2008年6月12日 (木)

北別府ニカ「すくすく好き好き」

 智は年齢の割にはちっちゃく、かわいい感じの高校生。隣に住む双子の一郎、二郎兄弟とずっと幼なじみで、朝食を一緒に食べたりする仲。一郎と智はひょんなきっかけで「かきっこ」をする仲になっていたが、その関係に智は迷っている。好きじゃなかったらこんなことしないだろうと。自分は一郎のことを好きになっているのに、それを一郎に問いかけると、いつもはぐらかされてしまう。バイト先で飲まされてしまい、酔って抱きついた相手は二郎だった。関係がばれるのではと焦る智だが、二郎にはすっかりバレバレ。どうして両思いなのにちゃんと告白しないのか、と諭されてしまう。智と一郎の恋と、恋愛にはうとかった二郎の恋を描いたシリーズを含む短編集。

すくすく好き好き (バーズコミックス リンクスコレクション) すくすく好き好き (バーズコミックス リンクスコレクション)
北別府 ニカ

幻冬舎コミックス  2008-03-24
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 いやーめでたいめでたい、二冊目の単行本です。北別府ニカといえばメガネ、というイメージがありますが、この作品は意外とそんなことはなく、メガネなしのキャラが多いです。唯一の眼鏡キャラとして「忠犬攻」ってキャラクターが出てきますけど。
 メガネがないからフェチ度が足りない…と思えるかもしれません。ですがこの作品には別の魅力があります。登場する男たちが実に「男性」らしいんですよ。まあ受の人は細ナヨって人もいるんですが、攻は基本的にちゃんとした肉付きの男性です。一郎も二郎も190近いですし、顔つきも体格もしっかりしています。しっかり「縦に伸びてる」感じですし、すくすく育っていますし、男性的な魅力を漂わせています。そういうリアルな男性がフォーリンラブしたりがっちゅんしたりするのですから…これは生々しくてキク!
 そして彼らは実に高校生っぽい、大学生っぽい雰囲気を漂わせています。将来に悩んだり、授業のつまんなさにだるさを感じたり、サークル活動をしたり。もちろんハイティーンから20代前半の若者の姿をリアルに描いたBLはこれまでも存在しましたが、北別府ニカの作品は生々しさの点で一歩抜けた感があります。若者を本当によく観察していることが分かりますし、そして若者のかわいさをよく見抜いていることも分かります。

 男性からすると、男の子の可愛さや男の体の魅力は、若者であるうちはよく分からなかったりします。自分自身若者なので、相対化して見ることができないんですね。ところが若者とはいえない年齢になってくると、次第に若者をいやらしい視線で見ることのよさが分かってきます。自分が若さを失いつつあることが分かるために、若者の体が性的魅力を持っていることが分かってくるのです。そこでこういうちゃんと育った若者ですから…つい「げへへへへ」という下品な笑みがこぼれてしまいます。男の体のエロさがわかると、世の中なんでもエロく見えるので、楽しいことこの上ないですよ。

幻冬舎
2008年3月24日発売
2008年3月28日購入

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2008年4月27日 (日)

ヤマシタトモコ「タッチ・ミー・アゲイン」

 小説家の遠田にはすぐ暴力を振るう癖がある。写真スタジオに勤める押切は間違いが多いという癖がある。二人は10年来の腐れ縁で、遠田の家の窓が開けっ放しになっていることもあって、いつも一緒にいる。7年前、遠田は一度だけ押切を抱いたことがある。そのとき確かに二人の心は近づいていた。しかしその時二人は肝心な言葉を口にすることができず、互いの心に踏み込むことを避けてしまった。それ以来二人はそのことを忘れたふりをし続け、親友という関係を保とうとする。ヤマシタトモコ2冊目の単行本。

タッチ・ミー・アゲイン (ビーボーイコミックス) タッチ・ミー・アゲイン (ビーボーイコミックス)
ヤマシタ トモコ

リブレ出版  2008-01-10
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 内容については「~漫画読みの読書感想ブログ~」さんや、「BL Diary」さんが詳しいので、そちらもご覧になってみてください。

 7年もの間宙づりになっているふたりの気持ち。ふたりはそれぞれ繰り返し自問自答します。「お互い自分の気持ちに気付いていながら 気付いていないふりをし続ける」というように。それは画面にはっきりと<言葉として>書かれ、読者の心に刻み込まれていきます。まるでポエムのようなのですが、やはり言葉で明示されているというのは強いインパクトを与えます。

 内面がきちんと語られるために、人物も立体的に見えてきますし、関係性もきゅんとくる衝撃力を持っています。もう一つの連作「息をとめて、」がいい例でしょう。デザイナーの芥は人付き合いが苦手で不眠症。ただ紙屋の佐方にだけは心を許せる。それは佐方のことが好きだから。一方佐方は後輩の恒夫が自分に思いを寄せているのに気付いていながら、恒夫を傷つけたくないと思っています。三人のエゴはぶつかり合います。人格的に破綻を抱えている芥がすがれるものは、「好き」という気持ち以外にありません。一方佐方は、芥の気持ちをすっかり許していますが、昔からのつきあいである恒夫を傷つけたくないために、中途半端な姿勢を取ります。そうした膠着した人間関係を崩すのは、やはり「好き」という強い気持ちと、それをはっきり言葉に表すことです。

 ヤマシタトモコ作品の最大の特徴であり、魅力なのは、一つ一つていねいに言葉が重ねられていくことでしょう。ゲイであること。許されない思いを抱いていること。そして一歩を踏み出したくても踏み出せないこと。そうしたつらい気持ちが、一つ一つ言葉で語られていきます。そのため読者はぐーっと登場人物に感情移入することになります。そして思いが叶ったあとも、その喜びが語られます。もちろん素直にではないのですが、願いが叶った喜びはひしひしと伝わってきます。ヤマシタ作品が読者の心を揺り動かし、デビュー以後急速に人気を博したのは、「言葉」の力によるのでしょう。

 ただ、男性の視点からすると、ヤマシタ作品からはどこか違和感が感じられます。ヤマシタ作品においては、「ゲイであること」「男が男を好きになってしまうこと」は、非常に「悪いこと」であるとされているのですね。もちろん登場人物がそれを「悪い」と思っているために、また人物の内面での「悪」の度合いが強いために、言葉に重みが出てきますし、思いが叶ったあとのカタルシスが強くなります。また男性社会におけるホモフォビアは確かに強固に存在します。ですが個人レベルでは、ホモフォビアは最初からあいまいです。「世間からダメと言われているからダメと思いこむ」のであって、男を好きになってしまうことそのものは、変えようのない事実として個人の中に存在します。それについての価値判断は社会的に決まるもので、そこで個人の悩みは生まれますが、男を好きになること自体は、個人の内面においては、それほど絶対的な悪ではないように思うんですよね。どうしてそこまで悪いことと思うのか、どうしてそんなに自分を責めるのか、そこがどうも分からないのです。

 これについては、もう少しヤマシタ作品を読み込んでいきながら、考えていきたいと思います。

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詞の音さん

リブレ出版
2008年1月10日発行
2008年1月20日購入

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2008年2月16日 (土)

ユキムラ「まるで初めての恋みたいに」

 河野は金庫のセールスマンだが、極度の上がり症で、クビ寸前になっている。訪れた設計事務所で、所長の伊藤に異様に親切にされる。伊藤は河野に一目惚れしていたのだ。恋人兼事務係として伊藤の事務所に転職する河野。しかし河野はこのまま世話になりっぱなしではいけないと思い、再び転職を考える。そんなとき河野の前に現れたのが、伊藤のかつての同級生であり、重要なクライアントの藤堂だった。迷っているならうちに来るよう誘われ、河野は迷う。「CIEL」に掲載された作品を集めたもので、著者10冊目の作品集。

まるで初めての恋みたいに (あすかコミックスCL-DX)
まるで初めての恋みたいに (あすかコミックスCL-DX) ユキムラ

角川書店  2008-02-01
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 うーん、全体的に惜しい! ここぞというところで終わっちゃうんですよね。あらすじで挙げた表題作は、藤堂が河野をこれから追い込む、というところで伊藤が現れて終わりになります。もっとネチネチやってほしかったんですがねえ。
 仕事で一緒になった無口なカメラマンは、かつて妹の彼氏として現れた男だったという「吐息を消して、雨音で」も、すんごく惜しいんですよね。カメラマンの小山田が無口なのは、当然仕事相手の高野が昔から好きだったからです。妹の彼氏になったのも、もちろん高野に会いたいからです。まあここまではよくある話なんですが、ここで妹が重要な役割を果たします。実は妹もマジで兄のことが好きで、叶わない思いを抱えるものどうし、一緒にいることにしたというんですね。ななななにそのおいしい設定! そこをつっこんで描いたら、もんのすごい、誰をもうならせるような名作になる可能性があるのに! 妹と小山田が砂を噛むようなセックスとかしてたら、もう何杯でもおかわりできるのに! 残念ながら妹はちらっとしか出てこず、いまは結婚して子供もいるという設定です。妹の思いをスルーするとは、やっぱり惜しい! BL誌に掲載された作品なので、BLの枠を遵守しすぎてる感じと、全体的に尺が足りず、詰め込んだ印象があるんですね。これは雑誌と編集の責任のように思えます。確かにBLとしてはそこそこできあがってはいるのですが、雑誌側がBLであることにこだわるあまり、作家の伸び代が失われているように思えるのです。のびのびやらせるだけのゆとりがあればよかったんでしょうがねえ。

 ただ、最後に載ってる「すべてをあなたに。」は素晴らしいですね。上司一人と部下一人だけのセクション。上司は口が悪く、いつも部下を叱っている。でも部下は、その叱責が実は自分を育てるための愛の鞭だと知っています。上司はずっと阻止してきたのですが、とうとう部下の転属が決まる、という作品です。この上司、べらんめえ口調なのは優しさと気遣いの裏返し、照れなんです。そして部下は叱ってもらわないともう満足できない体になっています。あーもう君ら結婚しちゃいなよ、という作品なんですが、秘めた思いを告げるまでの過程がもどかしくて盛り上がるんですね。それに上司はヒゲですし! 明らかにボーイという枠をはみ出しているために、この作品はインパクトを持っているのだと思います。

 7年目、10冊目の単行本で、中堅からベテランの域に達している作家です。次は存分に萌えを吐き出した、ボリュームのある作品を期待したいところです。

角川書店
2008年2月1日発行
2008年2月5日購入

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2008年1月14日 (月)

西田東「青春の病は」

 高校時代、湊(理系メガネ)は勉強ばかりしていて、クラスになじめなかった。しかしクラスの人気者の松本が物陰でだれかを思ってオナニーしているのを見てしまって以来、松本のことが気になるようになり、クラスにも関わるようになる。15年後、大学を卒業した湊は研究所員となり、商談にも関わるようになっていた。そこで営業をやっている松本と再会する。親しく接するようになるが、湊は高校の頃に松本に抱いていた思いを思い出す。そして湊がゲイであることが、松本に知られてしまう。「青春の病は」のシリーズと、「願い叶えたまえ」の番外編が収録された単行本。

青春の病は (花音コミックス) 青春の病は (花音コミックス)
西田 東

芳文社  2007-12-27
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 「普通の人達の普通の感情を描きたい」と前書きに示されています。松本は結婚を前提として彼女とつき合っており、徹底的にノンケです。湊がゲイだと知っていったんは拒絶します。ですが彼女とのつきあいは上手くいっているとはいえず、仕事でも部下が大きなミスをしてしまいます。一方湊は松本への初恋にとらわれ続けており、再会することによって初恋は再燃します。松本はノンケなもので、湊が自分に対してどんな思いを抱いているか、全然分かりません。ですが心が揺らぐ出来事が続くことによって、湊の想いがどのようなものであるかに気付いていきます。湊は自分が初恋を引きずっていることに気がついており、そこから逃れようと松本を無理矢理抱こうとします。嫌われれば、気持ち悪いと思われれば、二人の関係はとりあえず切れるのですから。それには「今度飲もう」「今度おごるよ」という、<ホモセクシュアルを隠蔽する男どうしの関係性>に取り込まれたくないという意図も含まれています。ホモソーシャルな社会における男どうしの関係性は、実は好きという感情を、「飲み友達」「遊び友達」「同僚」に強制的に変換してしまいますから。結局湊の行動は未遂に終わり、二人の関係はぎすぎすしてしまいます。松本は実は湊に心を許しているのですが、自分がホモを認めようとしていることを認めたくありません。
 これ! これですよ! 自分がノンケであると自己規定する男は、自分がホモセクシュアル関係に含まれようとすることに、そして内心ではホモ関係を認めてしまっていることに、戸惑い、拒否感を抱いてしまうものです。「自分はホモなわけない」「ホモは非生産的なこと、いけないこと」という感覚と、「実は男に拒否感がない」ことの間で苦しむんです。世の中の大多数の男は男性ジェンダーとホモソーシャリティを無前提で受け入れていますから、こういう感覚はよく感じることでしょう。ですからこうした描写は、強いリアリティと共感を生むことになります。まさに「普通の人達の普通の感情」であるといえるでしょう。

 もう一ついいのは、湊の想いですね。大人になった湊は、男たちと体だけの関係を持っていますが、それはずっと松本のことを忘れられなかったからです。勉強に打ち込み、優等生を気取り、他人とのつきあいを作らなかった高校生の頃の湊。それは自分で作った牢獄に自分から入っていたようなものでした。松本は湊をそこから救い出します。それは湊にとって、強い強い光だったのではないでしょうか。その光にすがりたいという湊の気持ちは、いかばかりのものだったでしょうか。そしてその想いが再び始まることは、いかに大きなことだったでしょうか(このあたりは「ゲイ&腐男子のBL読書ブログ」さんにも書かれていますね)。それは恋でもあったのでしょうが、希望でもあったのです。
 こうした自我の境界の問題、他者とのコミュニケーションの問題は、現在の我々が多かれ少なかれ抱える問題です。「エヴァ」で明確に提示され、今に至ってもはっきりした答えの出ていない問題です。この作品は、そうした普遍的な問題にも切り込んでいきます。

 西田東はオトコの内面描写に定評がありますが、それは「大人のオトコならこう感じるだろう」ことを、リアルに、生々しく描くことができるからでしょう。それは当然、大人の男性に響きます。それに他者とのコミュニケーションという、普遍的な問題も描き出します。女性向けのボーイズラブという枠を越えて、広く一般にも訴える力を持った作品といえるでしょう。

芳文社
2008年1月11日発行
2007年12月27日購入

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2008年1月13日 (日)

西田東「素晴らしい失恋」

 新任課長の内藤は、仕事については極めて有能だが、女性に対しては本気になることができず、関係は極めてだらしなかった。それは内藤の見つめる先に、上司の日野田部長がいたからだ。この人に抱かれたい、抱きしめられたいと願う内藤だが、以前別れた女が差し向けた男にレイプされてしまう。ショックを受けた内藤は、そのショックと、そして秘めた想いを日野田に告白してしまう。すがらせてくれ、抱きしめてくれと、内藤は瞳で日野田に訴える。「麗人」に掲載された作品を集めた短編集。

素晴らしい失恋 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
素晴らしい失恋 (バンブー・コミックス 麗人セレクション) 西田 東

竹書房  2007-12
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 今回は「男の失恋」が一つのテーマになっているようですね。上記の表題作「素晴らしい失恋」は、その名の通り失恋を扱ってます。また最後に収録された、社長と社長秘書との関係を描いた「いちばんの愛」も失恋ものです。傾いた会社のヘタレ社長と有能を描いた「オレの社長 僕の秘書」、東南アジアに派遣された堅物リーマンと自由奔放な現地ガイドを描いた「快楽の地」、妻を事故で失った男と妻の弟の関係を描いた「乞う者」も、どこか悲しい展開を含み込んでいます。
 男の恋はとかくままならないもの。男は恋愛の訓練を積んでいない人が多いですし、恋の相手が男ならなおさらです。加えて大人の男には立場と体面があります。西田東はそのあたりを実に丁寧に描くのですね。焦点をあてて描かれる男は全員リーマンで、社会的地位が高い人も多いです。そうなると男たちは、男としての体面と恋心の間で悩み、苦しむことになります。それはよい結果になることもありますが、悲しい結果に終わることもあります。「失恋」とは、「社会的立場」と「恋心」のせめぎ合いの結果現れるのです。西田東は以前からはっきりとその傾向を持っていましたが、この本でも<社会的存在としての男>を描き出すのです。しかも強いリアリティをもって。ですから作品全体が強い説得力を持つことになります。やっぱり西田東は、大人のオトコの心の機微を描かせたら天下一品ですなあ。この辺りは「BL Diary」さん、「オレのやおいさんに手を出すな!」さん、「年下攻め本舗」さん、「日々是徒然」さんにも記述がありますが、同感ですね。

 いちばん好きな作品は、やっぱりヘタレ社長と有能秘書を描いた「オレの社長 僕の秘書」でしょうか。社長は坊っちゃん育ちなもんですから、秘書に頼りまくりです。秘書は「しょうがないなあ」と社長を支えます。そんなとき会社が不渡りを出しそうになります。すると社長は自ら積極的に会社を救うため動き出します。スケベ金融業者に体を売ることも厭いません。最後には返済のためマグロ漁船にまで乗っちゃいます。スーツのままで! しかもオホーツク海に!
 いやいやこの社長が実は人物的に深みのある人物だった、というところがいいんですが、西田東はとんちんかんな意味でもきちんと落とします。だって「マグロ」「スーツ」「オホーツク」ですよ。マグロは暖流の魚ですからオホーツクにはおらんですよ。「素晴らしい失恋」でも、レイプする男と内藤の間には、なんだか微笑ましい関係が生まれます。「あっゲロが」「ナイスキャッチ」など(なんのこっちゃ)。シリアスな展開に潜むギャグは、違和感をもたれるかもしれない要素です。ですがとぼけた絵柄にはマッチしていますし、なにより男のかわいらしさを描き出します。このギャグも西田東作品の醍醐味なんだと思いますね。

 大人のオトコはいいところばかりではありません。心をかきむしられるような辛さを感じたりします。この作品は、大人の痛みを存分に描き出した作品だといえるでしょう。ただ、痛いだけが大人ではありません。痛みがあるからこそ、その向こうに幸せがあるのです。西田作品は痛みの向こうにある大人の幸せも描こうとしているのではないでしょうか。

 最後に一言。いっやー、西田東の描くリーマンキャラって、本当にレイプされるのが似合うよなー。

竹書房
2008年1月28日発行
2007年12月27日購入

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2007年12月23日 (日)

内田カヲル「飴と鞭」

 中学教師の上総は、教え子の長谷川に対して秘めた欲望を抱いていた。普段は普通の高校生だが、上総を見るときだけは冷たい目で見るのだ。その視線になじられたい、いじめられたいと感じる上総は、長谷川の体操着のにおいをこっそりかごうとする。案の定その行為は長谷川に見つかり、上総は長谷川に激しく責められるようになる。放課後だけでなく授業中も責められる上総。それは苦しくもあるが、自ら望んだものでもある。長谷川は冷酷に上総を責めるが、時折優しい手をさしのべる。上総はその手にすがりついてしまいたくなる。そんなとき上総が肉奴隷であることが、上総狙いの同僚に知られてしまう。「麗人」に掲載された作品を集めたもの。

飴と鞭 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
飴と鞭 (バンブー・コミックス 麗人セレクション) 内田 カヲル

竹書房  2007-10
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 …くらい欲望ですなあ。上総は例によって2メートルくらいありそうなゴツ男です。ですが明確に、長谷川の冷たい視線でなぶられたい、意地悪されたいと願っています。嫌だ嫌だと言っていますが、実際教師という社会生活を営んでいく上で長谷川の責めは困るんですが、上総は責められることにこの上ない欲望を感じています。ゾクゾクしながら次の責めを待ち望んでいます。ヤバくなればなるほど満足も大きくなるのです。…困ったものですなあ。マゾの中の人も大変です。
 一方長谷川は中学生なんですが、もう立派なサドの貫禄を見せています。言葉責め、授業中バイブ挿入、じらしプレイ、たまーにみせる愛…お前の人生経験はどんだけじゃ! とツッコミたくはなりますが、サドとしての実力はたいしたものです。
 そして二人の間にあるのは強い愛と絆です。長谷川は上総を愛しているがゆえに、つい意地悪してしまうんですね。そして上総も長谷川の愛が本当なのか疑念を抱きますが、最後のところではそれを信じています。二人は最初からラブラブなんですね。見た目がハードな責めで、カムフラージュされているので見えづらいのですが、要はいつものアレなんです。ですので非常に安心して読める作品になっているといえましょう。ただ直球ではなく、「意地悪する」というガジェットが加わっているため、より人間の深みを表現しているといえます。人間の欲望や思いって底知れないですからね。
 それにしてもこの二人は、上総の貪欲で恥知らずな欲望を、せっせと長谷川が満足させてあげているようにも見えます。いやはや、サドの中の人も大変です。どうして人はわざわざこんなめんどくさい恋愛をするんでしょうねえ。…そこに人間の真実の一端が隠れているんでしょうが。

 もう一つ興味深いのは、「激男」に載った作品「魚屋のオッサンが。」が収められていることです(巻末)。「激男」といえば、ゲイ向け女性向けに関係なく、筋肉や体毛やオヤジ描写のキツイ男どうしの作品を載せるというアンソロジーです。作ってる側は内田カヲルを意識してるとしか思えませんね。漫画の内容はやっぱりいつものアレで、驚くほどゲイ作家の作品と違和感がなかったと記憶しています。ところがあとがきでは「自分がBL作家であることが確認された」と記されているんですね。自分の作品はあくまでゲイコミックとは違う、BLであると認識しているんです。私が見た限りではどこが違うのかよく分かりませんでしたが。ここには非常に興味深い事柄が潜んでいるように思いますね。実作者の側には、ゲイコミックとBLの方法の違いがはっきりと認識されているのです。これはゲイコミックとBLの間に、はっきりした裂け目があることを示します。ですがこれはBLとゲイコミックの間の差異を明らかにすることでもあります。違いが分かれば交渉ができますし、差異を乗り越えることもできるんですね。今のところ「激男」における男女作家の交流はまだ始まったばかりで、ゲイコミックとBLの差異もまだまだはっきりしませんが、こうした試みを通じて差異を洗い出していく中で、真のコラボレーションだ行えるのだと思います。また「激男」で描いて欲しいよな、と強く思いますね。

 あと、この作品集には、以前の作品のサイドストーリー的な作品がいくつか収められています。作品の関連は「Yes! 腐漢ライブラリー」さんに詳しく載せられていますので、そちらも参照されると良いかと思います。

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竹書房
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2007年12月12日 (水)

田亀源五郎「ウィルトゥース」

ウィルトゥース (オークラコミックス) (オークラコミックス) ウィルトゥース (オークラコミックス) (オークラコミックス)
田亀 源五郎

オークラ出版  2007-10-12
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 時は帝政ローマの頃。剣奴として連れてこられたガイウスは、全てに絶望し、死んだような目をしていた。人気剣闘士のクレスケンスはそんなガイウスを、圧倒的な力の差を使って犯す。クレスケンスへの憎しみから生きる活力を取り戻し、クレスケンスを倒すために剣闘士への道を進んでいくガイウス。しかし実はクレスケンスは、ガイウスに希望を取り戻させるために、なによりガイウスを愛しているために、ガイウスを犯したというのだ。ガイウスに嫉妬する貴族の女の策略により、ガイウスとクレスケンスは闘技場で戦うことになる。「激男」に掲載された作品に、書き下ろしの結末と短編を加えた作品集。

 田亀源五郎といえばゲイコミックの第一人者。ガチムチ筋肉、体毛描写、ぶっとい線、はっきりしたキャラと、BLの表現とはさすがに違ったハードな表現になっています。そこで違和感を感じる人もいるかもしれません。それにBLには非常に珍しく、包茎ちんこが描かれますし(ローマ時代ですからね)。ですがベースにあるのはラブです。えー、そんな結末? と言ってしまいたくなるほどのラブっぷりです。ですから見た目のハードさに比べて、非常に安心して読める作品だといえましょう。それに構造的には内田カヲルの作品と大して変わることはありません。筋肉、体毛、実はラブラブ…なんだ、全然変わらないじゃないですか。ですから内田作品に親しんだ女性なら、田亀作品は普通に「読める」ものです。BLのレーベルで出したオークラ出版の読みは正解ですね。ちょっと怖い、ちょっと違うと思っている女性も多いと思いますが、どんどん手にとって欲しいと思いますね。
 そして、これは非常に興味深い「越境」を生んでいます。BL漫画とゲイ漫画の境界が、ものすごく低くなっていることを示すのですから。内田カヲルの作品はゲイ漫画と表象的には変わらなくなっていますし、田亀源五郎の作品は内容的にはBLと変わらなくなっています。実際BLともゲイ漫画とも見分けがつかない「激男」(古川書房)はもう10冊も続いています。それはBLがハード化し、リアル志向になっていることの当然の帰結でしょうね。BLで描かれる男たちの関係が生々しくなるほど、男たちの身体がリアルになるほど、リアルな男を描くゲイ漫画に接近していくのですから。そしてこの動きはこれからも加速していくでしょう。そうなるとBLというものは、わたしたちがこれまで見てきたものとは違った領域を形成していくかもしれません。オークラ出版のこのシリーズ(「AQUA肉体派シリーズ」)や、「激男」は、その動きの先頭にあるといえるでしょう。

 まあこうした新しさの面でも興味深いんですが、この作品集にはもう一つ重要な作品があるんです。日露戦争を舞台にした作品で、特命を帯びた少佐が師団長閣下に報告する…というモチーフの作品です。当然少佐攻師団長受です。師団長閣下は中将でおじいちゃんです。そして白髪で立派なおひげです。見た目は威厳があって恰幅もいいんですが、実際当時の中将ですからものすごく偉いんですが、いざやおい関係においては受になるんです。「誰の所為でこんな恥ずかしい躯になったと思っとるんじゃ…」とか言っています。

 

 うおおー! おひげのおじいちゃん激萌えー!

Photo

 このおじいちゃんがかわいいんですよ。いわゆるツンデレっちゅうんですか? 自分がエロモードに入っていることを必死に否定しようとしますが、体はそんなことは言っていません。そして最後には大人の(おじじの?)包容力を見せます。いやー、おじいちゃんという存在がこんなにエロい存在だとは気付きませんでしたよ。灰になるまでとは良く言われることですが、人間歳をとってもエロくあり続けることは全然可能なんですね。むしろ歳を重ねるほどエロくなると言ってもいいでしょう。これからじじい萌えは間違いなく「来る」な、と思ったのでした。もちろんばばあ萌えもですが。
 「若くてぴちぴちの肉体こそが最高」という一般的な理念は、やっぱり誰かが得をするために無理矢理作りだしたプロパガンダなんだなー、と思いますね。ですからこの作品は、そんな迷信を打破して、それぞれの年齢の人が自ずと持っている性的魅力を正当に評価する動きの先駆けなんだよ!!!!! と叫んでおきたいと思います。

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Yes! 腐漢ライブラリーさん

オークラ出版
2007年11月12日発行
2007年11月10日購入

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2007年9月 6日 (木)

鈴木ツタ「この世異聞 其の弐」

この世異聞 其ノ2 (2) (ビーボーイコミックス) この世異聞 其ノ2 (2) (ビーボーイコミックス)
鈴木 ツタ

リブレ出版  2007-08-10
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 「この世異聞」の第2巻。セツがなぜ昭雄の家を守るようになったかが描かれる。時は江戸時代頃か。結構いい歳のおっさん・小太は、割れた器を直す不思議な力を持っている。その力のために金持ちから狙われる小太。それを守るために現れたのは、小太の昔なじみの森羅だった。森羅になつく小太のもらわれっ子の小次と、小太の実の娘の壱加。壱加は森羅に恋心を抱くようになる。ところが小太と壱加はとばっちりで祟られ、死の淵に面する。森羅は行動を共にしてきたあやかし・万象と合体して、小太とその一族を守ろうとする。

 まあセツは犬神みたいな不思議な存在でしたし、1巻で伏線が張られていたので、セツの過去は語られなければならなかったんでしょう。ただちょっとビミョー…。現代編が面白いので、それに比べちゃうと蛇足感が漂うのですね。なんたって現代編のキャラの立ちっぷりは相当なものがありますから。
 ただ過去編でもキャラが工夫されているのが良いですね。小太はいい歳のおじちゃんなのに中身はお子ちゃまのお馬鹿ちゃんですし、森羅に恋する小次の姉ちゃん・壱加は綺麗な、濃いに悩む存在として描かれてますしね。

 現代編に戻ってくると、1巻の魅力は戻ってきます。昭雄はイヤダイヤダと言いながら、実はセツのフェロモンと肉体に抗えなくなってきます。最終的には「とっくにお前のだよバカ」とか言ってます。うひょー、いいデレ! それに対してセツもケモノの本性を丸出しにして、がっちゅんがっちゅん昭雄をむさぼっちゃいます。ちんこがわんこ化してしまって抜けなくなるという描写もあります。うひょー!
 この作品はバイプレイヤーの存在感があるので、他のキャラの出番が少なくなるとちょっと魅力が減少してしまいます。特にエピキュリアンの所長ですよ! カワイイオヤジですよ! 物足りないのは所長の出番が少ないからなんですね。ただセツの過去はもう出てきたので、次の巻で所長と鳩木のロマンスとか描いてくれるんじゃないかと期待しています。

 後はお酒に対する愛があるのもいいですね。久保田の得月とか出てきますから、嬉しくなっちゃいます。純米大吟醸ですよ! こういううんちく語りはやりすぎちゃうと興ざめなんですが、上手く使うと作品の印象をぐっと強めることができます。トジツキハジメの鉄道ものなんかもそうでしたしね。今後もうまーくお酒ネタを使って欲しいものだと思います。

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BL偏食日記さん
こんな本よみましたさん
にゃんこのBL徒然日記さん

リブレ出版
2007年8月10日発行
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2007年8月27日 (月)

西田東「天使のうた」1

天使のうた 1 (1) (ディアプラスコミックス) 天使のうた 1 (1) (ディアプラスコミックス)
西田 東

新書館  2007-07-30
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 医者のミシェルは4年前、事故で妻と息子を失い、いまでもその痛手から立ち直りきれないでいる。手違いで男娼街に入り込んだミシェルは、10年前に出会った聡明な少年、アレックスが町に立っているのを見つける。アレックスの父クリスは高名な音楽家であった。息子のように思っていたアレックスが父親から放任されているのを見かねて、ミシェルはクリスに文句を言いに出かける。そこでミシェルが見たのは、快楽のために男に抱かれているクリスの姿だった。「Dear+」に連載された作品の第1巻。

 登場人物が寄せる思いは、非常に複雑になっています。アレックスはクリスに放任されているので、クリスを憎んでいると思いきや、クリスを放っておけないという気持ちを抱いています。ミシェルに対しては父親的な感覚を抱いていますが、「ミシェルだったら抱かれてもいいかも」と思っています。クリスはアレックスに対して苦手意識を持ち、父親であるという感覚を持てずにいますが、ミシェルの登場によって息子に対する意識を変えていきます。ミシェルに対しては、最初はお節介な奴と思っていますが、ミシェルの過去を知り、またアレックスに積極的に関わっているのを知ると、俄然積極的にアプローチするようになります。そして当のミシェルは、アレックスに対しては死んだ息子を重ねています。クリスに対しては、息子の世話をしない無責任な奴と思っていますが、その音楽性は理解しています。そして人間性はダメだが芸術家としては素晴らしいという二面性に、次第に惹かれていきます。
 大きく見ると、アレックスが媒介となり、クリスとミシェルの関係が近づいていくという構造になっているのですが、キャラクターの思いがいちいちアンビバレントなので、簡単に幸せなラブには至りません。非常にもどかしい展開なのですが、複雑であるからこそ深みがあります。人間の苦しみ、葛藤、ままならない思いといったものが、見事に描き出されるのです。これは西田東の作品には共通して見られる特徴でしたが、長編になることによってよりはっきりします。この深みは文学作品や映像作品に全く引けを取るものではなく、むしろ勝っている面もあります。西田先生頑張ってるなあ…。 編集もすごーく頑張ってるんだろうなあ…。

 その分これまでの西田作品に見られたようなギャグは極薄です。それを楽しみにしていた人には物足りない面もあるでしょう。ですがそれはあとがきで存分に発揮されています。ギャグを読みたいなら竹書房の単行本で…ということなのでしょうね。

 このところ日本のリーマンものだけでなく、こうした外国を舞台にした作品や、歴史ものを手がけるようになった西田東。漫画家としてガッツリ表現していくのだ、表現の幅を広げていくのだという「覚悟」を感じます。この単行本はその決意の第一歩なのでしょう。この先どう転がっていくか、非常に楽しみですね。

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BL Diaryさん
マンガ一巻読破さん

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2007年8月15日発行
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2007年8月26日 (日)

CJ Michalski「たとえ囚われの恋でも」1

たとえ囚われの恋でも 1 (1) (花音コミックス) たとえ囚われの恋でも 1 (1) (花音コミックス)
CJMichalski

芳文社  2007-07-30
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 高校生の穂澄は大富豪・蘇芳家の後継者。箱入りで町に遊びに出たこともない。穂澄の乗る車と接触事故を起こした青年・神崎は、車が直るまでの間穂澄を町に連れ出す。初めての体験と、神崎の優しさに、穂澄の心は揺れ動く。しかし神崎の目的は復讐だった。かつて蘇芳家の当主に性奴隷として弄ばれた神崎は、絶海の孤島で行われる性の饗宴で、穂澄を同じ目に遭わせようとしていたのだ。淡い思いを裏切られたために、穂積の心は乱れるが、どこかで神崎を信じる心を捨てきれない。一方神崎も、穂澄の愛らしさと素直さに、復讐を貫徹しようという決意が揺らいでいく。そして性の饗宴の幕が開く。「花音」で連載された作品の第1巻。

 いやードラマチック! とにかくお話の振幅が大きくて、追っかけていくだけで楽しいです。そもそも大富豪のお坊ちゃんが主人公ですから。それに犯され、傷ついたかつての神崎は、幼い頃の穂澄に会い、そこに救いを見いだしています。だからこそ穂澄を復讐の材料にしようとするのですが、その救いが神崎をひどくためらわせ、苦しめます。いかにも昼メロでありそうな展開じゃあないですか。それってどこの韓ドラ? どこの大映テレビ?
 最近CJ先生は振幅の大きい物語にご執心のようで、「花音」や「マガビー」では、はっきりそちらの方向にシフトしていますね。『恋するメイド少年』なんかもそうでした。それは「麗人」で発表してきたようなオバカな作品が多少影を潜めてきたことでもあるので、少々残念に思うところもあります。ただ無理矢理な擬人化やオバカな作品は、「ぱふ」や「Hertz」で読めるので、そっちに期待すればいいのです。よりメジャーな場では大きな物語に酔うというのもいいものです。それにこうした大きな物語は、見た目以上にエロさを感じるものです。それはどうしてかというと、作者が登場人物をもてあそんでいる感覚が読み取れるからですね。ニヤニヤしながら、ゲヘゲヘ笑いながら描いている様子が目に浮かびます。大げさな話が読みたい、描きたい、登場人物をどんどんひどい目に遭わせたいという様子が手に取るように分かるのです。世界を完全に自分の思うままにコントロールし、登場人物のイケメンや美少年を悩ませ、苦しませ、苦労させる…。これって女性の欲望が非常にストレートに現れているといえないでしょうか。そして「男をいじめたい/いじりたい」という欲望を隠そうともしていないことの表れではないでしょうか。
 その証拠に最近のCJ先生は、オヤジ度が非常に増してます。自画像がケツアゴのマッチョになってます。これが実にお話の内容にマッチしているのですね。男性オヤジがストレートにエロ話をするように、CJ先生も数枚オブラートをかぶせながらも、実はモロエロな話を描き出しているのです。とっくの昔にここまで来ていることは知っていましたが、いざ目にすると改めて感動を覚えますなあ。この調子でどんどん身も蓋もないお話を描いていって欲しいものです。

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マンガ一巻読破さん

芳文社
2007年8月15日発行
2007年8月1日購入

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2007年8月 8日 (水)

山田参助「山田参助の無駄な抵抗やめましょう」

山田参助の無駄な抵抗やめましょう (オークラコミックス) 山田参助の無駄な抵抗やめましょう (オークラコミックス)
山田 参助

オークラ出版  2007-07-12
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 渋崎健の表の顔は演歌歌手。しかし裏では「泣かせ屋の健」として知られていた。健にやられた男は、もう健のチンポなしではいられなくなってしまうのだ。西にチンポ狩りの暴漢が出れば退治しに行き、東にリストラされたオヤジがいれば抱いてやり。男・シブケンは今日も行く。「若さでムンムン」に続く山田参助2冊目の単行本。

 先日ロフトで行なわれた「眼鏡茶屋」でご一緒した参助先生。いやまあ「ムンムン」の頃から大ファンですから緊張したのですが、いざお会いしてみると参助先生自身も激萌えなんですね。丸眼鏡に和服の丁稚ルックなんですから。加えてトークが濃い濃い! 左門豊作を取り上げておられたのですが、これがまあ実にいい眼鏡なんですわ。眼鏡キャラの最大の特徴ともいうべきコンプレックスがあって、それがダダ漏れになっているんですね。眼鏡キャラは本心をあんまり見せないように眼鏡をかけてることが多いんですが、左門は実に脇が甘いんです。それを見つけてくる参助先生の「目の良さ」にシビレルところですね。帰り際に原画も頂きましたし! これから眼鏡書生は来ますよ、ホントに。

 で、作品なんですが、「さぶ」や「サムソン」といったゲイ雑誌に収録された作品が中心です。これが実に細やかなんですね。「男が感じる男のエロさ」「オヤジのエロさ」というものは、実はちょっとだぶついた肉とか微妙な表情とかヒゲのそり残しとかなどの細かい部分に現れると思うのですが、それをいちいち抜き出してきているのですね。イラストにそれは端的に表れているのですが、漫画にもそこここに現れます。
 それにBLっぽい作品もあります。同じアパートに住む男子二人が、ケジラミをうつされたせいで急接近するという「オソリソリ」なんか実にBLですね。聞くとゲイ漫画の中ではBLに近い感性を持っているといわれているそうで。
 そしてなんといっても山田参助の優れている点は、男のかわいさと詩情を描けることでしょう。それは「甘い生活」に非常によく表れています。

 クリスマスの晩、漫画家の一郎先生(29)は、戯れに自分の履いていた靴下を枕元に置いてみる。朝目が覚めてみると、靴下の中には手のひらサイズの、でぶの五分刈り青年が入っていた。青年は粟津虎吉と名乗る。とてとて走り回るアワヅに、先生は段ボールでお家を造ってやり、二人の奇妙な共同生活が始まる。先生の消しゴム掛けを手伝ったり、お嫁さんとしてリカちゃん人形を買ってもらったり、エロい遊びをしてみたりするアワヅ。ある日先生はアワヅに「お前はどこからなんのためにやってきたんだろうねえ」と尋ねようとするが、先生はそのことばを飲み込む。なぜなら尋ねたとたん、粟津が雪のように消えてしまうように思ったから。久しぶりに一緒に寝よう、と先生は提案する。

96dpi  という作品なのですが、これがまあかわいいんですよ。アワヅは小動物扱いですが、実際とってもかわいいんですね。しかも純情ですし。普段はそれを感じさせないように振る舞っていますから見えにくいのですが、実際の男も結構かわいいところがあります。それを極端な形で描いたのがアワヅだといえるでしょう。そしてこの展開! 今は安定している二人の関係も、いつか壊れてしまうかもしれない。周りの状況が許さなくなるかもしれない。同性を好きになる、同性がかけがえのない存在になるということは、そうした不安を秘めるものです。異性の関係でもその不安はありますが、同性の方がより強くなるでしょう。一郎先生が感じているのは、その不安は分かってる。幸せは壊れやすいかもしれない。でも今はこの幸せに浸っていたいという思いなんだと思います。な、なんとリリカルな! そしてこの幸せと悲しみがごっちゃになったような複雑な思いは、BL好きの女性にも強くアピールするんじゃないかと思います。ゲイ漫画のレーベルではなくて、BLのレーベルから出るのは、こういう理由なのかと思いましたね。

 厳密に分類するならゲイ漫画なんでしょうが、内容はBLに通じるというか、もろBLな作品もあります。なのでぜひ多くの女性に読んでほしいところですね。そしてこれまでBLやゲイ漫画を読まなかった人にも読んでほしい作品ですね。なんたって普遍的な面白さがありますから。さて、サインもらって来ようっと。

オークラ出版
2007年8月12日発行
2007年7月12日購入

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2007年6月29日 (金)

吉野まつり「オレの好きな先生」

オレの好きな先生 オレの好きな先生
吉野 まつり

オークラ出版  2007-06-12
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 係一はヒゲ熊タイプの養護教諭。最近生徒の和美に異様になつかれていて、最近ではなつくというレベルを超えるようになってきている。以前係一は和美に偶然銭湯で出会い、背中を流してやったことがあるのだが、それ以来和美はずっと保健室に来るようになっているのだ。そして係一は、和美が両親を失っていることを知る。和美が寄せる思いは親に対する思慕だと自分を納得させようとする係一。ところが和美の就職が決まった日、和美は思いきって係一に結婚を申し込む。持ってきたのは豪華な婚礼布団だった。「筋肉男」「肉体派」に掲載されたマッチョ系作品に、ケモノ系ショタアンソロに掲載されたショタものを合わせた作品集。

 あーあ、熊先生ヤラレちゃったよー。係一先生は養護教諭なのにキンニクごつごつです。体毛もボーボーです。ものすごく柔道とか強そうです。ですが受です。いやまあ当然ですけど。
 そんな先生は年下に主導権を握られて、あんあん言わされてしまいます。ボーボーの胸毛に白い液を飛ばしてしまいます。これまた当然ですけど。
 ごついヒゲ熊男が受になる、それは一般的な感覚では変に思えることでしょう。なんたって筋肉、体毛、ヒゲというアイコンは皆、「男の力強さ」を示すものですから。一般的な読みと逆になっているために、ヘンテコに思える面を持っています。BLに親しんでいない人は、この作品をトンデモ本として読むかもしれませんね。田亀源五郎の作品が半ばそのように読まれているように。
 ですがこの作品はBLです。BLは最初から既存の価値観をひっくり返す傾向を強く持っています。熊ヒゲマッチョが受になるからゾクゾクするんじゃないですか! それに真っ当に読んでも、熊ヒゲであることには強い必然性があります。二人は非常にラブラブで、甘ーい「結婚生活」を営んでいます。だからこの作品はBLとして成り立っているのですが、和美の積極的なアタックを係一先生が受け止めるという構図になっています。その時係一先生の男らしいアイコンは、読者には包容力の高さとして受け取られます。男らしいからこそ、マッチョで毛がボーボーだからこそ、係一先生は受たりえるのです。
 加えて係一先生は実にカワイイのですね。熊ヒゲマッチョのキャラクターは、男性向けゲイ漫画でも可愛く描かれる傾向が強いですが、この作品でもそうです。行動が思いやりに富んだ「やさしい」ものであるために、かわいさはより強調されます。擬人化された熊が力強さとかわいさ・やさしさを兼ね備えているように、熊ヒゲキャラも強そうでありながら、かわいくなりうるのです。ここまでくるとケモノ萌えとほぼ隣接してくることが分かります。なぜケモノ擬人化やポケモン擬人化が受け入れられるかといえば、それは強さとかわいさを兼ね備えているからなのでしょう。
 そしてもう一つ、この作品集にはケモショタものも収められています。ヒゲ熊マッチョとショタもの? と思われるかもしれません。ですがもうお分かりと思いますが、ヒゲ熊もショタもカワイイものであることには変わりありません。ケモショタとヒゲゴツには明確な類縁関係があります。そしてどちらもカワイイものであるために、読者の欲望を刺激するのです。

 そう考えると、筋肉萌えはなぜ成立するか、という疑問に答えが見えてくるように思えます。田亀源五郎や内田かおるの作品がなぜ熱い支持を受けるかといえば、筋肉そのものの萌えに加えて、ごついがゆえの、毛むくじゃらであるがゆえの、かわいさがあるからなのでしょう。なにか一つ賢くなったように思います。そしてこの作品は、ヒゲゴツ萌えとケモノ萌えとショタ萌えの間に明確な類縁関係があることを示すので、非常に興味深い作品集といえるでしょう。

光彩書房
2007年7月12日発行
2007年6月15日購入

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2007年6月 1日 (金)

内田かおる「ヘイ!ドクター」

ヘイ、ドクター ヘイ、ドクター
内田 かおる

竹書房  2003-07-26
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 高校生の五十嵐は、風邪をひいてかかりつけの医者に行く。そこにはいつもの先生とは違う、若い先生がいた。先生が言うことには、ドキドキするのはエロ病であって、治療するためには先生のちんこをなめたり看護婦のコスプレをしなければならないという。ウブな五十嵐はそれに従い、エロい気分になると先生の元を訪れるようになる。バイト先の店長にも迫られる五十嵐だが、本当に自分を治せるのは先生だけだと思う。超美形芸能人とちんちくりんな野球部員の恋を描いた「はっきりいっとけ」も収録した作品集。

 …そんな高校生いません! というツッコミより先に。
 先生の襲来によって五十嵐を取られちゃったバイト先の店長ですが、即座に新しい恋を見つけます。それは出入りのうどん屋の配達員です。これが長身、筋肉巨乳、がっちりしたケツ、ヒゲ、気が強い、でも恋愛にはスキが多いというキャラなんです。店長、「ああ今自分の惚れツボわかっちゃった…」とか言ってます。それは内田先生自身の惚れツボじゃあないんですか?
Photo_28  このキャラの登場は、内田かおるにとっても電撃が走るほど衝撃的だったんじゃないかと思えます。それまで内田かおるが得意としていたキャラは、負けん気・利かん気が強く、ぎゃんぎゃん騒ぎますが、こと恋愛にはなじみがないので、恋愛となると大人しくなるというものでした。ヤンチャ系ツンデレとでも呼ぶべき存在で、体格はちっちゃい小型犬系が多かったものです。ところがそういうキャラにものすごくごっつい外見を与えてみたら? しかもそれが受だったりしたら? 年上だったりしたら? そして生まれたのがこのうどん屋というわけです。そして実際描いてみると、ギャップが男のかわいさを甚だしく強調します。ゴツければゴツいほど、ぶっきらぼうであればあるほど、ふだんの行動が老成しているほど、かわいさは強くなります。
 とまあ、この作品以降、基本的に内田作品の受はゴツ男ばかりになります。『あなたをひとりじめ』(2004、竹書房)、『だまって泣いているのです』(2005、竹書房)は、いずれも受が高度にゴツいです。加えて体毛がどんどんボーボーになっていくのですね。それもギャップの破壊力を増していくことになります。
 ただ、見た目が過剰になっていく一方、物語性はむしろ安定へと向かっていきます。年下攻がオッサン受のことを好きになり、自分に向けられた恋心にとまどいながらも、受はその思いを受け止めていくという構図です。伝統的な少女まんがのように、途中の展開は山あり谷ありキンニクありですが、最終的には甘いハッピーエンドになるのですね。この安心感が、内田作品のもう一つの重要な要素となっていきます。

 こうやって見てくると、このヒゲゴツ萌えと、デビューの頃から持ち続けた萌えである「やんちゃ萌え」が組み合わさったのが、『それではみなさん。 1 (1)』(2007、リブレ出版)(以前の記事を見る)だということが分かってきます。この作品はいわばこれまでの作品の総決算なんですね。これまでの萌えの歩みを振り返り、新しい一歩を踏み出すための意欲作なんだろうな、と思います。

竹書房
2003年8月26日発行

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2007年4月20日 (金)

蛇龍どくろ「シュガーミルク」

シュガーミルク (MARBLE COMICS) シュガーミルク (MARBLE COMICS)
蛇龍 どくろ

ソフトライン 東京漫画社  2007-01
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 コンビニで働く山田は彼女に振られたばかり。その理由が「一目惚れした人ができた」ということで、山田は一目惚れなんてあるものかと思っている。そんなときレジに並んだよれっとしたサラリーマンに山田は一目惚れしてしまう。再び会えないものかと苦悩する山田。とぼとぼ町を歩く山田に、異様に人なつっこい犬がまとわりついてくる。その飼い犬を見ると…なんと山田が一目惚れした人だった。犬のよだれでべとべとになった山田は、青年の家に招かれる。「カタログシリーズ」に掲載された短編を集めた短編集。

 振幅激しいです。少女まんがみたいにまつげバチバチお目々くりくりオトメマインド装備の男の子が出てくる作品もあれば、リリカル少年ものもあれば、ストリート系フリーターが恋に落ちる、という作品もあります。表紙がヨネケンっぽい今風不良系なので、そういう作品なんだろうと思って読むと拍子抜けするかと思います。
 ただこれは明らかにデビューしたての作家に見られる成長過程なんですね。自分が描くべき方向やお話がまだ定まっておらず、いろいろ試しているんだろうということがよく分かります。そして後半になるにつれて、みるみるスタンスと描き方が確立していくのですね(掲載順は発表順で、本の後ろに行くほど最近のものです)。自分の経験にもとづいてでしょうか、ストリート系に軸足を置くようになってきているのですね。これはよい方向へ向かっているのだと思います。ストリート系の作家はまんが以外にも楽しみを持っているので、まんがから離れてしまうこともあります。そのためストリートの感覚が生々しく表れることは、少々悩ましくはあります。ですがストリートの生の感覚が生きたまんがは、明らかに他にはない魅力を持っていますし、まんがを読まない層にもアピールする可能性を持っています。まんがが好きになればなるほど、本当のストリートには触れなくなるものです。一方BL的楽しみは、今はまんが好きになかば独占されているようなものですが、実は現実のそこら中に存在するものですし、まんが好きであるか否かを問わず楽しむことができます。「腐」であることとホモを楽しむことは別のレイヤーにあって、固定的に結びつけられているわけではないんですね。ストリートのにおいを持った作品は、これまでBLを楽しむことがなかった層にBLの楽しさを伝える可能性があるのです。

 個人的に一押しの作品は、中年のカメラマンが若者の美しさに惹かれ、家庭も何も放っぽいて二人で旅に出る、というものです。これがいいロードムービーになってるんですね(ちと大げさですが)。ワイルド系の青年は自分の美しさに気づいており、カメラマンが自分に惹かれていることを分かっていますが、改めて二人で旅に出るに際して、綺麗な髪を全部切ってしまいます。な、なんちゅう決意! これは愛の告白と同じ意味なのでありまして…これはモエル!

東京漫画社
2007年2月15日発行
2007年3月20日購入

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2007年4月14日 (土)

直野儚羅「意気地なしの幸せ」

意気地なしの幸せ 意気地なしの幸せ
直野 儚羅

竹書房  2007-03-07
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 森は長身で見た目はかっこいいのだが、どこか根本的に生活力に欠けていて、とうとう食べるものがなくなってしまう。空腹のあまり米を盗もうとするが、盗んだとたん倒れてしまう。気がつくとご飯の美味しそうなにおいがする。米屋の主で大家の川田が、森のためにご飯を作っていたのだ。川田はちっちゃくってヤンチャなタイプだが、じつは結構な歳であり、面倒見もいい。お父さんのように自分に接してくれる川田のことを、森は「小さな巨人」と呼ぶ。そして関係が深まっていくと、川田が実は寂しさを抱えていることが分かってくる。この年の差身長の差カップルに加えて、森の勤め先のホストクラブのオーナーと腹心のカップル、血縁人外カップル(なんじゃそりゃ)などのお話が収められた短編集。

 今まで直野儚羅といえば、「エロ描写はピカイチだがお話は微妙なものもあり」という認識でした。ここぞというところでファンタジーや特殊設定に逃げるよなー、という印象があったのです。それでもエロが濃厚だからまあいっか! と思っていたのですね。
 でもそれは私の見立て違い。直野が描こうとしていたのは、設定とか突飛なお話じゃなかったんですね。この作品を読んでいると、描こうとしていたのは「男のかわいさ」だったんじゃないか、と思えてきたのです。
 男のかわいさってなんでしょうか。背の小ささや全体的なちっちゃさ、顔のかわいさといった、外見のかわいさがまず思い浮かぶでしょう。これには性別受が装備している、女の子のようなかわいさも含まれるでしょうね。ですがそうでないかわいさもあります。歳をとっていても現れるかわいさは確かにあります。例えば子どもの頃のクセが無意識に現れてしまったり、ついムキになって食ってかかってしまったり、本当は好きなのに意地があるから言えなかったり。「社会的にきちんとすることを求められている状況で、つい出てしまう子供っぽさ」が、成人男性のかわいさなんだと思います。この作品はそうしたかわいさのオンパレードなんですね。小さな巨人川田は、森のことが気になっている(=好きになっている)のですが、自分の気持ちに戸惑っています。見た目もかわいいですが、オトナなかわいさも持っているのですね。ホストクラブのオーナーは夜の世界の帝王ですが、実は腹心が森とつきあっているのではないかと疑心暗鬼になっています。そして「俺の言うことを聞かないならクビだ」とばかりに、一度は腹心を突き放してしまうのですね。よくありそうな展開ですが、よく見るとガキ大将のわがままと大して変わらなかったりします。おっかねえ夜の世界の人なんですが、こと恋愛となるとヒジョーにかわいいんですね。そしてこのかわいさは、普段は隠しているもの/隠さなければならないものであるために、ひとたび現れると強烈な破壊力を持ちます。よ、夜の帝王が赤面してますよ??

Photo_16  それに身体の描き方のエロさは相変わらずというか、さらにパワーアップしています。内田(か)先生ほどムキムキはしていませんが、しっかり筋肉がついた身体が、ねっちょりがっちゅりキッチリおセックスをしています。それにケツがいいんですよ! 筋肉があるにもかかわらず、もうぷりっぷりなんですね! 「もっと締まってるんじゃないの?」なんてツッコミはヤボヤボ。腹や胸の筋肉はしっかりで一萌え、プリケツでもう一萌えできるじゃないですか!

 絵の美しさと筋肉描写の凄み、しっかりしたエロと、この人の作品には非常に優れた点があったわけですが、「男のかわいさ」を考えさせるという面白さもあったのでした。これは男にとっての問題提起でもあるんですよね。「男のかわいさ」を前面に出して生きる、という戦略もあるわけですから。既存の「男らしさ」に頼らない生き方もできるということを示すわけですから。ですから男性にとっても、興味深い作品なんじゃないかな、と思います。

竹書房
2007年4月7日発行
2007年3月10日購入

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2007年3月26日 (月)

ホームラン・拳「三十一夜」

三十一夜 三十一夜
ホームラン・拳

角川書店  2007-03-01
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 舞台は昭和30年代。売れない小説家の理(おさむ)は家賃が払えず、下宿を追い出されてしまう。そんなとき高校の同級生だった辰夫と再会する。困っている理に、辰夫は二つの条件付きで自分の部屋を提供すると申し出る。一つめの条件は泊められるのは1月だけということ。二つめの条件は自分の言いつけをすべて守ること。二つ返事で転がり込む理だが、辰夫は体の関係を求めるのだった。思いを遂げた辰夫だが、「1月が過ぎたらもう会えないだろう」と涙を流すのだった。「CIEL」に掲載された作品を集めたもの。

 ドラマですよ、ドラマ。辰夫は強引に理をものにしますが、それはもちろん事情があるからです。辰夫は精神に障害を抱えた娘、弥栄子との偽装結婚という形で、エロじじいに買われることが決まっているのですね。だから最後の思い出を作ろうと、理を泊めるわけです。そして強引にやってしまうことで、理への思いを断ち切ろうとするのですね。しかし理は事情を知ることによって、また辰夫の思いに気づくことによって、辰夫を助けようと動き出します。最初は掘られたことにショックを受けた理ですが、辰夫への愛が芽生えていきます。それを陰からサポートするのが、精神障害を装っていた弥栄子だっていうんですから吃驚です。そして理はドラマチックに辰夫を奪い去るのですね。韓国ドラマもかくやというほどのドラマの盛り上がりじゃあないですか。昭和30年代(にはあまり見えませんが)に舞台が設定されているのも分かるというものです。山あり谷ありの大きなドラマが楽しめるのですね。ホームラン・拳先生は『僕は君の鳥になりたい。』でも大きなドラマを描いていましたが、ここでもまた上手にドラマを描き出したのでした。

 もう一つ特筆すべきなのは、二人の関係の揺らぎがていねいに描かれているところですね。理は最初は辰夫に陵辱に近い形でやられてしまいます。その時は辰夫への思いも揺らぎます。しかし理は事情を知ることによって、主体的に辰夫を求めていくようになります。帯には「不完全な理が立派な攻めっ子として徐々に成長(?)していくお話」とありますが、恋愛に対しても主体的に選び取っていくようになるのですね。この受攻関係の揺らぎは私の大好きなところで、それだけでグッと来るところです。
 またよーく読むと、実はこの揺らぎは最初から辰夫によって仕組まれていたのではないか、ということも見えてきます。一緒に生活していれば辰夫の結婚話などは必然的に見えてくる話ですし、辰夫が理を犯したことは、次の行動へ移らせるためのとば口であったことが見えてきます。辰夫は理を犯すことによって、理を攻に仕立て上げたとも考えられるのですね。表紙の絵がその仮説を強めます。表現には最初から裏の含みがあるわけでして、そこに「うまいなー」とうなってしまいます。

 萌えの点でも問題ありませんね。今回の受である辰夫は、いつもの受け子ちゃんとは違ってちゃんと大人なんですが、目をうるうるさせているところなんかはかなりヅキュンと来ます。そして最後は小説を書いている理を会社に通って支えているのですね。昼はだんなさん、夜はお嫁さんですか!

 弥栄子の描き方がしっかりしていることから、ノーマルカプもキッチリ描けることも分かります。マンガとして実に上手くできていることに、改めて気づかされます。次に一般誌にヘッドハンティングされるのはこの人なんだろうな、と強く感じますね。

角川書店
2007年3月1日発売
2007年3月10日購入

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2007年3月20日 (火)

桃山なおこ「恋を胸に」

恋を胸に (MARBLE COMICS) 恋を胸に (MARBLE COMICS)
桃山 なおこ

東京漫画社  2006-02
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 荻田32歳は町工場の主任クラス。昔やんちゃしていた頃から後輩たちに慕われる存在だったが、ある日会社の後輩、湊に「好きです」と告白される。男に告白されるのは初めてなので、荻田はとまどう。そんなとき取引先が夜逃げしてしまい、会社がピンチになる。湊の実家は工場を経営しており、ピンチを救おうと動き出す。精力的に動く湊を、荻田はそれまでとは違った目で見るようになる。作者の初短編集。

 東京漫画社といえばニューウェーブの牙城。とんがった作家をどんどん世に問うています。この作家もまさにニューウェーブ。なんたって絵柄が他の誰にも似ていません。まずとにかく絵が白いです。トーンの使用量が極限まで抑えられているので、真っ白けな画面になっています。「こんなに白くて大丈夫?」とさえ思えてしまいます。それにキャラクターに動きがありません。動きを示す線がほとんどないので、一コマ一コマで切り出してみると、キャラクターはそれぞれ静止して見えます。絵の面では、これまでのマンガの文法やBLの文法から外れまくっているのですね。なので非常に独特に見えます。
 ですが決して「絵が下手」ではありません。むしろよーく見ると、一コマ一コマが非常に計算されて描かれていることが分かります。構図が練られているので、キャラクターどうしの関係性は分かりやすくなっています。また動きはモンタージュ技法と物語で補われています。コマとコマの関係を見ることで、動きが見えてくるのですね(少し失敗しているところもありますが)。そして肝心なキャラの表情や感情表現ですが、線の太さや力であらわしています。輪郭に使われるぶーっとい線が良いんですよ。

 そして物語も面白いです。とにかく走っているんですね、キャラが。遠くへ行ってしまうかもしれない彼氏を追って、陸上部で走る思い人を追って、好きな人を助けようと思って、男たちは走ります。思いがはじけた結果走るんです。悪くいえば皆同じパターンではあるのですが、「走る」という形で思いを表すのもいいものです。

 まだ硬さが残るので、これから経験を積めばよりよくなるのでは、と思います。それになんといってもこういう作品が…これまでのBLとはひと味違った作品が…出てくるのは、とても好ましいことだと思います。次回作が鍵になる作家だな、と思いますね。

東京漫画社
2006年3月25日発行
2007年2月25日購入

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2007年2月27日 (火)

北別府ニカ「僕の愛の劇場。」

Photo_6  白岡と赤羽は、売り出し中のお笑いコンビ「桃色メガネは恋の罠」を組んでいる。白岡がボケで赤羽がツッコミ。同居していた二人だが、ある日白岡は「相方やめます」という置き手紙を残して家出してしまう。多すぎるホモネタのせいか?と勘ぐる白岡だが、ものすごく不安になってしまう。赤羽に頼んでむりやり同居したというせいもあるが、なんといっても白岡は赤羽に恋していたのだから。いまさらコンビ解消なんて考えられないのだから。赤羽を捜しに白岡は走り出す。「カタログシリーズ」に掲載された作品を集めた短編集で、北別府ニカの初単行本。

 祝! 週刊アスキー連載! いやー驚きましたよ。週アスと言えば「電脳なをさん」「女子部」「トホホ会」が楽しみでよく立ち読みしているのですが、女子の萌えを語るというページが始まっているのですから! そして以前から大好きだった北別府ニカが萌えを語っているのですから! これはもう画期的なことですよ(ちょっと興奮気味)!! となると北別府ニカをレビューしないわけにはいかないじゃないですか。

P25  なにが良いかっていうと、その独特の絵柄ですね。目の下に斜線・横線が描かれている、というのがこの人の絵の特徴でして、それは他のどの作家とも似ていません。そしてこの線は変幻自在に使われるのですね。頬の紅潮をあらわしたり、悔しさなどの苦悩をあらわしたり、喜びを表すのにも使われます。他の作家と絵が決定的に違うというのは、それだけで大きなアドバンテージだといえます。
P131  そしてもう一つ、SDキャラというんでしょうか、デフォルメされたキャラがなんとも可愛いんですね。デフォルメの上手さは絵の上手さに直結します。そして「タメ」と「ヌキ」のいいコントラストが現れるのですね。ヌクべきところではデフォルメキャラを使って軽さを出し、タメるべき展開が強調されます。これはなかなか難しいテクニックだと思うのですが、それをマスターしているところは、やはりあなどれません。

 そして展開がまたいいBLなんですよ。微へたれ攻、年下攻、やんちゃ攻、ファンシー攻といろんなパターンのお話が展開されますが、どれも「想い」に重点がおかれ、展開がちゃーんと描かれています。白岡と赤羽の話も、「実は赤羽の方が」という例のパターンなんですが、白岡が思い出すこれまでの想いや、必死に赤羽を捜す姿が描かれるので、先がある程度読めたとしてもかなりヅキュンと来ます。それにメガネ! メガネを実に上手く展開に絡めてくるんですよ。最近はメガネ萌えもひとつのジャンルになってきていますが、この人の場合もかなり根深いものを感じます。スバラシイことじゃないですか! それもこれも自分の「萌え」に忠実だからなのでしょう。自分が萌えるものを描いているのですから、こちらにもその萌えが伝わってくるのです。

 ともあれ、注目していた作家が広い層にアピールするメディアに登場するというのは嬉しいことです。これからも激しく注目していきたいと思っていますよ!!!

東京漫画社
2006年12月15日発行
2006年11月23日購入

僕の愛の劇場。
北別府 ニカ著

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2006年11月25日 (土)

鈴木ツタ「この世 異聞」

Suzukitsuta_konoyo  天涯孤独になった昭雄は病魔にむしばまれ、倒れてしまう。そんなとき祖父の言葉を思い出す。仏壇に隠されたものが、おまえを救うだろうと。仏壇から出てきたものは動物の牙で、それから犬耳・尻尾の生えたワイルドな男が現れる。男は狼の化身であり、昭雄の祖先との契約により昭雄の家を守っているというのだ。セツと名付けられた魔物は昭雄の病魔を食らい始める。そのときセツが発するいい匂い…フェロモンにあてられた昭雄は、セツに体を許してしまう。強引なセツに昭雄は反発するが、病魔を食らうことはセツのダメージになることを知り、いつしか心を開いていく。セツと昭雄と周りの人々との関係を描いた「この世異聞」シリーズと、現代もの、時代物の短編が収められた作品集。

 『Hand Which』がAmazonでロングセラーとなった鈴木ツタ。2作目はどうなるかと期待していましたが…これが期待をいい意味で裏切られる出来。まずはなんといっても繊細な線がタマリマセヌ。顎長人の系譜は継いでいるのですが、耽美の方向に寄るのではなく、どちらかといえばショタっぽいカワイイ方向へ絵柄を振っています。ぶっちゃけた話、私は顎長人は絵柄としては未来がないんじゃないかと感じてます。峰倉かずやという巨頭がいますが、オタ系マンガのリテラシがない人は引いてしまうんじゃないかなと思うんですよね。一般に訴えかける力を失っていると思うのですよ。もちろん本橋馨子先生みたいに、「こうでなきゃダメ」な人は別格ですが。そうした状況の中で、鈴木ツタの絵は顎長人の耽美性と一般に訴えうるかわいらしさ・取っつきやすさを兼ね備えています。Amazonで激しく売れたのは、こうした絵柄の魅力があるからではないかなと思うのですね。そしてこの作品でも絵柄の良さは相変わらず。いやむしろ魅力は増しているといえるかも知れません。なんと言ってもケモノですから。

 それにお話の魅力もたいしたものです。ワイルドケモノ攻にツンデレ病弱受っていうだけで萌えるっちゅうもんじゃないですか! そして受け攻め関係と表面的関係性は明らかにセツ×昭雄なんですが、なんたってセツはわんこ(狼だけど)。ワイルドさの向こうに見える従順さというかか奴隷根性がじつにええ味を出しています。また昭雄は見た目は病弱ひ弱系なんですが、根っこでは勝ち気でやんちゃで意地っ張り。セツに対して悪態をつきまくり、セツを嫌いだと言いまくり。実はもうとっくに「陥落」しているのはオヤクソクですが、精神的立場はセツに負けてはいません。体の関係と心の関係は逆転することがあり、つねにめまぐるしく変動します。この「揺れ」がいいんですよ! 「受は受、攻は攻」という安定した関係が好きな方にはキツイとは思いますが、私は揺れた方が好きなんですね。

Suzukitsuta_oyaji  あと特筆すべきはオヤジ。天然系のカワイイオヤジが出てくるんですよ!! 得意技は満面の笑顔と上目遣い。しかもヒジョーにエピキュリアン。うわ、これなんて萌えキャラ? いや「単体で萌える」オヤジなんです。もちろん萌えオヤジというのは以前から存在しますが、ストーリー上で目立つ存在として出てくるとなると、改めて衝撃を受けるわけです。「中年受が流行ればいいのに」と作者は描いていますが、いやまったくその通り。私もこういうカワイイ中年になりたいものだなぁ、とつくづく思いますよ。

 『Hand Which』が売れたときにはちょっと疑問を感じたりもしましたが、それは私の見込み違い。こりゃ売れる作品ですわ。絵もお話も上手く、広く受け入れられる要素がたっぷり含まれています。そしてこれが一番重要なことだと思うのですが、作者の萌えがほとばしっています。系統的にはニューウェーブというよりはこれまでのボーイズラブの系譜に属しますが、明らかに新しい魅力を持っています。いやあ、こういう元気な作品を見ると嬉しくなってしまいます。マンガはこんなに元気だぞ! と。ボーイズラブの未来を感じさせる作品だと思います。

リブレ出版
2006年11月10日発行
2006年11月12日購入

この世異聞
鈴木 ツタ

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2006年11月20日 (月)

ホームラン・拳「迷仔」

Homerun_maigo  直(黒髪・メガネ・ワイルド系)と朋(白髪・キュート系)は幼なじみでいつも一緒に行動している。朋は漠然と、いつまでも二人一緒にいられたらいいのに、と考えている。ところが直が女の子と一緒に歩いているところを見てしまう。聞けば彼女ができたのだという。胸がつぶれるような思いをする朋。ぼーっとするあまり、体育でボールを受けて倒れてしまう。手を伸ばす直に、つい本当の思いが涙と一緒に出てしまう。「お前のことが好きなんだ」と。幼なじみモノ、学園モノ、オヤジ受け魔法モノと多彩な作品を取りそろえた作品集。

Homerun_maigo_diamond ヤ・バ・イ! ヤ・バ・イ! 絵が美麗すぎて死ぬ! 私好みのカワイイ男の子がバリバリ出てくるのでもう脳ミソクラクラ。脳内麻薬出まくりです。ホームラン・拳先生(先生と呼ばせていただきたい!)の受け子ちゃんたちはみんなお目々くりくりの女顔美少年で、女の子より可愛かったりします。加えてオトコノコなもんですから、自分のエロさに気づいていないことになってますので…無意識にエロい表情や姿勢を取りまくるわけです。パンチラしたりするんです。こういうのをエロカワイイっちゅうんですかー!!

 その一方で、お話の方もヒネリが効きまくっているのも忘れてはなりません。美しいけどキチクなお兄さんがふと流す涙の美しさ。攻めの方が頭くるくるで、中学生なのに受け子と結婚しようと言い出す。西洋風魔法使いの弟子が和装書生風おっさん。あり得なさそうな取り合わせなのに、展開が巧みなのでするっと読めてしまい、ガツンと心を動かされてしまいます。テクニックの上手さはただ者ではないものがあります。

 絵の上手さといい展開の巧みさといいマンガ的な上手さといいエロカワイさといい、ポスト星野リリィの最右翼。順調に仕事量が増えれば、同じような経路で活躍することになるでしょう。今のうちに親しんでおかないと、あとで後悔しますよ!
 それにBLはこういう絵が美麗な人がバンバン増えてるので、嬉しくてたまらないですね。まんがのジャンルとして完成してきていることがよく分かります。面白いまんがはBLにいくらでもあるのに、現在BLを手に取るのは一部の女性に限られています。実にもったいない話ではないですか。この作品は、ショタっ気のある男性ならするっと親しめるはず。ていうかショタを自覚する人なら読まなきゃダメです。是非とも男性にも手にとってほしい作品ですね。

海王社
2006年11月15日購入
2006年11月20日発行

迷仔
ホームラン・拳

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2006年11月16日 (木)

草間さかえ「災厄のてびき」新装改訂版

Kusama_saiyaku_new_2  さえない小説家・武明の近所では連続放火事件が起こっている。ネタを探しに現場に行く武明だが、そこで最前列で火に見とれている少年に再会する。少年の目は明らかにどこか違う。犯人と思った武明は少年を自宅に誘う。違うという少年だが、たき火をすると少年は勃起していた。つい手を出してしまう武明。そして二人の奇妙な関係がはじまる。以前松文館から出た単行本に、未収録作品の「ばんごはん」を加えた新装改訂版。

 最初の本が2003年に出たときには、正直吃驚したものです。CGをマスターした星野リリィにも同じ驚きを感じたものですが、インパクトはこちらの方が大きいものでした。なんたって絵がどのBL作品とも…いや、どの漫画作品とも異なっていたのですから。デッサンが崩れているように見えますが、実は正確なデッサン力に支えられた絵。強いアナログ性を感じるぶっといGペンの線と、CGによる無機的なトーンワークの同居。大胆な構図とレンズの選択。漫画的技術も背景にしていますが、映画、デザイン、ファインアートなどの技術も背景にしている絵柄なのですね。一見ぶっきらぼうで取っつきにくい絵ではありますが、間違いなく非常に上手く、独自の世界を築いている絵です。漫画世界全体を見ても、独特で特徴のある絵といえるでしょう。
 現在「OPERA」「HeartZ」「marble」などのアンソロジーでは、これまでのこだか系や顎長人系の絵とは違った、ざっくりした線を特徴とする作品が多く見られるようになってきています。私はそうした作品をBLの「ニューウェーブ」と呼んでいますが、ニューウェーブの先駆けは間違いなく草間さかえといえるでしょう。草間さかえの登場によって、それまでになかった絵の世界が、BLに開かれたのです。

 また物語の力強さも見逃せません。確かにボーイズラブの約束を少し外れ、期待通りには行かない展開になっている作品が多いです。また全体的に、どこか感情移入を拒むような距離感が感じられる部分があります(「日和見アーカイブ」の方も書いておられますが)。しかしそれはキャラクターを客観視し、一歩引いて見ている証拠。キャラクターの行動はオヤクソクを離れ、リアルなものとなっていきます。そのために物語は意外な方向へと転がっていくことになり、驚かされることになります。独特な絵は普及においてハンデとなることも多いのですが、草間さかえの場合は物語の力が強かったために、そのハンデを乗り越えることができたといえるでしょう。そして草間さかえが出てきたために、これまで知られてこなかった作風の作家が、表舞台へと現れるようになったのです。

 他の誰とも似ていない絵と、リアルに練り上げられた物語。草間さかえの作品は、BL漫画に新しい一面を明らかに開いたのです。この作品は記念すべき歴史的作品なのですね。すべてのBLファンが手に取ってみるべき作品だといえましょうし、漫画好きならチェックしておかねばならない作品といえましょう。オノ・ナツメに続きブレイクすること間違いないでしょうから。

Kusama_saiyaku_old ←ちなみに旧版の表紙。構図など同じに見えますが、よく見ると違う絵です。まったく同じ構図で書き下ろしになっているんですね。こりゃ吃驚だ!


東京漫画社
2006年11月5日購入

災厄のてびき
草間 さかえ著

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