしいんです! 見てくださいよこの表4を!

 とまあ、この作品は「ふたば」や「2ちゃん」などで起こっている男性の「うがったエロ」の文脈にすっきりと当てはまる構造になっています。もちろん作者は男性が読むなんてことは想定してないんでしょうが、性別受っぷりをつきつめるあまり、男性の「うがったエロ」と意味論的に等価になってきているのですね。つまり咲屋は「ちんこの生えた美少女」になってしまっているのです。これはある意味堕落と見ることもできるでしょう。「男である意味がない」と。しかしこうも読めるのではないでしょうか、ここから越境が始まる、と。宮下キツネのように、この人もまた注目されて然るべきだと思います。

海王社
2007年3月20日発行
2007年3月18日購入

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2007年3月14日 (水)

天城れの「役立て!青春。」

役立て!青春。 役立て!青春。
天城 れの

ビブロス  2004-01-10
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 お掃除屋の古森は最近仕事が楽しくて仕方がない。それは以前からファンだった小説家・灰田の家の掃除を任されるようになってきたからだ。時折見せる灰田の素の表情にときめく古森。ある日古森は書きかけの原稿を見てしまう。それは濃厚なホモ小説だった。驚く古森だが、灰田の気持ちに気づき、雨の中マンションへと向かう。表題作の「役立て!青春。」のほか、ショタリーマンと部長の関係を描いた「桜色☆かたおもい」などを収録した、天城れのの初単行本。

 ビブロス倒産のあおりを食らって、1冊だけ入手できなかった天城れのの単行本。あちこちのブックオフを回って、ようやく手に入れましたよ。
 なんといっても驚かされるのは絵の完成度の高さ。初単行本ということもあってか、絵に気合いが入りまくりなんですね。天城れのの魅力は絵にあり、ということが改めて確認されます。天城れのの絵は、男性から見れば特殊な、いわゆるBL絵というか、顎長人系の絵になっています。ですが女性、特にBL経験値の高い女性からすれば、こうした絵はお手の物です。加えて独特の勢いというか華があります。そのためあまたのBL作家のなかでも、とりわけ目を惹くのですね。
 加えて注目すべきは、物語のBLとしての完成度が高いことです。パターンといえばパターンなのですが、近づいたり離れたりする男たちの気持ちが、実に微妙に描かれるのですね。例えば灰田がホモ小説の原稿を置いておくのは、これはわざとな訳です。古森が自分に好意を抱いていることを知っていて、遠回しに自分の気持ちを伝えているか、あるいは古森の背中を押そうとしているのですね。そして古森はその行為にショックを受けますが、結局は灰田の気持ちに気づいていきます。この「押し」と「引き」のバランス! 最初から天城れのは非常にお話作りが上手だったということが分かります。

 あとは少年の描き方のうまさや、よく見ると変な要素がこっそり含まれていることが目立ちますね。なんたってショタリーマンですから! 大手ビブロスということもあって、かなり「まっとうな」BL作品になっていますが、実は現在につながる要素は最初からほの見えていたわけです。優れた作家は最初から優れているんだなぁ、ということが、しみじみ感じられる作品だったのでした。

ビブロス
2004年1月10日発行
2007年3月12日購入

役立て!青春。
天城 れの

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2007年3月12日 (月)

山田ユギ「誰にも愛されない」

誰にも愛されない 誰にも愛されない
山田 ユギ

リブレ出版  2007-01-10
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 出版社営業の飯島に課せられた使命は、映画公開で盛り上がるチェコ語の小説を訳せる人材を捜すこと。断られ続け、藁をもつかむ気持ちで出会った訳者は、大学時代因縁があった日下だった。日下に女を取られたと思った飯島は、日下を殴ってしまったが、日下は全く無抵抗だった。そのことがずっと心に引っかかっていたのだ。日下の経営する古本屋で原稿の出来上がりを待つ飯島。出版トラブルをめぐっていさかいになり、飯島は日下の胸ぐらをつかむ。しかし次に飯島が取った行動は、日下の唇を奪うことだった。書き下ろしも含めた全308ページの大作。

 えーと、これまで私はBLややおい本をたくさん読んできましたが、身もだえするほどヅキュンと来るのはあまりなかったんです。日下は寂しさをずっと抱えて、人付き合いが苦手で、無愛想なタイプなんですが、ずっと飯島に対する思いを抱いてきたのですね。その思いがやっと叶って、「この身体も…お前しか知らない これから先も…おまえだけしか…」と潤んだ瞳で言うのですね。「ぐひゃー!」と変な声を出して、足をばたばたさせて転げ回ってしまいましたよ。おかげで同居人から「本当に頭がおかしくなったかと思った。いや今でも十分おかしいけどさ」といったことを言われてしまいましたよ。
 思えばこれまで私はやおい本をやっぱりどこか一歩引いた視線で見てきたのでした。登場人物総ホモという変なオヤクソクに従った作品世界を、部外者の視線から見て喜ぶという姿勢を持っていたのでした。ですがこの作品には本当に心がヅキュンと動かされたのですね。女性が感じる萌えなんでしょうが、それをはっきりと感じたのでした。そうなんですよね。BLとは分析的な視点で見るものではなく、強い感動を読みとるもの。もちろんそこから分化してギャグやらヘンテコな作品も生まれてきますが、基本は恋愛に伴う、「人の心をガツンと動かすもの」を描くものなんですね。いやー、慢心していました。「BLの魅力はヘンテコさにあり」なんて書いてしまっていた自分が恥ずかしいです。すいません山田ユギ先生!(謝られてもお困りかと思いますが)

 そしてこの感動を生み出す背景には、やはり山田ユギ先生の圧倒的ともいえる「まんがの上手さ」があるのですね。まずはキャラクター造形の絶妙さ。日下は家庭環境などから圧倒的な寂しさを抱え、人との距離を測るのが下手です。ですがずっと秘めた思いを抱き続けています。一方飯島は面倒見の良い熱血サラリーマンという外見(そとみ)ですが、内側には複雑な葛藤を抱えています。そしてその二人のキャラクターは最終的に恋愛関係になるのですが、その触媒として心に寂しさを抱えた女の子を使ったり、昔の男の影を使うなどして、実にやきもきさせるのですね。その展開の上手さに、再びうなってしまうというわけです。山田ユギ先生の引き出しの多さ、ワザの幅広さ、小技の上手さ、そして何よりまんがに対する「命のかけ方」に、改めてガツンと心打たれたのでした。

 そういえば山田ユギ先生を取りあげるのは随分久しぶり。やっぱり心のどこかで、本当に優れたやおい・BLを避ける気持ちが働いていたのでしょう。これからは心を入れ替えて、メジャーな作品にも手を出していこうと思います。あとは更新頻度も上げなくちゃ!

リブレ出版
2007年1月10日発行
2007年1月23日購入

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2007年2月27日 (火)

北別府ニカ「僕の愛の劇場。」

Photo_6  白岡と赤羽は、売り出し中のお笑いコンビ「桃色メガネは恋の罠」を組んでいる。白岡がボケで赤羽がツッコミ。同居していた二人だが、ある日白岡は「相方やめます」という置き手紙を残して家出してしまう。多すぎるホモネタのせいか?と勘ぐる白岡だが、ものすごく不安になってしまう。赤羽に頼んでむりやり同居したというせいもあるが、なんといっても白岡は赤羽に恋していたのだから。いまさらコンビ解消なんて考えられないのだから。赤羽を捜しに白岡は走り出す。「カタログシリーズ」に掲載された作品を集めた短編集で、北別府ニカの初単行本。

 祝! 週刊アスキー連載! いやー驚きましたよ。週アスと言えば「電脳なをさん」「女子部」「トホホ会」が楽しみでよく立ち読みしているのですが、女子の萌えを語るというページが始まっているのですから! そして以前から大好きだった北別府ニカが萌えを語っているのですから! これはもう画期的なことですよ(ちょっと興奮気味)!! となると北別府ニカをレビューしないわけにはいかないじゃないですか。

P25  なにが良いかっていうと、その独特の絵柄ですね。目の下に斜線・横線が描かれている、というのがこの人の絵の特徴でして、それは他のどの作家とも似ていません。そしてこの線は変幻自在に使われるのですね。頬の紅潮をあらわしたり、悔しさなどの苦悩をあらわしたり、喜びを表すのにも使われます。他の作家と絵が決定的に違うというのは、それだけで大きなアドバンテージだといえます。
P131  そしてもう一つ、SDキャラというんでしょうか、デフォルメされたキャラがなんとも可愛いんですね。デフォルメの上手さは絵の上手さに直結します。そして「タメ」と「ヌキ」のいいコントラストが現れるのですね。ヌクべきところではデフォルメキャラを使って軽さを出し、タメるべき展開が強調されます。これはなかなか難しいテクニックだと思うのですが、それをマスターしているところは、やはりあなどれません。

 そして展開がまたいいBLなんですよ。微へたれ攻、年下攻、やんちゃ攻、ファンシー攻といろんなパターンのお話が展開されますが、どれも「想い」に重点がおかれ、展開がちゃーんと描かれています。白岡と赤羽の話も、「実は赤羽の方が」という例のパターンなんですが、白岡が思い出すこれまでの想いや、必死に赤羽を捜す姿が描かれるので、先がある程度読めたとしてもかなりヅキュンと来ます。それにメガネ! メガネを実に上手く展開に絡めてくるんですよ。最近はメガネ萌えもひとつのジャンルになってきていますが、この人の場合もかなり根深いものを感じます。スバラシイことじゃないですか! それもこれも自分の「萌え」に忠実だからなのでしょう。自分が萌えるものを描いているのですから、こちらにもその萌えが伝わってくるのです。

 ともあれ、注目していた作家が広い層にアピールするメディアに登場するというのは嬉しいことです。これからも激しく注目していきたいと思っていますよ!!!

東京漫画社
2006年12月15日発行
2006年11月23日購入

僕の愛の劇場。
北別府 ニカ著

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2007年2月25日 (日)

山本小鉄子「つまらない男」

Photo_5  サラリーマンの橋元は、「お前ってつまらない男」と言われて振られてしまったために、自分がつまらない人間なのではないかというコンプレックスを持っている。落ち込む橋元は、後輩の烏馬に羨望の念を抱く。背も高く仕事も速い烏馬は、こんな悩みを持つことはないんだろうなと。やけ酒を食らって風呂に入る橋元だが、危うく溺れそうになるところを烏馬に救われる。烏馬は橋元の行動をいつも気にしていたのだ。そして「俺 橋元さんのことが好きなんですよね」と告白する烏馬。しかし橋元はまた「つまらない男」と呼ばれるかもしれないと思い、明確な返事をすることができない。「GUSH」に掲載された短編を集めた作品集。ちっちゃくて可愛い年上男と長身でぶっきらぼうな高校生のカップルを描いた「かたく手をつなごう」シリーズも収録されている。

 山本小鉄子といえばやっぱり絵の美麗さと表情の上手さ。そこは抜きん出ていますね。もういちいち受の視線やら表情やらが美しくて色っぽいんですよ。これは男性の視点から見てもかなりガツンとくる要素ですね。これだけ可愛ければ心が動くのもまあ仕方ないかな、と思えてしまいます。男性も往々にして、同性の可愛いしぐさや瞬間にクラッとくるもの。つい同性を襲っちゃう男性の心の動きを疑似体験できるような気がするのですね。その意味で山本小鉄子の作品は、男性にも「よく分かる」作品になっているのだと思います。

 そしてもう一つ重要なのは、受けの男の子たちはみんな可愛くて美しいのですが、決して性別受になっていないところです。男性にかわいさ、美しさを付与しようとすると、どうしても女性的に描いてしまいがちです。宮下キツネはその極北にあると言えましょう。どう見ても女の子なのに男の子と言い張るというヘンテコさが生まれるのですね。ところが山本小鉄子の作品に登場する男の子は、ちゃんと男性の骨格を持っていますし、性格はオトメっぽかったりしますが、萌えどころである男の意地を忘れることはありません。美しさと男っぽさが微妙なところでバランスしているのですね。そのバランスがあるために、活躍の場が広がっているのですし、幅広い支持を受けるのだと思います。

海王社
2007年1月20日発行
2007年1月21日購入

つまらない男
山本 小鉄子

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天城れの「男恋」

Photo_4  鉄男は番空高校に入学したてのカワイイ系の一年生。無難に高校生活を送ろうと思っていたが、入学早々コワモテの男に「俺とつきあえ」と迫られる。あまりの迫力に流される鉄男だが、男は番空高校で知らぬものとてない、泣く子も黙る応援団長の竜司だったのだ。鉄男は地獄のシゴキを覚悟する。しかし竜司は鉄男と一緒に帰ろうとして、おそるおそる手をつなごうとしてくる。「つきあえ」と言ったのは、「交際してくれ」という意味だったのだ。漢力では誰にも負けないが恋愛には不器用な竜司と、鉄男の恋愛の行方はどっちだ? このほか応援団のメンバーであるクール系双子の恋、途中参加のツンデレ忍者の恋を描いた連作。

P29  キタキタキター! BLの枠組みを維持しながらヘンテコな要素をさりげなく取り入れてきた天城れの。とうとうヘンテコな要素の方を前面に出してきましたよ。なんたってこのキレイキレイした絵柄で応援団ですから! バンカラ漢と言えば「学ランなんて洗ったことねえ」みたいな「身なりにかまわない」印象がありますが、この作品の男たちにはものすごい清潔感があります。なんたってBLですから! そして応援団のメンバーは皆「男の中の男」を目指しますが、なんだかピュアな片思いや恋の駆け引きをやったりします。なんたってBLですから! そしてそもそも現代には死滅した応援団という存在を、さも当たり前のようにさらっと描いています。なんたってBLですから! いやーBLってすごいです。BLの枠組みにさえちゃんと従っていれば、取りあげる題材はなんだっていいんですから。
 この作品は、冷静に考えればブキミな領域に達していると言えるかもしれません。そもそもこの世の中で応援団を描こうとすること自体「大丈夫?頭?」と問いたくなってしまいます。そして絵柄はバンカラとは正反対の宇宙に属しているかのようなキレイさですし、繰り広げられるのは男どうしの甘い恋愛です。これまで私たちの文化に蓄積されてきた「バンカラ」のイメージや「応援団」のイメージとは、何一つ合致しないのです。正直最初に見た人はとまどうでしょう。「バンカラですよー硬派ですよー」と言葉では書いてあるのですが、絵柄や展開はそれとは全く違う方向に向かっていくのですから。ブキミというよりシュールかもしれませんね。シニフィアンとシニフィエがめちゃめちゃ乖離していると言うんでしょうか、描こうとする内容とアイコンがかけ離れきっているのですから。ですからこの作品はすさまじい破壊力を持ちます。「なんじゃこりゃ!」という強いインパクトを持っているのですね。いやー、BLの魅力はとんでもない作品にありということは分かり切っていたのですが、ここにまたとんでもない金字塔が現れたのでした。と学会の人とかは早急に読まなきゃダメですよ、この本。

 BLとして見たときにもしっかりした構造を持っていることを忘れてはなりません。鉄男と竜司は障害を乗り越えてラブラブになりますし、他のカポーも同様です。ですがこの作品はやはり「BLの多様さ」「作品ジャンルとしてのBLのポテンシャル」を示すいい例として読むのが適切ではないかと思います。多様な表現が許されるからこそ、旺盛な需要があって供給量を増やさねばならないからこそ、こうしたとんでもなくヘンテコな作品が現れるのですね。そしてこの多様さは、駄作も生むのでしょうが、その中から確実に名作を生み出していきます。この作品も当然記憶にイヤでもバッチリ残る大名作なわけです。漫画史、BL史のなかでも、記憶されるにふさわしい単行本といえるでしょう。

角川書店
2006年12月26日発行
2006年12月22日購入

男恋
天城 れの著

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2007年2月17日 (土)

天城れの「玄人童貞」

Photo_2  中2の和彦は、女性経験が豊富でみんなの人気の的。今日も男子たちから女性の扱い方についての相談を受けている。しかし実は全部はったり。アソコを見るだけで吐いてしまうほどなのだ。そんな和彦は彼女持ちの小峰にライバル意識を持っている。和彦のことをいつもくだらない、という目で見るからだ。努力する和彦だが、余裕のある小峰の態度にかなわない。しかしふと触れた小峰の手に、和彦はゾクゾクしてしまう。「Chips!」などに連載された作品を集めた短編集。

 まったくなにが面白いかって、キャラ設定のヒネリが効いているところですよ。和彦は意地っ張りで虚言癖の持ち主ですが、白髪でかわいい美少年。そして心に弱さを抱えているので、嘘がばれるとうわーんと泣き出してしまいます。その辺の弱さがたまんなくいいんですね。自分にも心当たりのある弱さですし、ついつい背伸びしたくなってしまいますから。そしてめでたくボーイズラブ関係になるんですが、芯が意地っ張りなので、単なる受け受けしい受ではすまないところを発揮します。いやー、意地っ張りってのは可愛くていいですな!

P66  そしてこの作品集にはもう一つ問題作があります。荒廃した私立悪の華高校(…間…)に本格的な教育を施すべく、一人の最終兵器的男性教師が派遣された。その名もイメクラ先生。男子高校生のリビドーを直撃するコスプレをすることによって、勉強に興味を失った生徒たちのやる気を取り戻そうというのだ。しかしイメクラ先生の工夫に全く興味を惹かれない生徒がひとりだけいた…という「イメクラ先生」です。イメクラ衣裳の協力は「青春男子手芸クラブ」のメガネだそうで。
 ………(間)………。えーと、そういう先生はどこの惑星に………って、ツッコミを入れるのはやめましょう。むしろ知りたくなるのは、どういう思考過程を経ればこのようなネタが思いつくのか、ということです。まさにBLの王道「予想をはるかにすっ飛ばした超展開」ではないですか! ここまですっ飛んだ展開を見せる大馬鹿作品は久しぶりです。しかしそれでもちゃんとBLにはなっているんですね。やっぱりこのさじ加減の絶妙っぷりにはうならされるところです。

 さてさて、まだまだ天城れのをレビューしていきますよ!

海王社
2006年5月20日発行
2007年2月8日購入

玄人童貞
天城 れの

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2006年11月25日 (土)

鈴木ツタ「この世 異聞」

Suzukitsuta_konoyo  天涯孤独になった昭雄は病魔にむしばまれ、倒れてしまう。そんなとき祖父の言葉を思い出す。仏壇に隠されたものが、おまえを救うだろうと。仏壇から出てきたものは動物の牙で、それから犬耳・尻尾の生えたワイルドな男が現れる。男は狼の化身であり、昭雄の祖先との契約により昭雄の家を守っているというのだ。セツと名付けられた魔物は昭雄の病魔を食らい始める。そのときセツが発するいい匂い…フェロモンにあてられた昭雄は、セツに体を許してしまう。強引なセツに昭雄は反発するが、病魔を食らうことはセツのダメージになることを知り、いつしか心を開いていく。セツと昭雄と周りの人々との関係を描いた「この世異聞」シリーズと、現代もの、時代物の短編が収められた作品集。

 『Hand Which』がAmazonでロングセラーとなった鈴木ツタ。2作目はどうなるかと期待していましたが…これが期待をいい意味で裏切られる出来。まずはなんといっても繊細な線がタマリマセヌ。顎長人の系譜は継いでいるのですが、耽美の方向に寄るのではなく、どちらかといえばショタっぽいカワイイ方向へ絵柄を振っています。ぶっちゃけた話、私は顎長人は絵柄としては未来がないんじゃないかと感じてます。峰倉かずやという巨頭がいますが、オタ系マンガのリテラシがない人は引いてしまうんじゃないかなと思うんですよね。一般に訴えかける力を失っていると思うのですよ。もちろん本橋馨子先生みたいに、「こうでなきゃダメ」な人は別格ですが。そうした状況の中で、鈴木ツタの絵は顎長人の耽美性と一般に訴えうるかわいらしさ・取っつきやすさを兼ね備えています。Amazonで激しく売れたのは、こうした絵柄の魅力があるからではないかなと思うのですね。そしてこの作品でも絵柄の良さは相変わらず。いやむしろ魅力は増しているといえるかも知れません。なんと言ってもケモノですから。

 それにお話の魅力もたいしたものです。ワイルドケモノ攻にツンデレ病弱受っていうだけで萌えるっちゅうもんじゃないですか! そして受け攻め関係と表面的関係性は明らかにセツ×昭雄なんですが、なんたってセツはわんこ(狼だけど)。ワイルドさの向こうに見える従順さというかか奴隷根性がじつにええ味を出しています。また昭雄は見た目は病弱ひ弱系なんですが、根っこでは勝ち気でやんちゃで意地っ張り。セツに対して悪態をつきまくり、セツを嫌いだと言いまくり。実はもうとっくに「陥落」しているのはオヤクソクですが、精神的立場はセツに負けてはいません。体の関係と心の関係は逆転することがあり、つねにめまぐるしく変動します。この「揺れ」がいいんですよ! 「受は受、攻は攻」という安定した関係が好きな方にはキツイとは思いますが、私は揺れた方が好きなんですね。

Suzukitsuta_oyaji  あと特筆すべきはオヤジ。天然系のカワイイオヤジが出てくるんですよ!! 得意技は満面の笑顔と上目遣い。しかもヒジョーにエピキュリアン。うわ、これなんて萌えキャラ? いや「単体で萌える」オヤジなんです。もちろん萌えオヤジというのは以前から存在しますが、ストーリー上で目立つ存在として出てくるとなると、改めて衝撃を受けるわけです。「中年受が流行ればいいのに」と作者は描いていますが、いやまったくその通り。私もこういうカワイイ中年になりたいものだなぁ、とつくづく思いますよ。

 『Hand Which』が売れたときにはちょっと疑問を感じたりもしましたが、それは私の見込み違い。こりゃ売れる作品ですわ。絵もお話も上手く、広く受け入れられる要素がたっぷり含まれています。そしてこれが一番重要なことだと思うのですが、作者の萌えがほとばしっています。系統的にはニューウェーブというよりはこれまでのボーイズラブの系譜に属しますが、明らかに新しい魅力を持っています。いやあ、こういう元気な作品を見ると嬉しくなってしまいます。マンガはこんなに元気だぞ! と。ボーイズラブの未来を感じさせる作品だと思います。

リブレ出版
2006年11月10日発行
2006年11月12日購入

この世異聞
鈴木 ツタ

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2006年11月 6日 (月)

志々籐からり「コイイケ」

Sisitou_koiike  ある男子校の裏庭にある池には伝説がある。その池に二人ではまると、二人は必ず結ばれるというのだ。なのでその池は「恋が淵」と呼ばれている。陸上部の哉良(ちから)は、落としたお金を探そうと池に入っていたが、そこにやっぱりお金を落とした先輩の陸上部マネージャー、宗方が入ってくる。宗方はぼーっとしたタイプで、しかも選手を外された結果マネージャーになったという。そこで哉は最初ははっきりと宗方を蔑んだ目で見る。こんなヘタレと一緒になるのはイヤだと。しかし哉は、夜間必死で練習する宗方を見てしまう。宗方がマネージャーになったのは事故のせいで、必死にリハビリを重ねていたのだ。ズキュンと心を動かされる哉。同じ高校を舞台にした3組のカップルを描いた短編集。

 なんといってもこのすっきりとした絵! 日輪早夜あたりで確立された、まあありがちといえばありがちな絵柄といえましょう。ですがロリショタの影響が強いようで、かわいさがより前面に出ています。このアレンジは完成されていて、この人の絵柄になっていると思います。それに表情の描き方がいいのですね。私の場合BLは絵から入ることが多いのですが、この人の絵は完全に「合格」。すっかり好きになってしまいましたね。

 そしてオハナシがまたいいんですよ。男子校で縁結び伝説なんてあるかとか、こいつらなんでホモばっかり、なんていうツッコミはなしなし! そうしたBL的オヤクソクをちょっと乗り越えれば、男性にとってもなじみのある感情が現れます。描かれている男の子たちは、自分が抱いた/自分に向けられた恋心に、最初は反発します。男どうしでこんな感情を覚えていいのかとか、池の伝説に惑わされてるんじゃないかとか。それは男性としては当たり前に感じる感覚です。男どうしは恋愛感情を抱いちゃいけないことになってますから。ですが二人の関係が深まっていくと、拒否感は「コイツならいい、コイツなら受け入れられる」という感覚に変わっていきます。この作品ではその変化を丁寧に描いており、そこが萌えポインツになっています。男性が男性に対して抱く好意が、男性にも分かる形で描かれているのですね。
 この作品ではもう一つ、二人は必ず恋愛関係を基礎とするカップルになるというBL的オヤクソクがあります。そのためこの作品は女性向けのBL作品として成立し、男性から見たときは少々引いてしまう面があります。しかし基本になっているのは男性も常日頃感じている同性への/同性からの好意です。ですからちょっとオヤクソクをクリアすることができれば、男性にとっても衝撃力のある内容になっていると思います。

 BLのオヤクソクというのは、女性がジェンダーを楽しむために作られたと考えられていますが(『やおい小説論』を書いた永久保陽子さんはそう言っていますね)、実は男性をジェンダーのくびきから解き放つ役割を果たしているのかもしれません。男性が男性に対して抱く、性的な意味を色濃く含む好意を、素直に表現できるようにする働きを持っているのかもしれません。そうなるとBLはメンズリブのためにも使えるのではないでしょうか。ジェンダーの制約に苦しむ男性の欲望を解放するようにも使えるのではないでしょうか。そんな大きなことを考えさせられてしまったのでした。

新書館
2006年11月15日発売
2006年11月3日購入

コイイケ
志々藤 からり

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2006年2月 2日 (木)

夏水りつ「ラブロマンス・スウィートキス」

natumizu_loveromance  黒髪メガネでかわいい系の倉橋は、社長の甥でアメリカ帰りのエリート新入社員、佐伯に目を奪われてしまう。社内でぶつかったことがきっかけで二人は知り合う。年下の佐伯に敬語を使う倉橋。佐伯は横柄な態度で倉橋に迫り、その晩倉橋を強引に犯してしまう。なかば脅されるような形で佐伯に迫られる倉橋。しかし倉橋は佐伯の心にぽっかりと空いた空虚に気づいていた。年下わんこ攻が甘党受に迫る「天気雨、午後一時」、駆け出しの弁護士と地方判事の再会を描いた「キスときめきとスキ」などを収めた短編集。

 リーマンカプにジャケ買いしてみたんですが…リーマン! リーマン! もいっちょリーマン! 全編これリーマンですよ(一部学ランもあり)。スーツの男をマンガにするとなんでこんなにエロいんでしょうねぇ。そして美人眼鏡受が多いのがよし! やっぱ黒髪メガネはヤラレテなんぼですよ。しかも苦痛というか恥辱というか、とにかく顔をしかめるのがよし! 泣いたりしちゃうのもよし!
 それから、ツンデレというか意地っ張りが多いのが萌えますね。それは強引攻という形で現われたり、無表情受けという形で現われたりしますが、いずれにせよ共通しているのは「不器用な男」「素直じゃない男」ということ。男ってのは張らなくてもいい意地を張ったり、言わなくちゃならないこともつい隠してしまうもの。そうした不器用さ、不自由さを、ままならなさを描いているところが侮れません。このもどかしさがいいんですよ。西田東先生もそうですが、男の不器用さ(それは同時に男の可愛さでもあります)をきちんと描くタイプの作品は、リアル男性にも共感されるのだと思います。
 絵はちょっとまだ顎長人系ですが、ニューウェーブの影響も感じます。これからこの人の「本当の絵」が作られていくのでしょう。お話の作り方が非常に上手く、男性の描き方もきっちりしているので、これから伸びるのではないでしょうか。今後を期待したいと思います。

芳文社
2006年2月15日発行
2006年2月1日購入

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2006年1月18日 (水)

窪スミコ「暮れゆく空は君の味方」

kubo_kureyuku  牧は野球部のエース。街で不良に絡まれているところを、空手をやっている南方に助けられたことがきっかけで、超南方ラブになる。人目をはばからず愛を伝える牧を、南方は煩わしく思うが、その子犬のような目に、次第にまんざらでもないと思うようになる。ついには南方は、牧の帰りを校門で待つようになる。
 そんな中で、南方の前に、憧れの先輩佐々が現れる。南方は無理な練習がたたって体をこわし、空手をあきらめようとしていたが、崇拝する先輩のすすめで再び空手に打ち込む。佐々に対する憧れを隠そうともしない南方に、牧は気が気じゃない。

 まあなんちゅうか、牧きゅんもうカワイイです。カワイ過ぎます。一方でめちゃくちゃハァハァしていながらも、相手の「おあずけ」の命令に従わないではいられない。やっちゃいたいという気持ちと従わなくちゃという気持ちを天秤にかけ、結局従ってしまう犬チックなところがたまりません。そしてそんなけなげな牧きゅんに対して、「し、しょうがねえなあ」てな感じで心を開いていく南方のさま! 「お前が悪いんだからな!」と言いつつも、でも牧の愛情表現がないとちょっと寂しく感じてしまう。こういうのをツンデレというのですね! ここまでいいツンデレはBLでは珍しいんじゃないでしょうか。

 こうして南方は主導権を握り、牧に対しては攻的立場になります。ですが一方で、南方は佐々先輩に対しては、まったくわんこになってしまいます。目をきらきら輝かせながら、佐々先輩に陶酔しています。これはこれでまたカワイイんです。そして佐々先輩が「貸せ」と言おうものなら、南方はのしをつけて貸しまくることでしょう。めちゃくちゃサービスすることでしょう。南方は、先輩に対しては受なんですね。
 つまり南方は受、牧もまた受なのです。実際、最後の最後まで、どちらが攻になるかは確定しません。これがなんかトランスジェンダーっぽくって、すごくドキドキするんですよ。最後まで役割が決まらないのは少々すわりが悪いんですが、受が勇気を出して攻になるというのは、なんだかとってもいけないことをしているように思えるのですね。いや、いけないことをするから、BLって面白いんですが。おそらく現実世界で、男の子どうしが恋に落ち、セックスしようとするなら、やっぱりこんな攻受闘争が行われることでしょう。リアルさという点からも、ドキドキするものになっていると思います。

 絵柄の方はぶっちゃけ「おお振り」にインスパイヤされまくりな訳ですが、見るからにミハシな南方がやんちゃ系になっているのが面白いですね。そして全体の構造も、受×受になっていて、すごく興味をそそられます。これからは、こうした「いかにも攻」「いかにも受」ではない、リバっぽい作品が流行るのかもしれません。今後が激・楽しみな作家です。

2005年12月15日発行
2005年11月25日購入

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