2008年5月 8日 (木)

阿久津柑子「王子殿下のご奉仕猫」

 18歳になったハルは、王族の掟に従い隣国に身分を隠して留学することになる。しがらみにとらわれないので、ハルはやんちゃする気満々。ところが入学そうそう、猫耳・尻尾つきの男の子・クロに抱きしめられ、キスされてしまう。思わず手を出してしまうが、どことなく懐かしい気持ちになるハル。一方クロは学校一の不良と目されていたために、ハルは不良たちの争いに巻き込まれることになる。ボコボコにされるハルを助けに現れたのはクロだった。「BOY'sキッス」に掲載された作品などを集めた、阿久津柑子の初単行本。

王子殿下のご奉仕猫 (ビーズラビーコミックス) 王子殿下のご奉仕猫 (ビーズラビーコミックス)
阿久津 柑子

エンターブレイン  2008-02-15
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 この人の作品を始めて雑誌で読んだときは、ずいぶん興奮したものです。なんたって男の子がベリーキュートなんですもの。大急ぎで同人誌も買いそろえましたとも。

Akutu01

 かわいい少年を描く作家は大勢います。CJ Michalski、タカハシマコ、みなみ遙、宮下キツネ、深瀬紅音、などなど。思えば私はBLを読むにあたって、そうしたかわいい男の子をずっと求め続けてきたのでした。最近はBLすれしてきたせいか、オヤジとかキンニクとかヒゲとか体毛とか、そっちの方を重点的に読んできたのですが(そういう作品が多く出版されるようになってきたこともありますが)、改めてこういう超弩級スーパーキュート男の子を見ると、自分の原点がどこにあるかを思い知らされますね。私は少年が、それも可愛い少年がだーい好きだったんですねえ。
 で、この少年の可愛さというものは、なんだか独特の進化を遂げてきたもののように思いますね。なんたって現実世界には、こういうショタBLで描かれるような可愛い少年は、ほとんど存在しないのですから。少年の可愛さそのものは、どんな男の子にも少しずつは存在すると思いますけど。そうした少年の可愛さが濃縮され、キャラクターに結晶したものが、こうしたショタキャラであるように思いますが、その「濃縮」がどのように行なわれてきたか、どうした作者の気持ちがこの「濃縮」につながってくるのか、ちょっと考えてみる必要がありそうですね。それはなぜ私はショタがこんなにも好きなのか、という理由を明らかにするでしょうし、男性の中に少なからずショタ愛好者がいることを明らかにするでしょうから。

 もう一つ衝撃的なのは、掲載誌がマガジン・マガジンのせいか、セックス描写が実に汁気たっぷりでねちっこいということですね。可愛くさわやかな絵柄なのに、やることはものすごくねっとりしています。少年がちっちゃかろうが可愛かろうが関係なし! やることはやる! という姿勢が貫かれています。確かに絵柄とはあまりマッチしていないように思いますし、リリカルな展開もできそうな人なので、ちょっとやりすぎかなとも思います。ですが可愛い少年がさんざんにやられちゃうというのは、それはそれでクルものがあるわけでして。

 エンターブレインからの出版は、エンブレの雑誌に載るとか、作品が単行本にまとめられるといった、今後の布石なんでしょう。次の作品が実に楽しみです。今度はもっとリリカルなものをお願いしたいところです。

エンターブレイン
2008年2月27日発行
2008年2月21日購入

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2008年2月16日 (土)

星野リリィ「おとめ妖怪ざくろ」1

 人間とあやかしが共に住む世界。我々の世界の明治維新のように、世の中の仕組みが改まり、太陰暦から太陽暦に変わることになる。あやかしたちの中には、それに不満をもつものもいた。そこで人間の代表とあやかしの代表は話し合い、あやかしにまつわる事件を解決する組織、妖人省をつくる。あやかし側で選ばれたのは活発で勝ち気なざくろ、しとやかで暦にこだわる薄蛍(すすきぼたる)、縦ロールの雪洞(ぼんぼり)と鬼灯(ほおずき)。人間側で選ばれたのは超美形の総角(あげまき)、五分刈りで無口な利劔(りけん)、自分の利発さを鼻にかける年少の丸竜。ざくろは総角と組むことになって大喜び。ところが総角は実はオバケが大嫌いで、ざくろたちを見るのもガクブル状態だったのだ。ざくろと総角の凸凹コンビは、果たして事件を解決できるのか? 「コミックバーズ」に季刊ペース→隔月で連載された作品の第一巻。

おとめ妖怪ざくろ 1 (1) (バーズコミックス) おとめ妖怪ざくろ 1 (1) (バーズコミックス)
星野 リリィ

幻冬舎コミックス  2008-01-24
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 なんといってもビシッと事件を解決するざくろがかっこいいです。もともとざくろは喧嘩独楽が得意な活発な少女。暴れる妖怪に対しては剣を振るい、一刀両断にしていきます。そんな雄々しいざくろに対して、総角は超美形なのに超ヘタレ。この絶妙なバランスが、漫画としての楽しさを盛り上げます。もともと星野リリィの漫画には魅力的な少女が登場します。「都立魔法学園 」のメラミちゃんしかり、「スーパーダブル」のラブしかり。ざくろはそうした少女キャラの延長線上にある、魅力的なキャラといえるでしょう。そしてざくろのアクションあり、薄蛍と利劔のラブロマンスあり、しんみりさせるお話あり。星野リリィの「漫画の上手さ」をしみじみと感じます。

 で、この作品には、表面的なやおい要素は全然無いように見えます。そもそもみんなノーマルカプです。ざくろと総角は少しずつフラグが立って、惹かれあっていくようですし、利劔と薄蛍は最初から慎ましく惚れあっています。ところがよく読んでみると、ざくろと総角の関係はなかなかそそるものがあることが分かってきます。
 よしながふみは、羽海野チカとの対談の中で、「男どうしの関係だけがやおいではない」「のだめと千秋の関係はやおいだ」と述べています(『よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり』太田出版、2007)。やおいとは、遠く離れていても、普段は反目していても、いざというときには助け合う、信頼しあっている姿だとしているのです。ざくろと総角の関係は、一見男女の恋愛という形で関係が接近していくように見えますが、実は接近していくのは信頼関係です。最初は総角に幻滅しまくるざくろですが、仕事に対する真摯な態度を知ったり、きちんと向かうべき敵に立ち向かう姿を見るなかで、総角を見直していきます。それは「総角を好きになっていく」と見ることもできますが、「総角を仕事上のパートナーとして認め、信頼していく」と見ることもできます。そしてざくろと総角はいい相棒になっていくんですね。そしてその相棒関係は、やおい萌え、BL萌えを構成する重要なポイントの一つです。素知らぬふりをしていても、心の底では相手を信頼し、強くつながりあっている…これは萌えるじゃないですか! 総角ヘタレ攻×ざくろ女王受ですよ!
 この作品は、「男女カップルでは描けない/描きにくい」と思われてきたやおい的関係を、(マイナー/オタ向け)青年誌で、ノーマルカプで描こうとした試みなんじゃないか、と思います。少なくともざくろと総角が普通にくっついて終わり、にはならないでしょう。ロマンチックなラブの役は薄蛍と利劔に割り当てられていますし。よしながふみがBLの方法論を存分に生かして、現実に対する鋭い批判力をもった少女漫画「大奥」を描いているように、星野リリィは、「ふたりの関係を現在こうあるべきとされている男女関係に収斂させない」というBLの方法論を生かして、男性読者にも向けた作品を描いているのではないかと思います。見た目は普通のラブロマンスなので、単に「あー可愛いね」「ときめくね」で消費される可能性もあるでしょう。ですがよく読んでいくと、ありがちに描かれる男女関係とは違った関係を描き出しています。こうした表現を通じて、なにかが「引っかかる」人も増えてくるんじゃないでしょうか。

 ただ苦言も呈したいですね。最近の星野リリィはあっちこっちで作品を描くようになってますが、そのため掲載が飛び飛びになり、なかなか単行本にまとまらないんですね。これは大きな問題だと思います。どこかに腰を定めて掲載誌を絞り、じっくりと作品を描いていって欲しいものだなぁ、と思います。

幻冬舎
2008年1月24日発行
2008年2月7日購入

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2007年9月 7日 (金)

天城れの「獣耳商事」

獣耳商事 (Dariaコミックス) 獣耳商事 (Dariaコミックス)
天城 れの

フロンティアワークス  2007-08-22
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 獣耳商事(けもみみしょうじ)は、人間に役立つ愛玩動物を人化させ、依頼主に派遣する企業。依頼主はペットとして社員を扱えばよい。そして依頼主は必要ならば、社員を身請けして永久就職させることもできる。
 傾きかけた典男のデザイン会社にやってきたのは、長身でスーツが似合うウサギ、稲葉だった。人当たりの良さと高い能力で、稲葉はすぐに会社の人気者になり、会社の成績も上がる。自分は必要とされていないと思い、典男はみじめな思いをする。稲葉を置いてひとり出張に行ってしまう典男。ところがウサギは寂しがりや。残された稲葉はシオシオになってしまう。神社の巫女(でも当然男)とセックスするとどんな恋でもかなう! という設定の「コイミコ」も収録された短編集。

 お話そのものは実に真っ当なお仕事ものBLです。すねちゃった典男と稲葉の距離は一時的に離れてしまいます。ですがその距離が、二人の切り離せない思いをはっきりさせます。「やっぱりお前と離れることはできない」と。結局典男と稲葉は無事結ばれて、めでたしめでたしとなります。うんうん、いい話です。それからネコミミやウサミミのキャラが出てきて、主人公と恋愛関係になるっていうのもよくある話です。この作品でもカワイイネコミミキャラや犬耳キャラやウサミミキャラが出てきます。そしてそれが上手く物語に絡んできます。
 とまあ、お仕事ものとしてみても、ケモ耳ものとしてみても、実に真っ当な作品になっているといえるでしょう。ですがケモ耳キャラがお仕事をするようになると…しかもスーツをバッチリ着こなしてとなると…とたんにヘンテコな雰囲気がかもし出されるのです。すっごい優秀なリーマンなのにウサミミです。最高の執事なのに犬耳です。お話が真っ当なのでごまかされてしまいそうになりますが、ちょっと待ってください。異様な存在がそこに紛れているではないですか。ウサミミが! ネコミミが! 犬耳が! だんだん変な気分になってくるんですよ。自分の常識は大丈夫だろうかって。

 天城れのといえば、変な要素を無理矢理つなぎ合わせたBLを得意としてきました。そして見るからにオバカな展開を得意としてきました。この作品はそうした直球勝負のオバカっぷりは影を潜めています。ですがバカさは健在で、ジワジワくるオバカさへと変化しています。やっぱり天城れのは天城れのだな、と安心したのでした。

 そしてこの「ジワジワっぷり」は、お話作りに大きく拠っていることを忘れてはなりません。お話がちゃんとしたラブストーリーになっているので、ウサミミ、ネコミミが見えにくくなっているのです。なので今後は、バカ要素を一切抜いた作品で勝負しても面白んじゃないかな、と思いますね。

トラックバック先
霖雨の彼方さん
BL STUDYさん

フロンティアワークス
2007年8月20日発行
2007年8月26日購入

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2007年4月 6日 (金)

Duo Brand.「仄かな恋の断片を」

仄かな恋の断片を (花音コミックス)仄かな恋の断片を (花音コミックス)
DUO BRAND

芳文社 2006-05-29
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 神父の瑛(えい)は、昼休みごとに遊びに来る遙晶(はるあき)のことが気になっている。男ばかりの職場で、遙晶は非常に無防備なのだ。ボタンを掛け違えて胸がのぞいたりしている。襲われるかもしれませんよ、と忠告する瑛だが、遙晶は何のことだか分からない。天然のフェロモンをまき散らす遙晶は、とうとう上司に無理矢理犯されてしまう。泣きながら瑛のもとに来る遙晶。「あんなヤツよりお前の方がずっといいんだっ…!」。妖魔を祓う4振りの御神刀の精と、その周りの人々の思いのぶつかり合いを描いたシリーズもの。

 いやー、耽美です。なんたって描き込みがすごいんですね。笠井あゆみ先生に通じる、空間を埋めていく線はそれだけで魅力があります。私はこういうタイプの、空間をみっちり埋めていくタイプの絵はそんなに得意じゃないのですが、強い魅力を持っているのは分かります。それにメガネ。全体的に描き込みが美麗なんでメガネが目立たなくなってしまっているのですが、それでもメガネを描きます。御神刀の精は全員メガネですし、遙晶もメガネです。こりゃなかなか良い傾向といえましょう。加えてすべてのお話がひとつの世界に属しているのも、広がりが感じられて良いですね。構成の上手さというか、お話作りの上手さを感じます。

 まあ私は、あんまり伝奇ものにはこころ動かされないタイプなので、御神刀が妖魔と闘って、御神刀どうしが恋愛をして…というお話にはあんまり興味がありません。ところが最初にあらすじを挙げた作品「あやうげな朧月」には、すごくヅキュンと来るものを感じたのでした。遙晶はとにかく天然にエロいです。可愛い顔をしてますし、濡れて乳首が透けたりします。でも自分では、自分がエロい存在であることが分かっていません。上司から「誘ってるのか」ともろに言われたりしますが、それがなにを意味しているのか理解できません。分かっててじらしているのではなく、本当に自分が同性の性的対象になっていることが分からないのですね。そんなもんですから強姦されちゃって、えぐえぐ泣きついてしまいます。これはいいですね! シチュエーションとして萌えるだけでなく、現在の男性が置かれている性的状況をも描き出していますから。
 ホモソーシャルな世の中では、男は男に性的欲望を抱いちゃいけないとされています。ですから男性は、同性が自分に性的欲望を抱いているとは考えないものです。ところが実際は結構な割合で同性にハァハァする人がいるわけでして、あるいはそれまでノンケでしたが、なんかのきっかけで同性にハァハァするようになる人もいるわけでして、そんなに「安全」でいられるわけじゃないんです。男性が男性を強姦することは、十分に考えられることなんです。その「容赦なさ」を描き出しているところがいいんですよ。グッと来るんですよ。そしてその後は「消毒」です。ちゃーんとBLになってるところもポイント高いですよ!

 いやー、普段触れないようなジャンルにも、ちゃんとズドギュッと来る萌えはあるものですね。当たり前のことですが。食わず嫌いはよくないことだなぁと思いましたよ。そんなこともあろうかと、新田祐克先生の「春を抱いていた」を借りてきた(5巻まで)ので、ちと読み込んでみたいと思いますよ!!!

芳文社
2006年6月15日発行
2007年3月20日購入

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