井上佐藤「エンドルフィンマシーン」
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ある整体院の院長・五樹は怪しいと評判だ。施術室からは患者の怪しい声がしてくるし、ウェーブした髪、潤んだ瞳、整った顔立ち、ブランドに身を固めた出で立ちと、とても整体師とは思えないのだ。戸川は本部からその噂が本当か確かめるため派遣されてきた。しかし怪しい声がするのは五樹の技術が確かなためで、遊んでいる様子もない。そして恋愛に対してはむしろ距離を置いてきたことが分かる。五樹は女性に道具のように体を求められるだけで、何度も捨てられてきたのだ。戸川は五樹の誠実な態度と傷ついた心を知り、急速に惹かれていく。そしておそるおそる結ばれた二人は、麻薬のようなセックスにはまっていく。「麗人」でデビューした新人の初単行本。
いっやー、エロい! エロすぎます。なんたって筋肉描写や体位がリアルです。絵の勉強をきちんとしているか、男性をよく観察していることが分かります。なによりエロいのがその表情です。大人の男の多くは、社会の中で自分の本心や欲望を押し殺してしまうものです。ですが本当にせっぱ詰まったときには、つい隠したものが見えてしまいます。それは特に視線に雄弁に現れます。井上佐藤はその危うい瞬間を見事に描き出します。これまた男性をよく観察していることが分かるのですね。必死に体面を保とうとしているのに、崩れてしまう男のエロスたるや! これに加えて眼鏡や白衣などの萌え強化アイテムが加わります。眼鏡越しのエロ視線です。なんの罠ですか、これ?
物語の面でも非常に微妙で危ういところを描き出します。登場する男たちはみんな男を愛してしまったことにとまどいと迷いを感じます。そのため次の一歩を踏み出すことをためらいます。男という属性をまとわなくてはならないために、素直になることができないんですね。あるいは男たちは自分の思いを素直に示すことができないでいます。本当は愛しているのに、甘い関係になりたいのに、傷つけてしまったりいじめてしまったりします。これまた男の素直じゃなさ、素直になれないことを示します。このもどかしさが強烈な萌えを構成するんですよ! そしてこのもどかしさは、男性にとっても実に身に覚えのある、生々しいものだったりします。ここからも男性をよーく観察していることが分かるのですね。そして男性にとっても共感できる内容になっていると思います。
面白いのは、コンドームをつけたセーファーセックスが描かれるんですね。これはかなり珍しいんじゃないでしょうか。しかも行きずりのセックスの時だけセーファーです。これは生々しいリアリティを持っていますね。それにあとがきでは、作者が新宿二丁目でマンガを描くことを勧められたことが描かれています。この人男性なんじゃないでしょうか? もしそうだとしたら、かなり興味深いことですね。確かに男性向けと女性向けの境界は、最近急速に低くなっていますが、男性でいわゆるBLを描く人は、ほとんど例がありませんから。女性の心をキュンキュンさせるBLを描ける男性が現れたのであれば、越境は本格的に進行してきたと言えるでしょう。またもし女性だったとしても、ここまで男性の心理や肉体をきちんと描写した例はあまりありません。
いずれにしても注目すべき作家でしょうし、読者を引き込むマンガの実力もたいしたものです。この作家に注目せずして何を、と感じさせる作家ですね。次の単行本を早く! 早く!
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オレのやおいさんに手を出すな! さん
ネクラで眼鏡でキモオタな優等生は“受け”るとイイよ! さん
BL偏食日記さん
竹書房
2007年11月27日発行
2007年11月1日購入
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